東北復興のシンボル・「フラガール」、その笑顔の陰に…
独自記事
このエントリーをはてなブックマークに追加
Instagram
29,331 view
東北復興のシンボル・「フラガール」、その笑顔の陰に…

東日本大震災で状況が一転

福島県いわき市にある温泉リゾート施設「スパリゾートハワイアンズ」(以下ハワイアンズ)をご存じですか? 世の中にまだテーマパークなどという言葉がなかった1966年、当時、一般の人には簡単に行くことのできなかったハワイをイメージして誕生したのがハワイアンズの前身「常磐ハワイアンセンター」でした。

その後、時代の流れとともに1990年、現在のスパリゾートハワイアンズへと名称が変わりましたが、今も昔もハワイアンズのシンボルといえば、華麗に舞うフラガールです。彼女たちは毎日2回、施設内のウォーターパークのステージでショーを披露、お客さんたちを喜ばせています。

今、彼女たちが踊る場は、何もハワイアンズだけではありません。忙しい日々のステージの合間を縫って、全国各地のイベントに彩りを添えているのです。

というのも、2011年3月11日の東日本大震災のために、彼女たちの日常が大きく変わってしまったからです。

ハワイアンズは3月11日の本震、さらに1カ月にいわきを襲った震度6の直下型余震によって施設に大きな損傷を受け、10月1日の一部施設の部分オープンまで、約半年間の休業を余儀なくされました。フラガールたちは踊る場を失ってしまったのです。

しかも、震災に伴う福島第一原発の事故により、彼女たちの故郷いわきは風評被害にも見舞われることになってしまいました、

全国に勇気と感動を与えた「フラガール全国きずなキャラバン」

しかし、そんな逆境にあっても、彼女たちは決してくじけませんでした。

風評被害にあえぐ故郷いわきを復興させるため、自分たちの元気な姿を見せるため、5月3日から「フラガール全国きずなキャラバン」をスタート、10月2日まで全国26都道府県124カ所で合計245回の公演を行ない、多くの人に感動と勇気を与えました。そして、いつしか彼女たちはハワイアンズのみならず、「東北復興のシンボル」として全国の人々から、そして、日本中のマスコミから大きな注目を集めることになったのです。

ところが、笑顔で踊る彼女たちの中にも、津波で家を流されてしまったり、自宅が福島第一原発の近くにあり、避難生活を送っていたりと辛い思いをしていたダンサーが何人かいました。そしてまた、当時のリーダーは震災前に決まっていた引退を撤回し、引き続きチームを率いていたのです。

本当なら自分たちこそが被災者として、風評被害の被害者として、同情されるべき存在であるのに、あえてそれはおくびにも出さず、いつも通りの明るい笑顔で踊っていたのです。

どうして彼女たちは、そんなにも強く、たくましかったのでしょうか?

「フラガール3.11~つながる絆」

震災当日、ある新聞社の取材でハワイアンズを訪れていた私は、その時東京から遊びに来ていた宿泊客600人とともに被災者となりました。その日から3日間、自宅の状況も家族の安否も分からない中、それでもハワイアンズの従業員は、600人の宿泊客のためにできる限りのもてなしをし、まだ鉄道も高速道路も不通だった13日、用意した18台のバスで600人を無事東京に送り届けてくれました。

東京に戻った私は、その3日間のハワイアンズの従業員たちの献身的な行為の数々を知り、10月1日に一部営業を再開するまでの道程を「フラガール3.11~つながる絆」(講談社)にまとめて上梓しました。宿泊客を無事に送り届けるため、まだ余震の続く中、東京までのルートを車で確認に行った営業マン、当日は休みだったにもかかわらず、地震発生とともにいち早く駆けつけてきた売店担当のスタッフなど、本書にはそうした人たちの姿を描きました。

平成の今も受け継がれる「一山一家」の精神

取材を進めていくうちに、私は、従業員たちが、フラガールたちが、苛酷な状況の中でどうして頑張れることができたのかを知ることができました。

それは、ハワイアンズの人たちの心の底に「一山一家」の精神があったということです。

ハワイアンズを運営する常磐興産の前身は常磐炭砿、つまり、石炭の採掘を生業とする会社でした。一時は日本有数の炭鉱として知られていましたが、昭和30年代、国が石炭から石油へとエネルギー転換を図ったために、炭鉱閉山の危機に直面してしまいました。

当時、つねに危険と隣り合わせの炭鉱では、ヤマ(炭鉱)で働く全ての人間は家族であり、お互いに助け合って生きていこうという「一山一家」の考え方が当たり前にあったのです。そして、生まれたのが、ヤマの人間の雇用を確保するための常磐ハワイアンセンターでした。

それから半世紀、平成になった今も、フラガールの中には「一山一家」の精神がしっかりと受け継がれていたのです。

まだまだ消えることのない風評被害を払拭するため、フラガールは今日も元気に全国で踊っています。そんな彼女たちに心からのエールを!

<書籍紹介>

フラガール3.11 – つながる絆

清水 一利【著】 価格 ¥1,260(税込)講談社(2011/11発売)

「日本中に笑顔、元気、希望をお見せします!」 平成23年5月、フラガールたちは福島から全国へ飛び立った。

被災地・福島県いわき市の「スパリゾートハワイアンズ」が、204日間の休業を経て営業再開に至るまでの道のりを描く感動のドキュメント!

3月11日、被災した宿泊客のためにハワイアンズの社員は何を考え、行動に移したのか。 震災の影響で自宅をうしなったフラガール、じつは引退が決まっていたリーダーの「選択」。全国124ヵ所におよんだ「フラガール全国きずなキャラバン」の舞台裏。今なおつづく「風評被害」に対する会社の取り組み。「一山一家」の精神は、今もいわきの人々に息づいていた――。

ご購入はこちらから、

講談社BOOK倶楽部

私によくて、世界にイイ。~ ethica(エシカ)〜
http://www.ethica.jp

清水 一利

このエントリーをはてなブックマークに追加
Instagram
【ethica Traveler】 連載企画Vol.5 宇賀なつみ (第4章)サンフランシスコ近代美術館
独自記事 【 2024/3/20 】 Work & Study
「私によくて、世界にイイ。」をコンセプトに2013年に創刊した『ethica(エシカ)』では、10周年を迎える節目にあたり、エシカルでサステナブルな世界観、ライフスタイルをリアルに『感動体験』する場を特集しています。 本特集では、カリフォルニア州サンフランシスコ市のエシカルな取り組みを取材!エシカ編集部と共にサステナブ...
持続可能なチョコレートの実現を支える「メイジ・カカオ・サポート」の歴史
sponsored 【 2025/3/19 】 Food
私たちの生活にも身近で愛好家もたくさんいる甘くて美味しいチョコレート。バレンタインシーズンには何万円も注ぎ込んで自分のためのご褒美チョコを大人買いする、なんてこともここ数年では珍しくない話です。しかし、私たちが日々享受しているそんな甘いチョコレートの裏では、その原材料となるカカオの生産地で今なお、貧困、児童労働、森林伐...
【ethica Traveler】  静岡県 袋井市の旅 おいしいもの発見!
独自記事 【 2025/3/20 】 Work & Study
日本列島のほぼ真ん中で、駿河湾を囲むように位置する静岡県。その中でも、太平洋に面する西の沿岸部に近いところに袋井(ふくろい)市があります。東西の交流地点として、古くから人や物や情報の往来を支えてきた袋井市は、高級メロンやリゾート、由緒正しき寺院など、未知の魅力がたくさんあるユニークな場所です。今回は、そんな袋井市の中で...
冨永愛 ジョイセフと歩むアフリカ支援 〜ethica Woman Project〜
独自記事 【 2024/6/12 】 Love&Human
ethicaでは女性のエンパワーメントを目的とした「ethica Woman Project」を発足。 いまや「ラストフロンティア」と呼ばれ、世界中から熱い眼差しが向けられると共に経済成長を続けている「アフリカ」を第1期のテーマにおき、読者にアフリカの理解を深めると同時に、力強く生きるアフリカの女性から気づきや力を得る...

次の記事

先見の明と、農家のこだわりが出逢った自社農園。
美食礼賛だけではない。『美味しんぼ』で食の安全性を学ぶ

前の記事

スマホのホーム画面に追加すれば
いつでもethicaに簡単アクセスできます