パラリンピックに懸ける思い【前編】/ 車いすテニス・船水梓緒里さん
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パラリンピックに懸ける思い【前編】/ 車いすテニス・船水梓緒里さん

Photo=Kawamura Masakii ©TRANSMEDIA Co.,Ltd

車いすテニスを始めてわずか2年で世界国別選手権のジュニアクラス日本代表に選出され、その後2018年8月にはジュニアの世界ランキング1位となった船水梓緒里さん(三菱商事所属)。中学1年生の時、事故で車いす生活を余儀なくされ、人生に絶望しかけていた船水さんを救ったのが車いすテニスでした。

今回は来年の東京パラリンピックでの活躍が大いに期待される「車いすテニス界のシンデレラ」船水さんに、車いすテニスに出会ったいきさつやその魅力、パラリンピックに懸ける思いなどを伺ってみました。

(聞き手:ethica副編集長・萱島礼香)

Photo=Kawamura Masakii ©TRANSMEDIA Co.,Ltd

萱島: 今日はよろしくお願いします。

船水さん: こちらこそよろしくお願いします。

萱島: まず船水さんの生い立ちを伺えればと思います。幼い頃はどんな女の子でしたか?

船水さん: 小さい頃から体を動かすことが大好きで、家の中で本を読んだり、テレビを見たりじっとしていることが苦手で、少しでも時間があれば外に出て、近所の友だちと遊んでいました。

萱島: 外遊びがお好きだったのですね?

船水さん: はい、そうです。小学生の頃は暗くなるまでずっと外で遊んでいました。

萱島: 初めてスポーツをやったのは何歳ぐらいでしたか?

船水さん: 4歳か5歳くらいの頃にスキーを始めました。

萱島: ということは、お生まれは北のほうですか?

船水さん: いえいえ、生まれも育ちも千葉県の我孫子です。ただ、お父さんがコーチの資格を持っているほどスキーが大好きで、その影響で小さい頃からスキー場に連れていかれて、お父さんにスキーを習っていました。泣きながら滑っていた記憶もありますね(笑)。

萱島: スパルタ教育だったんですね。スキーは冬のスポーツですが、他の季節は何をやっていましたか?

船水さん: 小学校の頃は水泳が基本で、中学時代はソフトボール一筋でした。お父さんとよくキャッチボールをしていたこともあって、お父さんと一緒に東京ドームに巨人戦を見に行ったこともありました。今でもたまに行きますよ。

萱島: ソフトボールのポジションはどこでしたか?

船水さん: 左利きなのでファーストを守っていました。ボールを取るのが好きなんです。

ソフトボールから車いすテニスへ

萱島: 車いすテニスを始めたきっかけは、どういうことだったのですか?

船水さん: 車いすになってすぐの頃、たまたま家の近所の柏で全日本マスターズ選手権という車いすテニスの大会があって、お母さんに「一度見に行ってみない?」と誘われました。

ただ、その頃は車椅子になった自分を、まだ受け入れることがあまりできていなかったので、自分から積極的に見に行ってみようという感じではなくて、お母さんに声をかけてもらったから、じゃあ、行ってみるかというそんな気持ちでした。

そうしたら、ちょうど国枝(慎吾)さんが試合をやっていて、車いすでスポーツができるとは思ってもいなかったので、まずそのことにすごく驚きました。とにかく国枝さんが打つボールはものすごいスピードでしたし、車いすで走るのも本当に速かった。普通のテニスと全く変わっていなかったので、そこに感動して自分もやってみたいなと思ったのです。それがきっかけですね。

Photo by MC Communications Inc.

萱島: 今、車いすになった自分を受け入れることができていなかったとおっしゃいましたが、その当時のことをお話していただいてもよろしいですか?

船水さん: はい、大丈夫です。

私は中学1年生の時に事故で車いすの生活を余儀なくされて、入院生活は半年と結構長かったのですが、その間は自分ではもう1回歩けるようになるんじゃないか、普通に立って今までのようにスポーツができるんじゃないかと思って、リハビリを頑張ってやっていました。1日も早く病院から学校に復帰しようという気持ちが強かったですね。

でも、いくらリハビリをしても一向によくならないし、車いすを使わなければ外に出ることができません。それに、車いすで外に出ても周りの人の目をどうしても気にしてしまいますし、電車に乗るとなってもエレベーターがない駅もあったりして、ちょっとした段差でも人の手を借りなくてはなりません。

ですから、思うように遊びにも行けないこともあって、車いすになった自分を受け入れることが全くできなかったのです。外に出るのは嫌だなあと思って、内にこもってばかりいました。仲のいい友達と会っても、車いすの自分が友だちよりも低く見えて仕方がなかったんですね。

車いすテニスに出会ったのはそんな時でした。もともとスポーツが好きでしたから大きな刺激を受けました。車いすでも堂々としていていいんだ。車いすは自分の足なんだからスポーツだってできるんだと思うようになったんです。その意味で、お母さんには感謝しています。

Photo=Kawamura Masakii ©TRANSMEDIA Co.,Ltd

萱島: 船水さんの人生を変える出会いがそこにあったんですね。以前、テレビで国枝選手のプレーを見たことがあるのですが、その時、動くのがめちゃくちゃ速くてすごいなと思いました。

船水さん: たしかに国枝さんは、本当にすごいです。なかなかあそこまではできません。

萱島: 車いすテニスに出会って、すぐに練習を始めたんですか?

船水さん: いいえ、実はそうでもないんです(笑)。中学1年の夏にケガをして、その年の冬に大会を見に行きました。感動はしましたが、実際にやるまでにはまだ葛藤があったんですよ。

たしかにやりたい気持ちはあって体験もしたのですが、すぐにはこれで頑張ろうとはならなくて、その頃はまだソフトボールはやめずに部活にも参加していました。仲間と一緒にいるだけで楽しかったですから。

結局、車いすテニスの練習を始めたのは中学3年生の夏前頃でしたね。ただ、あくまでもリハビリの一環としてで、これで世界を目指そうなんて気持ちはこれっぽっちもありませんでした(笑)。

Photo=Kawamura Masakii ©TRANSMEDIA Co.,Ltd

世界一を目指す世界の選手たちに憧れた

萱島: 高校生になってから本格的に練習をスタートしたのですか。

船水さん: 高校1年生の時に世界国別対抗戦という大きな大会が東京であって、日本代表選手に選んでいただきました。その時、世界の同じ歳の子たちと試合をしたものの、全く歯が立たなくてボロボロに負けてしまい、レベルの差をいやというほど感じました。

各国の同じ歳の選手たちは、誰もが真剣に車いすテニスに打ち込んでいて、本気で世界一を目指してやっていました。私はその姿を見て、何て格好がいいんだろうと憧れてしまいました。そして、自分も同じくらい、いや、それ以上練習してもう1回彼女たちと戦って、自分がどのくらいできるのかを試してみたいと思いました。

この試合からですね、本気で強くなりたいという気持ちが芽生えて、真面目に練習に取り組み始めたのは。

萱島: 普段の練習というのは毎日どのくらいやっているのですか?

船水さん: 授業があるので、行く前の1時間半から2時間くらいやって、授業が終わってから週に2、3回トレーニングをしています。

萱島: 朝が早いですね。

船水さん: そうですね。5時には起きますから早いですね。冬は外が真っ暗ですから。そんな時間にいつも付き合ってくれているコーチには感謝しています。

Photo=Kawamura Masakii ©TRANSMEDIA Co.,Ltd

嬉しかったこと、苦しかったこと

萱島: これまでいろいろな試合に出てこられたと思いますが、その中で嬉しかったこと、苦しかったことなど何か印象に残っているシーンやエピソードはあればお聞かせください。

船水さん: 一番印象に残っているのは、さっきもいった2016年の国別対抗戦ですね。車いすテニスを競技として本格的にやろうと決心するきっかけとなった試合ですから。自分の中では一番印象に残っています。

悔しかったのは、ジュニア世界マスターズといって、世界のジュニアのトップ8人だけが出場できる大会があるのですが、その2018年の大会ですね。決勝戦でアルゼンチンの選手と対戦して、途中までリードしていたのですが、結局負けてしまいました。今までの人生の中で最も大きな試合でしたから、あの時は本当に悔しかったですね。

大会が行われたフランスはテニスのメッカでもあって、お客さんもたくさん見ていました。マッチポイントを取ると拍手をして、会場全体で盛り上げてくれる雰囲気がすごくて、私はそれに動揺してしまってマッチポイントを何本も逃してしまったんですよ。

でも、初出場だった私に対して、相手の選手は毎年この大会に出ているので落ち着いていて、その差が出たのかもしれませんね。

その時、大会では結果を残すことができなかったのがとにかく悔しかったのです。

萱島: 高校生になってから本格的に練習をスタートして、わずか3年でジュニアの世界一ってすごいですよね?その大会では悔しい経験もされてますが、きっとまた次につながるのではないかと思います。

次に、現在は筑波大学の1年生ということですが、大学生活についてもお聞きしたいです。

船水さん: この春に入ったばかりですが、今も高校時代と変わらず、朝は6時半から8時半に練習してから授業に行きます。

(後編に続く)

パラリンピックに懸ける思い【後編】 車いすテニス・船水梓緒里さん

船水梓緒里(車いすテニス選手)

千葉県我孫子市出身。三菱商事所属。筑波大学在学中。中学生の時に事故で脊椎損傷し、車いす生活となる。2016年4月より本格的に車いすテニスの練習を始め、わずか4ヵ月でジュニア大会優勝。2018年は世界ジュニアマスターズに日本人で唯一選出され、ダブルス優勝、シングルス準優勝を飾った。国際ランキング シングルス23位(2020年1月現在)。

聞き手:ethica副編集長 萱島礼香

法政大学文学部英文学科卒。総合不動産ディベロッパーに新卒入社「都市と自然との共生」をテーマに屋上や公開空地の緑化をすすめるコミュニティ組織の立ち上げと推進を経験。IT関連企業に転職後は、webディレクターを経験。主なプロジェクトには、Sony Drive、リクルート進学ネット、文化庁・文化遺産オンライン構築などがある。その後、国立研究機関から発足したNPO法人の立ち上げに参加し、神田神保町の古書店をWEBで支援する活動と、御茶ノ水界隈の街の歴史・見どころを紹介する情報施設の運営を担当した。201811月にwebマガジン「ethica」の副編集長に就任。

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ethica編集部

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