東京都写真美術館では、2002年より写真・映像の可能性に挑戦する新進作家の活動を支援し、創造活動を紹介する場として『日本の新進作家』を開催してきました。第17回目となる今回は「象徴としての光」と「いまここを超えていく力」がテーマです。会場には、写真と映像をメディアとして活躍する5組6名の新進作家による141作品が展示されています。(記者:エシカちゃん)
「光」の本質を独自のビジョンで描き出す
世界が急激に変化しつつある今、かつての常識や価値観が大きく揺らいでいます。先が見えない時代の中で、私たちは確かな未来像を心に思い描くことが難しくなってきているのではないでしょうか。一方で、不安の渦中にいる時でも、ふと目にした1枚の作品によって心が安らいだり、そこに気付きやひらめきを見出すことがあります。ときに美術は、不透明な状況にあって、人に希望を、さらにはものごとを見通す直感的な力や、明日への活力となる一筋の光を与えてくれるものかもしれません。
本展の主題となる「光」は、写真・映像メディアの本質的な要素であり、私たちの日常にある普遍的な存在、そして希望の象徴でもあります。出品作家たちは、「光」を重要な要素としているだけでなく、独自のビジョンから自身を取り巻く世界の在りように目を向け、視覚作品として私たちに開示しています。作家たちが、その多様な価値観から捉えた「象徴としての光」とは……。
会場内では、プロジェクションやインスタレーション、水彩、ポートレイトなど、5組5通りの自由で多彩なクリエイションを体感することができます。
いま、注目すべき作家たちの新作・代表作を紹介
今回ご紹介する新進作家による個性豊かな作品の数々は、目に見える「光」だけをテーマとするのではなく、「光」を象徴的に捉え、自身との関わり方を作品の中で表現しています。ここでは、展覧会の見どころとなる出展作品の一部をご紹介しましょう。
岩根 愛(出品点数31点)
岩根愛《Tenshochi, Kitakami, Iwate》〈あたらしい川〉より 2020年 作家蔵
木村伊兵衛写真賞受賞作家による待望の新作を初公開。春、誰もいなくなった桜の森で見た心象風景を探して、福島、岩手、青森の東北各地をたどりながら制作された写真と映像による幻想的なドキュメンタリー作品。過去と現在が交錯し、今ここで起こっている予期せぬ出来事と、その先にある世界をも見出そうとしています。
ハワイ・東北という二つの土地の歴史と文化をたどりながら撮り続けた映像でつづる『あたらしい川』。長さ8mもの超大型プリント、3画面の映像プロジェクションなど、体感的なインスタレーション空間にも注目です。
赤鹿 摩耶(出品点数11点)
赤鹿麻耶〈氷の国をつくる〉より 2020年 作家蔵
3年ぶりに発表される新作は、実在する「氷の国」をテーマに、自身の空想を視覚化した初公開シリーズ。「オーロラがひかってる!」「こおりのおうちもある!」。子供の頃に読んだ“魔法のような言葉”にインスパイアされた北極の世界が作品の舞台に。作者が見た夢について語った言葉、写真、絵や音などを多彩な手法で表現しています。66点組による水彩画も注目作。透明な光と輝きに満ちた氷雪の世界には、自身の感覚の積み重なりによって生まれた美しき「氷の国」への憧憬が満ち溢れ、現実とファンタジーが考察する独自の物語を紡いでいます。
菱田 雄介(出品点数34点)
菱田雄介〈border〉より 2013年 作家蔵
紛争地域への取材を通じて、分断の歴史と日常を過ごす人々の営みに目を向ける気鋭の写真家/映像ディレクター。「現在進行形で動く世界史を捉えたい」と考え、写真を撮るようになったという作者は、報道現場の傍にある、ごく当たり前の日常に気付き、その営みにカメラを向け続けました。本展では、マスメディアの情報からこぼれ落ちる何気ない人物の姿に焦点を当てた映像作品シリーズの他、2007年から2019年に、世界各地で撮影したポートレイトを展示。紛争と日常の間にある「境界線(ボーダー)」とは何か。代表作「Border」を通して、あらためて私たちに問いかけます。
原 久路&林 ナツミ(出品点数35点)
原久路&林ナツミ《三つ子ごっこ(めいは、よつば、さくら)》〈世界を見つめる〉より2019年 作家蔵
大分県別府を拠点に活躍する二人組の写真家ユニット。SNSを中心に作品を発表する表現方法にも注目が集まり、フォロワーは1万人以上。彼らが2015年から手がけてきたシリーズ『世界を見つめる』から、本展のために作家たちが厳選した36点を出点。「少女が体験する菩薩のような無垢」をファインダーを通して表現します。「絵を描くように写真を撮る」という自由な発想から生まれるポートレイトと地元・別府の都市風景からなる作品シリーズを、被写体となった少女たちと共同で制作したメイキング映像と合わせて展示。
鈴木 麻弓(出品点数30点)
鈴木麻弓〈The Restoration Will〉より 2017年 作家蔵
出品作品『The Restoration Will』は「復元」という意味。2011年の東日本大震災による津波で被災した故郷・女川町。写真館を営んでいた亡き父が遺したレンズを通して写し出される女川の風景に、津波によって傷ついた自身の幼少期の写真を効果的にコラージュ。巧みな編集によって、強いメッセージ性を持つ映像作品になっています。写真の復元を試みることで、両親の遺志をつかみ取ろうとする作者。イタリア、スペインをはじめ、欧米で数々の写真アワードに輝く注目のシリーズです。
作家たちとともに見つめる「あしたのひかり」
2020年、私たちは新型コロナウイルスの感染拡大という困難に直面しました。そんな時こそ創造性溢れる作品に触れ、いまここを超えていく力と希望の光を感じ取り、気持ちをリフレッシュしてはいかがでしょうか。
開催概要
会期:2020年7月28日(火)〜9月22日(火・祝)
会場:東京都写真美術館 2階展示室
東京都目黒区三田 1-13-3 恵比寿ガーデンプレイス内
開館時間:10:00〜18:00(入館は閉館の30分前まで)
休館日:毎週月曜日(ただし8月10日、9月21日は開館、8月11日は休館)
観覧料:一般 700円/学生 560円/中高生・65歳以上 350円
※小学生以下および都内在住・在学の中学生、障害者手帳をお持ちの方とその介護者は無料
問い合わせ先:03-3280-0099
主催:公益財団法人東京都歴史文化財団 東京都写真美術館、東京新聞
※本展は諸般の事情により内容を変更する場合があります。最新情報は東京都写真美術館(www.topmuseum.jp)ホームページをご確認ください。
記者:エシカちゃん
白金出身、青山勤務2年目のZ世代です。流行に敏感で、おいしいものに目がなく、フットワークの軽い今ドキの24歳。そんな彼女の視点から、今一度、さまざまな社会課題に目を向け、その解決に向けた取り組みを理解し、誰もが共感しやすい言葉で、個人と世界のサステナビリティーを提案していこうと思います。
私によくて、世界にイイ。~ ethica(エシカ)~
http://www.ethica.jp