2018年10月17日〜19日、デザイナーでタレントのマリエさん率いるファッションブランド「PASCAL MARIE DESMARAIS(パスカルマリエデマレ、以下PMD)」の展示会が代官山で開催されました。産業廃棄物の利用や就労支援を視野に入れたPMDのものづくりについて、「ethica」編集長の大谷がマリエさんにお話をうかがいました。クリエイターであると同時に起業家でもあるマリエさんの現在の目標や課題は何なのでしょうか。
残りものにはフクがある? アップサイクルプロダクトを自然な選択肢のひとつに
大谷: 今回のrooms EXPERIENCE 37(9月5日〜7日、五反田。主催:アッシュ・ペー・フランス株式会社)では、「エシカル」のエリアで出展をされていましたね。展示品が、アップサイクルのラグマット「The LEFT OVER RAG(レフトオーバーラグ)」のみであったのが意外でした。
マリエ: オリジナルのラインを展開してしまうと、「The LEFT OVER RAG」のことが十分に説明できなかったりするので。自分たちのやりたいことが皆さんに受け容れられるのか不安な部分も多かっただけに、今回のroomsの出展はすごく良い経験でした。
大谷: 「The LEFT OVER」というのが、このアップサイクルのプロジェクト名なんですね?
マリエ: はい、私たちが現在行なっている代表的な活動です。いま、H&MさんやZALAさんやUNIQLOさんが、不要になった衣類の回収を行っていますよね。私たちが着目したのは、その手前、つくる段階で出るゴミです。まだそこに気づく人は少なくて。というのも、一般の人にはつくる過程ってなかなか見えませんよね。
私たちも全国の工場や職人さんを訪ね歩く中で、この産業廃棄物のことを知りました。ウールだったりアルパカだったり、風合いはすごく良いのに、切り落とされた端の部分は捨てられているんです。しかも工場では、お金を払ってこれを捨てている。それを私たちで引き取って、新たな商品にしているんです。
大谷: roomsの会場で、マリエさんはこの端材を「パンの耳のようなもの」と説明されていました。「もったいない」という日本人的な精神ですね。
マリエ: 私は「エシカル」とか「アップサイクル」という言葉は、もっと当たり前にならなきゃいけないと思うんです。私たちは、これをゴミではなく材料だと思っています。だから、アプローチもファッション誌の広告のように打ち出すことで、「これはなんなんだろう」「かっこいい!」というところから、みんなに興味を持ってもらおうと考えているんです。
大谷: このビジュアルは、マリエさんがアートディレクションされたんですか? かっこいいですね。マリエさんも写っているんですね。
マリエ: はい。グラフィックデザイナーの方と一緒に。「LEFT OVER(残りもの、余ったものなどの意味)」という言葉には、「残りものには福がある」という想いを込めています。福は服にもかけていて。ラグマットは、ジェンダーも年齢も関係なく、さらにはプレゼントにも使えるという点において、他の商品よりお客様のリーチングポイントが高いんです。
大谷: 確かに。洋服って、マリエさんやブランドに対する共感があっても、それを実際に「自分が買って着る」というところで、ちょっとハードルが上がりますね。でも、ラグマットなら誰でも手に取りやすいし、使うことができますね。
マリエ: 最近嬉しいのは、昔からのファンに加えて、「タレントとしてテレビに出演していた頃は興味なかったけれど、今のマリエさんが好き」って言ってくださる方がいることです。当時の私を知らない、十代の新しいファンも増えていて。
全国の工場と職人を訪ね歩いたファッションツアー
マリエ: 去年の夏、全国のお客様と職人さんに会いに行く「ALREADY FAMOUS TOUR17」というファッションツアーを組んだんです。ロックバンドのTHE MODS(モッズ)のツアーバスを借りて、北は青森から南は鹿児島まで廻りました。
大谷: あ、僕、前に一度だけ彼らのライブに行ったことありますよ。あの革ジャンにリーゼントっていう出で立ちの……。
マリエ: はい、今も変わらないスタイルで、かっこいいですよ。そこでいろんな職人さんに出会いました。ある工場で、何千本という糸が流れているところに手をあてて、ときどき糸の流れを止めて、という作業をずーっとしている女の子がいたんですね。「何しているんですか?」って聞いたら「この作業で、糸が一本でも切れているとわかるんです」って言うんです。超カッコイイ〜っ!! 小さい頃にこういう仕事があるということを知っていたら、私は絶対に職人を目指していたと思います。
大谷: 小さい頃から図画工作などが好きだとおっしゃっていましたからね。生産者の方々との出会いは貴重な経験だったと思います。そこに材料から商品になるまでのストーリーが生まれますから。消費者はそうしたストーリーを知ることで、商品により一層の愛着がわきますね。
サステナブルなものづくりのために必要なチームワーク
大谷: PMDを起ち上げたのは、昨年6月でしたね?
マリエ: はい。ブランドを起ち上げて1年半、会社としては6期目です。
大谷: 6期目ですか。会社を続けていくって大変ですよね。
マリエ: はい(苦笑)。一人ではここまで来れませんでした。一人では出来ない。同時にそれが一番難しい点でもあります。私個人が一点物の服をつくるのであれば良いんですけれど、それを企業として量産し流通させるとなると……チームワークがデザインにも反映されますし、時にはものづくりをストップさせてしまうこともある。実際に生産の現場を訪問したからこそ、工場で働く一人一人の表情まで浮かんできます。この商品がドロップしたら、あの人たちは悲しむだろうな、って。
アントワープ王立美術アカデミーを首席で卒業されたファッションデザイナーの坂部三樹郎さん(MIKIOSAKABE)もおっしゃっていたんです。
「マリエちゃん、ものづくりはチームづくりなんだよ。どんなに素晴らしいデザインでも、それを縫う人、宣伝する人、売る人がいなければ成立しないんだよ」
って。いろんな方と話していると、スポーツでも大企業でも同じプロセスなんだと思いました。
だから、みんなにも「チームPMDなんだ」って思ってもらうことが大切だと思っています。いまの自分の課題は、チームでものをつくることに慣れること。自分がみんなを導く立場にあるということを自覚すること。それから、無理しないこと……って、これがなかなか難しいんですよね〜(苦笑)。
大谷: 無理すると継続できなくなりますからね。
マリエ: そうなんですよ。身体壊しちゃったら仕事できないし。でもつい無理しちゃうんですよ。これ、何なんですか?(笑)
大谷: 無理は、しちゃいますよね(笑)。僕も起業して6年なんですけれど、それで最初に決めた目標が「身の丈」でした。
マリエ: それ、すごく大事なことですね。
大谷: 自分にとって頃合いの良い生き方を考えて、目標設定する。そうすると無理の範囲が極端ではないというか。自分と周りのスタッフが良い仕事ができて、きちんとリターンがある。それって、そんなに過剰なお金が必要なわけではないので。それでなんとか潰れず、身体も壊さず続いてます(笑)。
ファンの共感に応える、見えるお金の使い途
大谷: ちなみに、このラグマットのタグに記載されている「BANK of PMD(バンクオブピーエムディー)」とはどういったものなのですか?
マリエ: 基金として起ち上げた訳ではないんですが、そういうお金の集め方として、バンクとネーミングしました。類似するシステムのひとつにap bankがあります。ap bankでは再生エネルギーや環境分野に特化していて、融資先は主に企業や団体になっていますが、私たちBANK of PMDの融資先は個人や小規模事業者で、どんなカテゴリに融資するか支援者が選べるようにするのが特徴です。たとえば、教育分野に興味がある方は、商品購入時に数ある選択肢の中から「途上国の教育を支援する」を選べるようにする、といったかたちです。まだまだ実現に難しい部分も多いですが、着実にチーム全体で進めています。
特に「The LEFT OVER」については、ゴミをアートに換えようとする私たちの取り組みへの共感から商品の購入を決めて下さる方も多いので、私たちがいただいたお金をどう使うのか、「BANK of PMD」というかたちで、お客様にどんどん見えるようにしていこうと考えているんです。
大谷: なるほど。それは、どういう風に公開されるのでしょうか?
マリエ: 12月から「The LEFT OVER」の活動をもっと生産性のある活動にするために、
好きだからこそ信念をもって乗り越えられる
大谷: それでは最後に、マリエさんにとって「私によくて、世界にイイ。」ことを教えてください。すでにPMDの活動そのものが、それを体現しているとは思うのですが。
マリエ: 繰り返しになってしまいますが、「好きなことを追究していく」ということ、そして「感謝すること」だと思います。
大谷: 前半で「好きなことを仕事にする」ことについて話されていましたが、仕事って誰かしらに貢献をすることですよね。つまり、好きなことを追究し、それを仕事にするということは、好きなことで誰かに貢献することだと思うんです。もし、みんなが自分の好きなことを仕事にできたら、社会全体にすごく良い循環が生まれますよね。
マリエ: 私自身の体験から、「好きなことを仕事にする」ことの大切さを納得しているんです。私、芸能活動をメインにしていたときは、視聴者の一言一言が辛かったんですよね。
大谷: 辛かったというのは?
マリエ: 100人に「かわいいね」と言われても、たった1人の「
でも今、私は自分のブランドのことに対して、1人が「それ良いね」って言ってくれれば、100人に「ダメだ」って言われても、全っ然なんとも思わない。好きなことだから、どんなに辛くても乗り越えられるんです。
大谷: あ、僕もどちらかというとそっち派ですね(笑)。いわゆるマスコミやマスカルチャーは、大企業がやれば良いわけで、僕の会社では「それではちょっと物足りないな」と思う1%の人たちの需要に応えていけば良いと思ってるんです。
本日は、貴重なお時間をありがとうございました。学びや気づきが多いお話ばかりでした。今後のマリエさんの活動も読者に届けていきたいと考えてます。
12月18日より「THE LEFTOVER RUG」のクラウドファンディングがスタート!
本記事でご紹介したPMDのアップサイクルプロジェクトがクラウドファンディングを開始。廃棄予定の素材を有効活用し、受注生産システムで、ファッション業界におけるゼロ・ウェイストなものづくりを目指します。PMDの活動に興味を持たれた方はぜひチェックしてみてください。
PASCAL MARIE DESMARAIS 代表 マリエ
1987年6月20日生まれ。東京都出身。フランス系カナダ人の父と日本人の母とのハーフ。モデルとしての活動を10歳頃からスタートし、その後「ViVi」の専属モデルやTVでのタレント活動など、多方面で活躍。2011年9月に単身渡米し、 ファッション分野で著名な世界3大スクールのうち、NYにある名門「パーソンズ美術大学」へ留学。ファションを専攻。数々のデザイナー達へのインタビューから影響を受け、アート・ファッション・カルチャーに深い関心を寄せるようなる。趣味は映画、音楽、ギャラリー巡り。
J-WAVE「SEASONS」ナビゲーター(毎週土曜日12:00〜15:00生放送)レギュラー出演中。現在は、自身で立ち上げたアパレルブランド「PASCAL MARIE DESMARAIS」のデザイナーも務める。
聞き手:ethica編集長 大谷賢太郎
あらゆる業種の大手企業に対するマーケティングやデジタルの相談業務を数多く経験後、2012年12月に『一見さんお断り』をモットーとする、クリエイティブ・エージェンシー「株式会社トランスメディア」を創業。2013年9月に投資育成事業として、webマガジン「ethica(エシカ)」をグランドオープン。2017年1月に業務拡大に伴いデジタル・エージェンシー「株式会社トランスメディア・デジタル」を創業。2018年6月に3社目となる「株式会社トランスメディア・クリエイターズ」を創業し、小粒でもぴりりと辛い(体は小さくとも才能や力量が優れていて、侮れないことのたとえ)『山椒』を企業コンセプトに作家エージェント業を始動、ショートフィルム映画『IN-EI RAISAN(陰影礼讃)』を製作プロデュース。2023年までに、5つの強みを持った会社運営と、その5人の社長をハンズオンする事を目標に日々奮闘中。
記者:ethica編集デスク 松崎未來
東京藝術大学美術学部芸術学科卒。同大学で学芸員資格を取得。アダチ伝統木版技術保存財団で学芸員を経験。2011年より書評紙『図書新聞』月刊誌『美術手帖』(美術出版社)などのライティングを担当。2017月3月にethicaのライター公募に応募し、書類選考・面接を経て本採用となり、同年4月よりethica編集部のライターとして活動を開始。関心分野は、近世以降の日本美術と出版・印刷文化。
ーーBackstage from “ethica”ーー
roomsの会場で、マリエさんが工場で廃棄される端材を「
私によくて、世界にイイ。~ ethica(エシカ)~
http://www.ethica.jp