~パーマカルチャー(*注)を訪ねて〜
人にも環境にも優しい家。資源を大切にしながら、日本の伝統文化を守り続ける家。木のぬくもりに包まれている家。家族みんなが「ただいま!」と言って帰りたくなる安らぎに満ち溢れた“住まい”とは。今回は、四井さんの家づくりへのこだわりを伺いました。
(*注)パーマカルチャー:“パーマネント”(永久)、“アグリカルチャー” (農業)、“カルチャー”(文化)を組み合わせた造語。持続可能な環境を作り出すためのライフスタイルのデザイン体系のこと。
~パーマカルチャー(*注)を訪ねて〜
人にも環境にも優しい家。資源を大切にしながら、日本の伝統文化を守り続ける家。木のぬくもりに包まれている家。家族みんなが「ただいま!」と言って帰りたくなる安らぎに満ち溢れた“住まい”とは。今回は、四井さんの家づくりへのこだわりを伺いました。
(*注)パーマカルチャー:“パーマネント”(永久)、“アグリカルチャー” (農業)、“カルチャー”(文化)を組み合わせた造語。持続可能な環境を作り出すためのライフスタイルのデザイン体系のこと。
木の床の温もりを五感で感じながら、陽だまりで過ごす休日。国産の木材に包まれた空間に安心感が宿る
我が家は、木と石と鉄を中心に、できるだけ環境に配慮した素材を使って建てました。また、日本の大工職人によって継承されてきた伝統的な構法でつくられています。たとえば天井を見ると、木と木をつないでいるのは金物ではなく、「木の釘」です。
現代の一般的な在来工法では、家を建てるときにはボルトや柱留め金具、カスガイなど、金物をたくさん使用しますが、ここでは伝統的な建築技術「込み栓」という方法が用いられています。家の土台や柱、桁などの結合方法のひとつで、金物の釘の代わりに、削った樫の木を打ち込んでいきます。
「込み栓」は、地震や台風などによる横荷重にも強い耐久性の高い家をつくる伝統的な技術として、神社仏閣などの木造建築にも用いられています。
国産木材をメインにつくられた家には、その色調に合う手作りの椅子やテーブルが置かれている
建築資材になった後も、木は家の中で生き続けています。空気が乾けば木が持つ水分を内側から放出し、湿度が上がれば逆に水分を吸収して内側に蓄えます。木造の家は本来、快適で長持ちするものなのです。
現在では、木造住宅のほとんどが在来工法によるもので、伝統構法で建てる家はごくわずかになってしまいましたが、大工さんの長年の経験や知恵を活用した日本建築は、住む者に安心感と心地よさをもたらしてくれます。
縁側と土間をイメージした軒下の空間。家の外と内をゆるやかにつなぎ、かまどや石の炉を設置
西洋の建物には、ルネッサンス様式とかバロック、ゴシック様式など、伝統的な装飾技術があったり、昔ながらの建造物が今もきちんと残されたりしていますよね。そんなヨーロッパの街並みと比べ、日本は古い家屋を壊してどんどん新しいものを作り続けてきました。田舎の街並みでさえ、今やどこも同じような景観になってしまっていますよね。本来であれば、地域ごとの風習や神事に根付いた建築様式があったと思うんです。日本人が、昔ながらの建物文化に触れる機会が少なくなってしまったことを非常に残念に感じます。
高度成長期と言われる昭和30〜40年代の日本は、新幹線の開通、東京オリンピックや大阪万博の開催に湧き、大量生産大量消費が一気に加速しました。日本の伝統文化が崩壊しはじめ、核家族化が進みました。日本の住宅事情が変わりはじめ、ハウスメーカー主導による「安くて早くできる家」が量産され、安価な建築素材を使うことが最優先された時代です。
高度成長期以降の住宅の多くは、柱や梁はボンドで貼り付け、内装にはビニールクロスや合板フローリングなどの化学製品を使用。断熱材にもグラスウールなどの化学繊維を使って施工されました。シックハウス症候群や子供のアレルギーが増え、健康被害が問題視されるようになったのも、この頃からです。
外と内をゆるやかにつなぐのが日本家屋のデザインの特徴。大きな窓からは外界からの自然光がたっぷりと差し込む
せめて自分たちが暮らす空間は、国産の木材を使用した日本古来の伝統が感じられる空間にしたい。日本のデザイン構造を残し、文化的にも持続可能な建物にしたいと考えました。和風建築の良いところは、昔ながらの日本人の暮らし方を引き継いでいる点です。私が理想とする家は、野菜が干せる軒下がある、煮炊きができる土間がある、家族みんなが集う縁側がある家です。
自分で家を建てることも考えましたが、この土地の文化や風習を理解した伝統構法に長けた職人さんにお願いするのが一番だと思い、『アトリエDEF(デフ)』(http://a-def.com)という、自然に寄り添い、持続可能な暮らしを提案する地元の建築会社さんに建てていただくことにしました。
内部結露を防ぎ、カビやダニの発生を抑える羊毛の断熱材。湿気を調節し、部屋の中の温度を一定に保つ効果がある。大地から生まれ、大地に還る素材としても注目されている
羊毛素材は冬暖かく、夏は涼く、木材の呼吸も妨げません。外気との温度差を極力抑え、カビやダニの原因となる内部結露を防止するという大きなメリットがあります。内部結露は家の寿命そのものを短くするからです。
日本の風土にあった快適な住まいを提案するアトリエデフさんのこだわりは、今ではさらに進化し「ウッドファイバー」という木製繊維の断熱材も使っているそうです。ともに、大地から生まれ、使い終われば大地に還る循環性を備えています。
この家は、国産無垢の杉・檜材を使っています。国産の木材を使って家を建てるということは、日本の気候にあった家を建てることを意味しています。現在は、価格が高いという理由から国産材があまり使われなくなっていますが、適度に木を伐採し、日光を森の地面に行き渡らせることで、植樹した木は次々と育っていきます。日本の木を使うことで荒れた山にも手が入り、結果的に地球温暖化の進行を防ぐことにもつながります。
「木は腐って長持ちしない」というのも誤った考えです。木材を使用し、伝統的な構法によって建てた家は、世代を超えて住み続けることができます。たとえば奈良の法隆寺は、建てられてから1400年たった今も、その姿を残しています。点検や修繕はされてきたものの、風雪や災害に耐えてきたのは日本の宮大工たちによる優れた伝統建築技術があったからこそです。
春先は日当たりの良いリビングでさまざまなタネを植える。居ながらに、植物が芽を出す様を子供たちとともに眺めるとき、家の中は理科の実験室に
家の中心となっている居間は、常にみんなが過ごす場所です。薪ストーブがあり、ここは真冬でも暖かい。外を感じながら暮らしたいという思いから、リビングの開口部をできるだけ大きく取りました。一面の窓によって内と外の境があいまいになり、半分外にいるような開放感が味わえます。外界の自然とのつながりは、日本家屋のデザインが重視するポイントでもあります。
暖かい季節にはなるべく窓をあけ、鳥の声や風の音、太陽の光などを感じながら過ごしています。
生活の中には発見がいろいろあって刺激的。「暮らしは教育の場。それを補完するのが学校教育」という考え方に共感!
子供たちが何気なく家で過ごしているときにも、それぞれが何かを感じ取っています。天井を眺めながら、
「木の釘を使っているんだ」
木が伸び縮みする音を聞きながら、
「木が呼吸しているんだ」
と子供ながらにさまざまなことをこの空間から学んでいます。
自分も子供の頃に住んでいた家を眺め、壊したり修理したりしながら建物の構造を理解し、やがて自分でも何かを作りたいと思うようになり、今があります。住まいという環境は教育のひとつだと思います。
家を建てるということはとても大きな決断ですよね。
これから子供たちが育ち、自分で家を建てようと思ったとき、選択肢が少ない世の中になってしまわないよう、そして、新しいものを追い求めて伝統の良さを見失わないよう願わずには入られません。
私たちが生きてきた過去への反省を踏まえ、持続可能な暮らしのノウハウを受け継いでいきたいと考えています。(四井信治さん談)
いかがでしたか?お話を伺いながら「木」の建物についての学びを深め、日本の伝統建築の素晴らしさをあらためて感じることができました。伝統的な構法による家は、100年、200年と長持ちするそうです。
温故知新。もう一度、古き良き時代の暮らしを見直してみてはいかがでしょう。
左から、四井真治さん、畑仕事や料理、家具作りなどにも積極的に取り組む四井家の長男・木水土(きみと)くんと次男・宙(そら)くん、四井千里さん
バックナンバーはこちらからご覧頂けます。
四井真治
福岡県北九州市の自然に囲まれた環境の中で育ち、高校の時に地元の自然が都市開発によって破壊されてショックを受けたのをきっかけに環境意識が芽生え、信州大学の農学部森林科学科に進学することを決意。同農学部の大学院卒業後、緑化会社に勤務。長野で農業経営、有機肥料会社勤務後2001年に独立。2015年の愛知万博でオーガニックレストランをデザイン・施工指導。以来さまざまなパーマカルチャーの商業施設や場作りに携わる。日本の伝統を取り入れた暮らしの仕組みを提案するパーマカルチャー・デザイナーとして国内外で活躍中。
Soil Design http://soildesign.jp/
四井千里
2002年より都内の自然食品店に勤務。併設のレストランにてメニュー開発から調理まで運営全般に関わり、自然食のノウハウを学ぶ。2007年より八ヶ岳南麓に移り住み、フラワーアレンジメント・ハーブの蒸溜・保存食作り等のワークショップ講師、及び自然の恩恵や植物を五感で楽しむ暮らしのアイデアを提案。
記者:山田ふみ
多摩美術大学デザイン科卒。ファッションメーカーBIGIグループのプレス、マガジンハウスanan編集部記者を経て独立。ELLE JAPON、マダムフィガロの創刊に携わり、リクルート通販事業部にて新創刊女性誌の副編集長を務める。美容、インテリア、食を中心に女性のライフスタイルの動向を雑誌・新聞、WEBなどで発信。2012年より7年間タイ、シンガポールにて現地情報誌の編集に関わる。2019年帰国後、東京・八ヶ岳を拠点に執筆活動を行う。アート、教育、美容、食と農に関心を持ち、ethica(エシカ)編集部に参加「私によくて、世界にイイ。」情報の編集及びライティングを担当。著書に「ワサナのタイ料理」(文化出版局・共著)あり。趣味は世界のファーマーズマーケットめぐり。
<自然の仕組みがわかるオススメの2冊>
パーマカルチャーや土と自然のつながりがわかりやすく紹介されている『地球のくらしの絵本』シリーズ「自然に学ぶくらしのデザイン」と「土とつながる知恵」(四井真治著 農文協)ともに2,500円/税別
写真協力/ KIMITO
私によくて、世界にイイ。~ ethica(エシカ)~
http://www.ethica.jp
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