不二製油グループのだいずオリジン株式会社は、従来の大豆ベース食品とは一線を画した新商品「BEYOND TOFU」を2018年3月末に発売しました。その新製品発表に合わせて不二製油グループ本社株式会社は、「これからの食」をテーマとしたイベント「Plant-Based Food~植物性食 新時代」を開催。Plant-Based Food(植物性由来食、以下「PBF」)を取り巻く現状、長年「PBF」の開発・生産・販売を手掛けてきた不二製油グループが提案するPlant-Based Food Solutions(PBFS)の概要などが紹介されました。また、モデルの浦浜アリサ氏による「BEYOND TOFU」をはじめPBFをテーマにしたトークセッションも行われました。
「食物」の視点から環境問題やサスティナビリティについてどう考えていったらいいのか――新たな発見を含む示唆に富む内容でしたので、その一部をご紹介します。
社会に定着しつつあるPBF~日米の食に関する意識を調査
冒頭で紹介されたのは、2017年11月に不二製油グループ本社が日本・米国の生活者を対象として独自に行った「食への意識に関する調査」の結果です。
一言でまとめるならば、社会全体として植物性食へのニーズが高まっており、特に1980年以降に生まれたミレニアル世代では定着した存在になりつつあることが明らかになったと言えます。具体的に見ていきましょう。
日本国内全体の調査結果では、3分の1(34.0%)が「植物性食中心のライフスタイルに興味がある」と回答し、「たん白質を摂取するために積極的に取ろうとしている食品」では大豆製品(納豆・豆乳・おからなど)が78.3%で、乳製品(56.0%)や肉類(53.6%)を押さえ、トップに挙がっています。
「実践している食生活」という質問に対しては、「焼肉ではサラダから食べるようにしている(ベジファースト)」が62.4%でトップとなり、以下「野菜のおかずが多いお弁当を選ぶようにしている(56.2%)」「肉や魚を食べすぎたら、翌日は野菜を食べるようにしている(47.1%)」が上位に並び、野菜摂取を心掛けていることがわかります。
ミレニアル世代にとって植物性食は普通の選択肢
この調査結果で特徴的なのは、世代別で大きな違いがあったことです。ミレニアル世代では「植物性食中心のライフスタイルに興味がある」との回答が40.0%だったのに対し、ミレニアル以前の世代は30.1%と、約10ポイントもの開きがありました。特に、植物性食に興味を持つ理由として、「おいしそう」を挙げたのが28.5%(他世代17.7%)である一方、食事で動物性・植物性を意識している割合は26.2%(他世代32.0%)となっています。この結果からは、ミレニアル世代にとって植物性食は、特別なものというよりは普通の選択肢の一つとなっていることがうかがえます。
また、技術革新により誕生した植物性たん白食品(PBF)を取り入れたいと回答した人は、世代間の開きは若干あるもののほぼ8割(ミレニアル以前の世代78.8%、ミレニアル世代84.5%)に達しており、おおむね肯定的にとらえられていると言えます。
次に、調査結果について日米のミレニアル世代を比較してみましょう。米国のミレニアル世代では、約4割(38.7%)が採食中心という意味での「ベジタリアン」と回答しています。さらに、植物性食中心のライフスタイルに興味を持っている人は60.1%に達し、国内ミレニアル世代をほぼ20ポイント上回っています。
興味深いのは、植物性食中心のライフスタイルに興味を持った理由の違いです。日本では「健康のため(84.2%)」がダントツで、次いで「おいしそう(28.5%)」となり、ほぼこの2つに集中しています。米国でもこの2つが上位(健康:72.8%、おいしそう:30.8%)であることに変わりはありませんが、「安全性(汚染が気になる)」の30.8%をはじめ、「家族・友人の影響(23.2%、日本1.2%)」「環境に配慮(22.4%、日本3.0%)」といった項目を挙げた人が少なくありません。また、普段の食事で「動物性か植物性かを意識している」割合も、米国ミレニアル世代(72.1%)は日本ミレニアル世代(26.2%)のほぼ3倍に達しています。
こうした結果は、植物性食に対する関心が、日本では「おいしそう」などの味わいが起点になっているのに対し、米国では「安全性・環境への配慮」などの社会的要因がより大きなウエートを占めていることを示していると言えるでしょう。
問われる食のサスティナビリティ、PBFの活用が問題解決のカギになる
調査結果の紹介に続いて、清水洋史・不二製油グループ本社社長が、世界の食に関する状況とPBFの今後の展望、そして不二製油グループのPBFへの取り組みと新たに提案するPBFS(Plant-Based Food Solutions)の概要などを説明しました。ここでは、清水社長の話をもとに、地球環境の視点から植物性食が求められている理由と可能性、そして不二製油グループの取り組みを説明していきます。
世界の人口増加に伴い、動物性たん白質供給からの転換が必要
まず食を取り巻く外部環境で最も大きな問題は、世界の人口増加です。世界銀行の推計によると、2050年に世界の人口は98億人に達します。これを地域別に見ると、アジアの人口が世界の半分を占め、アフリカも20億人を超えます。つまり、アジア・アフリカが世界人口の約7割を占めるのです。また、これらの地域での人口増加は都市化に伴うもので、必然的に食料生産を担う農村人口の比率も低下します。
このような環境の下で、現在の約2倍になると言われている2050年のたん白質需要を、これまでのように動物性たん白質中心で賄うのはほぼ不可能と言わざるを得ません。また、牛や豚など食肉のもととなる家畜の生産は、穀物をエサとして使用するため、食料としての生産効率は決して高いとは言えません。
同様に、人口増加は水需要の増加も招きますが、家畜の飼育は水もまた大量に使用します。
つまり、需要増への対応だけでなく、限られた資源を有効に利用するという意味からも、動物性素材中心のたん白質供給からの転換を進めることが必要になるのです。
牛のゲップに大量のメタンガスが含まれているのは、エサの問題という説も・・・
もう一つの問題が、家畜の飼育がもたらす地球温暖化への影響です。それは何かというと、牛の吐き出すゲップに含まれるメタンガスなのです。メタンガスは二酸化炭素の20倍以上の温室効果がもたらしますが、実に米国のメタン排出量の4分の1は牛のゲップによるもので、世界的にもほぼ同レベルと見られています。また、世界中で排出される温室効果ガスの5%に相当するという推計もあります。
ここで見過ごせないのは、牛のゲップに大量のメタンガスが含まれているのは、エサの問題とする説があることです。牛はもともと、牧草や稲わらなど栄養価の低い食物を主食としていましたが、早期生育のために小麦や大豆など栄養価の高いエサを与えるようになりました。これがメタンガスの発生を増やしているということなのです。実際にエサを転換することでメタンガスの排出量が減り、牛の健康状態も改善したというデータがあります。
つまり、植物性たん白質の供給を増やすことは、予測されるたん白質不足の解決につながるだけでなく、家畜の飼育に使っていた穀物・水といった資源をより有効に使えるようにし、さらには温暖化への影響抑制も期待できるなど、一石二鳥どころか三鳥、四鳥もの効果を生み出す可能性を持っているのです。
地球環境や資源利用という観点からは、間違いなくこの方向性が正しいでしょう。ただし、ここでもう一つ考えなければならないのは、「人間生活の質(quality of life、QOL)」です。
「味」や「うまみ」を感じる重要な要素となっているのが「油」
人間にとって「食事」は、単なる「エサ」ではありません。必要な栄養を摂取することはもちろんですが、「おいしさ」、あるいはシチュエーションに応じてメニューを選べるとか家族や友人と場を共にするといった「楽しさ」があってこそ、生活は充実したものになるのです。
植物性食は、古くは宗教上の戒律や健康上の制限、最近では環境配慮など、ともすれば抑制的な理由から選択されるものでした。もちろん、冒頭で見た調査結果のようにおいしさや楽しさを感じる人が増えているのも事実ですが、依然として「おいしくない」「健康のために仕方なく食べる」といったイメージを持っている人も少なくないことでしょう。
しかし、動物性・植物性に関係なく、完全に精製されたたん白質は無味無臭なのです。では、なぜ多くの人が動物性たん白質(肉・魚・乳製品)をおいしいと感じるのでしょうか。
実は、動物性たん白質に「味」や「うまみ」を感じる重要な要素となっているのが「油」なのです。
これこそが、不二製油グループがさまざまなPBF商品を開発し、新たな展開としてPBFS(Plant-Based Food Solutions)を提案する大きな理由となっています。
人と地球の健康に問題解決に貢献していきたい
不二製油グループ本社の清水洋史社長は次のように話します。
「今や地球環境をはじめ多くの問題から、社会課題として既存の食システムの変化が求められています。今後、持続可能な食システムを実現するためには、肉食中心の食生活からの転換、つまりはPBFの利用拡大が必要なのです。従来の植物性食に対する需要は『志向・信条優先型』で市場は限定的でした。しかし、これからは「課題解決型」の需要となるため、市場も大きなものになります。
広く一般の方にPBFが浸透するためには、『おいしさ』ということが重要です。おいしいから食べ続けられ、また健康であるからおいしさを感じることができるのだと考えています。
不二製油は中間素材メーカーとして、半世紀以上にわたって大豆と植物性油脂に取り組んできました。人と地球の健康に大きく貢献したいという思いから、大豆の原点に戻り、新しい価値を創造するための中長期戦略「大豆ルネサンス」を掲げ、あらゆる角度から大豆をみつめ、活用を考えています。
そして、単にPBFを供給するだけでなく、ユーザーや社会の問題解決に貢献していこうという提案がPBFSなのです。
ESG(環境・社会・ガバナンス)というのが経営における大きなテーマとなっていますが、不二製油グループは本業としてこの問題に立ち向かえる会社だと考えています。
大豆と植物性油脂に取り組んできた不二製油だからこそ作れる、おいしいPBFを提供することで、人と地球の健康に問題解決に貢献していきたいと考えています」
世界初の大豆の分離分画技術
こうした取り組みの中から生まれた商品の一つが、世界初の特許製法USS(Ultra Soy Separation)で作られた新豆乳素材の「豆乳クリーム」と「低脂肪豆乳」です。
USS製法とは、不二製油が開発した世界初の大豆の分離分画技術で、生乳の分離法に近い方法で大豆を分離するものです。
これにより、従来の豆乳にはなかった、「おいしさ」「機能」が生まれ、「豆乳クリーム」は「卵黄」や「生クリーム」に、「低脂肪豆乳」は「卵白」や「脱脂乳」に相当する特長を持っています。
チーズのような、今までに経験したことのない豆腐
最後になりましたが、今回発売された新商品「BEYOND TOFU」について説明していきましょう。これは、先に紹介したUSS製法による低脂肪豆乳を使用し、発酵技術を取り入れることで、今までの豆腐とは全く異なる次元の・食感・質感を実現した商品です。「豆腐を超える豆腐」ということで、「BEYOND TOFU」とネーミングされました。
乳製品は一切使用せずに、植物性100%でチーズのような食感・質感を作り出しているのが大きな特長です。しかも、植物性100%ながら濃厚でコクのある味わいを実現しており、“植物性はおいしくない”というイメージを覆す仕上がりです。
また、適度な硬さを実現することで、今までの豆腐になかった「削る」使い方を可能にしています。さらに「溶ける」性質も持っています。このため、削ってパスタなどに振りかけたり、ピザにのせ熱するととろりと溶けたりと、まさしくチーズのように使うことができるPBFなのです。
だいずオリジン社長でもある、相模屋食料の鳥越淳司社長は「3年の期間を経て、ついに豆腐を超えた豆腐が完成しました。チーズのような、今までに経験したことのない豆腐です。最大の特長は植物性100%なのにおいしい、もっと食べたいと思う仕上がりとなったこと。『削る』『かける』『溶ける』豆腐で、パスタにかけたり、ピザやラザニアにのせて食べたりできるなど、豆腐の世界を大きく変える、無限の可能性がある商品です」と語りました。
会場には、BEYOND TOFUを使ったピンチョスをはじめ、ソイカツサンドや大豆からあげ、USS製法の豆乳クリームで作るスイーツ、新発想のウニ風ペーストを巻いた寿司ロールなど、実際に植物由来の「PBF」の試食メニューが用意され、実際に味わうことができました。
記者:永瀬 恒夫
法政大学工学部経営工学科卒。1983年、日経マグロウヒル社(現日経BP社)入社。日経ビジネスなど経営誌・専門誌の記者、副編集長、書籍編集などを経てフリーランスに。現在は(株)トランスメディアの編集顧問や企業のオウンドメディア運営に携わる傍ら、ライター/エディターとして記事執筆や書籍編集など幅広く活動。担当した主な書籍に「ビジョナリーカンパニー」「コーポレートファイナス」(いずれも日経BP社)などがある。
ーーBackstage from “ethica”ーー
実際にPBFメニューを試食しましたが、本当においしかったです。量によるところもあるかもしれませんが、正直、知らないで出されたらPBFと見分ける自信はほぼありません。確かにこれならば、植物性かどうかに関係なく、「おいしさ基準」で選ばれる可能性は高いと感じました。
ところで、清水社長によると、不二製油の工場があるベルギーの町では、毎週木曜日は肉を食べないそうです。しかも、市役所からの指導によるものだというのですから、二重に驚きました。日本のような恵まれた環境にいると、ついついそれを自覚せずに当たり前のことと思ってしまいがちです。温暖化をはじめとする昨今の日本の取り組みを思い返したとき、そのことが致命的な出遅れにならないよう、私たちは何をするべきなのかを、考えさせられた発表会でもありました。
私によくて、世界にイイ。~ ethica(エシカ)〜
http://www.ethica.jp