最高の笑顔を鍛えるスマイル体操「スキパニスマイル」に凝縮された、演出振付家MIKIKOさんに学ぶ、観察眼の大切さ
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最高の笑顔を鍛えるスマイル体操「スキパニスマイル」に凝縮された、演出振付家MIKIKOさんに学ぶ、観察眼の大切さ

綾瀬はるかさんが歌に合わせて、「ス」「キ」「パ」「ニ」という4文字の言葉を繰り返して手を動かす「スキパニスマイル」というTVCMをご覧になった方も多いかもしれません。

これは、グリコが「あなたが笑うと、世界は変わる。smile.Glico」をメッセージとしたコミュニケーション活動の一環として、いつでもどこでも簡単に、笑顔の筋肉を鍛えられる体操を制作したものです。科学的根拠もあって、効果の測定も実際にしたそうなのです。

ところで、このパントマイムのような、手話のような手の動き、どこかで見たことがあるような気がしませんか?

そうです、Perfumeの振付や舞台演出、そして「恋ダンス」の振付を担当した世界的な演出振付家MIKIKOさんによるものです。

MIKIKOさんってどんな人?

ダンスの振付をする人、それも世界的に有名、と言うと、若くからニューヨークで切磋琢磨して経験を積んできたようなイメージがあります。ただ、彼女はPerfumeと同じ広島出身で、もともと日本をベースに活動をしてきた方です。

Perfumeの国内外でのブレイクばかりでなく、自身が主宰を務めるダンスカンパニー「ELEVENPLAY」でも海外に活動の場を広げ、さらにヘビーメタルロックをアイドル女性が歌うBABYMETALの演出・振付でも世界の注目を集めました。

そして、2016年にはリオデジャネイロ・オリンピックのフラッグハンドオーバーセレモニーの演出チームにも参画し、その年には、ドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」で登場人物が踊った「恋ダンス」が大ブレイク。

さらに、2020年の東京五輪の開会・閉会式のプランニングチームにも名を連ねています。

MIKIKO公式サイト

誰でも踊れる世の中にマッチした、シンプルな振付

YouTube、そして最近ではTikTokなどの影響で、誰もがダンス動画を見て、自分で踊る姿を全世界に公開できるようになりました。ダンスは、スタジオでレッスンを受けたダンサーがステージで披露するもの、という垣根を超えて、誰でもその気になれば参加できるものになったのです。ダンスが義務教育のカリキュラムに組み込まれたこともあり、今のデジタルネイティブと呼ばれる世代は、何もスマホやゲームだけに長けているわけではなく、リズムに合わせて身体を動かすことが得意な子供たちでもあります。

ネット上で数々の人たちが踊る姿を公開した「恋ダンス」は、実際には真似をするのに少し練習が必要であるものの、何か自分でもできそうな、そして踊ってみたい気にさせるような、ちょうどいい振付でした。

そして今回公開された「スキパニスマイル」は、もしかしたらMIKIKOさん史上、最も真似しやすい振りかも知れません。

出だしは簡単ですが、頰に手を当ててからの動きに味があって、単なる「体操」に終わらず「見せる踊り」の要素を含んでいて、うまくできたときの喜びを感じることができるのが魅力です。

丁寧に観察し、気づき、魅力を引き出す力

MIKIKOさんが高く評価されているひとつのポイントは、演者のキャラクターを観察して、その魅力に気づき、それを引き出すような演出・振付をすることです。自分のやりたいことだけが先行して、自分本位で作った振りを演者に踊ってもらう、というアプローチとは全く違うので、ステージや画面のなかで演者が輝くのです。

「スキパニスマイル」でも、眼鏡姿の綾瀬はるかさんと従業員らが、30秒のCM動画の中で一体感が生まれて、踊っているうちに自然と笑顔がこぼれていくのはさすがです。

彼女が観察するのは、踊り手ばかりではありません。音楽の歌詞や、そのダンスが使われる文脈をよく解釈していることも見て取れます。

BABYMETALの「メギツネ」は、女性は内面を隠して女優のように演じているのです、というメッセージの楽曲ですが、これもよく見ると女性が化粧をする手つきがさりげなく取り入れられています。

BABYMETALが、メタルとアイドルのコラボという「単なる面白い企画モノ」に終わらず、海外のフェスで観客を熱狂させるショーとしての完成形に到達することができたのは、彼女の演出があったからこそでしょう。おどろおどろしい演奏を繰り広げるメタルバンドと無垢なアイドルという異なる素材を混合させるのに、振付の部分が大きな役割を果たしています。

デジタル技術との融合を真の意味で成し遂げた第一人者

MIKIKOさんの手腕で誰にもなかなかその域に達することのできない要素のひとつが、生身の人間のパフォーマンスとデジタル技術のコラボを高い完成度で実現する力ではないでしょうか。

一般的には、レーザー照明やコンピュータとシンクロした映像をライブステージに取り入れることはずいぶん前から行われてきました。ただし、新しい技術を取り入れることが目的になってしまい、音楽とのマッチングがそれほどでもなく、単なる「すごいですね」で終わってしまうようなものも数多くありました。

ただ、Perfumeに代表されるMIKIKOさんの演出は、一流のバーテンダーがカクテルをつくるかのごとく、パフォーマー、音楽、歌詞、光、デジタル映像のそれぞれのよさを生かした、絶妙な混合体を創り上げています。

デジタルの凄さを引けらかすような力みがなく、視覚にも聴覚にも、歌詞のメッセージを受け止める心にも響くような丁寧な作品に仕上がっています。

これも彼女の、デジタル技術でできることに対する観察眼や、そのよさを引き出そうとする姿勢の表れだと言えるでしょう。

MIKIKOさんの人生に学ぶ、生きるヒント

2019年2月にNHKテレビで放映された「プロフェッショナル 仕事の流儀」では、MIKIKOさんが演出振付家になった経緯が紹介されています。もともと彼女は自分でダンサーとして活動していました。ところがある日、まわりの仲間たちが言わば命がけでダンスに挑んでいるのに比べて、自分はそうでもないな、と感じて、演出をする側に転じたそうです。それもメジャーなグループのバックダンサーに採用された矢先だというから驚きです。

まさに彼女は、自分自身に対しても観察眼を持ち、その魅力に気づき、それを引き出した人物とも言えるのではないでしょうか。

自分のやりたいことが見つからない、今やっていることが自分の本当にやりたいことではない、と思っている方は、改めて冷静に自分の魅力を観察するアプローチをしてみると、生きる道を切り拓くヒントが見つかるかも知れません。

まず手始めに、こわばった顔から力を抜いて、スマイルです。

記者:山田勲

上智大学理工学部卒。1985年ソニー株式会社入社。ソニー・ミュージックエンタテインメントEPICソニーレコードのディレクターを経て、インタービジョン・レーザーフィッシュ取締役などを歴任、ethica編集部では音楽制作の現場経験を活かし、音楽を中心にエンタメ分野のライティングを担当。これまで担当した著書に「デジタルエレクトロニクスの秘法」(岩波書店ジュニア新書)、「0と1の世界」(教育出版・中学国語3)の寄稿がある。

ーーBackstage from “ethica”ーー

前回、ビッグになることを夢見て広島から上京した矢沢永吉さんをご紹介しましたが、同じ広島出身ながらMIKIKOさんの歩んできた道は、ずいぶんそれとは違いました。ギラギラとした強い意思で成りあがるのも人生なら、逆もまた真ということでしょう。

広島は、野球もサッカーもプロのチームが活躍していて、スポーツの世界でも元気のある都市になってきています。そしてこの2019年4月にはFISE WORLD SERIES HIROSHIMA 2019という、スケートボードやボルダリング(スポーツクライミング)など、2020年のオリンピックでも種目になっている新世代のスポーツカテゴリーの国際的祭典が開催されます。

この機会に、熱い広島を訪れてみてはいかがでしょう。

私によくて、世界にイイ。~ ethica(エシカ)~
http://www.ethica.jp

山田 勲

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