《第72回カンヌ国際映画祭・最終日》韓国映画初のパルム・ドール受賞で閉幕
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《第72回カンヌ国際映画祭・最終日》韓国映画初のパルム・ドール受賞で閉幕

パルム・ドールを受賞したポン・ジュノ監督(写真提供:Chopard)

2019年5月25日、第72回カンヌ国際映画祭の最終日に最高賞のパルム・ドールに輝いたのは、ポン・ジュノ監督の『Parasite(英題)』でした。韓国映画としては、カンヌ史上初の快挙です。『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』などで知られるアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ/Alejandro González Iñárritu審査委員長によれば、満場一致でこの作品が選ばれたそうです。

全9回に渡ってお楽しみいただいた2019年カンヌ連載企画の最終回は、栄誉ある最高賞を手にしたポン・ジュノ監督の作風を、華やかなクロージングセレモニーの模様とともにお伝えします。

パルム・ドール受賞作『Parasite』は、どんな作品?

2018年の『万引き家族』に続き、今年もアジアの映画が受賞したことが話題に上っていますが、どちらの作品も貧困や社会格差を扱った映画である、と言うことに、カンヌ国際映画祭の「良心」のようなものを感じます。

豪華絢爛なレッドカーペットの世界とは全く違う情景をスクリーンの中に映し出した2つの作品が、国際的な映画人たちに2年連続で選ばれたということの背景には、地球上に蔓延する理不尽な社会格差があるのかも知れません。

パラサイト、すなわち「寄生虫」と名づけられたこの物語は、貧乏のどん底にある家庭の息子が、大学の在学証明書を偽造して、裕福な家に家庭教師として潜入することから始まります。映画は「貧乏=可哀想」と言うお涙頂戴ストーリーに走らず、ユーモアを交えた独特な切り口で、社会を分断している格差という現実を炙り出していきます。

パルム・ドールを受賞した『Parasite(英題)』予告編〜PARASITE Official Int’l Teaser Trailer
ポン・ジュノ監督、パルム・ドール受賞発表の瞬間〜La Palme d’Or est attribuée à Parasite de Bong Joon-Ho – Cannes 2019 (Cinéma CANAL+)

格差を描いてきた韓流エンタテインメントの流れ

韓国作品が日本でブレイクした記憶のなかに刻まれているのが、2000年代前半の『冬のソナタ』に代表される韓国ドラマブームです。そのころの韓国ドラマのお決まりのパターンのひとつが、貧乏な家の子と裕福な家の子が恋に落ちてしまい、親に反対されると言うものでした。

パルム・ドールに輝いたポン・ジュノ監督も、その韓流の血を受け継いでいるのでしょうか、これまで何度も、底辺に生きる人々や格差社会をテーマにした作品を、この世に送り出して来ました。

実は、ポン監督は2008年に、日本人俳優が出演した作品の脚本・監督を務めています。3人の外国人監督が東京を題材に制作した短編3本からなる『TOKYO!』というオムニバス映画で、3本目の『シェイキング東京』を彼が担当しています。

10年間、引きこもりを続けている男を香川照之さん、その家にピザを届ける配達員を蒼井優さんが演じているのですが、大都市の中で世間から断絶して一人ひっそり暮らす男の存在を、味のある独特な表現手法で描いています。

2013年の監督作『スノーピアサー(英題:Snowpiercer)』では、同じ列車の前方には富裕層が、最後尾には貧困層が乗車している、という奇想天外な設定で格差社会を表現するというチャレンジをしています。

映画『スノーピアサー』予告編〜シネマトゥデイ

上記2作品は、海外との合作によるもので、彼のバイオグラフィーの中では異色なラインナップです。ただ、今回のパルム・ドール受賞作は、韓国の格差社会を描いたローカルな作品にもかかわらず、カンヌの審査員全員の意見が一致して選出されたことに感慨深いものがあります。

パルム・ドールを受賞したポン・ジュノ監督(左)と、審査委員長のアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ(右)(写真提供:Chopard)

華やかなクロージングセレモニーで閉幕

今回のカンヌでは、こちらの記事でご紹介したペドロ・アルモドバル監督の『Pain and Glory』で主演を務めたアントニオ・バンデラスが、主演男優賞を受賞したことにも注目が集まりました。

12日間に渡って行われた映画祭は、若手俳優にショパール・トロフィーを手渡すゴッドマザーに抜擢された中国の女優、チャン・ツィイーや、21歳の若さでコンペの審査員を務めた米国の女優、エル・ファニングが新たな装いで登場するなど、華やかなクロージングセレモニーとともに幕を閉じました。

エシカでは、カンヌ国際映画祭のオフィシャルパートナーであるハイジュエラー、ショパール様の協力のもと、現地の模様をレポートしてまいりました。最終回までご愛読ありがとうございました。

チャン・ツィイー(写真提供:Chopard)

チャン・ツィイー(写真提供:Chopard)

エル・ファニング(写真提供:Chopard)

エル・ファニング(写真提供:Chopard)

フランスの女優、ステイシー・マーティン/ Stacy Martin(写真提供:Chopard)

ルーマニアの女優、カトリネル・マーロン/ Catrinel Menghia(写真提供:Chopard)

公式サイト
https://www.festival-cannes.com/

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記者:山田勲

上智大学理工学部卒。1985年ソニー株式会社入社。ソニー・ミュージックエンタテインメントEPICソニーレコードのディレクターを経て、インタービジョン・レーザーフィッシュ取締役などを歴任、ethica編集部では音楽制作の現場経験を活かし、音楽を中心にエンタメ分野のライティングを担当。これまで担当した著書に「デジタルエレクトロニクスの秘法」(岩波書店ジュニア新書)、「0と1の世界」(教育出版・中学国語3)の寄稿がある。

ーーBackstage from “ethica”ーー

以前、韓国ドラマを扱う仕事をしていたことがあって、韓流作品は数々観てきました。2000年代前半には、本文で紹介した身分の違う男女の悲恋、という定番が流行りでした。しかしその後、サスペンスありコメディありと、韓流エンタテインメントは大きな進化を遂げてきたので、今回パルム・ドールが初めてと聞いて、少し不思議なくらいです。

映画では、『シュリ』『猟奇的な彼女』『私の頭の中の消しゴム』が日本でも有名ですが、私のオススメは日本で2017年に『22年目の告白 -私が殺人犯です-』としてリメイクされた、パク・シフ主演の『殺人の告白』です。最後まで結末が読めないスリリングな展開がすばらしい映画です。

今回パルム・ドールを獲得したポン・ジュノ監督の代表作に『殺人の追憶』という映画もあって、ちょっと紛らわしいのですが、実はポン監督の『殺人の追憶』にヒントを得て制作されたのが『殺人の告白』なのです。

順番にまとめて観てみると面白いかも知れません。

『殺人の追憶』にインスピレーションを受けて制作された『殺人の告白』予告編〜cinemacafenet

私によくて、世界にイイ。~ ethica(エシカ)~
http://www.ethica.jp

山田 勲

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