本記事は、あらゆる女性のエンパワーメントを目指し、モデルとして国際的に活躍する国木田彩良さんに、ファッションの歴史を紐解きながら、セクシャリティやジェンダーの問題について、フランクに語っていただく連載コラムの第4回です。
保守的な社会が生んだ無関心と同調
——前回のお話の中で、日本の若者は、欧米の生活文化に憧れながら、同時代のヨーロッパの若者の情報には関心が薄いように見える、とおっしゃっていましたね。フランスで育ち、日本で暮らす国木田さんの実感だと思います。今回は、国木田さんが感じる日本と欧米の違いについて、うかがいたいと思います。
私は日本の文化が大好きで、決して現代の日本人のダメ出しをしたいわけではないことは初めにお伝えしておきます。けれど、やはり日本人の保守的な気質が、新しい思想や価値観を摂取することの妨げになっていると感じます。私からすると、日本の若者は何に対しても関心を示さないように見えます。政治のことも、経済のことも。これだけインターネットが普及して、いろんな情報をキャッチアップできる時代なのに。
そうして社会に無関心であるのに、芸能人の薬物や不倫のスキャンダルを大騒ぎするのも不思議です。日本は、国政を担う政治家の不正よりも、個人の過失を徹底的に叩くんです。それだけでなく、性被害に遭った女性の名前や写真ばかりがメディアにあふれ、なんの根拠もなく、まるで被害者にも非があったように言う人たちがいます。
他人の恥辱に対して過剰反応する日本の社会が、人々から自主性や積極性を奪い、マスに同調して思考停止する悪循環を生んでいるように思います。これは、変えていくべきだと私は思います。
日本の「コンサバ」と敗戦のトラウマ
——以前インタビューをさせていただいたとき、日本の「コンサバ」は独特だとおっしゃっていましたね。保守的な国民性は、ファッションにも反映されていると思います。
日本人が、いまでも民族衣装である着物を着る文化を守っていることを、私は素晴らしいことだと思っています。日本が「コンサバ」なのは、守るべき伝統や長い歴史があるからでしょう。ただ、日本人はあまりに伝統や規律を重んじ、そこから逸することに対して、過度に怯えているように見えます。日本人は変化を嫌いますよね。
フランスではみんな、何かに疑問を持てば、自分で調べ、自分で考え、自分の意見を述べることをためらいません。それが正しいかどうかは、別にして。パリではストライキがしょっちゅう起きます。当然、多くの人がそれによって迷惑を被るわけですが、フランスという国は、人々が自分たちの主張のために行動を起こし、それによって国を変えてきました。
ヨーロッパでも、比較的日本と近しい「コンサバ」の文化を持っているのが、ドイツだと思います。両国に共通するのは、第二次世界大戦の敗戦国だということ。変化や新しいものに対する現代日本人の消極性は、敗戦のトラウマも一因だと、私は思っているんです。日本の若者は、江戸時代や戦国時代の歴史が好きな人は大勢いるのに、20世紀の歴史には無頓着ですね。侵攻の歴史にも、敗戦の歴史にも。
それからもう一点興味深いのは、日本とドイツには、独自のSM文化があること。社会全体に、S/M、強者/弱者、男/女……というような役割構造とルールが浸透しているんです。パワーバランスの明快な秩序が存在するということではないでしょうか。
欧米への憧れ
——非常に鋭い考察だと思います。国木田さんは、本当にいろんな物事に対して問題意識を持ち、アンテナを張っていらっしゃるんですね。
日本人は保守的でありながら、一方で欧米に憧れるという矛盾を抱えていると思います。私は、日本の女性たちが髪を染め、瞳の色を変えているのを見てショックでした。日本人が、背が高くて青い目の人に憧れるのはなぜなのか。「個人番号」ではなく「マイナンバー」という通称が一般化しているのはなぜなのだろう、と。これらもまた、敗戦に起因していると思います。
日本人は、もっと自分に自信を持ってよいのではないでしょうか。失敗していいし、間違ってもいいから、自分で考え、他人の評価を恐れず発言していくべきだと思います。失敗や過ちを恥じる意識は大切ですが、日本人はそこで変わろうとする意志が希薄ではないでしょうか。何も考えず、黙っている方が、確かに楽です。でもそうした無関心や無気力が、結果、日本経済の萎縮にもつながっていると思うんです。
——われわれ日本人が、漫然と受け入れてしまっている日常的な習慣や文化も、改めて見てみると、さまざまな問題提起が可能ですね。
国木田彩良/Saila Kunikida
1993年、イギリス・ロンドン生まれ。フランス・パリで育ち、高校卒業後に服飾の名門スタジオ・ベルソーでファッションの歴史、デザイン、マーケティングを学ぶ。日本人の母とイタリア人の父を持ち、明治時代の小説家・国木田独歩の玄孫にあたる。
自身のルーツである日本に興味を持ち2014年単身来日、モデル活動を開始。2015年、三越伊勢丹の企業広告「this is japan」のイメージビジュアルに登場し注目を集める。国内外のハイファッション誌を中心に活動の傍ら、パリで形成された感性と日本で暮らす中で見えてきたことを発信していこうとSDGsに携わりながら、主にフェミニズムに関するトークショーに参加したり文章書いたりするなど活動の幅を広げている。
聞き手:ethica編集長 大谷賢太郎
あらゆる業種の大手企業に対するマーケティングやデジタルの相談業務を数多く経験後、2012年12月に『一見さんお断り』をモットーとする、クリエイティブ・エージェンシー「株式会社トランスメディア」を創業。2013年9月に投資育成事業として、webマガジン「ethica(エシカ)」をグランドオープン。2017年1月に業務拡大に伴いデジタル・エージェンシー「株式会社トランスメディア・デジタル」を創業。2018年6月に文化事業・映像事業を目的に3社目となる「株式会社トランスメディア・クリエイターズ」を創業。
創業8期目に入り「BRAND STUDIO」事業を牽引、webマガジン『ethica(エシカ)』の運営ノウハウとアセットを軸に、webマガジンの立ち上げや運営支援など、企業の課題解決を図る統合マーケティングサービスを展開。
私によくて、世界にイイ。~ ethica(エシカ)~
http://www.ethica.jp