特別展「きもの KIMONO」東京国立博物館 平成館にて開幕【前編】
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特別展「きもの KIMONO」東京国立博物館 平成館にて開幕【前編】

東京国立博物館 平成館にて、特別展「きもの KIMONO」が開催中です。本展は新型コロナウイルスの感染予防・拡散防止のため、開催が延期されていましたが、会期を6月30日(火)〜8月23日(日)までに変更し、事前予約制での開催となりました。

『ethica(エシカ)』7月号のテーマは「境界線」です。

 “きもの”は洋服と比べた時、あらゆる境界線を越えることのできる衣装です。

体型、年齢、性別という境界線を越えて、同じ形の反物から同じ仕立て方で作られています。同じ形である一方で、帯や小物の合わせ方、そして着付け方によって全く異なる個性を持つファッションになります。

世代を超えてもその魅力は色あせることがなく、またジャポニズムが流行した時代には文化的、地理的な境界線も飛び越えて、各国のファッションに大きな影響を与えました。

さまざまな「境界線」を超えたきものという衣装。

今回はそんな日本独自の美の世界を体現するきものの過去・現在・未来の壮大な歴史を見つめる特別展「きもの KIMONO」をご紹介いたします。(記者・リリコ)

かつてない大規模なきものの展覧会

特別展「きもの KIMONO」は、鎌倉時代から現代にいたるまでのきものを通覧する、かつてない規模のきものの展覧会です。

会場では、現存する最古の鎌倉時代の宮廷装束にはじまり、織田信長など歴史上の著名人が着用したきもの、現代のデザイナーが手がけたきもの、さらに屛風や浮世絵などの絵画作品などを含む約300件の作品が展示されています。それらの作品は5つの「章」として構成され、きものの壮大な歴史絵巻が繰り広げられる展示内容となっています。

第1章 モードの誕生

この章では、小袖や女性の肖像画や風俗図屛風の数々を通して、室町から安土桃山、そして江戸初期といった時代の華やかなモードが再現されています。

きものの原型である「小袖」は、元来宮廷貴族の十二単や装束などの大袖の下に身につけていた下着にすぎませんでした。それが室町時代後期より染や刺繍、金銀の摺箔などで模様を施した表着として花開きます。

[重要文化財]縫箔 白練緯地四季草花四替模様(安土桃山時代・16世紀)京都国立博物館蔵、前期展示(7月26日まで)

刺繍の模様で全身を4つに区切った大胆な構成は、安土桃山時代を象徴する流行のデザインの一つ「四替(よつがわり)」です。4分割された布地には、春夏秋冬を表す梅・藤・紅葉・雪持笹が重厚で華やかな刺繍で施されています。

江戸時代になると、美しく彩られたきものは、上流階級だけでなく、財を蓄えた町人たちも含む多くの人々が楽しむものになります。 “儚いこの世を享楽的に生きよう”という考えが広まりつつあったこの時代には、きらびやかな退廃の美を表現したきものが現れます。美的方向性に多様性が生まれ、街を行き交う人々がファッショニスタとなりました。

2章 「京モード 江戸モード」

この章では、京都と江戸で、きものがそれぞれの形で発展していた様子を紹介します。

江戸幕府第2代将軍徳川秀忠の娘・和子(まさこ)が、後水尾天皇の女御として入内すると、京都に移ったファーストレディのファッションに注目が集まり、和子が注文した小袖模様のように、江戸のみならず京都からも流行が発信されるようになったと言われています。

[重要文化財]小袖 黒綸子地波鴛鴦模様(江戸時代・17世紀) 東京国立博物館蔵

町方の経済力を背景に流行した、腰部分を空けて肩から裾へと大胆な弧を描くデザイン。模様に「動」と「空(静)」のコントラストつけることで動きを表現した、江戸時代初期の特徴的なデザインです。

町方文化が活気づき衣服に贅を凝らすようになるものの、17世紀後半に幕府は庶民の贅沢を禁じます。その結果、それまでの主要な染織り技法を施せなくなったことで、新たに誕生した技法の一つに「友禅染」があります。

[重要文化財]振袖 紅紋縮緬地束熨斗模様(江戸時代・18世紀)、京都・友禅史会蔵、前期展示(7月26日まで)

繊細な色彩で熨斗の一筋一筋に施された友禅染の繊細な色挿しは、江戸時代中期における最高の友禅染の技術が駆使されており、前後ともに大胆かつ艶やかな仕上げになっています。多彩色と繊細な輪郭で表現される絵画のような模様は、その後も人気を博しました。

江戸時代中期には、菱川派など、美人画を得意とする浮世絵師たちがきもののデザインに影響を与えるようになります。裕福な商家の女性たちの間では、尾形光琳のような有名な絵師に描かせた描絵の小袖が流行しました。

[重要文化財]小袖 白綾地秋草模様 尾形光琳筆(江戸時代・18世紀)、東京国立博物館蔵

この小袖には、光沢のある絹の白地に、濃淡さまざまの青や白で花の姿が繊細に描かれています。

このように見るからに贅沢な嗜好から、時代の美意識は、洗練・簡素をよしとするものへと移っていきます。「縞模様」など、従来は男性がまとった色や模様をはじめ、小紋や裾模様、裏模様なども若い女性に好まれるようになり、「粋」の美学が生まれたのです。

その一方で武家・公家の女性の服飾は、刺繍と鹿の子絞りで華麗に彩られるなど、いずれも百花繚乱。依然として豪華でした。ただ、模様は厳格に様式化され、身分や役職に応じて使用される絹の素材や色に規則が設けられるなど、厳しい一面もありました。

第3章 男の美学

お洒落にこだわったのは女性だけではありません。第3章では、男性のファッションに焦点が当てられています。男性だからお洒落には無頓着だったということはありません。たとえば、織田信長・豊臣秀吉・徳川家康の衣装には彼らの性格までも垣間見ることができたり、友禅染の技術が最高潮だった江戸時代には、若衆たちも華やかな振袖で着飾っていたりと、男性たちも、実は、時代や身分により個性的な装いを纏ってきたのです。

陣羽織 黒鳥毛揚羽蝶模様 織田信長所用(安土桃山時代・16世紀) 東京国立博物館蔵

腰から上は山鳥の毛で覆われています。戦国武将たちは、珍しい素材を用いて比類ない衣装をあつらえ、その勇姿を誇示したのです。

江戸の花形職業の一つである火消しは、無事火事を消し止めると半纏を裏返して刺青を思い起こさせるような派手な模様を見せながら、町中を歩き、自らの勇敢さを誇示しました。半纏がずらりと並ぶ姿は圧巻です。

他にも象牙・螺鈿(らでん)・蒔絵などで意匠を凝らした印籠や根付、煙管といった男性小物も展示されています。

第3章までの展示内容はいかがでしたか? 後編では、文明開化後から現代までのきものを追った、第4章と第5章をご紹介します。

(後編)を読む>>>

展覧会概要

特別展「きもの KIMONO」
会期:2020630()823()〈事前予約制〉
会場:東京国立博物館 平成館[上野公園]
住所:東京都台東区上野公園13-9

開館時間:午前930分~午後6時(総合文化展は午後5時まで)
観覧料:一般1,700円、大学生1,200円、高校生900円、中学生以下 無料
※オンラインでの日時指定券の予約が必要
※価格はいずれも税込み
※障がい者とその介護者1名は無料(入館の際に障がい者手帳など提示が必要)「日時指定券」の予約は不要
※展覧会関連イベントは中止
※旧会期が記載された購入済みチケットおよび無料観覧券も使用可能、ただしこの場合もオンラインでの「日時指定券」予約が必要
※購入済みチケットの払い戻しも実施
※各種情報の詳細は、公式サイトを確認のこと
※予定は変更となる場合あり

問い合わせ先
TEL
03-5777-8600(ハローダイヤル)

公式サイト
https://kimonoten2020.exhibit.jp

記者:りりこ

京都育ちの女子大文学部卒です。日本の伝統文化が大好きで、茶道や日舞、合気道などをお稽古しています。京都の老舗旅館に勤務したのち上京。2019年10月よりethica編集部に参加。

日本の伝統文化のサスティナブルな一面に惹かれています。現代の暮らしにイイとこ取りして、令和時代的・豊かなライフスタイルを提案していきたいです。

私によくて、世界にイイ。~ ethica(エシカ)~
http://www.ethica.jp

りりこ

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