2020年2月19日、20日の2日間にわたって開催された「サステナブル・ブランド 国際会議2020 横浜」。そこで行われた50を超えるセッションの中から、アメリカのアウドドア衣料品のグローバルブランド『パタゴニア』のヴィンセント・スタンリー氏のスピーチを、前編に続いてご紹介します。「企業や人が、自然に対して謙虚であることが重要」と説くヴィンセント氏ですが、では、具体的にはどうしたらよいのでしょう。ヴィンセント氏が、パタゴニアが行ってきた取組みと未来に向けた戦略を話してくれました。(記者:エシカちゃん)
パタゴニアの取組み
パタゴニアは、アウトドア衣類ビジネスにおいて、どのような取組みを進めてきたのでしょうか。その企業姿勢がわかるのが、ヴィンセント氏が語った、ふたつの繊維に関する話でした。
ヴィンセント氏は、まずオーガニックコットンについて語り始めました。実はパタゴニアも、最初からオーガニックコットンを採用していたわけではなかったといいます。
「コットンは植物由来の繊維なので、石油由来の化学繊維と比較して環境負荷の少ない素材であると考えていました。しかし80年代後半になって、実はコットンのほうが地球に悪い影響を及ぼしているということがわかったのです」
その理由は、コットンを栽培する際に使う化学肥料や農薬に含まれる有害物質にありました。有機リンは殺虫剤などにも使われる成分ですが、実は元々は、神経ガスとして第一次世界大戦中に開発されたものなのです。有機リンの負の側面について、ヴィンセント氏はこう説明します。
「従来型の綿花の畑を実際に見たときには、窓を締めていても有機リン系の農薬の臭いがしました。そして土壌にはまったく生物がいなかったのです。農薬を3年やめなければミミズは戻ってこない。ほかの植物もまったく育っていませんでした」
このような経緯から、パタゴニアはすべてのコットンをオーガニックコットンに切り替えたといいます。
そしてもうひとつの繊維が、リサイクル可能なポリエステルでした。なぜパタゴニアが化学繊維を? と疑問に思われるかもしれません。その理由は、パタゴニアは、使用後に製品を引き取り、同じような価値のものにリサイクルする「循環型経済」に力を入れ始めたのですが、その場合のやり方として、コットンよりもポリエステルの方が簡単だったからです。
そしてそのポリエステルを使い、パタゴニアでは、10年も長持ちし、使い終わったときにはリサイクル可能なジャケットの生産を始めました。
しかし2011年、パタゴニアは、ニューヨーク・タイムズ紙に「Don’t Buy This Jacket(このジャケットを買わないで)」という広告を打ち出すことになります。というのも、実は、このジャケットの生産には、たくさんの水が必要だということがわかったからです。
ヴィンセント氏は、次のように話します。
「このジャケットは、私たちが『一番環境に負荷をかけない』と考えた素材でできていました。しかし実際には、このジャケットをつくる水があれば、ひとつの村が一週間暮らすことができるほどの負荷を、環境にかけていました。私たちが地球に負荷を与えないようにしている工程自体が地球に危害を与えていた、そして地球を搾取していたということがわかったのです」
その結果、パタゴニアは「Don’t Buy This Jacket」という広告を出すにいたったのです。
2025年に向けて
では、パタゴニアは、この先にどのような未来を見据えているのでしょうか。
ヴィンセント氏は「2020年を迎えて、私たちはビジネスのかたちにおいて大きな転換期を迎えている」と述べ、次の5年における、パタゴニアの具体的な目標に触れました。
「2025年にはカーボンニュートラルとなることを宣言しています。それ以外にも、私たちは製品の繊維において、新しい化石燃料(石油由来のバージン化学繊維素材)をまったく使わないということも2025年には達成したいと考えています」
そしてまた、パタゴニアは今後、農業を通して気候変動を改善するアクションを起こしていくとヴィンセント氏は語ります。その中心的なキーワードとなるのが、「リジェラティブオーガニック(環境再生型オーガニック)農業」です。
「有機農業のなかでも、特に不耕起農法や輪作などは、本来の自然の力を最大限活用し、潤沢な土壌を戻すことができる農法です。従来型の農法と比べて水の利用量も少なく、空気中にある炭素を地中に隔離固定していくことができるこの技術を、ビジネスとして活用していきたいと考えています」
より高いレベルの志の実現に向けて
ヴィンセント氏は、スピーチのまとめに際し、パタゴニアのミッションステートメントが変更されたことと、その理由について述べました。
「27年間、私たちのミッションは『最高の製品を作り、環境に与える不必要な悪影響を最小限に抑え、ビジネスを手段として環境危機に警鐘を鳴らし、解決に向けて実行する』というものでした。しかしいまの危機的な状況、そしてこの10年がいかに重要であるかということを鑑みて、ミッションを『私たちは故郷である地球を救うためにビジネスを営む』という文言に変更したのです。これは、より高いレベルでの志を意味するものであり、私たちがすでに歩み始めている、今後の数十年間の道筋を物語る理念なのです」
変化を恐れず、新たなアクションを起こし続けるパタゴニア。私たちが、今後するべきことは何なのか、深く考えさせられるヴィンセント氏のスピーチでした。
記者:エシカちゃん
白金出身、青山勤務2年目のZ世代です。流行に敏感で、おいしいものに目がなく、フットワークの軽い今ドキの24歳。そんな彼女の視点から、今一度、さまざまな社会課題に目を向け、その解決に向けた取り組みを理解し、誰もが共感しやすい言葉で、個人と世界のサステナビリティーを提案していこうと思います。
私によくて、世界にイイ。~ ethica(エシカ)~
http://www.ethica.jp