エシカルファッションのセレクトショップ「A Scenery Beyond..(シナリービヨンド)」が、今年4月にオンラインでの販売をスタートし、一ヶ月余が経ちました。先日新たに「Osei-Duro」「The Root Collective」などのエシカルブランドの取り扱いも開始し、これまで日本になかったスタイルのエシカルファッションを次々と紹介していく同ショップ。代表の間瀬千里さんが語る「“残念じゃない”エシカルファション」とは?
世界中を見て回って知ったエシカルファッションの多様さと幅広さ
「A Scenery Beyond..(シナリービヨンド)」の代表・間瀬千里さんは、高校生のとき、私たち先進国の人々の消費生活が世界各地の貧困を生み出している一因だという事実を知り、胸を痛めたと言います。大学では国際経済学を学び、各国を巡って様々なものづくり・流通の仕組みに触れる中で間瀬さんが感じたことは、エシカルファッションやフェアトレードという言葉が徐々に認知されていく中で、なお「日本では選択肢が圧倒的に少ない」ということ。
「よいことだから、では足りない。続かない。広がらない。欲しいから買う、素敵だから売れる、という純粋な購買欲求をベースにしたEthical choiceを広めたい。」そこで間瀬さんは一念発起、「“残念じゃない”エシカルファション」を日本に紹介すべく、セレクトショップ「A Scenery Beyond..」をオープンしました。
さり気ないエシカルファッション
生産工程における地球環境への負荷が少なく、製作に携わる人々との間に適正な取引が成立し、購入者が長く愛用できる良質な商品。さらにそうした商品の中で、A Scenery Beyond..はミニマリズムデザイン、あるいはコンテンポラリーデザインと伝統的技法との融合が図られている商品をセレクトしています。
オンラインストアの商品ラインナップを見ると、なるほど納得。私たちはエコやフェアトレードという言葉に、発展途上地域の民俗性を前面に打ち出した商品(エスニック風のデザイン、自然素材の素朴な質感、アースカラーの色調)を連想しがちですが、A Scenery Beyond..に並ぶ商品のデザインは、どれも都会的。シンプルなラインやモノトーンの色調は、それがエシカルなコンセプトのブランドのプロダクトであると説明されなければ、ほとんどの人は気づかないでしょう。
エシカルに対する意識から商品を選ぶのではなく、選んだ商品からエシカルに対する意識が芽生える。間瀬さんは、日本における従来のエシカルファッションとはテイストの異なるブランドを紹介することで、新しい受容層へのアプローチを目指しているといいます。
ブランドのファンをつくり、そこから背景にあるフィロソフィーを共有していく
A Scenery Beyond..では、ブログ形式のサイトを通じて、取り扱いブランドの特徴や魅力を、とても丁寧に説明しています。ブランドのコンセプトや、プロダクトが生み出される背景について知ることができ、セレクトする間瀬さんの熱い想いも伝わってきます。今回ethicaでは「Escama Studio」「Kowtow」「Osei Duro」の3つのブランドについて、間瀬さんにブランドとの出会いや取り扱いまでの経緯などをうかがいました。
Escama Studio
http://info.scenerybeyond.com/posts/2219109
カリフォルニアとブラジルをベースに、アルミ缶のプルタブを再利用したバッグやアクセサリを製作しているメーカー。プロダクトは、ブラジルの職人さんたちの手作り。モダンデザインとブラジルの伝統的なかぎ針編み技術を融合させてできたバッグは、ニューヨーク近代美術館(MOMA)のショップでも取り扱われています。
間瀬さんは、同ブランドのバッグとの出会いをこう振り返ります。「フェアトレードにこんなデザインがあるのなら、今の日本でもっと違ったアプローチができるはずとドキドキしました。」日本でのコンセプトショップオープンについて漠然と抱いていたイメージが確信に変わった瞬間だったそうです。
Kowtow
http://info.scenerybeyond.com/posts/2212508?categoryIds=561088
コットンが種から洋服になるまで一貫して、フェアトレードと環境を維持しながらつくられる認証フェアトレード・オーガニックコレクション。近代建築のミニマリズムを思わせる佇まいと、圧倒的な着心地の良さは、設立者のゴシャ・ピエンテさんの強く美しいエシカルな哲学により生み出されるものです。
「ミニマムで繊細で、その美しいパターンやカッティングは、エシカルなつくりをしているかということ以前にとても魅力的でした。」間瀬さんが初めてKowtowの商品の実物を手にしたのは、新鋭のデザイナーブランドをセレクトしているバンクーバーのショップ。このブランドと出会い、ブランドのファンをつくり、そこから背景にあるフィロソフィーを共有していく、というアプローチが、今後のエシカルファッションの浸透には必要である、と強く感じたそうです。
Osei Duro
http://info.scenerybeyond.com/posts/2370574?categoryIds=561088
ロサンゼルスとアクラ(ガーナの首都)を拠点とするエシカルファッションブランド。ブランド名は、ガーナの言葉で「突き通せない薬」または「強力なマジック」といった意味。
もともとアフリカのテキスタイルの染めと色彩が好きだったという間瀬さん。
「アフリカのテキスタイルをコンテンポラリーなデザインと合わせることで、とても新しい洗練さがあり、独特のミニマムな抜けが、意外なほど都会の風景に気持ちよくフィットするものになっています。デザインとして引きを持てる力のあるブランドだと思います。」
オンライン上でエシカルファッションを日本に広めていくことの課題
上記の3つのブランドの概要をなぞるだけでも、エシカルファッションの展開が実に多様であり、上質でユニークなプロダクトが日々世界各地で生み出されていることがわかります。そして日本にいる私たちが、ごく一部の情報と選択肢にしか触れていないということも。
A Scenery Beyond..をオープンし、間瀬さんの元には「全く意識してこなかった分野に気付くことができた」「フェアトレードのイメージがいい意味で裏切られた」「まさに必要な切り口だと思っていた」といった嬉しい反響が寄せれられているそうです。その一方、オンラインでのメッセージングの難しさも実感しているのだとか。
間瀬さんは「エシカルという目的が先に伝わると、デザインやクオリティとしてはいまいちなのではないかという先入観や、価格にはチャリティ的要素が乗っているのだろうという推測がついてしまうことがある」と言います。
そうした誤解を解くためにも「エシカルというメッセージだけでなく、ライフスタイルショップとして、いちショップの世界観をきちんと打ち出していく」のが課題とのこと。オンラインストアだからこそ可能な情報量と定期的な情報発信、SNSでのコミュニケーションも積極的に活用していきたい、と今後の抱負を語られました。
エシカルファッションに限らず、物事の価値を伝え、正当な評価と信頼を得るには時間がかかるものです。まして膨大な情報が氾濫するネット社会ではなおのこと。オンラインでの商品販売には、粘り強い努力が必要になるかと思います。けれど、お気に入りのセレクトショップで、自分のセンスに合った洋服やアクセサリーを買うことが、自ずと社会の歪みを是正し、社会問題や環境への意識を浸透させていくことにつながっていくなら、こんな素敵なことはありません。
A Scenery Beyond..のオンラインストア、ぜひ普段のネットショッピングと同じ感覚で、まずは気軽にのぞいてみてください。
間瀬 千里
エシカルファッションのコンセプトショップ “A Scenery Beyond..” 代表
1980年生まれ。大学では国際経済学専攻にて先進国、途上国の経済変動についてミクロ、マクロから包括的に学ぶ。卒業後、外資系IT企業にてセグメントマーケティングに従事。データベースマーケティング、ダイレクトマーケティング、リレーションシップマーケティング等多数プロジェクトをリード。
渡英、大学院MBA専攻にて国際ビジネスを学ぶ。家族の事情で卒業前に渡米。帰国後2017年本ショップを開業。途上国と先進国の構造的格差による問題をチャリティではなく資本主義の仕組みに乗せてビジネスとして是正していくエシカルファッションの浸透を目指す。
記者:松崎 未來
東京藝術大学美術学部芸術学科卒。同大学で学芸員資格を取得。アダチ伝統木版技術保存財団で学芸員を経験。2011年より書評紙『図書新聞』月刊誌『美術手帖』(美術出版社)などのライティングを担当。2017月3月にethicaのライター公募に応募し、書類選考・面接を経て本採用となり、同年4月よりethica編集部のライターとして活動を開始。関心分野は、近世以降の日本美術と出版・印刷文化。
ーーBackstage from “ethica”ーー
生産者も購入者も、誰一人として妥協していない。
私によくて、世界にイイ。~ ethica(エシカ)~
http://www.ethica.jp