モデルのマリエが「好きなことを仕事にする」まで 【編集長対談・前編】
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モデルのマリエが「好きなことを仕事にする」まで 【編集長対談・前編】

幼い頃から好きだったことを追求し、自身のファッションブランドを起ち上げたマリエさん。2018年10月に代官山で開かれた展示会の会場にて。 Photo=YUSUKE TAMURA ©TRANSMEDIA Co.,Ltd

昨年6月、自身のファッションブランドを起ち上げたモデル・タレントのマリエさん。新ブランド「PASCAL MARIE DESMARAIS(パスカルマリエデマレ、以下PMD)」のプレゼンテーションでは、環境に配慮し無駄を省いた、長く愛用できるプロダクトを提案していくと語りました。そして今年9月、ファッションとデザインの合同展示会「rooms」では「エシカル」エリアにPMDとして出展。アップサイクルプロダクトのラグマットのみを展示して注目を集めました。代官山で開催されたPMD初主催の展示会(2018年10月17日〜19日)の会場にて、「ethica」編集長の大谷が、マリエさんにお話をうかがいました。

【編集長対談・後編】「エシカル」を新しい当たり前として提示したい (マリエ)

マルチリンガルの父の教育 アイデンティティの拠り所としての言語

大谷: はじめまして、ウェブマガジン「ethica」編集長の大谷と申します。

マリエ: マリエと申します。本日はよろしくお願いします。

大谷: 本日は、前半でマリエさんの生い立ちについて、後半でご自身のブランド「PMD」のお話をうかがえればと思います。マリエさんは、お父様がフランス系カナダ人、お母様が日本人のハーフでいらっしゃいますよね。国際的な環境の中で生まれ育ったと思うんですが、どんな幼少期を過ごされたんですか?

マリエ: 母がブリティッシュエアウェイズのスチュワーデスだったので、海外旅行にはたびたび行く機会がありました。ただ14歳でメルボルンに留学するまでは、ずっと日本で育ったんです。この外見なので「英語がしゃべれない自分」に疑問を感じていました。周りには日本語と英語と両方話せる子もいたのに。

国際的に仕事をする父の教育が目指していたのは「アイデンティティをロスしないための生き方」だったのでは、と振り返る。 Photo=YUSUKE TAMURA ©TRANSMEDIA Co.,Ltd

大谷: インターナショナルスクールに通っていたんですか?

マリエ: 私は聖心女子学院に通っていました。

大谷: あ、僕、以前白金に住んでいて、三光坂だったので、すぐでしたよ。森に囲まれた素敵な場所ですよね。

マリエ: はい、私も好きで、今でもたまに白金には行きます。それで父に訊いてみたんです。なぜ私は英語がしゃべれないのかって。私の父は5ヶ国語が話せるのに。

大谷: 5ヶ国ってすごい! 頭の良い方なんですねぇ。

マリエ: ただし父は「本気で120%話せる言語」を持っていなかったんです。意思疎通にはなんの問題もないんですが、父が話す言葉は、どれも「外国人が話す言語」になってしまう。フランス語っぽい英語、英語っぽいスペイン語……。それで私たち姉妹には、自分のアイデンティティとなる言語としてまず一番難しい日本語を覚えさせたんです。他の言語は後から勉強すれば良いって。

大谷: なるほど。まずは自分の母国語となる言語をきちんと身につける。それはきっと正しい教育方針ですね。

マリエ: 正しいのか、単に当時バブルがはじけちゃった結果なのか(笑)。父は哲学者肌で、リベラルな考えの持ち主なんです。アートや環境の話は日頃からよくしていて。私がアーティストの友人を家に連れて行くと、私が居なくなっても、父と友人でずっと飲んでるくらいなんですよ(笑)。そんな父を、母がビジネスの面からサポートしていました。

ファッションが大好きだった三姉妹の末っ娘

大谷: 小さい頃はどんな女の子でしたか?

マリエ: 「なんで女の子はピンクで、男の子はブルーの服を着なきゃいけないんだろう」といったようなことが気になる子供でした。あと、商品の過剰包装について疑問を抱いたり。母の買い物の空き箱などで工作するのも好きでした。自分の手にしたものが、手を加えることで別のかたちに変わるということに、ものすごく興奮したんですね。

今の活動につながるところで言えば、ファッションが大好きで、周りの子が遠足のお菓子を悩んでいるときに、私は当日何を着て行こうかばかり悩んでいました。ピアノの発表会も、スカートが何枚重ねかが重要だったり(笑)。

「ピアノの発表会なんかでも、なんでお姉ちゃんのスカートは三枚重なってるのに、私のは二枚しか重なってないのかって、そういうところばかり気になって(笑)」 Photo=YUSUKE TAMURA ©TRANSMEDIA Co.,Ltd

大谷: 小さい頃からファッションが好きで、いまファッションの世界で活躍されている。一貫されていますよね。小学5年生のときからモデル業をされていたんですよね?

マリエ: はい、モデルをしていた姉の真似で始めたんです。でも、本格的にスタートしたのは18歳くらいからです。

大谷: お姉さんがいらっしゃるんですね。

マリエ: はい、姉が二人。

大谷: 三人姉妹ですか。ご家族が女性ばかりだと、お父さんはちょっと寂しい(笑)。

マリエ: しかも父はF-1関係の仕事などもしていたので、なおさらだったでしょうね。

大谷: F-1! 僕、昔から好きで、モナコグランプリを観に行ったこともありますよ。

マリエ: モナコ、素敵な場所ですよね。私もF-1大好きで、父に連れられて色んなところに行きました。私の父は、アイルトン・セナのサポートをしていたんです。F-1が最も華やかな時代だったと思います。鈴鹿にもよく行きました。当時は今みたいにオシャレじゃなくて、オジさんたちが一日中ビール飲んでるガソリン臭い場所でしたけど(笑)。

大谷: みんな首からカメラ提げて(笑)。

マリエ: そうです、そうです(笑)。

F-1関係の仕事に就いていた父と一緒に国内外のさまざまな場所へ行った思い出を楽しげに語るマリエさん。 Photo=YUSUKE TAMURA ©TRANSMEDIA Co.,Ltd

ひたすら有名になることを目指した芸能活動、その先に見えた原点回帰

大谷: 小さい頃からファッションが好きで、日本国民一億人誰もが知る人気モデルになって。

マリエ: いえいえ、そんな(笑)。

大谷: そんな人気絶頂の中で、マリエさんはニューヨークのパーソンズ美術大学へ留学されましたね。きらびやかなモデル業から、つくり手側へ振り切った。僕にとっては、なかなか衝撃でした。留学中のマリエさんを取材したテレビのドキュメンタリー番組も印象的でしたね。

マリエ: 「アナザースカイ」ですね。でも実は、18歳くらいのときの私は、目指すべきものが何もなかったんです。周りのみんなは将来の夢やなりたい職業があって、努力できる明確な目標に向かっていました。だからみんなが羨ましくて……。

単純ですが、当時の私は、有名になることが人生の成功だと思っていました。有名になれば願いが叶う、きっと自分のしたいことが見つかるはずだと。それで、モデルの契約期間の5年間、死に物狂いで働こうと決めたんです。朝6時にファッション誌の撮影で現場入りして、終わったらバラエティ番組の収録に直行。バラエティ番組の収録が終わったら今度は深夜番組の収録で、その合間に雑誌の取材対応。深夜2時に帰宅して、また翌朝5時に起きて……そんな毎日を繰り返していました。

大谷: その年代だと出来てしまったというのもありますよね。今だとちょっと……。

マリエ: あ、絶対無理です(笑)。ただ、そのときの出会いには、本当に感謝しています。普通に生活していたら出会うことのなかったいろんな方に接する機会をいただきました。業界の方々は、年齢やジェンダーに関係なく、私に分け隔てなく接してくださいました。

大谷: そうした出会いの中で、パーソンズという目標が見えてきた、ということでしょうか。

マリエ: 10歳か11歳のときに、大学までの自分の進路を考えて両親の前で発表させられたんです。そのときすでに私の中では、パーソンズの名前が入っていました。ずっとアートやファッションに興味があって。でも、タレントとしての経験がなければ、今のデザインの仕事に対する想いは、これほどまでではなかったんじゃないかと思います。

モデル・タレントとして人気絶頂だった2011年、数多くのアーティストやデザイナーを輩出してきた米・パーソンズ美術大学へ留学した。 Photo=YUSUKE TAMURA ©TRANSMEDIA Co.,Ltd

ルールを決めてのびのびと、好きなことを追究する

大谷: 10歳で自分の将来設計をさせていたなんて。それが実現して現在の仕事に結びついているわけですから、やっぱり親御さんの教育というか、影響は大きいんでしょうね。

マリエ: 今の言葉、両親が聞いたら泣きます(笑)。父からは、自分の正しいと思うことをきちんと理由づけして、目標を高めていく生き方をしなさいと言われました。

私、16歳の頃、暗室で写真のプリント作業をするのが好きだったんですけれど、そうした趣味とか、自分のやりたいことを追究することについては、両親は全面的にサポートしてくれました。あと、本に限っては無条件でいくらでも買ってくれたんです。小さい頃は、本を読むより外で遊ぶ方が楽しかったので、仕方なく欲しい本を選んで、仕方なくそれを読んでいたのですが、結果そこから、たくさんの影響を受けました。

自分が幼い頃から好きだったことを仕事にし、着実にかたちにしてきたマリエさん。展示会場で、自身がデザインしたアイテムとスタッフたちに囲まれて、その表情からは充足感と安堵がうかがえた。 Photo=YUSUKE TAMURA ©TRANSMEDIA Co.,Ltd

大谷: お子さんの意志を尊重するというか、視野を広げるというか。とてものびのびと育てられたんですね。

マリエ: その中でもいろんなルールはありました。きちんと学校に通って、安定した職に就くようにというようなことも常々言われていましたし。

大谷: 手堅い職業に就くようにおっしゃっていたのは、ちょっと意外ですね。14歳まで日本で過ごしたということですが、お話をうかがって、ご家庭の教育環境が、海外経験に匹敵するものだったのではないかと想像します。

マリエ: 最近は学生さんの前でお話する機会もあるんですけれど、私は必ず「好きなことを仕事にしてほしい」と伝えています。「好きなことを仕事にする」って言うと、今の日本では「好きなことしてて良いの?」みたいな、あまり良くない印象を持たれるんですけれど、私は世間一般の「好き」という言葉の使い方が間違ってるんじゃないかと思うんです。好きなことだから楽ができる、ということではないですよね。好きなことを仕事にできるって、素晴らしいことです。

大谷: その通りですね。引き続き、ご自身のブランド「PMD」についてお話をうかがっていきたいと思います。

(後編に続く)

【編集長対談・後編】「エシカル」を新しい当たり前として提示したい (マリエ)

PASCAL MARIE DESMARAIS 代表 マリエ

1987年6月20日生まれ。東京都出身。フランス系カナダ人の父と日本人の母とのハーフ。モデルとしての活動を10歳頃からスタートし、その後「ViVi」の専属モデルやTVでのタレント活動など、多方面で活躍。2011年9月に単身渡米し、 ファッション分野で著名な世界3大スクールのうち、NYにある名門「パーソンズ美術大学」へ留学。ファションを専攻。数々のデザイナー達へのインタビューから影響を受け、アート・ファッション・カルチャーに深い関心を寄せるようなる。趣味は映画、音楽、ギャラリー巡り。

J-WAVE「SEASONS」ナビゲーター(毎週土曜日12:00〜15:00生放送)レギュラー出演中。現在は、自身で立ち上げたアパレルブランド「PASCAL MARIE DESMARAIS」のデザイナーも務める。

聞き手:大谷賢太郎 ethica編集長

あらゆる業種の大手企業に対するマーケティングやデジタルの相談業務を数多く経験後、2012年12月に『一見さんお断り』をモットーとする、クリエイティブ・エージェンシー「株式会社トランスメディア」を創業。2013年9月に投資育成事業として、webマガジン「ethica(エシカ)」をグランドオープン。2017年1月に業務拡大に伴いデジタル・エージェンシー「株式会社トランスメディア・デジタル」を創業。2018年6月に3社目となる「株式会社トランスメディア・クリエイターズ」を創業し、小粒でもぴりりと辛い(体は小さくとも才能や力量が優れていて、侮れないことのたとえ)『山椒』を企業コンセプトに作家エージェント業を始動、ショートフィルム映画『IN-EI RAISAN(陰影礼讃)』を製作プロデュース。2023年までに、5つの強みを持った会社運営と、その5人の社長をハンズオンする事を目標に日々奮闘中。

記者:ethica編集デスク 松崎未來

東京藝術大学美術学部芸術学科卒。同大学で学芸員資格を取得。アダチ伝統木版技術保存財団で学芸員を経験。2011年より書評紙『図書新聞』月刊誌『美術手帖』(美術出版社)などのライティングを担当。2017月3月にethicaのライター公募に応募し、書類選考・面接を経て本採用となり、同年4月よりethica編集部のライターとして活動を開始。関心分野は、近世以降の日本美術と出版・印刷文化。

ーーBackstage from “ethica”ーー

今回、マリエさんに取材をさせていただくきっかけになったのが、今年9月の「rooms」の会場でした。まさかご本人がブースにいらっしゃるとは思わず、ボーイッシュな格好の女の子(美大生っぽい)に声をかけたら、なんとマリエさん! にこやかに「PMD」の活動や商品の説明をしてくださいました。その後、名刺を差し出すと、一緒に会場にいらしたスタッフさんが「あ、『ethica』知ってますよ!」と。そこから話が進み、今回の展示会での取材が決まりました。

私によくて、世界にイイ。~ ethica(エシカ)~
http://www.ethica.jp

松崎 未來

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