寄付された髪の毛で作ったウィッグを、病気などで髪の悩みを抱える子どもたちにプレゼントする「ヘアードネーション」。CSR活動としてこの取り組みに協力するアデランスを取材しました。
総合毛髪関連企業のウィッグのトップメーカーが進める「本業を通じたCSR」とは?
「Hair Donation(ヘアードネーション)」って知っていますか?
寄付によって集まった髪の毛でウィッグを作り、病気などで髪を失った人たちに提供するという活動。髪を切るだけでできる社会貢献です。
日本では唯一、Japan Hair Donation & Charity(通称JHDAC、ジャーダック)というNPO団体が、小児がんなどの治療過程や無毛症などの先天的な病気やケガなどが原因で頭髪の悩みを持つ18歳以下の子どもたちを対象に、100%寄付された日本人の人毛を使った「フルオーダーメイドの医療用ウィッグ」を作り、希望者に無償でプレゼントするという活動を進めています。最近では、人気女優さんもヘアードネーションに参加し、大きな話題になっています。
JHDACの活動に賛同し、タッグを組むのが、ウィッグメーカーであるアデランス。CSR活動の一環で、2015年3月からウィッグ製作のための採寸やウィッグの納品ができる場として完全個室を備えるアデランスサロン(120店舗/2016年2月現在)を提供。そして今年4月、ウィッグ製作の協力も開始しました。
この取り組みを始めた経緯やかける思いを、アデランスCSR推進部課長代理の八木専吉さんと、同部の玉橋美咲さんに伺いました。
髪で悩む子どもたちにウィッグをーー40年近く続く「愛のチャリティ」
「社会的価値を持った活動」をさらに深め、広げていくことを標榜しています。ただ、何かボランティアをしたり寄付をしたりといったことではなく、営業と一体化した「本業を通じた戦略的CSR」である点が、当グループのCSR活動の大きな特徴です。社会に役立つ取り組みを、健全で永続的な企業成長に繋げることです。
そういう意味では、「守り」ではなく「攻め」のCSR、と言えると思います。
ーーヘアードネーションへは、まさにウィッグの製造を手がける御社の本業を通じた活動と言えますね。JHDACに協力することになったきっかけは?
ある高校生との出会いでした。当社では1978年から、「お子さまの髪の悩みを心の傷にしないために」をテーマに、病気やケガなどの理由で脱毛に悩む4~15歳のお子さんを対象に、フルオーダーメイド・ウィッグを製作してプレゼントする「愛のチャリティ」という活動を続けています。2014年、その活動を知った北海道の帯広三条高校の生徒さんが、NHK杯全国放送コンテストに出品する「髪」をテーマにしたドキュメンタリー作品を制作する際、当社に取材依頼をしてくれたのです。これに興味を持ったCSR推進部長が帯広に飛び、そこでJHDACの活動を知ることに。その趣旨に深く共感し、毛髪業界のリーディングカンパニーである当社としても何か協力ができないかと考えました。
ーー高校生に会いに行くなんて、すごい行動力ですね!最初の取り組みとして、アデランスサロンを提供されました。理由は?
オーダーメイド・ウィッグを作るためには頭部の採寸が必要です。JHDACでは活動に賛同する美容師がその採寸をする訳ですが、プライバシーへの配慮もあり、美容室で行う場合は営業を一時中断せざるをえません。また、ウィッグをより長く快適に使っていただくためには、見た目の自然さを維持するための定期的なケアが必要です。しかし、このアフターケアがないという課題も抱えていることがわかりました。そこで、全国に展開するアデランスサロンの提供を申し出ました。アデランスサロンには完全個室を備えており、採寸はもちろん、ウィッグのお渡しの場として活用できます。また、JHDACによって贈られたウィッグを対象に、シャンプーや自髪のカットなどを含むアデランスのサロンメニューを通常料金の3割引でご利用いただけるなど、アフターケアもサポートすることになりました。
質のいいオーダーメイド・ウィッグを一刻も早く届けたい。
ーー今年4月からは、オーダーメイド・ウィッグの製作も開始しました。
JHDACは、社会貢献や市民に感動を与えた人を表彰する「2015年度 シチズン・オブ・ザ・イヤー」を受賞するなど、その活動の認知は広がりつつあり、ウィッグを望む子どもたちの数も増えてきています。とはいえ、使う人それぞれに合わせて作るオーダーメイド・ウィッグは製作に手間と時間がかかり、JHDACによれば今も100人以上のお子さんが待っている状況です。そこで、本業であるウィッグ製作で培った技術力はもちろん、「愛のチャリティ」を通して得た経験やノウハウを生かし、オーダーメイド・ウィッグの製作協力に踏み切った訳です。
ーー悩みや病を抱えたたくさんの子どもたちが、自分だけのウィッグを待ち望んでいるのですね。
髪の毛や皮膚などの見た目に悩みがあると、気持ちが落ち込んでしまうもの。そんな人たちを元気づける力がウィッグにはある。そう痛感するいくつもの出来事があります。
当社ではレディメイドのウィッグをタイで生産しており、タイの病院からウィッグの提供を求められたことと、環境への配慮から製品の破棄を減らす目的とを両立する策として、一部の試作品を病院に寄贈しています。抗がん剤の副作用で髪が抜け落ちてしまった人がウィッグで治療前の髪型を取り戻したことで、それまで立ち上がるのも困難だったのに、しっかりと自分の足で立ったというのです。そして、涙ながらにお礼を言っていた、と。
「愛のチャリティ」でオーダーメイドウィッグを手にしたお子さんたちからも、たくさんの喜びの声が届いています。「小児がんだったときにウィッグで元気づけられ、病に打ち勝ち、今は看護師になりました」というお便りをいただいたときは本当にうれしかったですね。今回のヘアードネーションの取り組みでも、ウィッグを心待ちにしている子どもたちに、クオリティの高いウィッグを一刻も早く届けようーー。その思いを胸に、これからも取り組んでいきます。
子どもたちにプレゼントするウィッグを作るためには最低31センチという長さが必要ですが、その条件を満たしていれば誰でも髪の毛を寄付することができます。賛同美容室などの情報は、JHDACのHP(http://www.jhdac.org/)で。
ーーBackstage from “ethica”ーー
テレビのドキュメンタリー番組でJHDACの活動を知り、とても感銘を受けました。自分の髪の毛を使ってほしいと長い時間伸ばし続ける人たちの思いが、ウィッグとなって髪の悩みを抱える子どもたちに届けられる。自分だけのウィッグを手にした子どもたちは、みんな弾けるような笑顔に!しかし一方で、たくさんの善意が集まってもフルオーダーメイドは手間も時間もかかり、なかなか製造が追いつかないという現実もあると知りました。毛髪研究とウィッグ製造のトップメーカーであるアデランスが協力すること、それは、ウィッグを待ち望んでいる子どもたちにとって間違いなくうれしいニュース! こうしたCSR活動が多くの人に知られることで、ヘアードネーションの輪がますます広がっていくことを願っています。
記者 中津海 麻子
慶応義塾大学法学部政治学科卒。朝日新聞契約ライター、編集プロダクションなどを経てフリーランスに。人物インタビュー、食、ワイン、日本酒、本、音楽、アンチエイジングなどの取材記事を、新聞、雑誌、ウェブマガジンに寄稿。主な媒体は、朝日新聞、朝日新聞デジタル&w、週刊朝日、AERAムック、ワイン王国、JALカード会員誌AGORA、「ethica(エシカ)~私によくて、世界にイイ。~ 」など。大のワンコ好き。
私によくて、世界にイイ。~ ethica(エシカ)~
http://www.ethica.jp