ステキな品物を見繕ってプレゼントしあう。そういうクリスマスプレゼントももちろんとてもステキです。でも、物にあふれたこの時代、もっと別の形のプレゼントがあってもいいのではないでしょうか。ethicaから、新しいプレゼントの方法として、「体験」をプレゼントすることをご提案します。
体験するとわかること
中にはまだ昼なのに電燈がついてたくさんの輪転器がばたりばたりとまわり、きれで頭をしばったりラムプシェードをかけたりした人たちが、何か歌うように読んだり数えたりしながらたくさん働いて居りました。
ジョバンニはすぐ入口から三番目の高い卓子(テーブル)に座った人の所へ行っておじぎをしました。その人はしばらく棚をさがしてから、
「これだけ拾って行けるかね。」と云いながら、一枚の紙切れを渡しました。ジョバンニはその人の卓子の足もとから一つの小さな平たい函(はこ)をとりだして向うの電燈のたくさんついた、たてかけてある壁の隅の所へしゃがみ込こむと小さなピンセットでまるで粟粒ぐらいの活字を次から次と拾いはじめました。(中略)
ジョバンニは何べんも眼を拭ぬぐいながら活字をだんだんひろいました。
(宮沢賢治『銀河鉄道の夜』より)
引用したのは宮沢賢治作『銀河鉄道の夜』の序盤、主人公のジョバンニが、印刷会社で活字拾いをするシーンです。ジョバンニの働いている工場は活版印刷工場。今や印刷は、パソコンで文字をさらさらと入力し、行間などを調整して印刷マークをクリックすれば、家庭でも簡単にできます。印刷会社でも、パソコンで作ったデータを使って、印刷機を回しています。
しかし、かつて印刷は一文字ずつ独立したハンコ状の活字を、一文字一文字集め、それを希望の行間や字間になるように組み、印刷機を回す、非常に手がかかったものでした。
こういった「知識」を持つと、ジョバンニの活字拾いのシーンを読んで「大変そうだな」という想像はつくかもしれません。しかし、それを嗅覚や触覚、周りの雑音まで含めて豊かに思い浮かべることができる人は、少ないのではないでしょうか。
でも一度、活版印刷を体験してみると……
まず、印刷所に入ったとたんに、インクのきりっとした香りが鼻孔に届きます。印刷機が回る小気味よい音が聞こえてきます。そして、説明を受け活字を拾い始めると、活字の小ささに驚かされます。9ptの活字の大きさは数ミリ四方×数センチ。でも鉛製の活字は大きさの割には頼もしい重さです。ハンコのように鏡文字に作られた活字を、間違わないように探し出して集めるのは一苦労。活字を落としたり、順序がバラバラになったりしないように扱うのにも神経を使います。
活版印刷では、その活字を印刷する形に組むのも手作業。パソコンなら「なんかおかしいな」とスペースキーを押したり、時間・行間を調整する操作をしたりするだけ。でも活版印刷だと、印刷しない部分にはスペース用の板や活字を隙間なく入れたりする必要があり、調整も大変。また、印刷機に版を固定し、紙の希望した位置に印刷するのも熟練のワザが必要です。
手をかけている分、いざ印刷するときの誇らしさったらありません。「やっとできたー」とうれしくなります。刷り上がったものへの愛着もひとしお。活版印刷で新聞や書籍を作っていた時代の印刷物の貴重さが胸に迫ってきます。
こういった体験をしたあとで『銀河鉄道の夜』を読むと、ジョバンニの生活が一気にリアルになるのではないでしょうか。
さまざまな体験は、もちろん文学作品を読むときだけに役立つわけではありません。そしてどの体験が、どんなときに生きてくるかは予想がつくものではありません。でもはっきりいえるのは、座学で得た知識よりも、体験で得た知識のほうが、はるかに濃いということ。五感を全て使っているために、情報量は圧倒的に多いのです。
「体験」の価値を考え尽くしたSow experience
この活版印刷体験は、Sow experienceという体験ギフトの会社が商品化しているサービスの1つ。活版印刷を行なう(株)ALL RIGHTのオールライト工房で、名刺やショップカードを活版印刷で作ってみるというサービスです。
Sow experience代表、西村琢さんは「人生は経験の組み合わせ。良い経験もそうでない経験も、人生を豊かにします。」と語ります。
西村さんは、学生時代にイギリスのSF作家ジョージ・オーウェルの『1984』 を読んで、そこに描かれている、個人が自由に意思をもつことは許されず、思想はすべて監視されるという未来予想図の暗さに「未来はもっと明るくできるはずだ」と、ずっと考えていたそう。
また、コンピューター社会になり、駅で階段はがら空きなのにエスカレーターや動く歩道ばかりが利用されているのを見て、西村さんは「技術が進化する一方で、人間がより退化する方向に進んでいる」と危機感を感じていました。
学生時代にテニスサークル、海外旅行、アルバイト以外の体験をしたいと投資を始め、学生投資家として企業に話を聞きにいったり、別の学生投資家との繋がりをもったりした経験から、「日々の過ごし方は誰かの提案、意思で変わる」「小さなきっかけから、いろいろな体験を作り出すことができる」といった実感を持っていた西村さん。楽しさと身体性を同時に満たすことで、未来を明るくしたいとSow experienceを立ち上げました。
その想いは、Sow experienceの商品によく表れています。以前にethicaでも紹介した仕事旅行社のサービスが利用できるパッケージがあったり、盲目の方に案内されて完全な暗闇を体験するダイヤログ・イン・ザ・ダークのサービスが利用できるパッケージがあったり。2人で体験を利用できるパッケージなんていうものもあります。
西村さんのオススメはキャニオニング体験。「学校で習う全教科の要素が入っているのではないかと思うほどの良質な体験ができるはずです。終わった後、体験したことをうまく表現する言葉が見当たらないかもしれません。でも、そういった経験こそ、価値があると感じています。」
Sow experienceについて詳しくはこちら:http://www.sowxp.co.jp
女性向けのサービスを研究し続けるエクスペ
通信販売のフェリシモは、女性ならではの視点でサービス内容を考えた体験ギフト「エクスペ」を提案。フェリシモの商品開発から見えてきた20〜40代の女性が喜ぶ要素をギュッと詰め込んだ体験ギフトサービスを企画しています。
例えば、人気の特別企画商品が「巫女・篆書(てんしょ)体験」。巫女さんとしての1日を体験するサービスです(今シーズンは12月6日開催)。
「巫女・篆書体験」の内容は以下の通り。京都の重要文化財に指定されている松尾大社で、まずは本物の巫女さんに白衣と朱色の袴を着付けていただきます。そして神主さんにお祓いをしていただいた後、篆書と呼ばれる、約1100年もの間、秘密にされてきた神聖文字で「愛」という文字を習い、毛筆で文字をしたためます。昼食をいただいた後は、巫女体験と境内見学。雅楽や巫女の舞観賞(希望者には実技指導も)などを経験することができるのです。
変わり種だと、最近女性に人気の落語の体験も。なんと3日間、江戸落語の弟子入りを体験できるのです。参加者はみな真剣に学び、3日目にはお披露目の会まで行ないました。10月12〜14日に開催された古今亭志ん輔師匠による講座の様子はYoutubeでもダイジェスト版で公開されています。
その他、人気のフラワーアーティスト岡本典子さんと一緒にフラワーヘッドドレスを作る体験や、モデル体験、プリザードフラワー作り体験、カリグラフィー体験、そして定番人気のエステやスパ体験など、エクスペには女性の喜ぶ体験ギフトがいっぱいです。
エクスペについて詳しくはこちら:http://www.expe-plus.com/
「いくら人から聞いても、自分で見なければ本当のことはわからない。『百聞は一見にしかず』だよ」と幼い頃に言い聞かされた人も多いのでは? ぜひその言葉を思い出して、クリスマスプレゼントに「体験」を贈ってみてはいかがでしょうか?