ダイバーシティ&インクルージョンに対する考え方を身を持って経験
大谷: 向こうでは何を勉強されたのですか?
井上: 最初の半年間だけ英語学校に通って徹底的に英語を学び、その後、大学に入って社会学を学びました。
当時は面白い時代でした。というのは、その頃は夏休みに語学研修として短期間だけ来る日本人学生はたくさんいましたが、私のように正規に大学に入ってというのは本当に少なかったんです。日本人はずっと私1人で、同級生はアジア人の区別がほとんどできなかったのに、私がいた5年間で日本の、アメリカにおける認知度が大きく変わりました。
ちょうど社会学者のエズラ・ヴォ―ゲルが「ジャパン・アズ・ナンバーワン」という本を書いたりして、まさに日本の高度経済成長が一番勢いのある頃で、貿易摩擦もレーガン大統領の下で起こっています。私にとって、そうしたことを現場で目撃できたというのが大きな経験となりました。
大学での専攻は社会学でしたが、自分のアイデンティティについてもアメリカ時代の勉強の1つのテーマになっていました。日本人としてのアイデンティティ、あるいはそれ以外のアイデンティティ、これが結局、今のダイバーシティ&インクルージョンに対する考え方に直結しています。それは理屈ではなく、まさに身を持って肌で感じたことが今となっては私の大きな財産になっていると思います。
大谷: 留学して人種の多様性を経験した上で、何かしらのカルチャーショックを受けたというのはよかったですね。それは日本にいただけでは分かりづらい感覚だと思いますから。
井上: たしかにおっしゃる通りですね。社会人になってからも感じましたが、やっぱり多様な価値観に直接触れる経験というのは、どう考えても貴重ですよ。
国際化というのは海外に行くことではないと思っています。自分自身の殻やアイデンティティをいかにして破れるか、違う視点をいかにして自分の中で受け入れるか、そういう経験の有無が、海外に行ったかどうかには関係なく、すごく重要だと思っています。
海外を経験する人はそこのハードルを乗り越えないともうどうしようもありません。やはりそれは、海外経験を持つ強みだと思いますね。
ただ海外に行かないとしても、特に日本の社会は多様化が顕著ですから、いくらでもそういう意識を持つことはできるはずです。