花魁道中、電子煙管にかき氷 真夏の表参道で温故知新の展覧会 「舘鼻則孝 リ・シンク展」レポート
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花魁道中、電子煙管にかき氷 真夏の表参道で温故知新の展覧会

Photo=COCO Kanai ©TRANSMEDIA Co.,Ltd

現在、表参道ヒルズ スペース オーにて、アーティスト・舘鼻則孝(たてはな・のりたか)さんの展覧会「リ・シンク展」が開催されています(2017年8月20日まで)。花魁(おいらん)の高下駄に着想を得た「ヒールレス・シューズ」で知られる舘鼻則孝さんが、自身の創作のルーツを見つめ直し、そして日本文化を見直す本展。来場者が新旧の日本の文化を体感できる楽しい展示空間を、舘鼻さんご本人のガイドツアーのコメントと共にご紹介します。

茶屋やミニシアターを含む8つのエリアで会場を構成

今回の展示会場は、8つのエリアに分かれていて、前半は鑑賞を中心とした空間、後半は体験型の空間で構成されています。

第1-2エリアは、舘鼻さんの近年の作品であるペインティングや彫刻、昨年パリのカルティエ現代美術財団で公演された文楽の舞台美術を紹介。第3エリアでは、舘鼻さんの代表作である「ヒールレス・シューズ」の数々を展示しています。

そして第4エリアには、なんとトラヤカフェによるお茶屋さんが登場。第5-6エリアは、舘鼻さんが花魁の煙管(きせる)にインスパイアされてデザインした電子タバコの展示・体験ブースになります。(体験ブースへの入室は成人のみ。)第7-8エリアには、毎日三回の公演を行うミニシアターと、今回の展覧会に合わせて刊行された舘鼻さんの作品集含むグッズ販売コーナーと盛りだくさんの内容。

それでは早速、舘鼻さんのガイドで展覧会の会場を回ってゆきましょう。

本展は、舘鼻則孝さんにとって最大規模の個展となる。 Photo=COCO Kanai ©TRANSMEDIA Co.,Ltd

花魁の文化研究をベースにした様々な表現手法

黒い壁に囲まれた第1-2エリアでまず目に飛び込んでくるのは、赤い太鼓橋の舞台セット。モノグラムのような七宝文様が全面に施された橋は、一見するとポップですが、欄干には包丁が突き刺さり、下を流れる川には赤い反物が敷かれています。

昨年3月、パリのカルティエ現代美術財団で公演した人形浄瑠璃文楽の舞台セット。

館鼻さん:「これは昨年、パリのカルティエ現代美術館で公演した文楽の舞台美術で、第三幕のラストシーンのセットです。赤い反物は心中した二人の血が合わさって川面を流れていくのを表しています。」

川を挟んで立ち並ぶ展示ケースの上、ぽとりと落ちた真っ赤な椿の花の彫刻に静かな悲哀が漂います。展覧会冒頭から、日本の伝統様式に現代的な感覚をミックスする舘鼻さんの表現世界に引き込まれます。

エリア中央、大きな絵画や彫刻作品に囲まれた展示ケースには、文楽の舞台で使用された高下駄や簪(かんざし)に加え、花魁を描いた浮世絵や古写真が並べられています。

舘鼻さんの多彩なアートワークが凝縮した第1-2エリア。

舘鼻さん:「東京芸術大学の在学中から、花魁の文化について研究をしていました。花魁の装束などからインスピレーションを受けて制作を行っています。この高下駄や、絵画作品に使用している七宝柄は、時代によっていろんな要素が見えてくる柄、ファッショナブルな要素として、いろんな作品に取り入れています」

このエリアでは、作品の形態や大小にかかわらず、花魁の文化研究をベースにした舘鼻さん独自の表現の仕事を見ることができます。

レディー・ガガが愛用する「ヒールレス・シューズ」シリーズ

舘鼻さんを一躍有名にしたのは、レディー・ガガが愛用する「ヒールレス・シューズ」。第3エリアには、レディー・ガガへのクリスマスプレゼントとして制作したトウシューズ「レディー・ポワント」(同モデルがレディー・ガガのミュージックビデオ「Merry The Night」に登場)などの「ヒールレス・シューズ」のシリーズが、舘鼻さん所蔵の浮世絵と共に並べられています。

レディー・ガガも愛用する「ヒールレス・シューズ」。靴でありながら工芸品のようなたたずまい。

舘鼻さん:「大学の卒業制作の際に、花魁の高下駄に着想を得て、より現代的なものとして制作したのが『ヒールレス・シューズ』です。東洋的な要素と西洋的な要素が組み合わさった、現代日本を象徴する作品です」

かき氷とあんボーロ、どっちを選ぶ?
トラヤカフェの会場限定メニュー

第4エリアは、TORAYA CAFÉ・AN STANDが運営するお茶屋さん。展覧会入場時に渡されたカードと引き換えに、会場限定の「あんペーストかき氷 いちご味」または「あんボーロ 抹茶味」が選べます(数量限定)。

天井から和傘が吊るされた紅白の空間は、現代版の茶屋。

舘鼻さん:「今回、トラヤカフェさんのあんペーストを使用したオリジナルメニューを提供いただいています。このエリアにも作品を展示していますが、天井から和傘を吊るすなど、空間の演出も僕自身が考えました」

つまり、この第4エリアは空間そのものが舘鼻さんのおもてなし。傘の用途を真逆にひっくり返したインスタレーションと言ってしまうとやや仰々しいですが、毛氈(もうせん)を敷いた腰掛けに座り、美味しいお菓子をいただきながら天井を眺めていると、シンプルな円形と直線で構成された逆さまの風景に、なんだか妙に心が和みます。

おしゃれに楽しむ現代版の煙管

続く第5エリアには、舘鼻さんがデザインした煙管(きせる)が展示されています。ガラスケースに整然と並んだ重厚感ある姿は、高級万年筆、あるいは新しいデジタルデバイスのようにも見えます。

加熱式タバコ「Ploom TECH」専用デバイスケース「THEORY OF THE ELEMENTS」。遊女の煙管から着想を得ている。

舘鼻さん:「これらは、浮世絵に描かれている花魁の煙管から着想を得てつくったもので、現代版の煙管(きせる)と言ったらわかりやすいかと思います。今回の展覧会をサポートしてくださっているJTさんが開発した加熱式タバコ『Ploom TECH』を中に装填するような仕様になっています」

成人限定エリア

次の第6エリアへの入場は、成人限定エリアとなりますが、浮世絵を使用したアニメーション動画を映写したブース内で、「Ploom TECH」を体験することができます。また、舘鼻さんとのコラボレーションにより生まれた「Ploom TECH」専用アクセサリー「THEORY OF THE ELEMENTS」も紹介しています。赤、黒、緑の三色のバリエーションがあり、革の表面に七宝文様の金のエンボス加工を施しがデザインは、どこか花街の絢爛と優雅さを想起させます。こちらは完全受注生産で、イニシャルの刻印もできるそうです。

「Ploom TECH」を体験できる第6エリア。正面のモニタには、舘鼻さんの活動を紹介するムービーや浮世絵を使用したアニメーションが流れている。 Photo=COCO Kanai ©TRANSMEDIA Co.,Ltd

場内を花魁が練り歩く1日3回上演のミニシアター

第7エリアには、舘鼻さんの作品に繰り返し用いられている簪モチーフに似た赤い鳥居型のミニシアターが設置されています。ここでは1日3回(13:00/15:00/17:00)、花魁の恋をテーマにした舞踊仕立ての劇を上演します(公演時間約20分)。

ミニシアターでの公演。監督の舘鼻さんが演出から舞台美術まで全てを手がけている。 Photo=COCO Kanai ©TRANSMEDIA Co.,Ltd

定刻になると、花魁姿の出演者が会場第1エリアに登場。高下駄に赤い和傘をさし、場内を練り歩きながら、ミニシアターの前までやってきます。来場者が出演者の後について列を成し、ゆっくりとミニシアター前まで移動していく様は、さながら花魁道中。私たちは鑑賞者でありながら、同時に展覧会の風景の一部に加わることになるのです。これも舘鼻さんが仕掛けたイリュージョンなのでしょうか。

舘鼻さんの創作のプロセス「リ・シンク」

最後に「リ・シンク」という展覧会タイトルについて、舘鼻さんの言葉を引用します。

”『リ・シンク』というのは僕の創作のプロセスだと思っています。現代的な表現をする上で、日本文化や自分のアイデンティティを踏まえて創作するということは大前提だと思うんです。古典的、文化的なことをしっかりと知ることが、クリエイティビティにつながると思っています”

プロフィール

1985年、東京生まれ。歌舞伎町で銭湯「歌舞伎湯」を営む家系に生まれ鎌倉で育つ。シュタイナー教育に基づく人形作家である母の影響で幼少期から手でものをつくることを覚える。東京藝術大学では絵画や彫刻を学び、後年は染織を専攻する。遊女に関する文化研究とともに日本の伝統的な染色技法である友禅染を用いた着物や下駄の制作をする。近年はアーティストとして、国内外の展覧会へ参加している。2015年12月に和敬塾本館で開催した「舘鼻則孝:面目と続行」展では、JT(日本たばこ産業株式会社)の「Rethink」の考えに共鳴し、日本各地の伝統工芸士とともに制作した現代的な煙管作品「Theory of the Elements」を発表した。 2016年3月には、仏カルティエ現代美術財団にて人形浄瑠璃文楽の舞台を初監督「TATEHANA BUNRAKU / The Love Suicides on the Bridge」を公演した。作品は、ニューヨークのメトロポリタン美術館やロンドンのヴィクトリア&アルバート博物館など、世界の著名な美術館に永久収蔵されている。

ちなみに場内は全エリア写真撮影可能。夏休みの思い出に、新旧の時間の流れとファッション、アートがクロスする不思議な空間で、ぜひご自身のルーツをリ・シンクしてみてください。海外からのお友達を誘っても喜ばれそうな展覧会ですよ。

<エシカ記事予告> ファッション? アート? レディー・ガガ愛用ヒールレス・シューズのルーツを探る【編集長対談】 アーティスト 舘鼻則孝さん

「未来を見据えて『いま自分がどういうことをしていくべきなのか』を考えて進んでいく」舘鼻さんの活動スタイルの原点とは? Photo=COCO Kanai ©TRANSMEDIA Co.,Ltd

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展覧会情報

会 期:2017年8月12日(土) 〜20日(日)

時 間:11:00〜19:00(最終入場は閉場30分前)※最終日は16:00閉場

会 場:表参道ヒルズ 本館B3F スペース オー(東京都渋谷区神宮前4丁目12番10)

入場料:無料

展覧会公式サイト:http://rethink.noritakatatehana.com

明治・大正期の花魁ポストカード(舘鼻則孝所蔵)。

記者:松崎 未來

東京藝術大学美術学部芸術学科卒。同大学で学芸員資格を取得。アダチ伝統木版技術保存財団で学芸員を経験。2011年より書評紙『図書新聞』月刊誌『美術手帖』(美術出版社)などのライティングを担当。2017月3月にethicaのライター公募に応募し、書類選考・面接を経て本採用となり、同年4月よりethica編集部のライターとして活動を開始。関心分野は、近世以降の日本美術と出版・印刷文化。

ーーBackstage from “ethica”ーー

舘鼻さんの作品を初めて観た(履いた)のは、21_21 DESIGN SIGHTで開催された「イメージメーカー展」でした。ヒールレス・シューズは予想に反して安定感のある履き心地で、舘鼻さんのクリエイティビティの根底に、きちんとした技術力とものづくりに対す丁寧な姿勢を感じ取りました。機会があれば、舘鼻さんとじっくり伝統工芸談義をしてみたいです。

関連映像(関連キーワードでYoutubeから抜粋)

・Lady Gaga – Marry The Night

・Lady Gaga – Super Bowl LI Halftime Show 2017(3千300万回再生)

私によくて、世界にイイ。~ ethica(エシカ)~
http://www.ethica.jp

松崎 未來

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