2月27日から全国で放送されているファッションブランド「earth music&ecology」の新CMが話題を呼んでいます。CMのメッセージは「エシカルへ」。広瀬すずさん出演、是枝裕和さん監督という贅沢な映像が、私たち一人一人へ、地球の未来を想う選択を提案しています。
広瀬すず出演、是枝裕和監督の新CMが話題
「earth music&ecology」の新CMに出演しているのは、同ブランドのブランドキャラクターを務める広瀬すずさん。この4月1日から、NHKの朝の連続テレビ小説第100作目となる「なつぞら」でヒロインを務めるなど、幅広いファン層をもつ女優さんです。
そしてこのCMの監督を務めたのは、2018年にカンヌ国際映画祭でパルム・ドールを受賞した是枝裕和監督。監督作品「万引き家族」は、先日発表された第91回アカデミー賞の外国語映画賞にもノミネートされていました(惜しくも受賞は逃してしまいましたが)。広瀬さんと是枝監督がタッグを組むのは、これで5度目となります。
さらにこのCMの撮影を担当したのも、広瀬さん・是枝監督と映画『海街diary』で一緒に仕事をしている瀧本幹也さん、國井重人さんのお二人。広瀬さんが店頭で白いワンピース(オーガニックコットンブレンド素材使用の商品)を選ぶ前半部分は瀧本さんが、同ブランドの商品を生産している縫製工場の風景を映し出した後半部分は國井さんが撮影しました。
15秒/30秒/60秒のバージョンがあり、いずれも「earth music&ecology」のナチュラルガーリッシュなイメージを大切に、優しさと愛おしさに満ちた映像作品に仕上がっています。多忙をきわめる是枝監督は、ふだんあまりCMの仕事はされていらっしゃいませんが、広瀬さんが出演と聞き、今回のオファーを受けたと言います。
「エシカルへ」見えない誰かを想うストーリー
この春、「earth music&ecology」が打ち出したメッセージは「エシカルへ」。いま「エシカル消費」などの用例のように浸透し始めている「エシカル」の概念は、もともと「エシカル・ファッション」という言葉から拡がっていきました。ファッションの世界にとどまらず、大量生産・大量消費の高速サイクルで回る現代社会で、ちょっと立ち止まってみる必要性を、いま多くの人が感じ始めています。
広瀬さんはCM中でこう語ります。
「顔が見えなくてもつながっている感じとか、目に入ったものだけじゃないっていう意識は、むしろ自分にありたいなって思います」
広瀬さんのこの言葉のあと、カメラはバングラディシュの首都・ダッカにある縫製工場に移ります。そこで働く大勢の人たち、広瀬さんと同年代の女性従業員。カタカタというミシンの稼動音、アイロンのスチーム音、さらには型紙の上を滑る鉛筆の微かな音や話し声までが聞こえる中、広瀬さんが選んだワンピースの色に似た白い布地が、多くの人々の手の間を流れ商品になっていく様が映し出されます。
CM内で、その工場についての具体的な言及はありませんが、ほんの少し想像力を羽ばたかせて、自分の生活を成り立たせているものの存在を感じ取ることの大切さを、映像は伝えてくれます。
バングラディシュは、インドとミャンマーにはさまれた南アジアの国です。人口密度が非常に高く、その大半が貧困層。劣悪な労働環境の中、多くの労働者が低賃金で働いており、児童労働の問題も切り離せません。そしてその貧困の悪循環の一因は、残念ながら私たち先進国の人々の消費生活の中にあります。ふだんの私たちは、洋服を買うとき、あるいは着るとき、どれだけそうしたことを意識しているでしょうか。
縫製工場で働く19歳のアイーシャさんのはにかんだ笑顔は、もはやドキュメンタリーとして成立しているように思いました。
のびやかな音楽、つながりゆく生態の輪
そして、このみずみずしい映像の世界観にそっと寄り添うのは、アーティスト Aimer(エメ)さんの歌声。4月10日に発売予定のアルバム『Penny Rain』に収録されている新曲「April Showers」です。今年リリースした16枚目のシングル「I beg you / 花びらたちのマーチ / Sailing」で、オリコン週間シングルランキング初登場1位を記録するなど、いま最も注目すべき女性アーティスト。
少し湿り気を帯びた春先の空気すら感じ取れそうなビルの屋上の風景に、Aimer(エメ)さんの伸びやかな歌声が重なり、遠く離れた日本とバングラディシュの空がつながります。
新CMは、「エシカルへ」というメッセージに加え、「earth music&ecology」というブランドのフィロソフィーをも汲み取っているように思います。「music(音楽)」と「ecology(生態系)」。両者がもつ非物質的な「流れ」や「つながり」のイメージを、広瀬さんの言葉やAimerさんの歌声が自然と喚起させてくれます。
自社商品の購買を積極的に促すわけでは決してなく、いま人々に求められる「エシカル」な視点を取り入れようと呼びかける本CMは、結果として、既存の購買層以外にも向けた、「earth music&ecology」の良質なブランディングともなっています。
今年20周年を迎える「earth music&ecology」を運営する株式会社ストライプインターナショナルでは、フェアサプライチェーンを目指す取り組みや、エコポイント制度の導入、また砂漠の緑化活動など、さまざまなCSR活動を通じて社会の「エシカルへ」アプローチしています。
「earth music&ecology」のキャッチコピーは「あした、なに着て生きていく?」。
個々の人生の中に数限りなく存在するひとつひとつの選択が、世界の明日を変えていくのだと、映像は訴えかけています。
earth music&ecology ブランド公式サイト
http://www.earth1999.jp
記者:松崎未來
東京藝術大学美術学部芸術学科卒。同大学で学芸員資格を取得。アダチ伝統木版技術保存財団で学芸員を経験。2011年より書評紙『図書新聞』月刊誌『美術手帖』(美術出版社)などのライティングを担当。2017月3月にethicaのライター公募に応募し、書類選考・面接を経て本採用となり、同年4月よりethica編集部のライターとして活動を開始。関心分野は、近世以降の日本美術と出版・印刷文化。
ーーBackstage from “ethica”ーー
長年「earth music&ecology」さんのブランド名の由来について、ぼんやりとではありますが疑問を抱いていました。「music&ecology」ってなんだろうと。それが今回、新CMを見て、musicとecologyのイメージがストンと落ちてきました。たった60秒の尺の中に、この世界観を入れ込む是枝監督はやはりすごい。個人的には30秒編のアイーシャさんの笑顔にグッときました。
私によくて、世界にイイ。~ ethica(エシカ)~
http://www.ethica.jp