「ちがうから、おもしろい!」 フェロー諸島北西の島で出逢った方の言葉 。 エシカリスタ Vol.34 写真家 内山香織さん
Blog
このエントリーをはてなブックマークに追加
Instagram
2,693 view

“出逢いは、道しるべのようなところがあり、つながりあい、広がっていく。

互いを知り合うきっかけとなり、様々なことを感じる大切な礎・・”

 

フェロー諸島で出逢った方々と交わした時間の道を辿りながら、

文化や言葉、日々の暮らしなど、教えていただいたことを、編み繋ぎます。

女の子たちのグランマの、「ホームメードルバーブジャム」。

初夏、収穫の季節になると各ご家庭でたくさん作られるルバーブジャムは、食卓やピクニックに持って行ったり、日々の彩りとなるそう。

 

「夏はゼリーにして冷たいデザートに。ミルクをかけると美味しいよ」

 

滞在中、何度もご馳走になった手作りのルバーブジャム。

それぞれの穏やかなあたたかさを感じる、ずっと味わっていたい忘れられない美味しさです。

フグロイ島(Fugloy)の東岸Hattarvík(ハッタルウィーク)の船着場から、南岸のKirkja(チルチャ)の船着場まで続く一本道。

 

「そっちからきたの?私たちはこっちからきたよ」

 

自然の草が生える間を通るその道は、紫のお花がたくさん咲いていました。
優しい笑顔のお姉ちゃんが、お花のブーケを作ってそっと置き、走り回って元気いっぱいな妹が、霧が晴れた時に見つけられるように素敵なサプライズをしていました。

フェロー諸島の気候の中でも霧は様々な姿があり、37の名前を持っています。

 

霧が出てきたかな?と思ったら、サーっと白が世界に流れ込んできて、あたり一面を覆いました。

 

距離感がわかならくなりそうなその霧は、時に不思議な世界に誘います。

フェロー語で「鳥の島」を意味するフグロイ島(Fugloy)は、多様な鳥が集まる貴重な島。

 

今では日々の営みではないそうですが、古くから海鳥は人々の食を支えていたそうです。

 

鳥たちの多くは岩場に住み、ハンティングは、打ち付ける波や凄まじい強風など危険も多く、命がけのことも。

シンプルな作りの道具。この竹の竿が一番だよと見せてくれました(彼のお父様作)。

 

岩場に座りじっと待ち、海鳥が飛び交う時、竿を伸ばしてネットでキャッチするのが昔からの方法。

日々の食卓に欠かせない羊の干し肉 “Skerpikjøt(シェルプチェート)”

 

秋になると、その冬を越すための食べ物が作られます。

フェロー伝統の味、自然発酵した羊の干し肉とタラの干物は、多くのミネラルと塩分を含む海風で乾燥させます。

その時期、島々で様子を見ることができるかもしれません。

 

羊の干し肉は、生ハムとビーフジャーキーの間くらいの食感で、”Hjallur(チャドル)” と、呼ばれる風が通り抜ける作りのドライングハウスで、6〜8ヶ月位干して醸されます。

 

「自分たちの食べものを、子どもの時から自分たちで関わるのよ」

 

と、季節と大切な節目のお話を聞かせて頂きました。

 

歩くなら休憩用に持って行ってねとお土産に頂いたSkerpikjøt(シェルプチェート)は、噛めば噛むほど芳醇な香りと味がして、とても元気が出ました。

絵や文字を描いたりしながら、意味を教えてくれた彼女は、45年間続けている現役の先生。

 

”日本” という言葉をきっかけに、話題も広がり、海老や鮭の海産物から最高品質と人気の高いウールなど、フェローと日本との古くからの関わりなども教えて頂きました。

 

そうだ、と、彼女は、メモを書いてくれました。

 

「ずいぶん前に日本に行って、つい先日、家族で帰ってきた教え子が隣の島にいるのよ、訪ねてみてね」

 

それから、こう聞かせてくれました。

 

「私の母はね、昔、編み物をして、日本に送っていたのよ。

山の羊の毛を集めて紡いでね、毛糸にするの。

フェローのウールはとても暖かくて、雪や雨にも強いのよ。

この窓辺に座って、帽子やセーターを編んでいた姿を思い出すわ」

「このベンチに座って村を眺めるのが好きなのよ」村人の散歩道にて。

 

言語に興味があり日本語を学びに来日した彼女は、ご主人と出逢い、東京に20年近く暮らしたそうです。日本に住んで興味深かったことを伺うと、

 

「大学時代のホームステイ先で食べた、”骨せんべい” には驚いたわ。

同じようにたくさん魚を食べてきたのに、その食べ方は思いつかなかった!」

 

「知らないものを知ったり、ちがうから、おもしろい」

 

と朗らかな笑顔で話す彼女の言葉が、心に残っています。

お兄さんの趣味はスイーツ作り。焼きたてのケーキにホイップクリーム。頬が緩みます・・

 

お店はあまりないから皆自分で作るのが殆どだそうです。料理も、修理も何でも。

お父さんの得意料理は、豚肉の生姜焼きで、弟さんの大好物。

おすすめのコンビネーションは、パンにチーズとルバーブジャム

 

お兄さんの夢は、フォトグラファーになること。
スヴィノイ島(Svínoy)やフェロー諸島のことを伝えて行きたい思いがある。

 

夢に向かって70kgのルバーブジャムを作り、バザーで販売し大好評で寄付を集める事ができ、念願のカメラを買えたそうです!

 

※参考リンクから彼の日々の便りをぜひご覧ください

彼らの空色の家のルバーブ畑

 

ルバーブやじゃがいもが実る畑には、煮物にしようか卸しにしようか、と和食用に植えたという「大根」の白い姿もありました。

 

季節の野菜が瑞々しく育つこの庭は、彼らのお爺ちゃんのそのまたお母さんの時代からの遊び場でもあったそう。

冬の暖、今も大事な燃料の一つ、ピート(泥炭)。

 

夏にたくさん掘って、ピート小屋で乾かし、冬に備える。

女性や子どもが家に運ぶ仕事を担ってきて、電気がくる前はたくさん使っていたので大変だったそうです。

 

子どもたちの通う学校だけ、フェローの南の島で採れるコールを使い、みんなが登校する前に毎朝、村のおばあちゃんが教室を温めておいてくれた思い出は、45年前のこと。

村人の散歩道を抜けて丘を登ると古いピート小屋の跡。海の向こうに、フグロイ島(Fugloy)を臨む。

 

時を経て、営みの痕跡に立つ人は変わっていきますが、目の前に広がる景色はどのように感じるでしょうか。

フェリー着き場とは別の場所にある船着場。季節や海流によって使う。

 

「夏は、魚がよく釣れて、叔父さんが釣った鮭を、お寿司にして食べるのを楽しんだりの時期。

夜もずっと明るいから、”Gevi minir(ジェウェ ミーネル)” という遊び、日本でいうかくれんぼをよくする。緑の草原に伏せたりして隠れ、探す方が暗号を言うと、隠れている方が返事をする。

何処にいるかを、耳を使って音を頼りに探すゲームだよ」

 

「冬は、海からの日の出と赤い空。冬は嵐が多いけど、クリスマスの頃、星がすごく綺麗だった。あれは確か、月がない寒い夜」

 

なぜだか、まるで隣にいたかのように、懐かしく想う気持ちになりました。

「太陽のおかげで風がくる」、風の言葉。

 

フェロー語には雨や霧、風、天候やサイクルの状況からくる自然の様子の言葉がたくさんあります。彼女の好きな風はハッピーな気持ちやいい気持ちの風、「Lot(ロット)」。
雲が覆っていた空の隙間から、太陽が顔を出した時に吹く風は、「Sólvindur(ソルウィンドゥ)」といい、感謝する気持ちを持つそう。

 

天気に関する言葉が多様なのは、フェロー諸島の歴史、バイキングの暮らしの上でも重要だったのかもしれませんね。

村のダンスホール。修繕を重ね1908年から守られているそうです。

 

バイキングの言い伝えを歌と踊りで表現する、フェローの伝統、チェーンダンス。

リードシンガーが皆を引っ張り、フレーズを繰り返し合唱し(リフレイン)、リズムに合わせて全員で輪になって踊る。

 

バイキング時代から続くこの舞踊は今ではフェローにのみ残るそうで、世代、世代に伝承し続けてきたことは、固有の言語や文化の継承に関わってきたのかもしれないと感じました。

“一言で表すなら、家族。家族がいる、友だちがいる、このスヴィノイにいるのが、私は一番好きなの”

チェーンダンス、村のダンスホールにて。

 

◾️参考リンク:

スヴィノイ島(Svínoy)で出会った方は、

現在、日本人ツーリスト向けにツアーガイドをされています。

フェロー諸島への旅をご検討の際は、ぜひホームページをご参考ください。

悠久を感じる自然の中、のんびりとした時間との出逢いを。

 

Nonbiri Travel
https://www.nonbiri-travel.com/

 

フェロー諸島からの日々の便りはこちらから拝見できます
https://www.facebook.com/nonbiritravel/

 

この記事は以下の私のホームページから編集しました
https://kaoriuchiyama.com/journey/faroe-islands/

関連記事はこちら

エシカリスタ Vol.33 写真家 内山香織さん

内山香織 Kaori Uchiyama

自然と人や生き物のかかわりをテーマに撮影。作品は、国際写真賞「International Photography Awards 2018, 2017, 2016」、モスクワ国際写真賞「Moscow International Foto Awards 2018」「International Photography Awards One-Shot Climate Change」「International Photography Awards One-Shot Harmony」自然、ファインアート、トラベル、空撮、地球カテゴリー等入選。「LensCulture Exposure Awards 2016」エディターズギャラリー選出。CP+ 2018 DJIブース登壇。写真撮影をとおして、自然の色や形の面白さや、そこから得るハッとする気持ちや想像力を実感するワークショップ開催。

ホームページ:https://kaoriuchiyama.com
Instagram:https://www.instagram.com/kaoriphotography/
Facebook:https://www.facebook.com/kaoriuchiyamaphotography/

私によくて、世界にイイ。~ ethica(エシカ)~
http://www.ethica.jp

ethica編集部

このエントリーをはてなブックマークに追加
Instagram
持続可能なチョコレートの実現を支える「メイジ・カカオ・サポート」の歴史
sponsored 【 2025/3/19 】 Food
私たちの生活にも身近で愛好家もたくさんいる甘くて美味しいチョコレート。バレンタインシーズンには何万円も注ぎ込んで自分のためのご褒美チョコを大人買いする、なんてこともここ数年では珍しくない話です。しかし、私たちが日々享受しているそんな甘いチョコレートの裏では、その原材料となるカカオの生産地で今なお、貧困、児童労働、森林伐...
【ethica Traveler】  静岡県 袋井市の旅 おいしいもの発見!
独自記事 【 2025/3/20 】 Work & Study
日本列島のほぼ真ん中で、駿河湾を囲むように位置する静岡県。その中でも、太平洋に面する西の沿岸部に近いところに袋井(ふくろい)市があります。東西の交流地点として、古くから人や物や情報の往来を支えてきた袋井市は、高級メロンやリゾート、由緒正しき寺院など、未知の魅力がたくさんあるユニークな場所です。今回は、そんな袋井市の中で...
冨永愛 ジョイセフと歩むアフリカ支援 〜ethica Woman Project〜
独自記事 【 2024/6/12 】 Love&Human
ethicaでは女性のエンパワーメントを目的とした「ethica Woman Project」を発足。 いまや「ラストフロンティア」と呼ばれ、世界中から熱い眼差しが向けられると共に経済成長を続けている「アフリカ」を第1期のテーマにおき、読者にアフリカの理解を深めると同時に、力強く生きるアフリカの女性から気づきや力を得る...
【ethica Traveler】 連載企画Vol.5 宇賀なつみ (第4章)サンフランシスコ近代美術館
独自記事 【 2024/3/20 】 Work & Study
「私によくて、世界にイイ。」をコンセプトに2013年に創刊した『ethica(エシカ)』では、10周年を迎える節目にあたり、エシカルでサステナブルな世界観、ライフスタイルをリアルに『感動体験』する場を特集しています。 本特集では、カリフォルニア州サンフランシスコ市のエシカルな取り組みを取材!エシカ編集部と共にサステナブ...

次の記事

表参道ヒルズにフォトジェニックスポット登場! おいしいコーヒーが飲みたくなるアートは必見 【imperfect 表参道】あなたの「おいしい」を、だれかの「うれしい」に。
《第72回カンヌ国際映画祭・Day1》煌びやかなレッドカーペットから、ゴージャスなショットをお届け

前の記事

スマホのホーム画面に追加すれば
いつでもethicaに簡単アクセスできます