The Breakthrough Company GO クリエイティブディレクター 砥川直大さん(後編)
独自記事
このエントリーをはてなブックマークに追加
Instagram
2,227 view
The Breakthrough Company GO クリエイティブディレクター 砥川直大さん(後編)

Photo=Eijiro Toyokura ©TRANSMEDIA Co.,Ltd

世界中で脱プラスチックの動きが広がる中、ペットボトルや魚網などの海洋プラスチックごみを再生して作った衣類や靴、かばんなどを次々に発表。現在ヨーロッパを中心に大きな注目を集めているスペイン生まれのファッションブランドが「ECOALF」です。この3月、日本第1号店が東京・渋谷にオープンしましたが、開店にあたり「地球の資源を無駄遣いしない」というブランドの思想を体現、他企業の掲出済み広告や廃棄予定の未使用ポスターなどを使って再利用したオープン告知広告を展開、大きな話題となりました。

中編に続き、ECOALFの日本でのブランディングに携わるThe Breakthrough Company GOのクリエイティブディレクター砥川直大さんとエシカ編集長・大谷賢太郎が対談、これまで歩んでこられた人生や今回の広告が実現するまでのご苦労などについてお聞きしました。

ファッション業界のジレンマ

大谷: ファッションって流れがあるじゃないですか。ちょっと前だとファストファッションが流行りましたが、飽きが来ています。今回のエコアルフのリリースのメッセージにもありましたが、実際に環境を破壊しているという社会課題がある中で、でも洋服はデザインとか着心地の良さが求められます。

先日、新社会人とお話する機会がありました。彼らは1998年に生まれています。ちょうど山一證券や北海道拓殖銀行が破綻した年で、その後ずっと不況だ、不況だといわれている中で育ってきました。ですから、価格が高いものは嫌だと正直にいいますが、フェアトレードや環境を意識したものはコストも手間もかかるから、それをきちんとしないと企業としては成り立たなくなってしまいます。

とはいえ、環境に配慮していこうという意識は、確実に僕らの世代よりも今の世代のほうが持っていると思うんですよね。そのトレンドが今後どうなっていくのか、そして、若者の意識はどう変わっていくのか、その辺、砥川さんがどうお考えになっているのかをお聞きしたいのですが。

Photo=Eijiro Toyokura ©TRANSMEDIA Co.,Ltd

砥川: ファストファッションは若者にとってすごくよくて、オシャレなものが手の届きやすい価格になっているのはいいですよね。でも、その結果、大量生産に拍車をかけちゃって、2000年に比べると作っている服の生産量は、たぶん今、2倍くらいになって、買う量も増えています。

しかしその反面、着用する期間が短くなっています。たくさん買うんだけど、より着なくなっている状況が生まれて、その結果、毎年85%がごみになっています。

そういうことがいろいろと分かってきた中で、フォーエバー21が日本から撤退するというのは象徴的で、ユニクロですらサステナブルと向き合ったり、バーバリーが売れ残った40億円分の洋服を焼却処分にしたことが話題になってSNSが炎上して、そういうことはもうしないといったり、あるいはフランスでは2023年までに洋服の焼却を禁止することになったりと、意識改革が大きく進んでいます。

ファストファッションが人気になった結果、そこから出てきた課題が大きくなりすぎて、そのぶり返しが行われている状況なんじゃないかと思います。そして、そこに若者の環境意識が高まっているということが相まって、ECOALFのような思想を持ったブランドがこれからは成長していくと思います。

ただ、ファッションの難しいところは、いかに手軽にオシャレを楽しむかということを考えると、価格を下げざるを得なくなるということにあります。そうなると、価格を下げるためには大量生産をしなくてはならなくなるし、大量生産をすると、当然のことながら破棄する量も増えてきます。ファッション業界にとっては大きなジレンマになっています。

大谷: ECOALFのデザインはトレンドを追ってはいないような、そんな気がするのですが。

砥川: その通りです。タイムレスデザイン。つまりずっと着続けることができるのがサステナブルという意味で、トレンドは追っていないです。個人的にも好きです。

ただ、そこにはファッションの難しさがあって、サステナブルに進むがゆえに若い人がオシャレを楽しめなくなるというのは、ファッションとしてどうなのかという議論はあります。今がちょうど過渡期であって、いろいろと制約ができているタイミングじゃないかと思っています。

その制約というのは、ファッション業界に限らず、イノベーションが生まれる最初の出発点なのでいいことでもあります。今までは自由奔放に作れたところから、こうしなくちゃいけない、ああしなくちゃいけないという制約が加わって、逆にそこから大きくジャンプできるチャンスでもあります。だからこそ我々のようなチームがクリエイティブやアイデアでお手伝いできることがたくさんあると思っています。

ファストファッションに限界を感じている人募集?!

大谷: ECOALFは、これから日本での出店を進めていくと思いますが、採用広告もユニークだとお聞きしましたが。

砥川: ECOALFはしっかりとした思想を持ったブランドなので、そのことを伝える採用広告をつくりました。「売れば売るほど地球がキレイになる服を売りまくりたい人募集」とか「正直もう、ファストファッションに限界を感じている人募集」みたいなコピーです。

大谷: それは面白いですね。誰でも興味を持ちますよ。

砥川: もともとファッション業界は感度の高い人が多いので、感度が高ければ高いほど感受性が強くて、目をつぶれなくなってしまうと思うんですよね。洋服のサイクルのスピードがこんなにも速くなっていて、廃棄する洋服の量も増えているという事実を知ってしまったら、このままファストファッションに居続けていていいのかと疑問に感じてしまうのは当然かもしれません。実際スペインのECOALFで働いている従業員にもファストファッションから移ってきた人がいます。

メンズファッションも充実

大谷: サステナブルなファッションというと、女性ものが多かったりしますが、その点、ECOALFは男性ものも充実しているようですね。

砥川: たしかに男性のエシカルとかサステナブルって意外と少ないですね。ECOALFは男性もののラインがたくさんあり、シューズもあるので男性も使いやすいでしょう。男性へのプレゼントにも最適だと思いますよ。

それに、「Because there is no planet B」コレクションのTシャツですと売り上げの10%が海のごみを回収するECOALFファンデーションに寄付されます。その意味でも大いに着てほしいですね。

シングルジャージーシャツ(ECOALF) Photo=Eijiro Toyokura ©TRANSMEDIA Co.,Ltd

サステナブルな流れを加速させる

大谷: 今後の活動についてお話しいただけますか?

砥川: ECOALFについていうと、これから日本にどんどん広めていかなくてはなりません。ECOALFが広がることイコール地球のごみが減ること、サステナブルな流れを加速させることになるので、もっとたくさん広げていきたいです。

今回のプロモーション広告のようなことは引き続いてやっていきたいので、ファッション業界に限らず、そういった思想を持った人たちと組んで新しいことをやっていきたいです。

今コロナウィルスの問題があるので、具体的にはいえませんが、「ACT NOW」という月1回の活動でイベントをやっていく予定です。それは洋服を売ることが重要なのではなくて、サステナブルという思想だったり、考え方を広めていくことが大切で、そういう勉強会を定期的に開催する予定です。

大谷: プレスリリースを拝見して、僕が一番いいなと思ったのは、あの渋谷のお店ってプロジェクターが用意されていて、ちゃんとしたセミナーができる場所があるんですね。

それを知って、これはコミュニティーを作ろうということを前提にしてお店を作っているんだなということが分かって、本当に素晴らしいと思いました。

砥川: あそこにはソファも置いてありますが、什器を引っ張り出せば椅子になるようになっていて、あの場所を使って人を集めてイベントや勉強会ができるようになっています。それには業種は関係なく、サステナブルやエシカルに携わっている人、興味のある人に来てもらって、みんなで一緒に勉強したり考えたりしたいと思っています。

そして、個人的な今後の活動については、引き続きGOにいて、今あらゆるものやサービスがコモディティ化している中で、思想とか価値とかがブランド価値になっている時代なので、そういう思想や価値観を世の中に出していくことを企業と一緒にしていきたいと思います。

サービスやプロダクトの時代は、それをどう表現するかでしたが、今はそうではなくて、どういう考え方でそれをやっているのかを発信していくことが重要です。今回のポスターにしても商品は一切出していません。あれは商品ではなくて、プロセスを見せるというブランドの思想を体現した広告で、その思想に共感したから来店したということが生まれています。今は、そういう時代です。

人々は、商品がどうなのかということ以上に、どうしてこのビジネスをやっているかに興味を持っています。だから、それをどう見せるかが重要なんです。

大谷: 今、世の中的にはSDGsがもてはやされていますが、SDGsに関して砥川さんは、どう見ていますか?

砥川: SDGs自体は言葉として硬かったり、自分ごと化しづらかったりすると思いますが、簡単に言うと、一旦立ち止まって今までの経済や社会の仕組みを考え直して、みんなで「地球を健全な状態に戻す」という壮大なチャレンジです。

つまりそれは、これまでの効率重視から、企業がもう少し人間らしさや情緒を取り戻すということだと思います。SDGsを外部規範だと捉えると窮屈ですが、これは人間らしい「想い」を取り戻すチャンスと捉えると前向きに取り組めます。そういった大きなシフトチェンジを実現するためには、コミュニケーションやクリエイティブが欠かせないので、その部分を支援したり、リードしていけたらいいなと思っています。

私によくて、世界にイイ。

大谷: では最後の質問です。エシカは「私によくて、世界にイイ。」をコンセプトにしています。砥川さんにとっての「私によくて、世界にイイ。」は何ですか?

砥川: 正直なところ、僕にはgood for meという考え方はあまりなくて、good for the worldがなければgood for meはない、というのが個人的なスタンスです。特に今は大切な娘たちが生きていく世界がよくあってほしいという思いが強いので、個人的にどうありたいとかはないんです。自分が死んだ時に、世の中が自分の生まれた時よりも少しでもよくなっていれば、それでいいです。

大谷: 長時間ありがとうございました。

砥川: こちらこそありがとうございました。

(前編)を読む>>>

砥川 直大(とがわ なおひろ)

The Breakthrough Company GO クリエイティブ・ディレクター

戦略を含めたコミュニケーション全般の設計から、表現までの全てを手がける。近年は企業のブランディングや新規事業開発にも従事。クリエイティブの力で社会をポジティブに変えていくことを信念に、プロボノを含め様々なアクションを展開。Cannes Lions、Spikes Asia、PRアワードグランプリ、2014年クリエイター・オブ・ザ・イヤー メダリストなど。

2019年3月よりReadyforソーシャルプロデューサー。二児の父。調理師。

聞き手:ethica編集長 大谷賢太郎

あらゆる業種の大手企業に対するマーケティングやデジタルの相談業務を数多く経験後、2012年12月に『一見さんお断り』をモットーとする、クリエイティブ・エージェンシー「株式会社トランスメディア」を創業。2013年9月に投資育成事業として、webマガジン「ethica(エシカ)」をグランドオープン。2017年1月に業務拡大に伴いデジタル・エージェンシー「株式会社トランスメディア・デジタル」を創業。2018年6月に文化事業・映像事業を目的に3社目となる「株式会社トランスメディア・クリエイターズ」を創業。

創業8期目に入り「BRAND STUDIO」事業を牽引、webマガジン『ethica(エシカ)』の運営ノウハウとアセットを軸に、webマガジンの立ち上げや運営支援など、企業の課題解決を図る統合マーケティングサービスを展開。

私によくて、世界にイイ。~ ethica(エシカ)~
http://www.ethica.jp

ethica編集部

このエントリーをはてなブックマークに追加
Instagram
【ethica Traveler】 連載企画Vol.5 宇賀なつみ (第4章)サンフランシスコ近代美術館
独自記事 【 2024/3/20 】 Work & Study
「私によくて、世界にイイ。」をコンセプトに2013年に創刊した『ethica(エシカ)』では、10周年を迎える節目にあたり、エシカルでサステナブルな世界観、ライフスタイルをリアルに『感動体験』する場を特集しています。 本特集では、カリフォルニア州サンフランシスコ市のエシカルな取り組みを取材!エシカ編集部と共にサステナブ...
冨永愛 ジョイセフと歩むアフリカ支援 〜ethica Woman Project〜
独自記事 【 2024/6/12 】 Love&Human
ethicaでは女性のエンパワーメントを目的とした「ethica Woman Project」を発足。 いまや「ラストフロンティア」と呼ばれ、世界中から熱い眼差しが向けられると共に経済成長を続けている「アフリカ」を第1期のテーマにおき、読者にアフリカの理解を深めると同時に、力強く生きるアフリカの女性から気づきや力を得る...
【ethica Traveler】  静岡県 袋井市の旅 おいしいもの発見!
独自記事 【 2025/3/20 】 Work & Study
日本列島のほぼ真ん中で、駿河湾を囲むように位置する静岡県。その中でも、太平洋に面する西の沿岸部に近いところに袋井(ふくろい)市があります。東西の交流地点として、古くから人や物や情報の往来を支えてきた袋井市は、高級メロンやリゾート、由緒正しき寺院など、未知の魅力がたくさんあるユニークな場所です。今回は、そんな袋井市の中で...
持続可能なチョコレートの実現を支える「メイジ・カカオ・サポート」の歴史
sponsored 【 2025/3/19 】 Food
私たちの生活にも身近で愛好家もたくさんいる甘くて美味しいチョコレート。バレンタインシーズンには何万円も注ぎ込んで自分のためのご褒美チョコを大人買いする、なんてこともここ数年では珍しくない話です。しかし、私たちが日々享受しているそんな甘いチョコレートの裏では、その原材料となるカカオの生産地で今なお、貧困、児童労働、森林伐...

次の記事

The Breakthrough Company GO クリエイティブディレクター 砥川直大さん(中編)
(第6話)「ハレとケのごはん・後編」 キコの「暮らしの塩梅」

前の記事

スマホのホーム画面に追加すれば
いつでもethicaに簡単アクセスできます