前編に続き、今回の編集長対談は動物ジャーナリストの森啓子さんをゲストにお招きしました。
森さんは20年以上も前からゴリラに魅せられ、特にここ10年間というもの1年の半分以上はアフリカに住んでゴリラを追いかけているという女性です。そんな森さんにゴリラの魅力を伺いながら、これまでの人生を振り返っていただくことにしました。
©Keiko Mori / Rwanda Development Board
前編に続き、今回の編集長対談は動物ジャーナリストの森啓子さんをゲストにお招きしました。
森さんは20年以上も前からゴリラに魅せられ、特にここ10年間というもの1年の半分以上はアフリカに住んでゴリラを追いかけているという女性です。そんな森さんにゴリラの魅力を伺いながら、これまでの人生を振り返っていただくことにしました。
大谷: 山極壽一先生(※注1)は、『ゴリラに学ぶ男らしさ』や『ゴリラに学ぶリーダーシップ』など、私たち素人にもよく分かる、ゴリラに関するたくさんの著作をお書きになっています。その中で先生は「リーダーとボスとの違いでいうと、リーダーというのは自分で力を示すのではなく、下から支えられた存在で、ゴリラはまさにリーダー型」とか「パワーだけではなく優しさがあって群れのメンバーの期待に応えるように振る舞わなければならない」などと書いていらっしゃいますが、森さんもこの点で感じられることはありましたか?
森: ゴリラの場合、オスが1頭にメスが数頭のハーレムを作っています。オスがリーダーシップを発揮して、メスや子どもを抱えて群れを維持していくんですけど、群れをまとめていくのは難しいだろうなと思いますね。常に好かれていないと、人間の結婚とは違って、メスはすぐに別の群れに行ってしまいますからね。
ハーレムにおけるメスはいわば大奥の状態です。メス同士には序列があってシルバーバックの隣りに座れるのが古顔でトップのメスで、新顔で序列の低いメスはいつも端っこのほうに追いやられています。そういうメスがシルバーバックに近づいていこうとすると、上位のメスが噛みつかんばかりに怒り、遮るんですよ。でも、新顔のメスでも子供が生まれたりするとシルバーバックが気にかけてくれ、上位になったりすることがあります。メスたちは別々の群れから移ってくるので血縁関係がなく、仲が良くないんです。
リーダーシップということでいうと、メス同士がケンカをすると仲裁したり善悪を判断して、パニッシュメントというのですが、悪いほうに罰を与えるのはリーダーであるオスの役目になっています。
(※注1)ゴリラ研究の第一人者・前京都大学総長
山極壽一先生
大谷: 山極先生は「松下幸之助さんがリーダーに育つと思える人間の条件として『運がよさそうに見える』ことや『後ろ姿で語れる』ことを挙げているが、ゴリラにも当てはまる」と、こんなこともいってらっしゃいますね。
森: たしかにその通りですね。以前、ムガンガという名前の1頭のメスが、人気のあるイサブクルというリーダーの群れに移籍(※注2)したことがあって、私はその直後から、9年間ムガンガを追っています。他の群れから移ってきたゴリラは、まずメスの序列で一番下に入ります。移籍した時からムガンガはずっと他のメスから苛められていて、ある時にはリンチのような目に遭って、足を噛まれて大ケガをしてしまったこともありました。リーダーであるイサブクルはどうするんだろうと思って見ていたら、ムガンガが草や葉を食べている時、彼女の後ろにいつもいて見守っていましたね、俺はお前についているぞってアピールするように。それで、その時はいつもムガンガに背中を向けて座っていましたね。
(※注2)人間に例えると結婚。ムガンガのように2度目の場合は再婚
シルバーバック ©Keiko Mori / Rwanda Development Board
大谷: なるほど。たしかに背中で語っていたわけですね。「運がよさそうに見える」についてはどうですか?
森: メスの子どもは成長して8歳くらいになると、交尾の相手を探し始めます。群れにいるオスは父親だけのことが多いので、その場合、別のグループのオスを遠目で見たり、近くを通り過ぎるヒトリオスを観察したりして、移籍する先を選びます。群れと群れが出会うインタラクションの時に相手のドラミングを見てサッと移籍するんですが、その時の判断基準はそうですね、運がよさそうというか、自分をいつも美味しい食べ物のあるところに連れていってくれそうだなぁと思ってオスを選ぶんだと思います。オスはインタラクションの時も、メスが自分の群れに移籍してからも熱心に求愛します。
一方、オスの気を惹こうとするメスも、ものすごく積極的ですよ。木の枝を折ってオスの前にポイっと投げてみたり、胸を揺らしたり、あるいは腕を引っ張ったりしてアピールしますからね。そして、2度3度うまく行かなくても決して諦めない。最近の日本の若者は草食系だといわれますが、ゴリラは草食動物ですが草食系ではありません(笑)。むしろかなりの肉食系だと思いますね。だから、「結婚したいけど、彼が何もいってくれないんです」と悩んでいる若い女の子には、いつもこの話をして「ゴリラのように頑張りなさい」(笑)って励ますんですよ。
シルバーバックとメスと子供たち ©Keiko Mori / Rwanda Development Board
大谷: 森さんのお話をうかがっていると、ゴリラの生態は人間にとっていいお手本になっているような気がします。
ところで今、森さんは「ゴリラのはなうた」というNPO法人を立ち上げていらっしゃいますね? その設立の背景や現在の活動内容、今後の予定などについてお聞かせくださいませんか?
森: そのお話もちょっと長くなりますよ(笑)。活動を始めたのは今年の1月ですが、そもそものスタートは今から15年以上も前のことですし、そこには多くの方が絡んでいるものですから。
大谷: どういうことでしょうか? 興味がありますね。
森: 2004年に、地球環境をテーマにしたテレビ朝日の「素敵な宇宙船地球号」という30分の情報ドキュメンタリー番組で、東南アジアのゾウやオランウータンが追いつめられ傷つけられている現実を紹介する番組を作ったことがあったんですが、その時、パームオイルに原因があると分かったんです。つまり、パームオイルの原料となるアブラヤシのプランテーションを作るために熱帯樹林を伐採したり、栽培の邪魔になるゾウを捕獲するためにワナを仕掛けていることがわかったんですよね。大谷さんもご存じかもしれませんが、パームオイルはアブラヤシの実から採れる油で、食品や洗剤、化粧品、シャンプー、ペンキ、ペットフードなどあらゆるところに使われていて、私たちの生活になくてはならない油なんです。
大谷: ええ、それは私もよく知っています。
鼻に罠が引っかかった象 ©Cede Prudente
森: それで、この現状を企業としてどう考えているのかを知りたくて、いろいろな会社に取材を依頼しました。でも、食品メーカーはもちろん、大手の洗剤メーカーも化粧品メーカーも、どこも受けてくれません。そりゃそうですよね、そんな番組に出たら会社のイメージが悪くなって商品の売れ行きにも影響が出てしまいますもの。
ところが、そんな中で「ヤシノミ洗剤」を販売して、自然派をうたっていたサラヤさんだけが取材を受けてくれたんです。
大谷: それはすごいですね。よく受けてくれましたね。
森: ええ、私もそう思います。絶対に断られると思っていましたからね。実はサラヤさんは商社からパームオイルではなく洗剤原料となったものを調達していたので、原料生産地で起こっていた現実を全く知らなかったようです。それでも取材を受けることはサラヤさんのプラスになるとは思えない。当時の広報担当者も断ったほうがいいといったらしいんですけど、社長の更家悠介さんがすごい人なんですよね。「逃げていると何か隠していると疑われる。知らないことは知らないとはっきりいったほうがいい」といって、私たちのインタビューに応じてくれたんですよ。
でも、その結果、サラヤさんはやっぱり誤解されて、視聴者から大バッシングを受けることになってしまったのです。そこで何とかしなくてはいけないと思って、友人のグンター・パウリさんに相談しました。
大谷: グンター・パウリさんというと、国連の顧問でゼロエミッションを考えた方ですよね?
森: ええ、そうです。よくご存じですね。
大谷: 以前ゼロエミッションについて取材をしたことがありますから。
参照:ethica 2019年8月20日号 ゼロエミッション提唱者グンター・パウリ氏 Photo=YUSUKE TAMURA ©TRANSMEDIA Co.,Ltd
森: そうですか。それでグンター・パウリさんが「サラヤはRSPO(持続可能なパーム油のための円卓会議)に入ったらいいんじゃないか」と提案してくれて、それをサラヤさんに伝えたところ、日本の企業で初めてRSPOに加盟することになりました。実はグンターさんと更家悠介さんは古くからの友人で、更家さんを紹介してくれたのもグンターさんだったんですけれどね。
そして、RSPOの会議に出席した社長の更家さんが、いきなり「アブラヤシのプランテーションでずたずたに切り離された保護区を全部つなげる緑の回廊を作ります」って演説して、その後本当に、ゾウの救出活動や動物たちの生息地となる「緑の回廊」実現に取り組んでいくようになるんですよ。バッシングは見事に収束しました。
大谷: つまり、今につながるサラヤさんの活動のもともとのきっかけは森さんの番組だったというわけですね?
森: ええ、そういうことになりますね。
(後編に続く)
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「ゴリラのはなうた」支援はこちら
公式サイト: https://www.hummingofgorillas.org
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森啓子(動物ジャーナリスト)
1970年代にテレビ業界に飛び込み、情報番組や料理番組、野生動物を題材にしたドキュメンタリー番組の制作に携わってきた。動物の撮影歴は20年以上。マウンテンゴリラとの出会いは2008年。以来マウンテンゴリラに魅せられ、 アフリカ・ルワンダに居を構えてマウンテンゴリラを撮影する生活を10年前から続けている。
<主な担当番組>
TBS「新世界紀行」
テレビ朝日「素敵な宇宙船地球号」
NHK「地球!ふしぎ大自然」「ハイビジョン特集」
Photo by Jordi Galbany
聞き手:ethica編集長 大谷賢太郎
あらゆる業種の大手企業に対するマーケティングやデジタルの相談業務を数多く経験後、2012年12月に『一見さんお断り』をモットーとする、クリエイティブ・エージェンシー「株式会社トランスメディア」を創業。2013年9月に投資育成事業として、webマガジン「ethica(エシカ)」をグランドオープン。2017年1月に業務拡大に伴いデジタル・エージェンシー「株式会社トランスメディア・デジタル」を創業。2018年6月に文化事業・映像事業を目的に3社目となる「株式会社トランスメディア・クリエイターズ」を創業。
創業9期目に入り「BRAND STUDIO」事業を牽引、webマガジン『ethica(エシカ)』の運営ノウハウとアセットを軸に、webマガジンの立ち上げや運営支援など、企業の課題解決を図る統合マーケティングサービスを展開中。
提供:サラヤ株式会社
https://www.yashinomi.jp
私によくて、世界にイイ。~ ethica(エシカ)~
http://www.ethica.jp
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