1960年代から、現代美術家として第一線で活躍を続けてきた横尾忠則さん。60年以上におよぶ横尾の作家活動に迫る大規模個展が7月17日より行われます。初期に手がけたグラフィック作品から、1980年代以降の多彩な技法・テーマによる絵画作品、そして2020年から2021年にかけて制作された新作まで、500点以上もの作品を、横尾さんご自身の総監修によってダイナミックに展観。作家の「現況」にも触れることができる本展の見どころを、横尾芸術の魅力とともにご紹介します。(記者:エシカちゃん)
あらゆるジャンルを横断する現代美術家・横尾忠則とは?
横尾忠則(1936年生まれ)さんは、1960年代初頭よりグラフィック・デザイナー、イラストレーターとして活動を開始し、国際的な成功をおさめたアーティストの一人です。60〜70年代半ばにかけてその神秘的でサイケデリックな作風を、ポップ・カルチャーと融合させた独自の美術表現が世界の注目を集めました。
1980年代には自らの「画家宣言」によって、「デザイナー」から「画家・芸術家」へと活動領域を移し、斬新なテーマと表現による作品を次々と発表しました。
ニューヨーク近代美術館をはじめ、アムステルダムのステデリック美術館、パリのカルティエ財団現代美術館など、世界各地で個展を開催し、2012年には国内にて横尾忠則現代美術館(神戸)が開館。15年に高松宮殿下記念世界文化賞を受賞するなど「アート界のレジェンド」として、国内外から高い評価を得るに至り、85歳になった今も意欲的に創作に取り組んでいます。
見どころ① 横尾芸術の全貌を見渡せる最大規模の展示
もっとも著名で躍動的な現代美術作家の一人として、森羅万象をはじめとするあらゆるものをモチーフに、表現方法やスタイルの変遷を重ねながら数多くの作品を生み出してきた横尾忠則さん。その中には、幼少期の記憶や自伝的エピソードを題材にしたものしばしば登場します。夢の中で見た風景の背後にあるものこそが、本展のキーワードである「源郷(GENKYO)」です。
変幻自在な横尾のイメージの世界が、時代を超えて新鮮な驚きと感動をもたらします。
横尾ワールドにどっぷりと浸れる展覧会
今回開催される「GENKYO横尾忠則」東京展は、今年の初めに愛知県美術館で開かれ、話題になった展覧会をさらにスケールアップ。絵画を中心に、初期のグラフィック・ワークの代表作を加えた500点以上もの作品が出展されます。
タイトルが示すように、すべての人間の魂の故郷とする「原郷」からくみ上げた、豊かで奔放なイメージの世界「幻境」を描き出した絵画作品の数々から、作家自身の「現況」にもふれることができる機会です。
見どころ② 自らの監修によって新しく再構築
本展に関して横尾さんは次のようなメッセージを寄せています。「私は絵画から目を外して来ませんでした。未だに絵画は私にとって未知の領域です」
『作品による自伝』をテーマに企画された前述の愛知展を、自らリミックスして再構築した今回の東京展。作品を半数以上入れ替え、構成も根本から見直すことで、まったく新しい視点による展覧会へと生まれ変わりました。「作品はプロセスこそが大切である」(横尾さん)。生命力あふれる会場の空気とともに、横尾芸術の真実とルーツを肌で実感できるのではないでしょうか。
見どころ③ 2020年〜21年の新作を初公開
全世界がコロナ禍に見舞われるという未曾有の状況の中、横尾さんは、外出も来客も制限しながら日々アトリエにこもって絵画制作に没頭してきました。昨年から今年にかけて描かれた作品は、早くも注目されている《高い買物》をはじめ、大作ばかり20点以上におよびます。歴代作品のなかで「最大級の問題作」とも言える新作の数々を、本展で初公開。気迫の創作を目の当たりにすることができます。
魂のふるさと「原郷」に見る芸術の源泉
近年の作品においては、自己反復や自作のパロディを扱った、自己言及的なものがかなりの頻度で見受けられます。自己の芸術についての「語り」は、横尾芸術の重要な要素と言われています。
画家が繰り返し原点に立ち戻ることで見出した、鬱蒼とした森のような領域。最近の作品などに現れる「原郷」は、すべての人間の魂のふるさとであり、作家自身のエピソードを表現するために不可欠なイメージの源泉。芸術家としての創造精神は見るものの心を動かし、強烈な印象をもたらします。
これも見どころ!《滝のインスタレーション》で体感型展示
横尾さんが滝の絵を描くために収集した絵はがきのコレクションは1万枚を超え、インスタレーションへと発展しました。天井・壁面を覆い尽くす滝の絵はがきは、床の鏡面にも映り込んでいます。みずみずしくもダイナミックな空間をぜひ体感してください。
また、コロナと向き合う《WITH CORONA》シリーズコーナーでは、自身の作品や写真を素材に、マスクをコラージュした「WITH CORONA」シリーズを展開。コロナ禍でのネガティブ・イメージをポジティブ・イメージに変換するこの試みは、現在600点以上に達しています。
過去最大にして初の総監修となった横尾忠則さんの展覧会。圧倒的な存在感と自由な感性、世代を超えて多くの人に感動を与え続ける芸術の本質を、全身で享受してください。
展覧会情報
会場:東京都現代美術館
会期:2021年7月17日(土)~10月17日(日)
休館日:月曜日(7/26、8/2、8/9、8/30、9/20は開館)、8/10、9/21
横尾忠則 よこお・ただのり
1936年、兵庫県西脇市生まれ。高校卒業後、神戸でデザイナーとしての活動を始め、1960年に上京、グラフィック・デザイナー、イラストレーターとして脚光を浴びる。その後、1980年にニューヨーク近代美術館で大規模なピカソ展を見たことを契機に、画家としての本格的な活動を開始。様々な手法と様式を駆使して森羅万象に及ぶ多様なテーマを描いた絵画作品を生み出し、国際的にも高く評価される。2000年代以降、国内の国公立美術館での個展のほか、パリのカルティエ現代美術財団(2006)をはじめ、海外での発表も数多く行われている。2012年に横尾忠則現代美術館(兵庫県神戸市)、2013年に豊島横尾館(香川県豊島)開館。
記者:エシカちゃん
白金出身、青山勤務2年目のZ世代です。流行に敏感で、おいしいものに目がなく、フットワークの軽い今ドキの24歳。そんな彼女の視点から、今一度、さまざまな社会課題に目を向け、その解決に向けた取り組みを理解し、誰もが共感しやすい言葉で、個人と世界のサステナビリティーを提案していこうと思います。
私によくて、世界にイイ。~ ethica(エシカ)~
http://www.ethica.jp