「もしご自身にもう一度行って見てと伝えるなら、どこと伝えますか?」
私は、世界中の川を釣りして歩くというある釣り人に、そう質問をしました。
すると、彼は即答してくれました。
「もしご自身にもう一度行って見てと伝えるなら、どこと伝えますか?」
私は、世界中の川を釣りして歩くというある釣り人に、そう質問をしました。
すると、彼は即答してくれました。
フェロー諸島を訪れる前の2017年の冬、私は同じく北大西洋にあるアイスランドにいました。その時に出会ったその釣り人との出会いが、私がフェロー諸島を訪ねるきっかけとなりました。彼は、訪れた様々な地の風景や暮らしの様子を、写真と言葉にして本に纏めていました。
もう一度だけでなく、何度も行っていると話す彼に、あなたを呼ぶその場所は、どういうところなのですか?と伺うと、
”見たことのない風景。
川で釣りをしながら下に海が見えるという不思議な風景。
岩が海に突き刺さったような島や、見渡す限り平たい島や、フィヨルドの村。
小さな島々だけど壮大で、移動すると全く違う風景に出会ったりできる。
一つ一つの家が寄り添った小さな村が点在しているよ。
石を積み上げた家は屋根が草で出来ていて、妖精が住んでいそう!
何度行ってもフェローの人々は穏やかに迎えてくれて、私はとても落ち着くんだ。
彼らは羊と共に暮らしていて、垂直な崖や山にも道にも村にも本当にどこにも羊がたくさんいるんだよ。住んでる人は大体5万人位なんだけど、羊はその倍はいるそう。
でも羊の食べる草の生える場所の面積もあるからそれ以上にはならないとも聞いたよ。
飛行機に乗っていると海の上に小さな点々が見えてくるよ。それがフェロー諸島。
ぜひ見て見てね。私もまた行くよ。”
彼は愛おしそうに、そう呼んでいました。
私は、その風景を見てみたいと思いました。
その冬を越えて、2018年6月の初夏。
成田から西に向かって12時間、コペンハーゲンで宿泊し、次の朝、飛行機を乗り継ぎ北へ向かって2時間。真っ白な雲を抜け、蒼く波立つ海に現れた小さな点々が、壮大な景観の島々へと広がっていきました。緑が覆う岩山の谷の間を大きな鳥が滑るように降り立つ、その島への着陸は、まるで想像の世界に飛び込んでいくかのような瞬間でした。
海の上に垂直に落ちる滝。
空港から北に向かって車で30分程、トンネルを抜けると幻想的な風景が広がるガサダール(Gásadalur)村。
10数名が住む村だったこの地は、2004年までトンネルがなく、海からの激しい風が直接吹き付ける険しい岩肌を大きな荷物を背負って歩いて行き来していた、と空港近くのカフェの店主が教えてくれました。
彼女の親族は、当時この村で教師をしていて、毎週末、岩山越えをしていたそう。
風が吹くと岩にしがみつき、しばらく座り込んで落ち着くのを待ちながら一歩一歩踏みしめ、時々動けなくなり暗闇の中で夜を越すこともあって本当に険しい道のりだったが、家族の待つ家がある村に帰るため、通い続けた日々だったとのことでした。
最北の島の村。
フェロー最北のヴィウォイ島(Viðoy)の北端、ヴィーダレイディ(Viðareiði)の村。
スペクタクルなパノラマの向こうに、西の離島、フグロイ島(Fugloy)とスヴィノイ島(Svínoy)を臨む。
島々の名前は意味を含んでいて、このヴィウォイ島の名前には木の島の意味があるそうですが、フェロー諸島は森林限界の地との事で、見渡す限り森は見えませんでした。名前と意味の由来に興味がわきます。
麓の村の方のお庭に入れて頂き、裏庭から続く羊たちが過ごす山の上に登ると、テーブルのような島や、どこまでも斜めで巨大な滑り台のような山の風景が広がっていました。
自然の地形を利用した港。
フェロー諸島には、崖に住む多くの海鳥が頭上を飛ぶ、天然の地勢の自然港が利用されていました。島々には波が打ち付けていましたが、壁のような崖の間の狭いスペースをスライドするようにターンして港に自在に出入りする船さばきに見惚れていました。
崖上の村の入り口から崖下の港まで続く道にて、フェリーに間に合うよう慌てながら撮影。
阿吽の呼吸でリズミカルに積荷を受け渡し合う、船人。
どこから来たの?帰りの便の時間はわかる?
今日はお天気がいいからこの島で一番高い山がよく見えるよ、こんなに見える時はなかなかないから特別に航路を寄せるよ、と、どの便の方も朗らかで、気さくに声をかけてくれました。
船に乗る人、荷を受け運ぶ人、出迎える人、見送る人
船が着く時、人々が港に集まって声を掛け合っているシーンが印象的でした。
フェロー諸島の島々の姿。
エストゥロイ(Eysturoy)島の北端から、西のストレイモイ島(Streymoy)を海上から撮影。入江の先には細い山道を抜けて辿り着くテョルヌヴィク(Tjørnuvík)村がある。
鳥の目線のように空から撮影。悠久の流れを感じる壮大な自然と、人々の営みとが一体となった姿が見える。どこからどこという境のない世界を感じます。貴重な、今この瞬間の時間と自分の生かされている環境に思いを馳せました。
岩場に集うパフィン(ニシツノメドリ)、ガネット(シロカツオドリ)。
多くの鳥たちが生息するバードパラダイス、最西に位置するミキネス島(Mykines)。
空や岩礁を埋め尽くすほどの多くの鳥の営巣の様子が目の前に開け、鳥たちの鳴き声と羽ばたきの音に驚かされ、私は立ち尽くしてシャッターを切っていました。
映画ジュラシックパークで恐竜たちが闊歩する姿が目の前に突然開けるシーンをふと思い出しました。この島は、島全体が自然環境の保全と保護のため入島管理などボランティアの方々によって守られていました。
羊とフェロー諸島。
海流と共にある魚、その魚を追い渡って来る鳥、その鳥たちの営みが緑を育む養分となり、滋養を蓄えた緑は羊たちの糧として、羊たちを育む。
フェローの羊は、山で冬を越すので、その羊毛は暖かさを保つよう空気を多く含み保温力が高く、蓄えた油分は天然の防水効果となり、荒波の中、船の仕事をする人の貴重な衣服となってきたそうです。
風車のある丘の上。
360度見渡せるこの山の上から見える島々には、たくさんの風車がありました。
風速何メートルなのだろう?
フェロー諸島に到着した日、その風に斜めになって立ちながら思いました。
海からふきつける遮るもののない強い風は、エネルギー源の一つになっているそうです。
霧の立ち込めるフグロイ島(Fugloy)で、お天気の話。
「1日に季節が全部ある。
と言われているくらい、くるくる変わる天気には、たくさん名前があるんだよ」
霧の横たわる麓に向かって一緒に歩きながら、島々の名前や地名の秘密、雲の姿、風景の様子の単語を持つ、豊かでユニークなフェロー語を教えてくれました。
霧を表す言葉は37あって、例えば、山の上や空は澄んでいるのに、谷や麓にカーペットを敷いたような霧のことは、”Pollamjørki”、というそうです。私には、”ポットゥラミヨシュチャ”、と聞こえました。何と読むんでしょうね?
収穫したてのルバーブ。
それぞれのご家庭で作られている、ルバーブジャム。
シャーベットのように冷やしてミルクをかけたりお気に入りの食べ方があるそうです。
「旅人を腹ペコにするな。という言葉があるのよ」
と笑顔でご馳走して頂いた手作りのルバーブジャムとパンは、甘酸っぱくて、ほっとする味わいでした。この旅では何度もルバーブジャムと心温まる忘れられない時間がありました。
そして、この記事の一番上、海に落ちる滝のある村側からの出入り口。
明るい夕方、トンネルを通り抜け、私はこちら側にいました。
ザァッという音と共に、その道の上を、ムクドリの大群が丸くなったり広がったり形を変えながら空を覆い尽くして飛んでいきました。
フェロー諸島:
北大西洋のアイスランドと北欧のノルウェーの間に浮かぶ、火山でできた18の島々の群島。デンマークの自治領として独自の政府を持っているその地は、合わせて約1,400K㎡という東京都を一回り小さくした位の広さでしょうか。日本からフェロー諸島への行き方は北欧や各国経由の航空路線があります。
空港のある西のヴォーアル(Vágar)島から、道路でいける最東のヴィウォイ島(Viðoy)まで、途中でお買い物をしたり、景観を楽しめる場所にあるベンチでコーヒータイムをしたり、端から端まで、のんびりドライブをして3時間位の距離感でした。
気候は6月中旬〜7月中旬の滞在中、平均10度前後で冷涼な気温でしたが、過ごしやすい時期と感じました。夜も明るい夏の時間、私は鳥が巣に帰る様子を見て、夜が来るのを感じたりしました。
メキシコ湾流から繋がる暖流北大西洋海流の通るフェロー諸島は、年間を通して平均気温は -5度以下にはならないとのことで、冬は雪は閉ざされるほど多くは積もらないそうですが、厳しいストームが続くこともある、とフェローの方に伺いました。
内山香織 Kaori Uchiyama
自然と人や生き物のかかわりをテーマに撮影。作品は、国際写真賞「International Photography Awards 2018, 2017, 2016」、モスクワ国際写真賞「Moscow International Foto Awards 2018」「International Photography Awards One-Shot Climate Change」「International Photography Awards One-Shot Harmony」自然、ファインアート、トラベル、空撮、地球カテゴリー等入選。「LensCulture Exposure Awards 2016」エディターズギャラリー選出。CP+ 2018 DJIブース登壇。写真撮影をとおして、自然の色や形の面白さや、そこから得るハッとする気持ちや想像力を実感するワークショップ開催。
ホームページ:https://kaoriuchiyama.com
Instagram:https://www.instagram.com/kaoriphotography/
Facebook:https://www.facebook.com/kaoriuchiyamaphotography/
■ 参考URL
デンマーク大使館のホームページ
http://japan.um.dk/ja/infor-about-denmark/the-faroe-islands/
この記事は以下の私のホームページから編集しました
https://kaoriuchiyama.com/journey/faroe-islands/
私によくて、世界にイイ。~ ethica(エシカ)~
http://www.ethica.jp
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