昨秋発売された新潟県の新たなブランド米「新之助」。紅白のパッケージに水引をイメージしたロゴ、皆さんはご覧になりましたでしょうか? あるいはもうご賞味されたという方も? 昨年10月11日、GINZA SIX(東京・銀座)にて行われた新CM発表会、さらにその後に開かれたリリースパーティーの模様を振り返ります。
キラキラ輝く大粒のブランド米「新之助」
「新之助」の新CM発表会の会場となったのは、なんとGINZA SIXの地下3階にある由緒正しき能楽堂。能楽師の山階彌右衛門さん(ethica参考記事:「グローバルな視点から読み解く日本の「道(DOU)」武道・芸道の達人たちの動きを最新技術で映像化」)が、新たなブランド米の門出を賀ぐ舞いを披露して発表会のオープニングを飾り、能舞台上で発表会が進行しました。脇正面の席側には巨大なスクリーンが設置され、米山隆一新潟県知事や、新潟県のお米農家のお母さんたちで結成された「新潟ライスガールズ」たちが「新之助」の美味しさをPR。青空の下、子供たちと稲刈りをし、おにぎりを頬張る米山知事の姿などが紹介されました。
能楽堂前のホールにて報道陣・関係者に振る舞われた「新之助」は、ツヤツヤの米粒がとてもきれい。それもそのはず、今回「新之助」の開発にあたって重視されたポイントの一つが「炊飯時の米の輝き」なのだそうです。炊きたてのご飯の輝きは食欲をそそりますが、近年の研究で、お米の輝きと味とに相関関係があることが判明しているのだとか! この輝きは「新之助」のコクと甘みの証なのです。そして、新之助のもう一つの特徴が、粒の大きさ。適度な硬さで、噛み応えもしっかりしていました。ちなみに米山知事がオススメする「新之助」に合うお料理ナンバー1は、トンカツとのこと。なるほど納得、口の奥でお米と一緒にしっかり噛み締めたいお料理です。
「お待たせしました」 イメージキャラクターは俳優の杉野遥亮さん
そして翌日からのテレビ放映に先駆け、スクリーンには「新之助」のCMが映し出されました。黄金色の稲田を走り抜ける新幹線の中で「お待たせしました。新之助です。」と飯茶碗を差し出す端正な顔立ちの青年は、俳優の杉野遥亮さんです。昨秋から年始にかけてdTVで配信されたドラマ「花にけだもの」では、学園の王子様・柿木園豹役で多くの女性ファンを虜に。本年公開映画への出演予定も多数控えた、いま注目の若手俳優です。
発表会当日、「新之助」のパッケージに合わせた紅白の着物姿で観世能楽堂に現れた杉野遥亮さん。能舞台の上で185cmの長身の立ち姿は実に凛々しく、杉野さんの登場で会場がにわかに華やいだ印象を受けました。それでいて、マイクを手にCM撮影時の感想や学生時代に食べたお母さんのお弁当のエピソードなどを話す様子には、どこか22歳の初々しさもあり、県知事や「新潟ライスガールズ」とのフォトセッションでは、フラッシュの嵐の中にも和やかな雰囲気が。まさに老若男女を問わず好印象を覚える正統派の二枚目俳優。輝く大粒の新ブランド米にぴったりのイメージキャラクターといえるでしょう。
お米から広がる文化、銀座で堪能する一夜限りのプレミアムイベント
新CM発表会の夜、同じく銀座SIXでは、雑誌『Discover Japan』とタイアップした「新之助」のリリースパーティーが開催されました。能楽の鑑賞と銀座大食堂(GINZA SIX6階)貸切での豪華ブッフェがセットになったプレミアムイベント。お米の文化的な拡がりを、目で舌で堪能する一夜です。
まずは先ほどの能楽堂にて、能楽師の佐野登さんによる「猩々(しょうじょう)」を鑑賞。物語の舞台は中国。親孝行な青年は、夢のお告げに従い市場でお酒を売って財をなしますが、常連客の中に猩々というお酒好きの物の怪がいました。青年が酒を持参し猩々を訪ねると、猩々は喜んでお酒を飲んで舞い踊り、青年に永遠にお酒のなくならない酒壺を贈った、というあらすじ。米どころ・酒どころである新潟発の「新之助」リリースパーティーにぴったり、祝賀ムードに満ちた演目です。
実は新潟県は、能の大成者・世阿弥が流刑された地であり、佐渡には日本全国にある能舞台の三分の一が存在します。さらに能楽と農業には深い関わりがあるのだとか。終演後、能楽師の佐野さんにお話をうかがいました。
「能という芸能の根本にある、祈る心や感謝の気持ち、これは日本の農耕文化の中で育まれてきたものだと思います。能舞台には松の木が描かれていますが、もともと御神木の前で舞を奉納していた名残です。能の役の中には、桜や杜若といった植物の役もあります。ここから、日本人が、言葉を持たない植物を思いやり、いかに心を寄せてきたかをうかがい知ることができます。人は自然の中で生かされているということ、感謝と謙虚さを忘れてはなりませんね」
近年は長野県小布施町にて、子供達を対象に、農業体験と能のお稽古を組み合わせた「農学×能楽プロジェクト」にも取り組む佐野さん。この後の大食堂でのトークイベントでもお米と能にまつわる含蓄のあるお話を展開してくださいました。
さて、能鑑賞の後は、参加者全員で6階の大食堂に移動です。大食堂にある各店舗が、ブッフェ形式で、この日限りの「新之助」コラボメニューを提供しました。各店舗のカウンターに次々と並ぶ色とりどりの料理に、乾杯前から手を出してスタッフにたしなめられる参加者の姿も。
「新之助」の大粒を堪能できる真っ向勝負のメニューから、お米を大胆にアレンジしたアイデア満載のメニューまで、和洋中各店で、幅広いお米の楽しみ方が提案されました。また、中央のドリンクカウンターには、新潟の酒蔵・酒造メーカー6社が揃い、「八海山」など人気の銘柄から、新進気鋭の若手蔵元の新商品までを自由に飲み比べできました。新潟の美味しいものに囲まれて、笑顔の絶えない賑やかなパーティーとなりました。
消費者と生産者をつなぐ地域プロデューサーが語る、今の時代に必要な「型」とは?
このリリースパーティーを主導したのは「地域プロデューサー」のお仕事をされている本田勝之助さん。地元・会津での「会津継承米 氏郷」の開発を皮切りに、各地で特産品を活かした地域活性化事業をサポートしています。本田さんは、6年前(2012年)から新潟県内のいくつかの自治体の仕事に携わり、一昨年、新ブランド米「新之助」のプロモーションのサポートを依頼されたそうです。お米のブランディングというお仕事について、本田さんにうかがいました。
「食生活の変化によって、今さまざまな新しいニーズが生まれています。今までお米ではなかった分野に、新しいブランド米が参入できる余地も増えてきていると思うんです。ただ、消費者と地方の生産者との間にはまだ距離があります。ですので、現代の暮らしに合った、お客さんに響くキーワードを、私が農家やメーカーさんに伝え、新しい商品の開発や提供のサポートをしています。」
「お米の品種に、『新之助』という、ちょっと古風な名前をつけて人格的要素をもたせた意図というのは、米どころ新潟県の伝統を受け継ぎながらも、新しいことにチャレンジしていく、新しいお米のシーンを提案し、市場を作っていこうという意志の表れだと私は思っています。都内でのリリースの場所として、この銀座SIXを提案したのも、歴史ある伝統とクリエイティビティが融合する新スポットが、『新之助』のテーマにぴったり合うと思ったからです。」
新CM発表会の会場には「新之助」を使用した調味料やお菓子、さらには炊飯器まで、様々な関連商品が並んでいました。お米の新品種の登場で、こんなに多くの分野で新しいアイデアや商品が生まれるものなんだと、改めて日本人の生活の中のお米の存在感と影響力を認識しました。もしや「新之助」の登場は、ethicaのコンセプト「私によくて、世界にイイ。」にもつながって行くのでは?
「お米は、一産品ではなく、日本の文化が詰まっているものだと思います。命の根っこ、イネ(稲)と呼ばれる由縁ですし、日本の歴史の風景に馴染んだ、日本文化を象徴する食べ物だと思います。能という伝統芸能にも通じるところですが、お米って、時代が変わっても人々が感動できる『型』がしっかりしているんです。より正確に言えば、『時代が変わっても人々が感動できるものをつくり上げるための型』です。」
「その型を踏まえた上で、新しいものをつくり上げるということが、今、日本に限らず世界で求められています。時代を越えて人々を感動させるものを新たにつくり出すとはどういうことか、という問いに対して、お米や能は、一定の答えを出してくれているのではないでしょうか。米づくりの基本は、おそらく今後も変わることはないと思うんです。『型』が出来上がるまでに、多くの人の努力と歳月があること、そこに未来を見出すヒントがあるように思います。個人の人生においても、世界で何かを成し遂げようとする上でも」
日本人の主食である米が持つ歴史と文化、それはもしかしたら、日本人のDNAにまで深く根を張っているのかも知れません。普遍性を持った「型」に学び、そこから独自のものをつくる応用力こそが、真のクリエイティビティにつながり、また真のクリエイティビティとは、いつの時代にも対応できる柔軟なプロトタイプを築くことなのだということを、本田さんのお話から学ばせていただきました。
なぜいま新しいお米の品種が必要なの?
ところで最後になりましたが、とても重要なお話です。なぜ今、新潟県で新たなお米の品種が開発されたのでしょうか。新潟県といえば「コシヒカリ」という押しも押されぬブランド米があるはずなのに……実は、このコシヒカリの人気には課題がありました。
現在、新潟県の稲作はコシヒカリに集中しており、栽培されている品種の約70%を占めるに至っています。このままでは、気象災害に対するリスクが高く、収穫期の作業の集中が生産コストを上げる事態を招いてしまいます。そこで、コシヒカリとは収穫時期の異なる品種の開発が望まれました。
2000年に開発された、コシヒカリよりも収穫時期が早い品種(早生)の「こしいぶき」は、順調に生産量をのばし、全国的に知られるようになってきています。そしてこのたび開発された「新之助」は、コシヒカリよりも収穫時期が遅い品種(晩生)です。「新之助」はコシヒカリの遺伝子を25%受け継ぎ、開発途中の猛暑の年にも品質を落とすことなく、来たる温暖化に頼もしい高温への耐性を実証しました。「新之助」の普及は、私たちの食生活の基盤を安定させることにもつながるのです。
自分が口にするお米が、どこで作られた何という品種か、ちょっと気にかけてみる。農家の方達のことを思い浮かべながら味わう。そんな普段の行為から、私たちの知識や経験が豊かに拡がって行くことを新しいお米の登場は教えてくれます。
「新之助」は現在、新潟県内と東京都内の飲食店を中心に提供されている他、全国の百貨店及びスーパーの店頭にて「サトウのごはん 新潟県産新之助」となって並んでいます。 また各社が「新之助」を使用したお酒や味噌、おせんべいやドーナツなどの関連商品を発売。気になった方は下記のサイトでぜひチェックしてみてください。
「新之助」関連商品・フェア情報
http://shinnosuke.niigata.jp/shop.html
記者:松崎 未來
東京藝術大学美術学部芸術学科卒。同大学で学芸員資格を取得。アダチ伝統木版技術保存財団で学芸員を経験。2011年より書評紙『図書新聞』月刊誌『美術手帖』(美術出版社)などのライティングを担当。2017月3月にethicaのライター公募に応募し、書類選考・面接を経て本採用となり、同年4月よりethica編集部のライターとして活動を開始。関心分野は、近世以降の日本美術と出版・印刷文化。
ーーBackstage from “ethica”ーー
正直なところ「銀座で美味しいご飯が食べられるなんてラッキー♪」という安易な動機で取材した「新之助」のリリースパーティーでしたが、図らずも、能と農との関係、世界に通じるクリエイティビティとは何か、という話題にまで及び、まさに「新之助」のイメージそのままの温故知新の1日でした。
私によくて、世界にイイ。~ ethica(エシカ)~
http://www.ethica.jp