「SDGsは答えが出ている問題集」第一人者が語るサステナブルな企業経営
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「SDGsは答えが出ている問題集」第一人者が語るサステナブルな企業経営

SDGs研究と実践に取り組む蟹江憲史氏(慶應義塾大学大学院教授)

2020年2月4日、墨田区産業振興課主催の講演会「SDGsから見えてくるこれからの中小企業」が開催されました。そもそもSDGs(エスディージーズ、持続可能な開発目標)とはなにか? 企業がSDGsを活用することの意義やメリットは? SDGs研究と実践に取り組む蟹江憲史氏(慶應義塾大学大学院教授)の基調講演から、企業経営とSDGsのかかわりにフォーカスしてレポートします。

(記者:ethica編集部・のび子)

SDGsは、2030年の世界の姿

基調講演は、SDGsとはなにか、という基本知識の共有から始まりました。

SDGsは、2030年までに持続可能でよりよい世界を実現させるための国際目標で、17の目標と169のターゲットで構成されています。急速な経済成長によって、今地球の環境は限界に達しつつあります。今後さらに人口が増大していくと予想される中で、従来通りの生活を続けていては破たんしてしまう。そういった危機感が、SDGsの生まれた背景になっています。

経済、社会、環境の問題は相互につながっています。さまざまな課題を踏まえ、これまでとは違った価値観で経済成長をしていくためのヒントがSDGsのなかにあると蟹江氏は語ります。

蟹江憲史氏(以下、蟹江 敬称略): 私は、SDGsとは、2030年の世界の姿だと考えています。2015年に開かれた会議で、国連に加盟するすべての国が一致して2030年に向けたこの目標に合意したことは貴重で、重要なことです。

蟹江: SDGsには17の目標があります。貧困、健康、教育、ジェンダー、エネルギー、環境などの問題、そして、経済成長。持続可能な社会の実現というと、これまで環境問題の議論に偏りがちでしたが、同時に経済も成長していかないと持続可能な世界にならないという考え方がSDGsの特徴のひとつと言えます。

17もの目標があるなかで、すべてに取り組む必要はないんです。入り口がたくさんあると考えていただいていいと思います。入り口が17あり、17の目標にはより具体的な169のターゲットが設けられていますから、持続可能な社会の実現に取り組むきっかけがつかみやすいのがSDGsなんです。

国連で採択されたといっても、SDGsはルールではなく、法的な義務がありません。取り組まなかったとしても何らペナルティはない。でも、だからこそとも言えますが、取り組めば良い結果につながっていく可能性があります。

企業がSDGsに取り組む意義

SDGsは個人や消費者にとっても今後の世界の在り方を考えるうえで重要な指針ですが、一方で企業がSDGsに取り組むことで、どんなメリットが生まれるのでしょうか。蟹江氏は具体例を挙げて説明しました。

マッピングと見える化 目標をかかげることが効果を生む

蟹江: 会社の起業の理念や経営方針として、社会貢献を掲げる創業者は多いんです。その思いは、SDGsのいずれかの目標に合致してきます。SDGsを考えることは、会社の本来の姿に立ち返ることを促し、目標を当てはめることでそのことを世界の共通言語で表すことができます。会社が何をやろうとしているのかを、SDGsのアイコンをマッピングすることで見える化できるんですね。

蟹江: 一歩踏み込んだ例として、トヨタ自動車株式会社は2030年の会社のあるべき姿・目標を、SDGsのアイコンを使って示しています(写真上)。工場のCO2排出ゼロ、新車のCO2排出ゼロ……そんなことが書かれています。実現できる保証はなくても、あえて目標として掲げることで、そういう会社の車を買いたいという消費者や、投資しようという動きが出てきたり、社内でアイデアが生まれたり、さまざまな効果が生まれます。

取引先からの要請や新しい需要

蟹江: クレームにつながるリスクを避けたいということから、取引先が、人権への配慮、環境への配慮、経営の透明性などSDGsに取り組むことを求める場合もあります。

蟹江: また、SDGsに対応した会社と積極的に取引きしたい、という企業もあります。神奈川県にある株式会社大川印刷は、他社に先んじて、再生可能エネルギーを使ったCO2ゼロ印刷を始めました。それによって印刷コストは上がってしまったものの、新しい取引先が増え、結果的にビジネスがどんどん広がっていきました。

企業の価値をはかる基準に

蟹江: サステナブル投資・サステナブル融資というのも増えています。金融庁の資料で(写真下)、企業の価値というのは半分以上が、お金で表せないものだというデータがあります。でも、その会社が何をやっているか、お金以外の価値をはかる基準はなかなかない。そこでSDGsへの関心が高まり、株式会社日本経済新聞社は昨年「日経SDGs経営大賞」を立ち上げて、経済、社会、環境などへの取り組みで企業の価値をはかるランキングを作成しました。SDGsに取り組む企業を認定し、応援する自治体も出てきています。

消費者の意識の変化

蟹江: 消費者の意識も変わってきていて、東京ガールズコレクションでは今年、「SDGsの推進」をテーマに掲げて、モデルがリサイクルした服を着るなどの取り組みがあり、話題になりました。

また楽天株式会社は楽天市場で、サステナブルの認証を受けた商品を専門に売る「Earth Mall with Rakuten」をオープンし、サイトを見る人も買う人も増えているそうです。

企業はどう取り組むべきか?

では、SDGsを経営にいかすために、企業はまず何をしたらいいのでしょうか。

蟹江: SDGsに取り組むにあたって、大きく3つのことが必要だと思います。

1つは未来への視点。目標を掲げ、それをSDGsで表現すること。

2つめは総合的な視点。製品や商品でいえば、サプライチェーンで考えること。材料の調達から、製品ができて、流通、廃棄まで。目の前にあるものだけでなくその裏にあるストーリーを考えていくこと。消費者も、それを見る目を持ちつつあります。

難しくて、そこで立ち止まってしまう人もいるかもしれませんが、SDGsは自由です。3つめは、これならできる、という自分たち独自のやり方を見つけること。

また、SDGsを知らずに、サステナブルな取り組みをもともとやっている方もおられます。そういう方たちは行政などが見つけて評価して応援していく、そういう仕組みや枠組みに活用できるのが、このSDGsなんじゃないかと思います。

「SDGsは問題集」 起業家の発想のヒントに

講演会の終盤、質疑応答の時間に「これからSDGsの考え方をもとに起業をしようとしている人たちに、伝えたいことはありますか」という質問が投げかけられました。

蟹江: 僕は学生たちに「SDGsは問題集だ」という話をよくするんです。普通の問題集は問題が載っていてその答えを考えるものですが、SDGsの場合は答えが出ていて、どうやったらそこに到達できるかを考える。それぞれの人がそれそれのやり方で、ゴールを達成できるように工夫する取り組みなんです。そこで大事になってくるのは、自由で柔軟な発想に対して「やってみなよ」と言える周りの人間の寛容さだと思っています。

経営者のトークセッション「SDGsから見えてくるこれからの中小企業」

蟹江憲史(慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科教授)

北九州市立大学助教授、東京工業大学大学院准教授などを経て現職。博士(政策・メディア)。

大学の研究室では、地球温暖化や気候変動の問題を中心に、地球環境ガバナンスの課題に取り組む。SDGs策定から 国連でのSDGs設定に参画。SDGs研究の第一人者であり、研究と実践の両立を図る。

記者:のび子

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のび子

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