(第4話)“種”から育てるパウンドケーキ 【連載】八ヶ岳の「幸せ自然暮らし」
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(第4話)“種”から育てるパウンドケーキ 【連載】八ヶ岳の「幸せ自然暮らし」

〜パーマカルチャーを訪ねて〜(※注)

小麦粉にこだわっているパン屋さんの話をよく耳にします。でも、千里さんのパンやお菓子作りは小麦の自家栽培にこだわり、種を蒔いて稲を育てるところから始まります。日本で消費される小麦の約9割はアメリカ、カナダ、オーストラリアなどからの輸入でまかなわれているそうです。残りの約1割が国内産。国産小麦の半数以上が北海道で作られています。都心暮らしで小麦畑を目にすることがないのは、そもそも栽培すらされていないからなのですね。

八ヶ岳南麓の大地は小麦の栽培に向いているようで、農薬や化学肥料に頼らず、自然栽培による小麦を育てようという活動が徐々に始まっています。小麦の種ってどんなの?どうやって育てるの?自家栽培の小麦ってやっぱり美味しいの?など興味津々で千里さんにお話を伺いました。

前回は、自家製ドライフラワーで作るクリスマスリースとお正月のお飾りをご紹介しました。今回は、安心・美味しい!自家栽培の小麦粉を使った「“種”から育てるパウンドケーキ」をご紹介します。

(※注)パーマカルチャー:“パーマネント”(永久)、“アグリカルチャー” (農業)、“カルチャー”(文化)を組み合わせた造語。持続可能な環境を作り出すためのライフスタイルのデザイン体系のこと

無農薬の自家製小麦粉でお菓子を作りたい!

パウンドケーキに使用するルバーブはガーデンファームから採れたフレッシュなものを使用

「家で使う小麦粉はすべて自家栽培の小麦を挽いたものを使っています。挽きたての小麦で作るお菓子は贈り物にも喜ばれます」(千里さん)

四井さんが小麦の栽培を始めたのは2002年。信州の有名な天然酵母パンの店「野良屋」さんから、寒冷地でも育つ自家採種の小麦の種を分けてもらったことがきっかけでした。

「スーパーで売っている小麦粉とはまるで違っていて、刈り取りの時からすでに香ばしいんですよ。そして挽きたての小麦粉はさらに甘い干し草のような懐かしい香りがして、これが小麦本来の香りなんだ!と最初は本当に感動しました。何より、種から育てた小麦であれば、除草剤やポストハーベスト(収穫された後に散布する農薬)などの心配もなく、みんな安心して食べられます」

それ以来、四井さんは自家農園で「シラネ小麦」や「春よ恋」、食物繊維が豊富な「もち大麦」の栽培を毎年続けてきました。そして今年初めて、古代小麦「スペルト小麦」の栽培にも挑戦。

スペルト小麦とは、9000年以上も前から人工的な品種改良がされていない幻の古代種で、食べてもアレルギーになりにくいと言われ、小麦の中でも貴重な品種のひとつです。味も良く、やや実が硬いのが特徴で、四井さんはスペルト小麦用に石臼を購入。しっかり修理を終えて脱穀に備えているのだとか。今夏の収穫が楽しみですね。

自然栽培の小麦ができるまで

来年の収穫に向けてスペルト小麦の種を植える

小麦はどのように育つのでしょう。その生育と収穫までのプロセスを教えていただきました。

1、種まき

小麦は八ヶ岳周辺では10月までに種蒔きをします。畑に畝(うね)を作り、種を蒔いていきます。小麦は土の酸性が強いと育ちにくい植物です。農作地に石灰を混ぜて中和し、栄養たっぷりの堆肥を土に混ぜて、種蒔きの2週間前には小麦栽培用の土壌を作って下準備をします。

2、発芽

種を蒔いたら10日から2週間ほどで地面に芽が出始めます。種蒔きからおよそ1カ月後、葉が4つほどついたら麦踏みをします。

3、麦踏み

さらに1カ月後の12月中旬に2〜3回、土が乾いている状態で麦踏みを行います。麦踏みによって、麦が倒れるのを防ぎ。1粒から多数の芽が出るようになります。霜柱が立つ八ヶ岳では、凍結を防ぐ役割もあります。

4、穂が出て摘み取り

3月中旬、暖かくなると周囲に雑草が生え始め、こまめに雑草を刈り取る作業を行います。穂が出ると花が咲きます。花が咲くと自動受粉が始まります。

5、収穫と稲刈り

収穫は開花してから45日前後の時期、7月上旬に行います。緑色の小麦がたくさんの実を実らせ、黄金色の穂に変わったら小麦を刈ります。

6、脱穀

刈り取った小麦を風通しの良い場所に広げて乾燥。小麦の穂束を竿にかけて吊るし、2週間ほど乾燥させたら脱穀します。脱穀機の下に落ちた実をふるいにかけます。何度もふるいにかけて殻、穂軸、小石やゴミなどを落として実を精選します。

種まきから脱穀までなんと9カ月以上。待ちに待った小麦の出来上がりです!

「私自身、最初は小麦を自分の手で育てられるとは思っていなかったので、小麦畑を見た時には本当にワクワクしました。小麦の栽培は決して楽な作業ではありませんが、穀物の栽培は野菜とはまた違った充実感があります」と千里さん。

製粉していざ、パウンドケーキ作り開始!

ドイツ製自動石臼製粉機を使用して小麦を製粉。木製のルックスがなかなか愛らしい

さて、脱穀して精選した小麦を小麦粉にするために使用するのがドイツ製の自動石臼製粉機。そば粉を挽く時などにも活躍します。小麦の実を木製ボウルに放り込むと、ゴォゴォという音とともに口から小麦粉が出てきます。

“粉になったー!”と思いきや、製粉した粉を、さらに木製のふるいにかけて均一化。ここでやっと “小麦粉”になり、お菓子作りがスタートします。

挽いた小麦粉をさらに専用の粉挽きでふるうと待ちに待った自家製小麦粉の完成!

秘密のレシピ( 18cmのパウンド型)

材料

・小麦粉 120g

・ベーキングパウダー(アルミニウム不使用)小さじ1/2

・植物油 25〜50g

・てんさい糖 80g

・全卵     2個

・牛乳 大さじ2

・自家栽培のルバーブジャム 50g(ルバーブの茎を5cmほどに切り、てんさい糖20 g、レモン汁大さじ1をふりかけてしばらくおき、さっと火を通す)

何でも揃う魔法のキッチンで、安心安全!パウンドケーキを手際よく作る千里さん

作り方

1、ボウルに植物油とてんさい糖、卵、牛乳を入れてホイッパーで空気がよく入るように混ぜる

2、1にルバーブジャム(トッピングに少し残しておく)を入れて混ぜる

3、2のボウルにふるった小麦粉、ベーキングパウダーを加えて練らないようにサクっと混ぜる

4、ところどころにルバーブジャムをのせる。

5、180℃に予熱したオーブンで約45分~50分焼く。

自然の恵みがギュッ!美味しい “Farm to Table”を味わう

焼きあがったパウンドケーキは専用のトレイで冷ます

種から小麦粉までの長い道のりを経て、ついに焼きあがったパウンドケーキ!ふわっと優しくほんのり甘い小麦の香りが口いっぱいに広がります。今まで味わったことのない豊かな風味と素朴な食感。噛むほどに、ギュッと凝縮された大地の恵みを実感します。

4r(アール)の四井さんの小麦畑で収穫される小麦は年間150〜200kgで、四人家族の食卓で使用するには十分な量。時にはご近所さんが育てた農作物と小麦粉を交換することもあり、小麦はシェアリングエコノミーという新たな価値観を生み出します。

パウンドケーキをお気に入りのプレートにのせて。小麦本来の香りと素朴な甘さにみんなが感動。種から育てたパウンドケーキは幸せの味

さて、小麦を脱穀する際にその約3割がフスマ(小麦の表皮)となります。栄養たっぷりの小麦フスマを消費するのが庭のニワトリたち。

「小麦が採れるこの土地の恵みを生かし、与えられたものを活用して生きることは暮らしにさらなる楽しさを与えてくれます。フスマはすべてニワトリのエサになり、無駄が出ません」

来年もまた美味しい小麦が育ちますように。

左から、四井真治さん、畑仕事や料理、家具作りなどにも積極的に取り組む四井家の長男・木水土(きみと)くんと次男・宙(そら)くん、四井千里さん

バックナンバーはこちらからご覧頂けます。

【連載】八ヶ岳の「幸せ自然暮らし」を読む>>>

四井真治

福岡県北九州市の自然に囲まれた環境の中で育ち、高校の時に地元の自然が都市開発によって破壊されてショックを受けたのをきっかけに環境意識が芽生え、信州大学の農学部森林科学科に進学することを決意。同農学部の大学院卒業後、緑化会社に勤務。長野で農業経営、有機肥料会社勤務後2001年に独立。2015年の愛知万博でオーガニックレストランをデザイン・施工指導。以来さまざまなパーマカルチャーの商業施設や場作りに携わる。日本の伝統を取り入れた暮らしの仕組みを提案するパーマカルチャー・デザイナーとして国内外で活躍中。

Soil Design http://soildesign.jp/

四井千里

2002年より都内の自然食品店に勤務。併設のレストランにてメニュー開発から調理まで運営全般に関わり、自然食のノウハウを学ぶ。2007年より八ヶ岳南麓に移り住み、フラワーアレンジメント・ハーブの蒸溜・保存食作り等のワークショップ講師、及び自然の恩恵や植物を五感で楽しむ暮らしのアイデアを提案。

記者:山田ふみ

多摩美術大学デザイン科卒。ファッションメーカーBIGIグループのプレス、マガジンハウスanan編集部記者を経て独立。ELLE JAPON、マダムフィガロの創刊に携わり、リクルート通販事業部にて新創刊女性誌の副編集長を務める。美容、インテリア、食を中心に女性のライフスタイルの動向を雑誌・新聞、WEBなどで発信。2012年より7年間タイ、シンガポールにて現地情報誌の編集に関わる。2019年帰国後、東京・八ヶ岳を拠点に執筆活動を行う。アート、教育、美容、食と農に関心を持ち、ethica(エシカ)編集部に参加「私によくて、世界にイイ。」情報の編集及びライティングを担当。著書に「ワサナのタイ料理」(文化出版局・共著)あり。趣味は世界のファーマーズマーケットめぐり。

<自然の仕組みがわかるオススメの2冊>

パーマカルチャーや土と自然のつながりがわかりやすく紹介されている『地球のくらしの絵本』シリーズ「自然に学ぶくらしのデザイン」と「土とつながる知恵」(四井真治著 農文協)ともに2,500円/税別

私によくて、世界にイイ。~ ethica(エシカ)~
http://www.ethica.jp

山田ふみ

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