【ethica編集長対談】CSR/SDGコンサルタント・ 笹谷秀光さん(後編)
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【ethica編集長対談】CSR/SDGコンサルタント・ 笹谷秀光さん(後編)

SDGs、企業の社会的責任、地方創生などのテーマについて、コンサルティングや講演など幅広く活動されている笹谷秀光さん。2020年の2月19日・20日の2日間、パシフィコ横浜で開催された「サステナブル・ブランド国際会議2020横浜」(SB 2020 YOKOHAMA)では、同イベント内で催された「第2回未来まちづくりフォーラム」実行委員長も務められました。農林水産省のキャリア官僚を皮切りに、株式会社伊藤園、大学教授と活躍のステージを移しながら、社会をよくするための活動を続けてこられた笹谷さんは、現在、SDGsへの社会の関心を高めるための取り組みにも注力されており、昨年には『Q&A SDGs経営』という著作も出版されました。

前編では笹谷さんがこのような活動に取り組むことになったきっかけや、SDGs達成への思いなどを、エシカ編集長・大谷賢太郎がお聞きしました。後編では、よりSDGsを一般化するための笹谷さんのお考えなどをうかがっていきます。

ミレニアル世代の価値観

大谷: 「ミレニアル世代は環境問題に関心が高い」とよく言われます。実際に、いろいろな取材を通して、周囲のゴミ集めのような身近なことから、社会のあり方を変えていこうというくらいの大きなことまで、この世代が、さまざまな取り組みを進めているように感じます。

笹谷: ミレニアルとポストミレニアル、この世代の皆さんは、かつての世代とはかなり価値観が異なります。異なる世代間でなかなか話が通じないことも多くなりました。私くらいの世代の人間にとっては「大は小を兼ねる」ですとか、高度成長期に言われた「大きいことはいいことだ」という考えがありました。一方、ミレニアルやポストミレニアルの世代の人たちと話すと「なんで大きいのがいいんですか? 小さいほうがいいじゃないですか」となるんですね。

大きい、小さいという、モノの大きさや価値のみならず、「モノの所有」に関しても、ミレニアルやポストミレニアルのという世代の人たちは、モノを持ちたがらない。自分が必要なものを必要なときに利用できればいいという考え方なんですね。まさに「シェアリングエコノミー」です。昔はお金が入ったらすぐ、自分がほしいものや、持っていると自慢できそうなブランド品を買っていた。それがもう、全然違うんですね。

「私は自分の感性に合うものを、自分の目線で選びます」というライフスタイルの方が非常に多い。商品選びでも、それが自分のライフスタイルと合うものなのか、しっかりチェックするんですね。そうなると、やはり情報が大切です。

大谷: 当然、メディアの果たすべき役割も大きくなりますね。

笹谷: その通りです。企業や、SDGsに関わる人々が伝えたいことを、メディアの力によって、できるだけわかりやすく読者目線で広げていくというのが非常に大事です。いいことを広げていくために、SDGsは発信性、普遍性を重視しています。伝え方の技術が非常に問われていて、その意味でもメディアの力は大変重要なんです。

 

Photo=Kaori Uchiyama ©TRANSMEDIA Co.,Ltd

SDGsはすべての人にとっての共通言語

大谷: 少し自分の話をさせていただきたいのですが『ethica』は今年で7年目になります。そもそもの立ち上げのきっかけは、あるブランドの仕事で、「エシカル」という言葉がキーワードになっていたことだったのです。「エシカルという考え方は、これから重要になるはず」と感じていろいろなメディアを見てみたのですが、業界誌や専門誌がエシカルを取りあげることはあったものの、いわゆるライフスタイル誌のような、一般向けのものには見当たらない。それで、特にエシカルを意識してない女性も、そういったことに触れるメディアを作ろうと思って立ち上げたのが『ethica』なんです。

笹谷: なるほど。私も昨年『Q&A SDGs経営』という本を出したんですが、「Q&A」にした理由は、自分に興味のある、読みたいところから読めるようにという思いからです。これはビジネス向けのSDGs経営という目線で作っていますが、入門から深いところまで、全部カバーしました。実はSDGsの達成に向けてできることは、身近にもいっぱいあります。今、世の中がどう動いてるのかを知って、多くのビジネスマンに、ぜひ自分ごと化してほしいと思います。

先ほどもお話しましたが、SDGsはすべての人にとっての共通言語なんです。まずはこの共通言語をしっかり身につけるためにも、「SDGsメガネ」で世の中を見てほしいですね。

「サステナブル・ブランド国際会議2020横浜」(SB 2020 YOKOHAMA)で同時開催された「第2回未来まちづくりフォーラム」 Photo=Kaori Uchiyama ©TRANSMEDIA Co.,Ltd

ヨーロッパでは、ごく自然にのびのびと

大谷: 「SDGsメガネ」? それはどのようなものでしょう。

笹谷: 例えば会食などで「これを残してはいけないな。SDGs的には12番のフードロスだよね」などのように、何かものごとを見る際に「SDGsの何番がある、何番がある」と考え、周囲の人と話をするクセをつけるんです。そうすることによって、マインドが変わります。

すると、問題のあることに接したときに、「ひょっとしたら、これはあまりSDGs的によくないんじゃないか」と気がつく。そのような意識を持って勉強していくと「じゃあ次はアクションにつなげましょう」という流れになる。そして、周囲の人たちを巻き込んでいくんです。

こういう会話を自由にのびのびできているのは、ヨーロッパだと思います。グレタ・トゥーンベリさんの母国であるスウェーデンなどの国は、ごく自然にそういう会話ができています。このような取り組みを、世界標準でやっていただきたいと思います。

大谷: それは面白いですね! 日常の生活にSDGs目線を取り入れていくというのは、意識付けとしてとても有効だと思います。

イタリア、シチリアの世界遺産の街シラク―サにて、自転車シェアの視察(2014年)

アメリカ人やフランス人に比べて日本人は表現下手?!

笹谷: 世の中でいいことをするには、まず、周囲に「いいね」と思わせることです。そして、それがなぜいいことだと感じるのか、その理由と仕組みを説明するんです。そうすると「なるほど」となります。いいことであっても、皆がなんとなく乗りにくいのは、それをやる理由がわからないからです。理由がわかれば継続しようとなる。「またね」です。「いいね、なるほど、またね」というサイクルが必要です。

そういうことをした方が世の中の結果がよくなると考える人が増えていって、それなら一緒にやろうとなっていく。このサイクルの輪、パートナーシップを作ることが大事です。

アメリカ人やフランス人に比べて日本人が弱いなと思うのは、周囲の人を納得させる理屈の立て方と表現方法です。日本はあうんの呼吸とか空気ですから。これからは、私は日本人も「発信型三方良し」にすべきと言っています。エシカルの場合でも、皆が納得する理屈をメディアの力でわかりやすく広げていけるといいですね。日本人は腹に落ちるまで時間がかかりますが、納得すればすぐにやります。特に今の若い人は行動が早いので、ぜひ、身近なところからそのような活動を広げていってほしいと思います。

映画「マレーナ」のロケ地ドゥオーモ広場にて(2014年)

Good for me,Good for the world.(私によくて、世界にイイ。)

大谷: ありがとうございます。最後に一言、お願いしたいのですが、『ethica』のブランドコンセプトは「Good for me,Good for the world.私によくて、世界にイイ。」です。では、笹谷さんにとっての「私によくて、世界にイイ。」こととは、何でしょう?

笹谷: 硬いかも知れないけれど、松尾芭蕉がいいことを言っています。「不易流行」です。「何事も、変わらないものと、流行で変わるものがある。だから、変わらないもの、変えてはいけない本質を見極めつつ、一方で変革の新たな動きも踏まえよう」という意味です。私自身、自分のライフワークを確立する上で、これからもこの言葉を心にとめていきたいし、世界を見るときも同様です。まさに今、激変の時代であり、非常に多くのことが変化しています。それでも守らなくてはいけない本質もあります。私が思うに、それは「持続可能性」です。常にそのことを忘れないためにも、「不易流行」という言葉を大切にしていきたいと思います。

Photo=Kaori Uchiyama ©TRANSMEDIA Co.,Ltd

(前編)を読む>>>

笹谷 秀光(ささや・ひでみつ) CSR/SDGコンサルタント 千葉商科大学基盤教育機構・教授、博士(政策研究)

1976年東京大学法学部卒業。77年農林省(現農林水産省)入省。2005年環境省大臣官房審議官、06年農林水産省大臣官房審議官、07年関東森林管理局長を経て08年退官。同年(株)伊藤園入社。取締役、常務執行役員を経て19年4月退職。2020年4月より千葉商科大学基盤教育機構・教授。

現在、社会情報大学院大学客員教授、(株)日経BPコンサルティング・シニアコンサルタント、PwCJapanグループ顧問、グレートワークス(株)顧問。

日本経営倫理学会理事、グローバルビジネス学会理事、NPO法人 サステナビリティ日本フォーラム理事、宮崎県小林市「こばやしPR大使」、未来まちづくりフォーラム2019・2020・2021実行委員長。

著書に、『Q&ASDGs経営』(日本経済新聞出版)『3ステップで学ぶ自治体SDGs』(ぎょうせい)ほか。企業や自治体等でSDGsに関するコンサルタント、アドバイザー、講演・研修講師として幅広く活躍中。

■著者公式サイト ─発信型三方良し─

https://csrsdg.com/

■「SDGs」レポート(Facebookページ)

https://www.facebook.com/sasaya.machiten/

聞き手:ethica編集長 大谷賢太郎

あらゆる業種の大手企業に対するマーケティングやデジタルの相談業務を数多く経験後、2012年12月に『一見さんお断り』をモットーとする、クリエイティブ・エージェンシー「株式会社トランスメディア」を創業。2013年9月に投資育成事業として、webマガジン「ethica(エシカ)」をグランドオープン。2017年1月に業務拡大に伴いデジタル・エージェンシー「株式会社トランスメディア・デジタル」を創業。2018年6月に文化事業・映像事業を目的に3社目となる「株式会社トランスメディア・クリエイターズ」を創業。

創業9期目に入り「BRAND STUDIO」事業を牽引、webマガジン『ethica(エシカ)』の運営ノウハウとアセットを軸に、webマガジンの立ち上げや運営支援など、企業の課題解決を図る統合マーケティングサービスを展開中。

笹谷秀光氏の新刊

『3ステップで学ぶ 自治体SDGs 全3巻セット』

「基本」「実践」「事例」の3つのステップでSDGsを理解しよう!

SDGsをわかりやすく解説した全3巻のシリーズ刊行!

自治体がSDGsにどのように取り組み、どのように進めていけばよいのかについて、基礎から実践まで、全3巻でハンディにわかりやすく解説。 地域ならではの取り組みを推進したい自治体職員、自治体と連携して地方創生SDGsビジネスへの事業展開を検討する民間企業・金融機関の方々に手軽にお読みいただける実践書です 。

基本を理解したい方、まずはここから!  ⇒ 第1巻『STEP 1 基本がわかるQ&A』

実際に取り組むためのヒントが満載!   ⇒ 第2巻『STEP 2 実践に役立つメソッド』

先進的な取組み事例からノウハウを学ぶ! ⇒ 第3巻『STEP 3 事例で見るまちづくり』

令和2年11月発売

ぎょうせいオンラインはこちら

https://shop.gyosei.jp/products/detail/10524?fbclid=IwAR0aDpY3dceUFXMIIPR0EGTmAvMXK6If3kRx_M2GlNLzE8y99xWmMnHo0_U

出版社:ぎょうせい

未来まちづくりフォーラム第3回(2021年2月24日) 登録開始!

https://www.sustainablebrands.jp/event/sb2021/special-miramachi.html

私によくて、世界にイイ。~ ethica(エシカ)~
http://www.ethica.jp

ethica編集部

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