飲食業の経験はなくても、レストランを運営するチームなら作れる 【編集長対談】(株)グリップセカンド 代表取締役 金子信也
コラボレーション
このエントリーをはてなブックマークに追加
Instagram
12,748 view
飲食業の経験はなくても、レストランを運営するチームなら作れる 【編集長対談】(株)グリップセカンド 代表取締役 金子信也

Photo=YUSUKE TAMURA (TRANSMEDIA)

昨年4月、池袋駅近くに南池袋公園がリニューアルオープンしました。広々とした芝生が整備された都心の真ん中とは思えないロケーションの良さが自慢の、誰にも居心地のいい公園です。

そして、この公園の傍らにあるオシャレなカフェレストランが「RacinesFARM to PARK」(ラシーヌ)。新しく生まれ変わった南池袋公園のシンボルといってもいいお店です。

そこで、町と公園の新しいオシャレな関係や、お店での働き方などについて「ラシーヌ」を運営している「グリップセカンド」の代表取締役社長・金子信也さんに、『ethica(エシカ)』編集長の大谷がお話を伺いました。

Photo=YUSUKE TAMURA (TRANSMEDIA)

大谷: 金子さんは30歳までプロのバスケットボール選手だったとお聞きしました。

金子: ええ、そうです。小学校からバスケ一筋で、当時は社会人のチームでプレーしていました。

大谷: その金子さんが、どうして飲食業に関わるようになったのですか?もともと興味をお持ちだったのですか?

金子: いいえ、全くありませんでした。とにかく30歳まではバスケ以外のことには興味がなかったのです。ただ、現役を引退して世界を回っていた時、レストランやカフェが町のハブになっていることを目の当たりにして、「日本とはちょっと違うな。もし、これから先、日本も海外のようになったら面白くなっていくんじゃないかな」と思ったのです。それが飲食の世界に足を踏み入れることになったきっかけです。今から15年前の話ですね。

大谷: なるほど。でも、全く経験のない飲食の世界に飛び込んだことに不安や戸惑いがあったのではありませんか?

金子: たしかに僕には飲食の経験はありませんでした。でも、いい仲間たちとずっとバスケをやってきて、素晴らしいレストランを実現するためのチームを作ることなら、僕にもできる。そう信じていましたから、特に心配するようなことはありませんでしたね。ただ、実際に仕事を始めてみるとバスケをやっていたほうがずっと楽でしたけど(笑)。

大谷: そもそもの飲食業のスタートは池袋でしたね? 池袋とは何かご縁があったのですか?

金子: いいえ、何もありません。というか、池袋には一度も来たことがなかったし、イメージも悪くて大嫌いな町でした。ところが、たまたま物件を探していた時に紹介されたのが池袋で、来てみたら、お寺が多くて、いろいろな世代の人が住んでいて、温かい人がたくさんいる。意外といい町だったんですよ。それで、住民の方に話を聞いてみたら、池袋ではご飯を食べないというんです。地元に愛するレストランがないというのは寂しいじゃないですか。それじゃあ、僕がやろう、そう思いました。

MINAMI IKEBUKURO PARK opening movie from Minami Ikebukuro PARK on Vimeo.

大谷: お店の真ん前にある南池袋公園ですが、緑がいっぱいでとてもきれいな公園ですね。子供たちも楽しそうに遊んでいましたよ。

金子: 実は、ここは誰も寄りつかない公園で、7年間も閉鎖されていたんです。それを豊島区や近隣の住民、僕たちのような事業者がいろいろな提案をして今の形に作り上げました。ここを含めて池袋には4つの公園があって、今はまだそれぞれが点としてしか機能していませんが、将来的には面でつないで豊島区の舞台装置としての働きを持たせることができればいいなと思っています。

Photo=YUSUKE TAMURA (TRANSMEDIA)

行政主導ではないからうまくいく

大谷: ラシーヌと南池袋公園との関係でいいますと、行政がイニシアチブを取って、その中に民間がちょっと入ってくる試みはすでに他の場所でも始まっています。しかし、こちらのように民間がイニシアチブを握って、それを行政がフォローするというスタイルは珍しいですよね?

金子: おっしゃる通りです。そのスタイルがここで実現できているのは、学識経験者や事業者、地元の商店街、豊島区などで組織する「南池袋をよくする会」という会を作って、そこが南池袋公園の全ての運営をすることにしているからです。つまり、行政がジャッジメントしないということが他にはない仕組みなのだと思いますよ。行政が主導するとなると、どうしても縛りが多くなって結局、何もできないうちに終わってしまうのです。ここではそれがありません。

大谷: 会の運営費というのは?

金子: うちでは売り上げの0.5%を地域貢献費として豊島区に納めていて、今後はこれを周辺の企業などにも広げていこうと考えています。ですから、助成金のようなものを区からいただいているということは一切ありません。

大谷: お話をお聞きすると、たしかに他の地域にはない画期的なシステムだと思います。それも行政の理解と南池袋公園という優れたロケーションがあって成り立っているのでしょうね。

金子: 公園に関していうと、ちゃんと種を植えて花を咲かせて、そして虫も集まってくる。小学生の子供たちがワークショップで芝生を育てるような、そんな公園を作るのが大前提です。ただ単にきれいなだけではダメで、社会実現の場になることが必要なんです。

大谷: 私は最近、一番の情報発信メディアは飲食店ではないかと思っているのですが、金子さんのお話を伺って、その考えがますます強くなりました。

金子: ええ、僕も同感ですね。これだけSNSが普及してくると、お店にいらっしゃるお客様1人1人がメディアになります。僕は、お客様のことを豊島メディアと呼んでいるのですが、そうした人たちのニーズを僕たちがどこまですくい上げて満足させられるかが、これからはますます重要になるでしょうね。とにかく、お客様が一番強いメディアであり、コンテンツでもあるんです。多様化するコンテンツをどうつなげていくか、それが舞台装置としての役目でもあると、僕は理解しています。

Photo=YUSUKE TAMURA (TRANSMEDIA)

「体感」がこれからのキーワードになる

大谷: ところで、このゴールデンウィークにニュージーランド大使館商務部とのマルシェをやられるとお聞きしましたが。

金子: はい、その予定です。ニュージーランドには食にも文化にもいいものがたくさんあるのに、それを分かっている人が少ないのです。知られているようで意外とそうでもなくて、場所でさえもオーストラリアの右か左かも理解していない人が多いんですね。ですから、まずはニュージーランドのカルチャーをきちんと伝えてあげたい。そして、今回のマルシェだけで終わってしまうのではなく、ワークショップなどを引き続きやっていきたい。文化交流がここから始まるといいですね。

大谷: つまり、金子さんたちが、お客様にニュージーランドを体感させてあげようということですね?

金子: その通りです。今、大谷さんがおっしゃった体感というのは、まさに、これからのキーワードといってもいい大事な言葉で、僕はそれをとても大切にしています。というのは、体感が自分の価値を高めていくし、自分の笑顔を増やすことができるし、ゲストの笑顔を増やす1つのエネルギーになると思っているからです。その意味でいえば、世界にも日本を体感してほしいし、いろいろなことを体感できる世の中にしていきたいと願っています。ネットやSNSを通じて、自分では知っているつもりになっていることはたくさんあっても、本当に理解していることって少ないんですよ。知っていることを分かっていることに変えるには、体感が全てなんです。

大谷: 今の金子さんの言葉は、ネット世代の若い人たちには特に噛みしめてもらいたいですね。最後に、金子さんにとって「私によくて、世界にイイ。」とは?

金子: 地方再生ということですかね。今、うちのお店は全国51の農家や酪農家、漁港とつながっています。地域の食材文化を、どうやって都市に集約するか、地域活性のモデルプランをどうやって作っていくか、いいものをどうやって世界に発信していくか、そして、僕たちが日常として取り込めるかどうかを日々検証しています。日本には素晴らしいものがたくさんありますが、その一方で地域社会の中には埋もれているものも少なくありません。そういうものをしっかりフォローして、うちのようなレストランという舞台装置を使って、お客様である個人メディアに体感させる。これが僕にとっての「私によくて、世界にイイ。」ことだと思います。

大谷: お忙しいところありがとうございました。

金子: どういたしまして。こちらこそありがとうございました。

Photo=YUSUKE TAMURA (TRANSMEDIA)

(株)グリップセカンド 代表取締役 金子信也

昭和47年栃木県日光市生まれ。小学生でバスケットボールを始め、大学(法政)、社会人(三井生命)時代には日本代表チームのメンバーとして活躍。30歳で現役を引退した後、05年「グリップセカンド」を設立し、1号店「Dining GRIP」(南池袋東通り)をオーブン。現在は「GRIP」(池袋・日本橋・横浜)「RACINES」(池袋・銀座)、「ジャスミン食堂」(京橋)、「フクロウ」(八丁堀)など10店舗を運営

Photo=YUSUKE TAMURA (TRANSMEDIA)

聞き手:ethica編集長 大谷賢太郎

記者:清水 一利(しみずかずとし)

55年千葉県市川市生まれ。明治大学文学部(史学地理学科日本史専攻)を卒業後、79年、株式会社電通PRセンター(現・株式会社電通パブリックリレーションズ)に入社。クライアント各社のパブリシティ業務、PRイベントの企画・運営などに携わる。86年、同社退社後、87年、編集プロダクション・フリークスを主宰。新聞、雑誌(週刊誌・月刊誌)およびPR誌・一般書籍の企画・取材・執筆活動に従事。12年「フラガール3.11~つながる絆」(講談社)、13年「SOS!500人を救え~3.11石巻市立病院の5日間」(三一書房)を刊行。

ethica(エシカ)コラボ企画

5月3日(水・祝)〜5月7日(金・祝)のGW期間中、南池袋公園の特性テントにおいて、ニュージーランドフェア(主催:ニュージーランド大使館)を開催。ニュージーランドの代名詞でもあるラムチョップのBBQ、ニュージーランドワイン、スーパーフード「マヌカハニー」ほか、様々な物産展を販売します。さらにコラボ企画として、公園内のカフェ「RacinesFARM to PARK」(ラシーヌ)にて、先着1万名に「ethicaオリジナルしおり」をプレゼントします。

「ethica(エシカ)」オリジナルしおり イラスト:shiho

「ethica(エシカ)」オリジナルしおり イラスト:MIMI YAMANAKA

南池袋公園「RacinesFARM to PARK」(ラシーヌ)

住所: 東京都 豊島区南池袋2-21-1

私によくて、世界にイイ。~ ethica(エシカ)~
http://www.ethica.jp

清水 一利

このエントリーをはてなブックマークに追加
Instagram
TBS秋沢淳子さん鼎談(第6話)グローバルとインターナショナルの違い
独自記事 【 2022/7/4 】 Work & Study
パシフィコ横浜で開催された「サステナブル・ブランド国際会議2022横浜」(SB 2022 YOKOHAMA)に基調講演の1人として参加されたTBSの元アナウンサーで現在は総務局CSR推進部で部長を務める秋沢淳子さん。 社業以外でも2000年に国際交流・教育支援・国際協力をテーマにしたNGO団体「スプートニクインターナシ...
【Earth Day】今年も地球環境について考えよう!「在日米国商工会議所」と「在日フランス商工会議所」が主催するethicaコラボイベントのご案内
イベント 【 2024/4/15 】 Work & Study
地球環境について考え連帯する国際的な記念日、アースデイが今年も近づいてまいりました! 私たちethicaは、2022年、2023年とアースデイイベントに基調講演を行い、3度目となった今年もメディアパートナーを務めます。2023年のアースデイを振り返りつつ、まもなく開催のイベント『Earth Day 2024: Movi...
【ethica Traveler】連載企画Vol.1 宇賀なつみ サンフランシスコ編(序章)   
独自記事 【 2024/1/24 】 Work & Study
「私によくて、世界にイイ。」をコンセプトに2013年に創刊した『ethica(エシカ)』では、10周年を迎える節目にあたり、エシカルでサステナブルな世界観、ライフスタイルをリアルに『感動体験』する場を特集しています。  今回は、カリフォルニア州サンフランシスコ市のエシカルな取り組みを取材!エシカ編集部と共にサステナブル...

次の記事

国内外の観光客を強く意識し、文化的コンテンツの発信に力を注ぐ銀座の新スポット 銀座松坂屋の跡地に4月20日(木)、全9フロア241店舗が出店するエリア最大規模の商業施設「GINZA SIX」がオープン
人に驚きや感動を与える仕事がしたかった 【編集長対談】(株)グリップセカンド FARM TO PARK RACINES マネージャー 柳岡律子

前の記事

スマホのホーム画面に追加すれば
いつでもethicaに簡単アクセスできます