まずは自分の“半径5m”から愛を広げていく。 エシカルウェディング経験者・沼田暁さんが考える社会貢献のかたち (前編)
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まずは自分の“半径5m”から愛を広げていく。 エシカルウェディング経験者・沼田暁さんが考える社会貢献のかたち (前編)

大手企業に勤めながらも柔軟に社会貢献活動をしたり、エシカルな視点を取り入れている沼田暁さん

エシカルや社会貢献活動に関心があり、何か自分にできることをしたい。でも、いざ何かしようとしても「自分が役に立てることなんてあるのだろうか」と躊躇ってしまう人が多いのかもしれません。筆者である私も、そんな悩みが尽きない一人です。

悩める筆者がある“ウェディングドレス”をきっかけに出会ったのが、今回の主人公・沼田 暁(ぬまた あき)さんです。話を聞いていくうちに、仕事も家庭も大切にしながら、自分とご縁のあった人や取り組みとしなやかに関わっていくあきさんの姿に、何かヒントを見出せるのではないかと感じました。

インタビュー前編では「自身も一歩踏み出すことができずに悩んでいた」というあきさんが考えるエシカル・社会貢献活動との関わり方について、後編では、人生の大切なシーンで選んだエシカルウェディングについてお話を伺いました。

(記者:ethica編集部・ヒカリ)

カンボジア、そしてエシカルウエディングがご縁で『ethica(エシカ)』に?!

ヒカリ: あきさん、お久しぶりです!2年前、一緒にカンボジアへ行って以来ですね。本日はよろしくお願いします。

あきさん: こちらこそよろしくお願いします!

『ethica(エシカ)』は、エシカルに興味がある人たちにとって憧れのメディアなので。お声がけいただいてうれしいです。

ヒカリ: ありがとうございます。そんな風に言っていただけて光栄です…!

最初に個人的なお話をさせていただくと、2年前に自身の結婚式を企画するため「エシカルウェディング」の情報を集めていました。

いろいろ調べていくうち、カンボジアの女性たちが織り上げるシルクブランド「Mekong blue(メコンブルー)」でウェディングドレスの生地を作ることができると知って。

様々なご縁で、先にメコンブルーのシルクでウェディングドレスを作ったあきさんのことを知り、あきさんご夫婦と一緒にカンボジアのメコンブルー工房を訪れる機会までいただきました。

あきさん: ウェディングがきっかけで、今につながるご縁ができたのはすごく嬉しいです。

大手企業に勤めながらも柔軟に社会貢献活動をしたり、エシカルな視点を取り入れる!

ヒカリ: カンボジアでお話したことをきっかけに、エシカルウェディングにとどまらず、あきさんのキャリアの考え方や、お仕事のかたわら取り組まれている、NPOでのプロボノ活動や社会貢献活動のこともお伺いしてみたいと思いました。

『ethica(エシカ)』には、20代〜30代の女性読者さんが多くいらっしゃいます。

仕事も忙しいし、家族や恋人、友達との時間も大切にしたい。結婚や出産など、ライフステージが変化するタイミングでもある。

そんな読者さんの中には、エシカルや社会貢献に関心があるものの、どんな風に関わっていけば良いのか、自分に何ができるのか悩んでいる人も、きっと多いのではないかなと考えています。

あきさん: 確かにそうですよね。

ヒカリ: そうした悩みを持つ読者さんにとって、大手企業に勤めながらも柔軟に社会貢献活動をしたり、エシカルな視点を取り入れたりされているあきさんのお話が、何かヒントやきっかけになるのではないかなと思うんです。

今回のインタビューテーマは「エシカルウェディング」としていますが、前編ではまず、あきさんがエシカルや社会貢献に関心を持たれたきっかけや現在取り組まれている活動、キャリアについてもお聞かせいただきたいです。

それをふまえて後編では、あきさんご夫婦がどんな風にエシカルウェディングを作り上げていったか、実体験をお伺いしたいなと思っています。

あきさん: ありがとうございます!よろしくお願いします。

「まずは自分が幸せにならないと、人を幸せにすることはできない」

ヒカリ: はじめに、あきさんがエシカルや社会貢献といったテーマに関心を持ったきっかけは何ですか?

あきさん: 社会貢献への漠然とした関心は、子どもの頃からありました。幼少期に一緒に暮らしていた祖父が社会活動家だったんです。

様々な社会課題の解決に向けて活動を続ける祖父の姿を見て、子どもの頃から当たり前に「人は社会をよくするために生きるんだ」という考えがあったんですね。

一方、そうした活動をメインに生きる祖父の、金銭的に不安定な生活や苦労する姿も間近で見てきました。

私は「社会貢献できる人間でありたい」と思う反面、「自分は祖父と同じようにはできない」と感じていたんですね。

社会課題を解決することは大事だけど、まずは自分が安定した収入を得て、生活基盤を作ることが重要だと思いました。

「まずは自分が幸せにならないと、人を幸せにすることはできない」と。

ヒカリ: それで、大学卒業後は新卒で大手企業に入社されたのですね。当初から、お仕事のかたわら社会貢献活動をしようと考えていたのですか?

あきさん: 実は、はじめのうちはあまり考えていませんでした。

私、物事を難しく考えてしまう質で、当時は社会貢献活動ってとても崇高なものだと思い過ぎていたんです。

20代でお金もスキルも経験もない自分にできることはわずかだし、小手先の課題解決をしても意味がない、やるならば社会課題の根本から解決しないといけない、と思い込んでいました。

だから、50代くらいまでは普通に会社一本で仕事して成果を上げて、お金もスキルも蓄積された上で、早めに引退して社会貢献活動にフルコミットしようかな、と当初は考えていました。

「自分に何ができるだろう」一歩踏み出せずにいた自分をあと押してくれた言葉

ヒカリ: それはちょっと意外でした。あきさんは、フットワーク軽く様々な活動に参加されているイメージがあったので。

あきさん: そうですよね。社会人4、5年目の時に、自分の考えが少し変わったんです。

私が大学1年生の時、同じ大学の4年生に、NPO法人クロスフィールズ創業者の小沼大地さんがいました。

社会人4、5年目の時に大地さんをはじめ20代から社会起業家として活躍している人たちをテレビで見て、今、動かなくていいのかな」という葛藤が生まれはじめたんですね。

私にできることは限られている、でもこのまま行動しなくていいのか。

悶々としていたところで、ある言葉に出会ったんです。

ヒカリ: どんな言葉ですか?

あきさん: 「しない善より、やる偽善」という言葉です。

たとえ十分な関わり方ができなかったとしても、偽善だと思われたとしても、自分が共感する活動に挑戦してみることが大切だ、と腑に落ちて。

物事を難しく考えてしまいなかなか一歩を踏み出せなかった私にとって、背中を押してくれた言葉でした。

ヒカリ: たしかに、志や理想の高い人ほど「今の自分に何ができるかわからない」と躊躇してしまう人は多いのかもしれません。その思い込みの殻を破ってくれたのが、小沼さんその言葉だったんですね。

あきさん: そうですね。

その後、カンボジアシルクブランド「メコンブルー」のシルクストールを、日本で本格展開しようとしていた、NPO法人ポレポレの代表・高橋邦之さんと出会うきっかけがありました。

カンボジアの女性たちの雇用創出に貢献するというブランドのストーリーや、高品質で美しいプロダクトもさる事ながら、高橋さんの人柄にすっかり惚れ込んでしまって。

「この人のことを応援したい」という想いが抑えきれず、勢いのまま高橋さんに話しかけ、そのままメコンブルーのプロボノとして活動することになりました。

この時に背中を押してくれたのも、やはり「しない善より、やる偽善」の言葉でしたね。

筆者が2年前に訪れたメコンブルーの工房。十分な教育の機会を得られなかったカンボジアの女性たちが、ここで職人として働いている。

地方と都心の若者をむすぶ「もざいくプロジェクト」での活動

ヒカリ: メコンブルーと出会う前にも、都心の若者が定期的に地方を訪れるの地域活性化プロジェクトに携わっていたのですよね?

あきさん: はい。NPOコモンビートが運営する「もざいくプロジェクト」に2年間参加し、長野県大鹿村を定期的に訪れていました。「もざいくプロジェクト」は、都心の若者が地方を訪ねて地元の方々と交流し、そこで感じたことを舞台作品にして発表する、という取り組みです。

私が通っていた大鹿村は人口が少なく、高齢の方の割合も多い地域でした。

ヒカリ: 地方の活性化には、もともと興味があったのですか?

あきさん: 普段出会わない違う魅力を持っている人たちが、出会ってつながるだけでお互いにプラスの効果をもたらす、という現象に興味を持っていたんです。村の方たちは、若い人が訪れることで地域に活気をもたらして欲しいと思っているし、一方の若者は、都会生活では得にくい、地域の温かなつながりや癒しを求めています。

両者を繋いで生まれるものを、舞台芸術という形で表現することに魅力を感じました。

ライフスタイルを大切に、息長く続けられる「プロボノ」という選択肢

ヒカリ: 「もざいくプロジェクト」に2年間取り組んだ後、メコンブルーのプロボノになられたそうですが、プロボノ活動の中で、特に印象に残っている出来事はありますか?

あきさん: 当時NPOポレポレは、カンボジアのシルク事業とは別に、ベトナムの伝統工芸技術と現代のクリエーションを融合させたシューズブランド「Saigon Socialite(サイゴン・ソーシャライト)」の認知度向上に向けたプロジェクトが立ち上がったタイミングでした。私もプロボノチームの一員として新プロジェクトを軌道に乗せるべく活動していました。

あきさん: ただその当時、私は本業が多忙な時期と重なってしまい、プロジェクトに十分コミットできていないなと感じていたんです。成果もなかなか思うように上がらなくて、「貢献できていなくて申し訳ない」と感じてしまったんです。

そんな時、代表の高橋さんが「プロボノの皆さんはいてくれるだけで仏なんですよ」と本気で言ってくれたんです。

プロジェクトに関わってくれているだけでありがたいんだ、と高橋さんが思ってくれているのが伝わってきて、すごく心が軽くなったし、活動に関わり続けやすくなってありがたかった。

ヒカリ: 高橋さん、仏…!

おっしゃるように、プロボノとして活動する時の葛藤というか、十分に打ち込みきれないなとモヤモヤしてしまうことがありますよね。

あきさん: でも、プロボノをする人がいるだけで、プラス0.1かもしれないけれど、少なくともプラスにはなるんですよね。こんな自分でも、何かの役に立てているんだなと。

プロボノという関わり方は、本業に比べると、自分のライフステージや状況に応じて活動量を調整できることが多いように思います。今後、部署異動や昇進があったり子どもが生まれたりすると、その都度できることやキャパシティが変わってくるでしょうけど、プロボノだからこそ柔軟に、継続的に関わり続けることができると思うんです。

自分の興味範囲が広がって「これをやってみたい!」と思った時、まずはプロボノとして飛び込んでみることを選択肢に加えてみても良いと思います。

ヒカリ: あきさん、本当にいろんな活動されていますもんね。

あきさん: 私、社会課題と言われるもの全般に興味があって、節操がないんですけど(笑)

だからこそ、長らく「関心の範囲が広すぎて、何をしたらいいのかわからない」と悶々としてきたけど、いったん動いてみよう!と思うようになってからは、ご縁があったところにコミットしていこうと考えられるようになりました。

ヒカリ: プロボノや社会貢献を継続するコツってありますか?

あきさん: オススメは、家族や恋人、友達など「一緒に時間を過ごしたい」と思う人を楽しく活動に巻き込むこと。

 「もざいくプロジェクト」に取り組んでいた時も、一緒に旅行したいなと思う友達を誘って15人くらいで大鹿村を訪れたことがありましたし、旦那さんのこともよく巻き込んでますよ(笑)

2人で過ごすのも楽しいけれど、時にはお互いの興味や活動に巻き込みあってみると、普通では味わえない特別な体験を共にできると思います。

大きな組織に属しているからこそできる社会貢献活動とは?

ヒカリ: 本業では、NTTデータで人事として活躍されていますね。

あきさん: はい、新卒採用などを担当しています。

これまでお話してきた社会貢献活動やエシカルとは関係ないじゃないかと思われるかもしれませんけど、実は相互に関連していることも多いんですよ。

ヒカリ: というと?

あきさん: たとえば、先ほど話した小沼さんが代表を務めるNPOクロスフィールズは、企業に所属するスキルある人材を発展途上国に送り込み、現地の人たちと課題解決に取り組む「留職」(※)というプログラムを展開しています。

私はこの「留職」にすごく共感して、社内で提案して、その結果社内で導入することになったんです。

導入後、社内異動で担当を離れることになり、ずっとは続かなかったんですけど。数名の社員が「留職」を通じて発展途上国の課題解決を経験することができました。

ヒカリ: 素晴らしいですね。NPOに所属するとか、社会起業家として独立する以外にも、企業に属しながらできることってたくさんありそうだなと思いました。

あきさん: 社会貢献を本気でしたいと考える人にとっても、企業で働き続けることは選択肢に入っていいと思っています。

社会起業家に憧れはあるけど、私の役割は別にあるなと思っていて

それは、お金やリソースを持つところに所属して、そのリソースを社会に良い活動に振り分けること。

だから私は会社とNPOの架け橋的な存在として、これからも働き続けたいと思っていますし、社内で「こんなことをしましょう」と主張し続ける人でありたいと思っています。

ヒカリ: あきさんのように、社会貢献活動を会社のプロジェクトとして位置付けるのはすごくいいアイデアだと思いました。

あきさん: ただ、熱意だけで「これをやりたい」と主張するのではなく、会社にとっても利益になるという根拠をちゃんと示すことは意識しています。

「留職」を導入するときも、社内で「留職が意義のあるプロジェクトだ」と思う人がどれだけいるかデータを取るために、社内イベントに小沼さんを呼んで講演してもらったんです。そこで社員アンケートをとって、実際に「意義がある」という声が多かったので、その結果を伝えました。

ヒカリ: 私はあきさんのことを「想いの人」だと勝手に感じていたんですけど、想いだけではなくて戦略的にもなれる人だったんですね。

あきさん: 私自身、強い想いで活動する祖父をずっと見てきたわけなんですけど、時に熱い想いをぶつけるだけでは、伝わらない人もいると感じたんです。

興味がある人にとっては、熱意あるアプローチでもいいと思います。ってすごく有効です。ただ、誰もが自分と同じ熱量で関心を持っているわけではないですよね。

特に会社で決定権を持つ人ほど、新しい取り組みをはじめて会社として利益が出せるか、今ある事業をきちんと継続できるかをシビアに考えています。だから、相手との熱量の差を意識して、ちゃんと「根拠」を伝えていくことは、毎回大切にしています。

NPOや社会起業家の方が持つ熱い想いを伝わりやすい言語に変換して伝え、会社としても価値がある施策に落とし込むことで、今後もお互いの活動を後押しできるようにしたいですね。

※「留職」とは「留学」からきた造語で、企業に所属する人材が、現在の組織をいったん離れて、グローバル感覚を養うため、一定期間、新興国などの海外で働くこと

半径5mから「世界平和」を目指す

ヒカリ: まだまだ聞きたいことが山ほどあるんですけど、そろそろエシカルウェディングの話に移ろうかと(笑)

あきさん: そうですよね!(笑)

ヒカリ: 最後に一つだけ聞かせてください。忙しい仕事の傍らでも、複数のプロボノ活動や社外活動に関わり続ける、あきさんのモチベーションの源って何でしょう?

あきさん: 世界平和」がモチベーションなんです。何だか小学生みたいですけど。

「世界平和」って言うと大それたことのようだけど、結局は自分と身の回りの人との間にある愛。これが広範囲に広がることが「世界平和」に繋がるんじゃないかなと思っています。

だから、自分の周り半径5mに愛あふれる状態を作り、それをどんどん広げていきたい」というのがモチベーションの源です。

そういう意味では、地方と都心、民間企業とNPO、大企業とベンチャー企業とか、ちょっと距離のあるもの同士を混ぜ合わせて、お互いに対する理解を広げることに興味があるのかもしれない。

人同士の交流を生むことで互いの距離を縮めて、私が思い描く身近な「世界平和」を体現できるようでありたいなと思っています。

(後編に続く)

より「自分らしい選択」が、社会をよくしてくれる。エシカルウェディング経験者・沼田暁さんが考える社会貢献のかたち(後編)

沼田 暁

一橋大学社会学部を卒業後、新卒で株式会社NTTデータに入社。入社以来、採用や社内研修などの人事部門を担当している。本業の傍らNPOでのプロボノ活動など、自らの経験やスキルを活かした社会貢献活動にも積極的に取り組んでいる。好きな言葉は「明日死ぬと思って生きなさい。永遠に生きると思って学びなさい」(マハトマ・ガンジー)

記者:内藤日香里

法政大学法学部法律学科卒。学生時代に東ティモール支援のNPO活動を通じ、フェアトレードに関心を持つ。大学卒業後は区役所に入庁。アフリカ発エシカルブランドにプロボノとして参加。エシカル、サステナブルの取り組みをライフワークにしたい気持ちが強まり、公務員を辞めることを決意。その後、気候変動対策のコンサル会社を経て、広報の仕事に従事。2019年8月よりethica編集部のライターとして活動を開始。プライベートでは1児の母、ときどき筝奏者。

私によくて、世界にイイ。~ ethica(エシカ)~
http://www.ethica.jp

内藤日香里

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