カンヌ国際映画祭の3日目を迎えた2019年5月16日、英国が生んだ世界的シンガー&ソングライターであるエルトン・ジョンの半生を描いた『ロケットマン』のワールドプレミア上映がありました。ご本人みずから、トレードマークのド派手なサングラス姿で、カンヌのレッドカーペットに颯爽と登場しました。この音楽史に輝くアーティストに、映画への期待を込めてスポットを当ててみます。
『ボヘミアン・ラプソディ』に続く注目の音楽映画
『ロケットマン』は、日本でも旋風を巻き起こした映画『ボヘミアン・ラプソディ』の製作総指揮を務めたデクスター・フレッチャーがメガホンを取った作品です。実は、『ボヘミアン・ラプソディ』の撮影終了間際に前監督が降板し、最終的に彼が監督を引き継いだため、クレジットこそ製作総指揮ですが、同作の実質的監督とも言われています。
このため、あの空前のヒット作と同じ大きな感動を呼ぶのではないかという期待が高まっている映画でもあります。日本では8月23日よりロードショー公開予定です。
デクスター・フレッチャー監督『ロケットマン』予告編
ピアノバラードの神様、エルトン・ジョン
エルトン・ジョンは今も現役で活動していますが、そのキャリアは長く、最初に大ヒットを飛ばした時期は、ちょうどクイーンの全盛期と重なる1970年代でした。
彼が作曲した数々のピアノバラードは、まさに神の領域とも言える美しさ。曲名を知らなくても、その透明感のあるピアノサウンドと歌声は、誰の耳にも残っているのではないでしょうか。
代表曲と言えば、まずは『ユア・ソング(邦題:僕の歌は君の歌)』です。
この曲のリリースは1970年ですが、実はつい2018年に、英国のデパートのクリスマスCMにエルトン・ジョン本人が出演して、この名曲をバックに自身の半生をフラッシュバックしていく映像が使われて大反響を呼びました。
まさにこれは、映画『ロケットマン』の伏線と言ってもいい映像ですが、この2分ちょっとの動画でも、曲をバックに観ていると最後のシーンでちょっと泣けてきます。
もしかしたら映画も、『ボヘミアン・ラプソディ』以上の涙を呼ぶかも知れません。
ダイアナ妃に贈った歌と、盟友だった作詞家の存在
エルトン・ジョンは、英国で最もリスペストされている音楽アーティストのひとりです。
1997年にダイアナ妃が不慮の事故で亡くなったとき、葬儀の場で追悼歌を歌ったのが、まさに彼でした。
『キャンドル・イン・ザ・ウインド』という曲で、もともとエルトンがティーンエイジャーのころに世を去った米国のスター、マリリン・モンローを偲ぶ歌だったものを、ダイアナ妃のために歌詞を書き換えて歌ったものです。
妃の死を悲しむ人々の気持ちを代弁した詞を急遽書いたのが、エルトンが曲作りのパートナーを長年組んでいる盟友、バーニー・トーピンという人物です。映画『ロケットマン』の中でも重要な役柄で、エルトン・ジョンは、多くの楽曲を、彼とタッグを組んで世に出しています。
キャンドル・イン・ザ・ウインド=風の中のロウソクとは、まさに命のはかなさのメタファーです。このとき書き起こされた1997年版は、急造の歌詞とは思えないほど、ダイアナに対する深い敬意が丁寧に込められた、王妃の死を悼む人々の心をひとつにするような作品に仕上がっています。
映画タイトル曲『ロケットマン』をサプライズ披露
今回『ロケットマン』は、アウト・オブ・コンペティションと言う、バロン・ドールを競うコンペティション部門とは別枠の、いわゆる特別招待作品としてカンヌの地で初めて上映されました。
この映画のタイトルにもなった『ロケットマン』も、エルトンの代表曲のひとつです。宇宙飛行士と言えば、頭脳明晰で健康な肉体を持つエリート中のエリートというイメージがあります。ただ、この楽曲は、家族と離れ離れになって遠い宇宙を旅する職業である宇宙飛行士の悲哀を歌った、なかなか面白い着眼点のメッセージを持ったピアノバラードです。
5月16日の上映のあとのパーティでは、エルトンが自らピアノを弾き、映画の中でエルトンを演じたタロン・エガートンが歌う、というサプライズがありました。
Elton John & Taron Egerton – ‘Rocket Man’ (Cannes Film Festival 2019)
以上、この夏の日本での公開が楽しみな『ロケットマン』のモデルであり、制作メンバーにも名を連ねているエルトン・ジョンのアーティスト像や代表曲を、カンヌからの映像とともにご紹介しました。
最後に、今回のワールドプレミアでレッドカーペットを飾ったセレブたちのショットをご覧ください。エシカでは、カンヌの動向を引き続き配信していきますので、どうぞよろしくお願いします。
ブライス・ダラス・ハワード/ Bryce Dallas Howard
『スパイダーマン3』『ターミネーター4』『ジュラシック・ワールド』など数々のハリウッド映画に出演している米国女優は、『ロケットマン』でエルトンの母を演じています。
アラヤー・ハーゲート/ Araya Hargate
タイの女優、アラヤー・ハーゲートは、髪をアップにし、ワンショルダーのドレスで2日目とは違った装いを披露。イヤリングは、カンヌ国際映画祭のオフィシャルパートナーであるショパールが環境・社会的認証を課した素材だけを使った「グリーン カーペット コレクション」からセレクトされたもの。
ディタ・フォン・ティース/ Dita Von Teese
米国のバーレスクの代表的スター、ディタ・フォン・ティース。ハート型のサファイアをフィーチャーしたネックレスが、首元をゴージャスに飾っています。
マリア・ボルゴ/ Maria Borges
アンゴラのモデル、マリア・ボルゴの耳元を飾るイヤリングは、ショパールの「レッド カーペット コレクション2019」より。
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記者:山田勲
上智大学理工学部卒。1985年ソニー株式会社入社。ソニー・ミュージックエンタテインメントEPICソニーレコードのディレクターを経て、インタービジョン・レーザーフィッシュ取締役などを歴任、ethica編集部では音楽制作の現場経験を活かし、音楽を中心にエンタメ分野のライティングを担当。これまで担当した著書に「デジタルエレクトロニクスの秘法」(岩波書店ジュニア新書)、「0と1の世界」(教育出版・中学国語3)の寄稿がある。
ーーBackstage from “ethica”ーー
1970年代の洋楽シングル曲は、『イエスタデイ・ワンスモア』『サタデイ・イン・ザ・パーク』のように原題のまま日本でリリースされる場合もありました。いっぽう『シェリーに口づけ』『胸いっぱいの愛を』など、邦題がついているものも多かったのですが、たいてい日本のレコード会社のディレクターが命名していました。
エルトン・ジョンの楽曲のうち、『僕の歌は君の歌』は、まあ『ユア・ソング』のままでもよかったような気がします。ただ、秀逸だと思ったのが『黄昏のレンガ道』(原題:Goodbye Yellow Brick Road)です。本編では紹介しませんでしたが、この曲も彼の代表作です。
リリース当時、私は中学生で、ラジオでこの曲を耳にしたときは、英語の歌詞はわかりませんでしたが、夕陽に染まったレンガ道を歩く情景が、メロディを通じて浮かび上がってきたのを憶えています。
私は勝手な想像から、レンガの塀が延々と続く道のある観光地を訪れた旅人が、その景色を眼に焼き付けながら想い出とともに都会に戻ろうとしている歌かと思っていました。しかし、今になって歌詞を見直してみると、都会に出てきた若者が田舎に帰りたい、と言っている真逆の内容でした。
もしかしたら、スターとなったエルトン・ジョンを傍で見ていたバーニー・トーピンが、ときには生きづらい芸能界への皮肉も込めて書いた歌詞かも知れません。映画では彼の存在が、どんな風に描かれているかも楽しみです。
私によくて、世界にイイ。~ ethica(エシカ)~
http://www.ethica.jp