(第2話)土と堆肥は“命の泉” 【連載】八ヶ岳の「幸せ自然暮らし」
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(第2話)土と堆肥は“命の泉” 【連載】八ヶ岳の「幸せ自然暮らし」

~パーマカルチャーを訪ねて〜

南アルプスの甲斐駒ケ岳が望める森の中で暮らす四井さんご一家。裏山にはクヌギやナラなどの広葉樹林が広がり、人も空気の流れも都会よりゆったりと感じられます。この豊かな自然環境の中で、パーマカルチャー(※注)を研究し、持続可能な暮らしを実践してきた四井さん。

「自分たちなりの暮らし方を模索し、少しずつ形にしてきた結果、14年かかってこの場所にひとつの世界が出来上がりました」と言います。

ひとが生活することで「場」が豊かになるような暮らしの仕組みに気づき、長い月日をかけて築きあげた「小さな地球」。人間も動物たちも食物も、すべてがうまく「循環」する、自然の仕組みがここにあります。

その循環を支えている大切な要素のひとつが「土」。今回は、土と暮らしの密接なつながりについてご紹介します。 

(※注)パーマカルチャー:“パーマネント”(永久)、“アグリカルチャー” (農業)、“カルチャー”(文化)を組み合わせた造語。持続可能な環境を作り出すためのライフスタイルのデザイン体系のこと。

大地が暮らしの恵みをもたらす

パーマカルチャー・デザイナーとして活躍している四井さんは、自然生態系を修復する緑化工学を学んだ“土壌管理コンサルタント”であり、また『ソイルデザイン』の代表として、土壌作りや自然の風土に合ったライフスタイルのアドバイスなどを行っています。日々の暮らしや仕事のすべてが「土」とつながっているのです。

天然の抗生物質ともいわれているエキナセアの花には自然治癒力を高める作用があるといわれている。大地の恵を存分に吸収して育った可憐なハーブ

里山に続く自家農園を歩けば、冬枯れの草木の間からエキナセアが可憐な花をのぞかせていました。体内の免疫を高めてくれる頼もしいハーブとしても知られています。ファームには、1年を通してさまざまな植物が実り、大地の恵みが四井家の暮らしに豊かさをもたらします。

地球の岩石が風化して生まれた“土”

そもそも土って何なのでしょう。都会で暮らしていると、その存在すら忘れがちです。実は、土とは地球の岩石が雨や風で削られてできた粒の集合体。でも、ただ単に岩が砂状に風化しただけでは土はできません。

砂のような岩の粒の上に原始的な植物であるコケが生え、コケがつくる有機物をもとに微生物や虫などが住み着き、それらの生きものの糞や死骸などが微生物の力で分解されていくことで土らしくなっていきます。何百年何千年もの長い時間をかけて徐々に“土”に変わっていくのです。

さらに、土は栄養素を吸着しながら腐植(土壌有機物)を増やし、土の層をつくっていきます。そして多様な植生遷移の過程を経ることで、より大きな植物の生育を支えられる土壌へと移り変わっていきます。

敷地いっぱいの落ち葉も大切な土の栄養分。炭素を多く含み、臭いの発生を抑える働きがある

手のひらにのせるとほろほろっとほどける土。しっとりふっくらとしたその感触は砂場の砂や砂浜の砂とは違った、独特の存在感があります。

岩や植物や微生物が複雑に関わり合い、無機物と有機物の相互作用によって作られていく土には、作物を育てるための栄養素が豊富に含まれています。土が増えると、その中に住む生きものや有機物の炭素の蓄積により、地球温暖化の原因になっている大気中の二酸化炭素の濃度の上昇を食い止める働きもあるのだそうです。

そして、ひとが暮らす中で出る生ゴミや排泄物も、土を利用して分解・浄化することができるのです。そのために必要となるのが生ゴミなどの有機物を「堆肥化」すること。

堆肥ができるまでのプロセス

四井さんのご自宅敷地内には、鶏小屋と堆肥小屋があります。台所から出た生ゴミ、庭の落ち葉、稲わら、飼っているヤギやニワトリや家族の排泄物など、毎日の生活から出るあらゆる有機物を、堆肥小屋に堆積します。金属やプラスチックをのぞけば、ほとんどのものが堆肥の材料になると四井さんは言います。

生ゴミや落ち葉、家族や家畜の排泄物などを混ぜて堆積し、微生物の働きで発酵させて土に還す「堆肥化」。微生物の働きで発酵した堆肥は、発酵熱によって温度が上昇。ホクホクと白い湯気を立て、寒い季節は動物たちの快適なベッドになる

堆肥化とは、堆積した有機物を混ぜ合わせて微生物の働きで発酵させ、土の栄養分として利用できるようになるまで上手に分解させること。うまく微生物が働くと、増殖する微生物の呼吸によって発酵熱が生じ、堆肥が40〜60℃くらいに暖かくなっていきます。適度な温度上昇が微生物をさらに活性化させ、良質の栄養素をたっぷり含んだやわらかな堆肥が出来上がります。

堆肥を良好なコンディションに保つために落ち葉を集め、切り返しを行う。不思議なくらい気になるニオイがまったくない。自然の力の素晴らしさを実感する場所

千里さんと長男の水木土(みきと)くんも堆肥小屋を掃除しながら堆肥の状態をチェックするのが日課です。スコップで切り返すと堆肥からもくもくと白い湯気が立ち上ります。発酵熱によってほんのり暖かな堆肥小屋は、気になる臭いがまったくありません。懐かしく優しい“土”のにおいに癒されます。

堆肥作りの3つのポイント

1、炭素(落ち葉、おが屑、茶殻、乾いた刈り草など)と窒素(生ゴミ、魚、肉、排泄物など)のバランスが大事。臭いが気になったら、炭素を含む乾いた素材を多めに入れて水分をコントロール。

2、しっとり湿った状態がベスト。手のひらで握って水分を感じるくらいの水分量が目安。

3、微生物が活発に働くためには堆肥をまんべんなくかき混ぜて分解ムラをなくし、酸素を入れる。定期的に切り返しを行うことが大切。

堆肥小屋の掃除や状態の観察は家族の大切な日課。ニワトリ(名古屋コーチン)はエサとして堆肥も食べる

命が生まれ、再び還る場所

「うちではすべての生きものの亡骸(なきがら)を堆肥小屋に埋葬することにしています。飼っていたうさぎやヤギや猫、不運にも家の窓ガラスに激突して命を落とした野鳥もこの堆肥の中に葬りました。干し草を大量に集めてベッドのように敷きつめ、花を供えて弔うのです。小さな鳥は3〜4週間くらいで土に還ります。堆肥の微生物がその体を食べて分解し、土に戻すことで植物の養分となり、そのまた先の新しい命となって循環していくのです」

だからここは“命の泉”。

自然の仕組みを再現した堆肥小屋は、命が還り、新しく生まれ変わる場所。生命の仕組みを子供たちへと受け継ぎたいと言います。

木々が葉を落とす晩秋の八ヶ岳は、澄んだ空とピンと張り詰めた空気が気持ち良い。都会暮らしで忘れがちな季節の香りが感じられる

都会暮らしとコンポスト

最近は都会でもコンポストを活用する動きが加速しています。有機物資源である生ゴミを自宅で処理し、堆肥として活用する人も増えているようですね。

10年ほど前から、都市近郊でもさまざまなスタイルのコンポストが開発され、実用化されてきました。その1つ、神奈川県葉山町で考案された「キエーロ」は黒土のみを使い、微生物の働きで生ゴミを分解する方法として注目されました。家庭の生ゴミを堆肥に変える生ゴミ処理器として他の地域にも普及しています。

都会での堆肥作りは、どのような点に注意したら良いでしょう。

「市販の生ゴミ処理機の中には、生ゴミ処理が目的で堆肥の量は期待できないものも多いので、生ゴミの処理をしたいのか、土づくりを目指すのか、個々の目的に合わせた方法を選択することが大切だと思います。都会暮らしの中で生ゴミを処理しながらミニ菜園もしたい、という人も多いと思いますが、個人的にはミミズコンポストがオススメです。ミミズの腸内細菌にはニオイを抑える成分が多く含まれ、生ゴミなどを処理するのにも適していますし、省スペースで堆肥をつくりたい人にも向いています」

栄養たっぷりの土の中でみごとに成長したダイコン。今の季節はダイコンを軒下に吊るし、北風にさらしてたくあんを作る

その他、ダンボールコンポストや手軽でおしゃれなバッグ型のコンポストも最近人気があるようです。不織布で自家製コンポストを作ることもできます。何より大切なのは、継続できるやり方を選ぶことです。

土とつながる新習慣で自分の暮らしに「小さな地球」を見出すことができたら素敵ですね。明日を少し豊かに生きるために、まずは堆肥作りから始めてみたいと思います。

左から、四井真治さん、畑仕事や料理、家具作りなどにも積極的に取り組む四井家の長男・木水土(きみと)くんと次男・宙(そら)くん、四井千里さん

さて次回は、庭先の草木や自家製ドライフラワーを使った四井家流・クリスマスリースとお正月のお飾りのアイデアをご紹介します。お楽しみに!

バックナンバーはこちらからご覧頂けます。

【連載】八ヶ岳の「幸せ自然暮らし」を読む>>>

四井真治

福岡県北九州市の自然に囲まれた環境の中で育ち、高校の時に地元の自然が都市開発によって破壊されてショックを受けたのをきっかけに環境意識が芽生え、信州大学の農学部森林科学科に進学することを決意。同農学部の大学院卒業後、緑化会社に勤務。長野で農業経営、有機肥料会社勤務後2001年に独立。2015年の愛知万博でオーガニックレストランをデザイン・施工指導。以来さまざまなパーマカルチャーの商業施設や場作りに携わる。日本の伝統を取り入れた暮らしの仕組みを提案するパーマカルチャー・デザイナーとして国内外で活躍中。

Soil Design http://soildesign.jp/

四井千里

2002年より都内の自然食品店に勤務。併設のレストランにてメニュー開発から調理まで運営全般に関わり、自然食のノウハウを学ぶ。2007年より八ヶ岳南麓に移り住み、フラワーアレンジメント・ハーブの蒸溜・保存食作り等のワークショップ講師、及び自然の恩恵や植物を五感で楽しむ暮らしのアイデアを提案。

記者:山田ふみ

多摩美術大学デザイン科卒。ファッションメーカーBIGIグループのプレス、マガジンハウスanan編集部記者を経て独立。ELLE JAPON、マダムフィガロの創刊に携わり、リクルート通販事業部にて新創刊女性誌の副編集長を務める。美容、インテリア、食を中心に女性のライフスタイルの動向を雑誌・新聞、WEBなどで発信。2012年より7年間タイ、シンガポールにて現地情報誌の編集に関わる。2019年帰国後、東京・八ヶ岳を拠点に執筆活動を行う。アート、教育、美容、食と農に関心を持ち、ethica(エシカ)編集部に参加「私によくて、世界にイイ。」情報の編集及びライティングを担当。著書に「ワサナのタイ料理」(文化出版局・共著)あり。趣味は世界のファーマーズマーケットめぐり。

<自然の仕組みがわかるオススメの2冊>

パーマカルチャーや土と自然のつながりがわかりやすく紹介されている『地球のくらしの絵本』シリーズ「自然に学ぶくらしのデザイン」と「土とつながる知恵」(四井真治著 農文協)ともに2,500円/税別

私によくて、世界にイイ。~ ethica(エシカ)~
http://www.ethica.jp

山田ふみ

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