本記事は、あらゆる女性のエンパワーメントを目指し、モデルとして国際的に活躍する国木田彩良さんに、ファッションの歴史を紐解きながら、セクシャリティやジェンダーの問題について、フランクに語っていただく連載コラムの第6回です。
フェミニズムは女性VS男性ではない
——これまでの連載を踏まえて、今回はじっくりと「フェミニズム」というテーマでお話をうかがえたらと思います。
フェミニズムを、女性VS男性の対立構造だと誤解している人は多いですよね。こうした誤解は、コミュニケーション不全から生じていると思います。女性が社会で活躍することは、男性側にもいろんなメリットがあります。
個々人がそれぞれの能力を発揮できる環境が整い、選択肢が広がれば、経済的にも良い効果が生まれます。育児に向いている男性がいれば、政治や金融に強い女性がいるんです。性別を理由に、生き方や働き方を制限してしまうのは、社会にとっても大きな損失です。
私たちの親の世代では、まだ「女性は結婚して家庭に入るのが一番の幸せ」と思っている人たちが大勢います。だから「女の子はきれいにして愛想よくしていれば、勉強なんかしなくていい」と言うんですけれど、私はそういう幼少期の教育のあり方も変えていくべきだと思っています。結婚して家庭に入るのが、女性の人生の唯一絶対の正解ではないはずです。
いろんな人生の選択肢を持つためには、女性がもっと学習し、教養を身につけなければなりません。学ぶことは生き方の選択を拡げます。学習が人生の選択肢を広げるわかりやすい例は言語です。外国語を習得すれば、それだけ住む場所、働く場所の選択肢が増えますよね。
マーケティングツールとしてのフェミニズム
——最近のファッションブランドは、積極的に「フェミニズム」という言葉を用いているように思います。
何をもってフェミニズムとするかにもよりますが、広義の意味でとらえれば、現在多くのファッションブランドが、ブランドイメージをよくするために、フェミニズムをマーケティングのツールとして利用していると思います。ただ単純に販促のためにフェミニズムが引用されているというよりは、「女性らしさ」自体のイメージが大きく変わってきているのだと思います。
70〜80年代のフェミニズムというのは、女性が権利を得るために、男性と同等であることを主張するものでした。ファッションにおいては、肩はいかつく、背は高く、胸を扁平に見せることで、女性が「男性らしく」振る舞ったんです。
でも私たちの世代のフェミニズムは、「女性らしさ」を問い直すものです。たとえば、過度な食事制限や体型補正を助長するような、華奢なモデルは採用しない、といった動きもそのうちのひとつです。私はすべてのファッションブランドが、このフェミニズムの流れに乗っていくと思っています。
長い歴史の中で付与されてきたイメージが徐々に取り払われていっている、という意味で、今後のファッションは、シンプルでナチュラルな方向に進むと私は思っています。いまの若者は、もう毛皮や宝石を身に着けるステータスに、あまり魅力を感じていません。私たちの世代はとてもフリーダム。だから今、ストリート系のファッションが好まれています。ただあまりに自由過ぎるので、今後はまた少しコンサバな方向へ振り戻ると私は思うんです。そうしたときに、かつてのエリートクラスのコンサバに戻るのではなく、エシカルなものが選択されていくと思います。
「わたし」を形成する境界線
——若い世代が、従来の「○○らしさ」といった固定観念から自由になってきている空気は、私たちも感じますね。これは男女という性差に限らず、さまざまな物事にも言えることだと思います。連載の第1回目で、ファッションが内と外の中間にあるものだとおっしゃっていたことを踏まえて、最後に「境界線」という視点から「自分らしさ」について改めてうかがえるでしょうか。
基本的に、私は人間には境界線が必要だと思っています。ただそれは、人それぞれであって、相手や環境によって変わるものだと思っているんです。他人に定義されるものではありません。ファッションが面白いのは、それが自分という領域を守る境界線であり、鎧だからです。あなたが世界にどう受け入れられたいかを表現するものであり、世界にどう受け入れられるかを決めるものだからです。
私は、日本人とイタリア人のハーフですが、混血って、どこにも居場所が無いんです。どこに行っても、どの国でも、どの文化圏でも、部外者なんです。でもだからこそ、ハーフという境遇は、「自分は何者か」ということを決めるのは自分自身なんだということを教えてくれます。私は他人の価値観で、自分を決められたくありません。どう生きるか、どんな夢を抱くか、この身体をどう使うか、自分自身で決める必要があると思っています。
——ありがとうございます。国木田さんは以前こうおっしゃっていました。「自分が誰で、いまどこにいるのか。自分自身の現在地を知るためには、現在の自分を形成しているものが、どこから来たのか、まずそれを知る必要があると思います」。これまでの連載を通じて、多くの読者に「自分自身の現在地を知るため」のアプローチの方法を提示できたと思っています。
国木田彩良/Saila Kunikida
1993年、イギリス・ロンドン生まれ。フランス・パリで育ち、高校卒業後に服飾の名門スタジオ・ベルソーでファッションの歴史、デザイン、マーケティングを学ぶ。日本人の母とイタリア人の父を持ち、明治時代の小説家・国木田独歩の玄孫にあたる。
自身のルーツである日本に興味を持ち2014年単身来日、モデル活動を開始。2015年、三越伊勢丹の企業広告「this is japan」のイメージビジュアルに登場し注目を集める。国内外のハイファッション誌を中心に活動の傍ら、パリで形成された感性と日本で暮らす中で見えてきたことを発信していこうとSDGsに携わりながら、主にフェミニズムに関するトークショーに参加したり文章書いたりするなど活動の幅を広げている。
聞き手:ethica編集長 大谷賢太郎
あらゆる業種の大手企業に対するマーケティングやデジタルの相談業務を数多く経験後、2012年12月に『一見さんお断り』をモットーとする、クリエイティブ・エージェンシー「株式会社トランスメディア」を創業。2013年9月に投資育成事業として、webマガジン「ethica(エシカ)」をグランドオープン。2017年1月に業務拡大に伴いデジタル・エージェンシー「株式会社トランスメディア・デジタル」を創業。2018年6月に文化事業・映像事業を目的に3社目となる「株式会社トランスメディア・クリエイターズ」を創業。
創業8期目に入り「BRAND STUDIO」事業を牽引、webマガジン『ethica(エシカ)』の運営ノウハウとアセットを軸に、webマガジンの立ち上げや運営支援など、企業の課題解決を図る統合マーケティングサービスを展開。
私によくて、世界にイイ。~ ethica(エシカ)~
http://www.ethica.jp