今年3月、東京・中目黒に一つの店がオープンした。「発酵する暮らし 85[ハチゴウ](以下85と記載)」。今、改めて注目される「発酵」をキーワードに、健康や環境に優しい暮らしを提案するライフスタイルショップだ。実は異業種とも言える内装会社が運営している。そこには、子どもたちの未来や地球環境への熱い思いがあった。
お話を伺った方:「HIVE」代表取締役の嶋津和久さん(写真左)、「85」ブランドディレクター/MDの井上みどりさん(同右)
Photo=COCO Kanai ©TRANSMEDIA Co.,Ltd
今年3月、東京・中目黒に一つの店がオープンした。「発酵する暮らし 85[ハチゴウ](以下85と記載)」。今、改めて注目される「発酵」をキーワードに、健康や環境に優しい暮らしを提案するライフスタイルショップだ。実は異業種とも言える内装会社が運営している。そこには、子どもたちの未来や地球環境への熱い思いがあった。
お話を伺った方:「HIVE」代表取締役の嶋津和久さん(写真左)、「85」ブランドディレクター/MDの井上みどりさん(同右)
「子どもたちに美しい地球を、明るい未来を」。店には嶋津さんの熱い思いが詰まっている。 Photo=COCO Kanai ©TRANSMEDIA Co.,Ltd
ーー「発酵する暮らし 85」のコンセプトをお聞かせください。
井上: 発酵をキーワードに、健康や環境に優しい暮らしを提案するライフスタイルショップです。発酵は自然界の働きであり、その発酵によって私たちの体に優れた作用を及ぼします。つまり、環境にもやさしく、人にも優しい、と、私たちが目指すことの両方を兼ね備えているのです。そこで、発酵をメインのキーワードに据えた展開を考えていきました。
ーーこうしたショップを開こうと思われたのは?
嶋津: きっかけは子どもです。今、中1の娘と小4の息子がいるのですが、この子たちの親になり、地球環境や健康に対する思いが強くなっていきました。子どもたち、そしてその次の世代へ、自然の豊かさを引き継いでいかなければーー。でも、私一人の力では足りない。多くの方に共感していただく場を作ろう。そう考えたのが「85」を立ち上げるきっかけでした。
「発酵」というアイデアを嶋津さんから聞いたときは「みんな『え⁉︎』ってビックリ(笑)。でも、おもしろい、やろう! となりました」と井上さんは振り返る。 Photo=COCO Kanai ©TRANSMEDIA Co.,Ltd
ーー本業は内装会社を経営されています。内装会社がライフスタイルショップ、ちょっと意外な感じがするのですが、どういった経緯、思いがあったのですか?
嶋津: 以前、内装会社に勤めていました。そのとき、徹夜が続くなど多忙な日々が続いて体調を崩し、さらに家族との時間も取れなくなっていました。このままでいいんだろうかと疑問を感じる中、転機が訪れます。社会起業家の方々による講習会で、京都の「お宿 吉水」の女将、中川誼美さんのお話を聞く機会に恵まれたのです。
中川さんは「皆さん色々おっしゃっていますが、自分の周りをきれいに掃除してますか?」と。その言葉がストンと腑に落ちました。社会のためと大きなことをするときには、まず自分の周りを整えることが大切なんだ、と。
それから中川さんとの交流が始まり、食育に関する事業でご一緒することに。私は2011年3月10日、会社を退職。ところがその翌日、東日本大震災が起きた。その影響で事業が頓挫してしまったのです。
正直、途方にくれました。そんな中、前職時代のお客さまから声をかけていただき、内装会社を起業することを決めます。多くの励まし、応援に救われました。以来、店舗内装を中心にビジネスを手がけてきました。
立ち上げた内装会社「HIVE」は、「人と自然が共存共栄できる環境の創造」という理念のもと、環境負荷のない素材を提案したり、ゴミを最小限にしたりといった取り組みを微力ながら続けていました。改めて持続可能な社会や環境保護の大切さを認識し、さらに、内装という人の暮らしとは切っても切れない事業を通じて、健康と食生活の大切さを痛感。日本の伝統的な食文化や暮らしを守ること、それがひいては地球環境を守ることにつながる。そういった私たちの考えを多くの方々に伝える場として、ライフスタイルショップを出店することを決めたのです。
素材を選び抜いた食品 Photo=COCO Kanai ©TRANSMEDIA Co.,Ltd
日本の伝統文化を生かしたグッズ Photo=COCO Kanai ©TRANSMEDIA Co.,Ltd
ーーなぜ「発酵」に注目したのですか?
嶋津: 私は東京出身なのですが、幼いころは年に何度か父の故郷である山梨県の田舎に遊びに行きました。キュウリのぬか漬けや白菜の塩漬けで食べるごはんのおいしさに目を見張って。前職を辞めて時間があったとき、自分でもぬか床を始めたのです。そして、発酵のおもしろさ、素晴らしさに目覚めました。
発酵は微生物の働きによって、おいしくなったり栄養価が高まったりと、より良い状態になる。自分たちも地球に、社会に対してそういう役割を果たしていけたらーー。その思いから「発酵」をキーワードにしたのです。
ーー何と言っても注目は「マイぬか床サービス」です。嶋津さんのぬか床への思い入れから生まれたのですか?
嶋津: そうですね。それぞれの家庭でぬか漬けを作るという環境が稀有になっていることに憂いを感じていて、昔みたいに家ごとにぬか床がある状況を目指すにはどうしたらいいんだろう、と考えました。そして、ぬか床のハードルを下げることができれば、可能になるかもしれない、と。
においがきつい、毎日かき混ぜるのが大変、ぬか床の状態が悪くなったときにどうしていいのかわからない……。家でぬか床をやらない理由を一つひとつ洗い出し、それを「代理」してくれるサービスがあれば気軽に始めることができるんじゃないか。そうして「マイぬか床サービス」を思いつきました。自分のぬか床で漬けたぬか漬けのおいしさを知り、味わいの変化を体験し、ぬか床を育てる楽しみを味わう。それができれば、きっと自宅に持って帰って続けていただける。啓蒙活動でもあると思っています。
井上: 最初にこのアイデアを聞いたときは、みんな「えっ⁉︎」「ぬか床?」と(笑)。でも、世の中にこんなサービスはない。おもしろいからやってみよう、ということになりました。もちろん素材にもこだわっていて、ぬかは山梨県の農家さんから昔ながらの方法で作っている生ぬかを、漬ける野菜は長野県の農家さんから無農薬や減農薬の野菜を取り寄せています。
「マイぬか床サービス」は、素手でかき回すのはオーナーのみだが、日々の世話はショップでやってくれる。 Photo=COCO Kanai ©TRANSMEDIA Co.,Ltd
ーーほかにも食品、雑貨などを取りそろえています。セレクトの基準、こだわりは?
井上: 発酵食品は、昔からの製法を大事に守ってきた蔵元さんの醤油や味噌、お酢などを全国から探してきました。好評なのがお味噌の量り売りです。アイスクリームディッシャーですくった1玉から販売しており、一人暮らしの方などに好評です。生味噌で発酵が止まっていないので菌も微生物もまだ生きていて、おいしい上に体にもうれしいお味噌です。
雑貨に関しても、発酵という作用を利用して作られた洗剤やボディーケアアイテムをそろえています。また好評なのが、ニュージーランドのブランド「エコストア」の洗剤。環境に負荷が少ない自然素材で作られていて、洗浄力が高く手肌にも優しいのが特徴です。食器洗い洗剤は量り売りをしていて、使い終わったボトルをお持ちいただいても、ご自宅にある何か容器でもOK。石鹸やシャンプー、コンディショナーもあります。
ほかにも「オーガニック」「天然素材」「無添加」や「環境保全・社会貢献」に寄与するエシカルな商品、「長く愛用できるもの」というキーワードでセレクトした商品をラインナップしています。
嶋津: 人生をかけてものづくりに向き合っている生産者の皆さんの思いを、僕らも本気で心を込めて伝えていかなければならない。ですからネット販売はせずに、販売は店頭のみ。対面しながらしっかりと言葉でお伝えしていきたいのです。売り方も有機的であろうと考えています。
フェアトレードの商品も。見た目もかわいく、ちょっとしたプレゼントにぴったり。 Photo=COCO Kanai ©TRANSMEDIA Co.,Ltd
ーーオープンから半年を過ぎました。これから目指していることは?
嶋津: ゆくゆくはどこで何を買っても安心安全、という世界を標榜しています。私たちが提案するライフスタイルに共感し、利用してくださる方が増えることで、日本でもそうした暮らしが当たり前になることが願いです。日々の暮らしに身近な存在になりたいと思っています。
ーー最後に、お二人にとって「私によくて、世界にイイ。」は?
井上: 環境や人に優しい商品をご提供することで、お客さまにワクワクしてもらったり、笑顔になっていただいたり。それがこの仕事をしている私の喜びです。そして同時に、私たちが提供する商品によってお客さまの健康や暮らしがよくなり、それが多くの方々に広まっていくことは、世界にとってもいいことだと思っています。
嶋津: 私にとっての「いい」は、最初に触れたように子どもたちのために地球環境を守り、子どもたちが健やかに未来を生きること。そのことは、当然周りの人にも、そして世界にとってもいい、に必然的につながっていくものです。「85」という場をきっかけに、多くの方々が環境や健康、未来を考えられる社会を目指していきたいですね。
発酵して食品がおいしくなるように、自分たちも世の中にそういう存在でありたいーー。それがスタッフ全員の願い。 Photo=COCO Kanai ©TRANSMEDIA Co.,Ltd
記者:中津海 麻子
慶応義塾大学法学部政治学科卒。朝日新聞契約ライター、編集プロダクションなどを経てフリーランスに。人物インタビュー、食、ワイン、日本酒、本、音楽、アンチエイジングなどの取材記事を、新聞、雑誌、ウェブマガジンに寄稿。主な媒体は、朝日新聞、朝日新聞デジタル&w、週刊朝日、AERAムック、ワイン王国、JALカード会員誌AGORA、「ethica(エシカ)~私によくて、世界にイイ。~ 」など。大のワンコ好き。
私によくて、世界にイイ。~ ethica(エシカ)~
http://www.ethica.jp
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