前編につづき、「国連WFP視察報告会」ルポ後編です。
シンプルだけど、みんながハッピーに
実は竹下さんと知花さんは初対面。「私、クイズダービーを見て育ちました。ご一緒できるなんて信じられない!」と感激する知花さんの言葉に、竹下さんはニッコリ。和やかな雰囲気の中、対談はスタートしました。
国連WFPの支援に参加しようとしたきっかけを、竹下さんはこう語ります。
「私は脱脂粉乳世代。子どものころまずくて鼻をつまんで飲んでいましたが、ずいぶん後になって実は戦後の日本の復興のために国連が支援してくれていたのだと知りました。そのおかげで私たちは今元気でいられる。大人になり母になった今、飢えに苦しむ子どもたちやお母さんたちのために何かお手伝いできればと思ったのです」
一方、知花さんは学生時代、勉強しても解けない疑問があったと言います。
「大学の副専攻で国際教育を選択していました。世界中の子どもたちが学校に行けるにはどうしたらいいんだろう……。文献を開いてもリポートを書いてもその答えが見つからなかったんです」
その後、ミス・ユニバース世界大会に日本代表として出場したことがきっかけで、国連WFPの活動を知ることに。
「学校給食支援プログラムを知ったときに『答えはこれだ!』と腑に落ちた。まるで一瞬で恋に落ちたみたいでした(笑)。食べ物が教育の呼び水になる。すごくシンプルだけどみんながハッピーになれるし、すごくポジティブな活動だと感動して。すぐに『一緒に活動させてください』とお願いしました」
そんな知花さんが、女性の先輩である竹下さんにこんな質問。
「私はまだ独身で出産の経験もないのですが、現地に赴いたとき、一人の母として感じることってありますか?」
竹下さんは、これまで訪れた国に思いを馳せながら、
「私が出会った子どもたちが全員、十分に食べ、学校に行き、すくすくと元気に育ってほしい。それはいつも感じています」。
さらに、こう続けました。
「お母さんたちが十分な教育を受けておらず、衛生状態が不完全だったりすることも多いのですが、それでも、たとえばセネガルではお母さんたちが自主的に母親学級を立ち上げ、どうやったら赤ちゃんを元気に育てられるのか、病気の時にはどうしたらいいのかを積極的に考えていた。その姿は、同じ母としてとてもたくましく感じました。国や宗教が違えど、子どもの幸せは親の幸せ、それは世界共通なんですね」
知り、想像し、伝えることーー。一人ひとりの小さな一歩が世界を変える
ここで、竹下さんから知花さんにサプライズが。以前、スリランカ視察の際に知花さんが出会った少年、ニデルセンくんに、竹下さんは今回の視察で会っていました。13歳に成長したニデルセンくんは、知花さんへのプレゼントを竹下さんに託したのです。貝殻とお花でできた置き物を手渡された知花さんは大感激。「出会った子どもが元気に成長している姿を見られる、それを皆さんにこうしてお伝えすることができる。継続は力なり、10年続けてきて本当によかった」と声を詰まらせました。
事前に来場者から寄せられた
「自分たちにどんな支援ができますか?」
という質問に、竹下さんは、
「国連WFPの活動は決して小さい取り組みではありませんが、それでもまだ知らない方がたくさんいます。たとえばボランティアとして参加し、ご自身の経験や人脈を生かして多くの方々に目を向けてもらうよう働きかけていただければ」。
さらに知花さんは
「10代や20代の若い人は、TwitterやFacebookで国連WFPをフォローするなど、SNSを活用してもらえたら。世界で今何が起こっているか、どんな支援が行われているかを、私たちとシェアしませんか?」
と呼びかけました。
そうしたSNSを活用した取り組みとして、国連WFPでは飢餓状況や支援活動についての情報を手軽に入手できるスマートフォンアプリ「FOODeliver(フーデリバー)」を開発、この場でお披露目されました。新しい情報がプッシュ通信で届いたり、支援したい活動を選び1クリックで寄付したりも可能。竹下さん、知花さんも実際に使ってみて、「これは便利!」「情報がすぐに手に入りますね」とスマホの画面に釘付けになっていました。
食べ物に溢れた日本にいると、飢餓で苦しんでいる人たちの存在を想像すらできなかったりします。まずは知る。そして、自分に何ができるのかを考える。そんなことから小さな一歩を踏み出してみませんか?
ーーBackstage from “ethica”ーー
世界の飢餓状況の現実を目の当たりにし、会場に訪れた多くの方々同様、「今の自分に何ができるんだろう?」と考えさせられました。そんな中、知花さんのあるお話が胸に響きました。実は国連WFP日本大使として活動を始めたころ、批判の声もあったというのです。「私のやっていることって中途半端なのかな?」と悩む知花さんの背中を押したのは、ファッションジャーナリスト生駒芳子さんの何気ないこんな一言だったとか。
「100やんなくてもいいのよ。10でも1でもいい。だって、0よりずっといいんだから」
それこそSNSでシェアし、多くの子どもたちが置かれている現状をたくさんの人に知ってもらうことだって「今の自分にできること」。竹下さんと知花さん、二人の女性の心からの言葉に、なんだかちょっと勇気がわいてきました。
記者 中津海 麻子
慶応義塾大学法学部政治学科卒。朝日新聞契約ライター、編集プロダクションなどを経てフリーランスに。人物インタビュー、食、ワイン、日本酒、本、音楽、アンチエイジングなどの取材記事を、新聞、雑誌、ウェブマガジンに寄稿。主な媒体は、朝日新聞、朝日新聞デジタル&w、週刊朝日、AERAムック、ワイン王国、JALカード会員誌AGORA、「ethica(エシカ)~私によくて、世界にイイ。~ 」など。大のワンコ好き。
私によくて、世界にイイ。~ ethica(エシカ)~
http://www.ethica.jp