経営者のトークセッション「SDGsから見えてくるこれからの中小企業」
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経営者のトークセッション「SDGsから見えてくるこれからの中小企業」

phpto =okawaglass 大川硝子工業所の商品「地球びん」。1976年から製造されているロングセラーなアイテム

2020 年2月4日、墨田区産業振興課主催の講演会「SDGsから見えてくるこれからの中小企業」が開催されました。墨田区はものづくりを担う町工場や中小企業が多いエリア。区内で活躍する経営者4人が登壇し、これからの中小企業の経営とSDGs(エスディージーズ、持続可能な開発目標)の取り組みについてディスカッションしました。内容の一部をレポートします。

(記者:ethica編集部・のび子)

中小企業経営とSDGsの取り組み

パネルディスカッションに登壇した4氏はまず、自身が経営する企業の事業内容や運営するプロジェクトについてスピーチし、SDGsの取り組みについてコメントしました。

ディスカッションのコーディネーターは、SDGs研究の第一人者である蟹江憲史さん(慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科教授)。4氏の事業について、SDGsの17の目標をマッチングし、解説を加えました(発言者名敬称略)。

左はコーディネーターの蟹江憲史さん(慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科教授)。右手の4名はディスカッションのパネリスト。左から大川岳伸さん(株式会社大川硝子工業所 代表取締役)、荘司美幸さん(有限会社ThreeDo’s 代表取締役)、乘浜誠司さん(株式会社ナレッジコンスタント 代表取締役)、山口明宏さん(山口産業株式会社 代表取締役)

SDGsの17の目標。SDGsは、2030年までに持続可能でよりよい世界を実現させるための国際目標で、17の目標と169のターゲットで構成されています。

1916年創業の老舗ガラスびんメーカー

株式会社大川硝子工業所は、創業1916年の老舗ガラスびんメーカー。ペットボトルなど他の素材にシェアを奪われて、ガラスびんの生産量は年々減少しています。代表取締役の大川岳伸さんは、ガラスが天然素材でできていることや、日本のガラスびんのリサイクル率の高さなど、ガラスびんが環境に優しい製品であることを知ってもらうよう活動し、世界共通の目標であるSDGsを活用して海外の企業とも取引きしています。

大川: 欧米では環境に対する意識が高く、飲料メーカーのなかにはガラスびんを使った商品をラインナップすることをポリシーにしている企業もあります。それは日本も参考にしなければいけない考え方だと思います。

蟹江: 天然素材でできているものを使うことは、健康にもつながります。ガラスびんはリサイクル率が高いということではエネルギーや気候変動にも関係している。SDGsの17の目標で言えば3、7、12、13…とさまざまなゴールに貢献していますね。

子ども食堂「すみだ食堂」を運営

荘司美幸さんが経営する有限会社ThreeDo’sは、墨田区内で2店舗の飲食店を経営する会社です。制度、風土、ムード、3つのDo(ド)が変われば地域が変わっていくのではないか、という考えから社名を発案。2016年、子どもの貧困のニュースを見たことをきっかけに勉強会を開くようになり、食を通じて地域で支え合う仕組みを作ろうと2017年、子どもに食事と安全な居場所を提供する「すみだ食堂」をオープンしました。

荘司: 飲食店は、まず場所があります。それに食べ物の備蓄がある。それがこの活動を可能にしていますが、経済的に持続が難しい事実もあります。SDGsは「すみだ食堂」をはじめた後で知ったのですが、世界基準で考えても間違ったことはしていないなと安心できました。今後はフードロス削減に取り組んでいる方とも連携していけたらと考えています。

蟹江: SDGsの観点から見ますと、1の貧困をなくそう、栄養のある食事を提供されていますから2の目標や、3の健康と福祉という目標にも貢献されています。9の社会のインフラ整備にも関わっていらっしゃいますね。

過疎化した地域を活性化

株式会社ナレッジコンスタントは、ITシステムの開発やコンサルティング業をメインの事業としています。代表取締役の乘浜誠司さんは鹿児島県種子島出身。東京で仕事をする中で種子島西之表市の市長と話す機会があり、故郷の深刻な過疎化を知らされます。空いている土地の有効活用を持ちかけられた乗浜さんは、地域の企業や金融機関と連携しながら種子島で太陽光発電の会社を設立しました。

乗浜: 世帯数では370世帯ほどの電力を太陽光発電でまかない、C02排出量は従来から約400トン削減することに成功しました。

蟹江: 再生可能エネルギーの利用を増やす、ということでは7のクリーンなエネルギー、それによって気候変動の対策になっていますから13にも貢献しています。地方創生ということからも非常に重要な事業ですね。

人にも環境にも優しいものづくりを実現

山口産業株式会社は、1938年創業。牛や豚など食肉加工をした後の副産物としての皮をなめす加工会社です。2015年に会社を継いだ山口明宏さんは、人と環境に優しいものづくりをしていくことを先代と約束し、天然由来の成分を使った加工技術を追求。企業としてのあるべき姿を示そうと、「やさしい革の約束」という4つの項目を提示しました。 害獣として駆除されるイノシシやシカの皮を捨てずに、有効資源として加工する「MATAGIプロジェクト」にも取り組んでいます。

山口: SDGsは新聞で記事になっているのを読んで知った程度なんです。でもSDGsの枠組みを通じてモンゴルでプロジェクトができたり、駐日モンゴル大使とつながることもできました。

蟹江: 自然の素材を使って、環境を汚染しないということでは3の目標、また、8や9にも貢献されていますね。動物の生育環境に配慮されているということでは14、15にも貢献しています。

SDGsとビジネスチャンス ガラスメーカーの奮闘

ガラスびんの需要は、1995年くらいをピークに落ち込んでいる現状があります。大川硝子工業所の大川さんは、ガラスびんを使うメリットを広めようと考え、情報を集める中でSDGsに出会ったと言います。パネルディスカッションでは、SDGsがビジネスチャンスにつながっている現状を語ってくれました。中小企業が経営にSDGsを取り入れる好事例として紹介します。

大川岳伸さん(株式会社大川硝子工業所 代表取締役)

大川: ガラスびんの需要は、1995年を境に生産量が減少しはじめ、現在は最盛期の半分以下くらいにまで落ちこんでいます。僕はそんな状況のなかで会社を継いだので、どうしたものかと、経営に悩みました。

皆さんがリサイクルで出されるガラスびんは粉々にして「カレット」という素材になるんですが、ガラスびん1本に含まれるカレットの割合は平均で75%。そして、カレットが再びガラスびんに生まれ変わる割合は82%。日本のガラスびんのリサイクル率はとても高いんです。それに、そもそもガラスびんというのは、すべて天然素材でできています。すごくサステナブルで環境に優しい製品なんですね。

大川硝子工業所が発行しているガラスのリサイクルについてのフライヤーや商品パンフレット

大川: 数年前に海洋プラスチックゴミの問題がクロースアップされたころから、僕は、ガラスびんは環境にいい商品なんだということに着目して、そこに主眼をおいて仕事をしています。

SDGsは、CSR(企業の社会的責任)の一環だと考えている人もいると思います。でも世界的に見たら、SDGsはスタンダードな仕事の取引条件になってきていますね。SNSなどでSDGsへの取り組みを発信すると、環境を意識しているお客様や、海外の方が日本のガラスびんのリサイクル率の高さを知って興味を持ってくれたりしてビジネスチャンスにつながっているんです。

phpto =okawaglass 大川硝子工業所の商品「地球びん」。1976年から製造されているロングセラーなアイテム

大川: 墨田区は中小企業や町工場が多くて、SDGsという大きな目標に対しては「発注元がやりはじめたらうちもやろう」というスタンスになりがちです。でも、消費者に一番近い事業者は中小企業だと思うんです。町工場がSDGsに取り組んでいると近所の人たちが認識すれば消費者の意識も変わってくると思います。

町工場と消費者が密接なつながりを持てるのは墨田区の下町ならではのことです。「SDGsから見えてくるこれからの中小企業」というのはいいテーマだなと思っていて、これからも継続的に、悲観的にならずに、前向きに取り組んでいけたらなと考えています。

「SDGsは答えが出ている問題集」第一人者が語るサステナブルな企業経営

大川岳伸さん(株式会社大川硝子工業所 代表取締役)

2008年大川硝子工業所入社。2016年に5代目代表取締役に就任。東京デザイナー学院とコラボした、ガラスびんの商品開発や、自社商品のリブランディングを行う。原宿キャットストリートの清掃を中心に幅広く活動する530week(ゴミゼロウィーク)に所属し、ゼロウェイストに取り組む。

https://okawaglass.com

荘司美幸さん(有限会社ThreeDo’s 代表取締役)

墨田区内に、「はりや」「二階の食堂 kanegafuchi」の2店舗の飲食店を展開。子育て支援団体の代表であり「すみだ子育てメッセ」実行委員長。2017年、食を通じて地域が支え合う仕組み作りを推進する子ども食堂「すみだ食堂」をスタートした。

https://www.facebook.com/threedos/

乘浜誠司さん(株式会社ナレッジコンスタント 代表取締役)

商社や監査法人を経てコンサルティング会社を設立。AIなどを活用したITシステム構築を含めた業務支援を行う。故郷である種子島では、太陽光発電に取り組む。2020年4月開学の情報経営イノベーション専門職大学で専任教員に就任予定。

http://www.knowledge-c.com/

山口明宏さん(山口産業株式会社 代表取締役)

2015年、レザー製造会社である山口産業株式会社代表取締役に就任。重金属系の工業薬品を使った皮なめしが一般的な中、天然由来の成分を使った独自技術「ラセッテーなめし」により人にも環境にも優しい「やさしい革」を開発した。

https://www.yamaguchi-sangyou.co.jp/

記者:のび子

ーーBackstage from “ethica”ーー

SGDGs17の目標の関係をより分かりやすく「環境」「経済」「社会」の三層構造で表された木の模式図をご紹介します。

環境省コラムより参照:持続可能な開発目標とガバナンスに関する総合的研究

環境、経済、社会を三層構造で表した木の模式図です。木の枝には、環境、社会、経済の三層を 示す葉が繁り、木を支える幹は、ガバナンスを示しています。木の根に最も近い枝葉の層は環境であり、 環境が全ての根底にあり、その基盤上に社会経済活動が依存していることを示しています。また、木が 健全に生育するためには、木の幹が枝葉をしっかり支えるとともに、水や養分を隅々まで行き渡らせる 必要があります。木の幹に例えられているガバナンスは、SDGs が目指す環境、経済、社会の三側面の 統合的向上を達成する手段として不可欠なものです。また、模式図の三層それぞれに、関連の深い SDGs のゴールを当てはめてみると、ゴールが相互に関連していることが一層理解しやすくなります。(環境省コラムより引用:持続可能な開発目標とガバナンスに関する総合的研究)

私によくて、世界にイイ。~ ethica(エシカ)~
http://www.ethica.jp

のび子

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