前篇に引き続き、パルコ新規プランニング部業務課長・佐藤貞行さんとエシカ編集長・大谷賢太郎の対談です。
後篇では今後の事業展望や今注目のクラウドファンディング「ブースター」などについて語り合いました。
前篇に引き続き、パルコ新規プランニング部業務課長・佐藤貞行さんとエシカ編集長・大谷賢太郎の対談です。
後篇では今後の事業展望や今注目のクラウドファンディング「ブースター」などについて語り合いました。
大谷 最近、エシカで映画監督や俳優をインタビューする機会が多々あります。映画業界は売れている漫画や高視聴率のテレビ番組を映画化したりしていて、それはそれでいいのですが、そうなると新しいものがなかなか出てこないという問題も生じてきて、そういった時に今のような仕組みがうまく回ってくると、これまでとは角度の違った作品も出てくるでしょうね。
佐藤 そうだと思いますね。
さっき大谷さんがおっしゃったように、事業だからビジネスとクリエイティブが両立して、そういうスキルを高めていくことが必要だということからすると、クラウドファンディングというのは、アイディアベースの段階でお客様から事前予約でお金を頂戴するので、信頼性というものがとても大事になります。
それは何かというと、お金は集めたけれども事業計画がなくて、約束したものが作れなくて、お客さんのところに商品が届かなかったというのがいちばんのリスクになりますから。
大谷 たしかに、それは最悪のケースですね。
佐藤 そうすると、僕たちの拙い知見ではありますが、実際にプロジェクト化する前に、パッションとか志だけではなくて、定量的な事業計画を相当深掘りしながら、聞かせていただくのです。そういうディスカッションを、手間はかかりますが、何度か続けていくと、いままで事業計画のほうに意識が向いていなかったデザイナーとかクリエーターの意識が向くようになってきます。こういったビジネス視点での貢献の仕方もあるのではないかと思っています。
大谷 例えば、そこで面談が面倒くさくて離脱してしまうような人って、逆に、そのほうがいいのではないかという考え方もできます。
佐藤 クリエイティビティとかスキルというのはもちろん大事なのですが、その人が本当にやりたいこととか思いとか夢を、いかにてらいなく、自分はこういうものが作りたいんですと熱く語る、そういう本気度やその人の人間性、情熱の強さなどが、一緒にやれるかどうかの最終的な判断につながるんです。
大谷 ブースターというのは、単純なプラットフォーム事業ではなくて、パートナー事業なんですね?
佐藤 僕もそう思っています。
大谷 プラットフォームなら、いくらで何件アップしてということでいいんだと思うんですよ、差別化などしなくても。
でも、ブースターは、一緒にやっていける仲間をお互いに探しているという感じなのかと、今、佐藤さんのお話を聞いていて感じました。
佐藤 クラウドファンディングサイトの中でも戦略は分かれていて、弊社は、スピードという点では決して資金調達を早く始められるサイトではないと思います。準備に多少の時間がかかります。
でも、パルコが今までに蓄積したものとか人脈とかを駆使して、例えば、その人がやりたいプロジェクトに対して、パルコ社員が持っている人脈の中からこの人を掛け合わせれば、もっとよくなるんじゃないですかねという提案をしたり、時間をかけて企画を練り上げていくことが大切だと考えています。
大谷 佐藤さんがやっていらっしゃるお仕事は事業であり、また同時に、情報収集をしてその中から記事になりそうなネタを集める雑誌の編集者がやっているような編集作業にも通じるものがありますね。
佐藤 それは新しい気づきですね。いい例えをしていただきありがとうございます。
大谷 佐藤さんがある意味、ブースターの編集者で、ここからデビューして、この先どんどん大きくなっていくようなクリエーターが出てくるのではないですかね。
佐藤 ぜひそういうふうにしていきたいですね。
大谷 僕はパルコがリアルな店舗やライブハウスを持っていることは、間違いなく大きな強みであり、魅力だと思っているのですが、そうした強みや魅力を生かして、今後の展望をどのようにお考えですか?
佐藤 3本の柱を考えています。
1つは「地方」で、地域全体を元気にしていくプロジェクトをやりたいと思っています。
なぜかといいますと、大谷さんのご指摘のように、パルコは全国に19店舗があり、リアル店舗というチャネルがあるということは、ものすごく大きな武器だと考えています。
ですから、そのパルコが出店している土地、例えば福岡なら九州ならではのいろいろなプロジェクトを実施して、福岡パルコのイベントに合わせてコラボレーション企画を実施したり、ウエブだけでは分からないので商品のプロトタイプを展示したり、といった形でパルコという施設を活用しながら、その地域を盛り上げていくことができるのです。
もう1つは「IoT」、テクノロジーを活用した案件ですね。
今、ファッションとかアートの分野には、技術革新の波が確実に押し寄せてきていて、ファッションなどは昨年の夏ぐらいから一気にその色合いが濃くなってきています。
ところが、そういった新しいテクノロジーを使うにはリスクが伴いますから、そうしたクリエイティブコンテンツ領域で、新しいテクノロジーを使ったプロジェクトをどんどんやっていきたいと思っています。
3つ目は「越境」ですね。
これには2つの側面があって、日本の才能ある人が海外にどんどんチャレンジをしていけるように後押ししていきたいというのと、逆に、海外でユニークな面白いことをやっている人や業者は、いろいろな規制があって日本ではなかなかビジネスを展開できないというネックがあります。そういうものが日本に入ってこられないということは、日本のクリエイティブコンテンツ領域にとってもったいないと思っています。
こんな面白いことをやっている人がいるのかと触発されて、そことジョインして新たな事業を立ち上げることもあると思いますので、海外のユニークなベンチャー事業の営みを日本に持ってくる、そんなプロジェクトもやってみたいと考えています。
大谷 ITやインターネットには、いい面と悪い面があると思いますが、いちばんのいい面は海外と瞬時につながることができることでしょう。その点で御社がますます強化されてくるのかなと思います。
次に、ブースターの出展事例についてお聞きしたいのですが、まず「グルーヴィジョンズ」との取り組みの経緯についてご説明いただけますか?
佐藤 グルーヴィジョンズはもともと京都の会社だったのですが、京都から東京に出てくるというその時からパルコとの付き合いが、お互いにリスペクトしながら脈々と続いていて、そのつながりを今パルコにいる人間も大事にしていて、ブースターそのもののクリエイティブワークも一緒にやろうということになったのです。
その中で、グルーヴィジョンズの伊藤さんや原さんがクラウドファンディングを好きか嫌いか分からなかったのですが、話を持っていったら、こういうクリエイティブの形もあるよねといってくださって、ウチのクリエイティブチームと信頼関係を築いていたので、話がスムーズに運びました。
大谷 信頼関係ってすごく大事ですよね。
佐藤 それで、チャッピーのアプリをプロデュースしていただいたのですが、それがものすごく面白かった。
大谷 僕の周りの人間もフェイスブックはみなチャッピーですよ。
佐藤 ありがとうございます。
僕が個人的に嬉しかったのは、グルーヴィジョンズのようなプロフェッショナルの固まりのような人たちが、クラウドファンディングという仕組み自体に共感してくれた。すごく心強かったですね。
大谷 結構しばらくの間、チャッピーを隠していたというか、使っていない時期がありました。そのインパクトもすごくありました。
佐藤 アーリーステージにいらっしゃる方のプロジェクトも、それは当然インキュベートなので大切なんですけど、やはり、ああいうクリエイティブの本質を極めてきたグルーヴィジョンズのようなところが、新しいチャレンジをする時に、もっとみんなでクリエイテ
ィブなことをやろうという投げかけというかアクションに賛同してくれたというのは、とても嬉しかったですね。
ストイックに一つのことを極めているような方のプロジェクトっていいですよね。ブースターの中に、ああいうプロジェクトがあると、グルーヴィジョンズを目指しているような若いクリエーターはすごくエネルギッシュになります。モチベーションを高めて、自分たちもああなりたいとか、そういういいサイクルができたプロジェクトだと、伊藤さんと原さんにはとても感謝しているんです。
大谷 まさにパッションとパッションが重なり合って、プロジェクトが成功したんでしょうね。
佐藤 パルコの中には、本当にアートとかファッションが好きで好きでたまらなくて、寝食を忘れてでも、この人たちと一緒に仕事をしたいんだみたいな、そういう人間がまだまだたくさんいるんですよ。
先ほど大谷さんが、僕のことを編集者だとおっしゃってくださったんですけど、僕の場合は、そういうパルコという会社の中にいる人間、まさにいろいろな財産ともいえるプロフェッショナルな能力のある人間をいかに探し出して、ブースターという仕組みの中にうまくジョインさせるかが、ブースター自体のブランディングも含めてとても大事だなと思っています。
大谷 それはもう本当に大事ですね。
最後に、佐藤さんのお勧めの出展者を挙げていただけませんか?
佐藤 まず「ルーイ」というシアトルのシューズメーカーの靴づくりのプロジェクトです。
なぜ彼らに共感したのかというと、靴づくりとか靴づくり業界に対するパッションとか問題意識がものすごく強くて、世界中には靴が大好きで、靴づくりをやってみたいと思っている人間はたくさんいるけど、現在シューズデザイナーに対する手残りが、あまりにも少なすぎる。これでは、いいシューズデザイナーは出てこないよと、彼らは、そういう問題意識を持っているのです。
それじゃあどうしたかというと、CEOの人はもともと靴工場の息子だったので、靴を作る技術は持っていました。ですから、クラウドソーシングの仕組みを使って、全世界の靴づくりのアイデアとか情熱を持っている人からデザインを集めて、本当に作って売れたら、今度はレベニューシェアの仕組みを入れて、売れた分の何パーセントをシューズデザイナーにしっかり戻すという、そういうことを考えました。
これこそが彼らがいう靴づくり業界のサスティナブルな循環型で、世の中にこういう仕組みを通用させて、それが広がれば靴づくり業界に新しい才能を持った人がどんどん出てきて、その人たちがレピュテーションも実利の部分も正当に評価される。そういう世の中にしたいんだということをものすごく熱く語ったのですよ。
僕はそういうのがいいなあと思って、一緒に組もうと思いました。
正直いって、その靴のデザインとか靴づくりのスキルが、今の日本のマーケットで即通用するかといったら、それは何ともいえない部分はありますが、そこはパルコのサポートというか、腕の見せどころで、どれだけよりよいモノづくりに対しての助言なりサポートができるか、どれだけプロモーションをかけて、あの人たちの認知を広げていけるは、これからですね。
とにかく靴づくりに対して熱い思いを持っている人たちなので、これは何としてでも、花を開かせてあげたいなという気持ちがあります。
大谷 いいお話ですね。他にはどうでしょう?
佐藤 もともとソーシャルグッドに興味があったので、「インヒールズ」のプロジェクトは個人的にはすごく好きですね。
同じ意味でいうと「日本全国を巡回する月明りの移動劇場」というプロジェクトがあって、演劇を通じて、世の中に対して、どうインパクトを与えられるかという、そんな志しを持ってやっているんです。ああいうのもいいですね。
大谷 演劇がソーシャルグッドにつながっていくのですか?
佐藤 そうなんです。普段だったら演劇をしないような、設備もない町の病院とか教育施設とかのそういうところで、演劇の楽しさを演劇に触れる機会のない人たちに提供したいという、そんな思いを持っている人たちなんですよ。それは、文化を通じて世の中にいいインパクトを与えたいという、まさにパルコとしてもやりたいことです。
大谷 なるほど。エシカのコンセプトである「私によくて、世界にイイ」にもつながってきますね。
佐藤 ええ、おっしゃる通りですね。
私は実は5年前に、ブースターの前身である「ファイトファッションファンド」を手がけたことがあります。どうして、それをやろうかと思ったかというと、その時、僕はマクロマーケティングとか企業の次の方針を考えるといったようなチームにいたのですが、いろいろなマーケティングをやっているうちに、やっぱりソーシャルはありだなと思っていて、たまたま読んだ本の中に、グラミン銀行の話が載っていたのです。
この仕組みはいいなあと思いました。金融というスキームを通じて、世の中にいい影響を与えていくという、こんなことを自分もやりたいと考えて、ファッションデザイナーのスタートアップをサポートすることをセグメントにして、投資型のクラウドファンディングをやったのです。
いずれにしても、僕は個人的に、月明りの移動劇場とかインヒールズのようなプロジェクトが大好きなんです。
パルコ新規プランニング部業務課長・佐藤貞行さん Photo=YUSUKE TAMURA (TRANSMEDIA)
大谷 インヒールズでいうと、先ほどのトラフィックの話につながりますが、エシカルファッションとかフェアトレード商品という言葉は、認知度15パーセントか、せいぜい30パーセントくらいのものでしょう。いわば、トラフィックが少ないジャンルなのです。そういう中で、インヒールズ代表の岡田さんは強烈なパッションを持っています。インヒールズがブースターに出展したことが、今日、佐藤さんのお話を聞いてよく理解できましたよ。
佐藤 インヒールズのプロジェクトは同じ部署の女性が担当したので、わたしは直接、岡田さんには会っていないのですが、たしかにテキストからもにじみ出てくるパッションを感じました。ラジカルなエシカルというのはいいですよ、攻めていて。ああいうアバンギャルドさって、パルコと親和性がありますね。
大谷 今日はいろいろとありがとうございました。
佐藤 こちらこそありがとうございました。
聞き手:ethica編集長 大谷賢太郎
~私によくて、世界にイイ。~ ethica(エシカ)
http://www.ethica.jp/
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