持続可能な社会へ社員一丸となって 未来構築を進める企業は、一体何が違うのか?  ライオン 小和田みどり
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持続可能な社会へ社員一丸となって 未来構築を進める企業は、一体何が違うのか?  ライオン 小和田みどり

ethicaがメディアパートナーとして参加した「サステナブル・ブランド 国際会議2021横浜(SB 2021 YOKOHAMA)」では多くのセミナー、ディスカッション、ワークショップが繰り広げられ、さまざまな貴重な提言や発表が紹介されました。今回は、「持続可能な社会へ社員一丸となって未来構築を進める企業は、一体何が違うのか?」と問いかけたセッションで発表された、ライオン株式会社の小和田みどり氏のプレゼンテーションをご紹介します。(記者:エシカちゃん)

事業を通じて社会に貢献したいという思い

私は2020年1月にサステナビリティ推進部に異動してまいりました。私からはライオンが推進しているサステナビリティの課題についてご説明させていただきたいと思います。

当社は1891年に創業いたしまして、皆さんご存じの家庭用品、日用品のメーカーでございます。国内では6つのオフィス、2つの研究所、4つの工場で事業を展開しております。

当社の創業者は、事業を通じて社会に貢献したいという思いからライオンの前身となる小林商店というものを作りました。1900年代にはすでに慈善券付きライオン歯磨きを販売していました。これは孤児院など寄付したい候補の施設が載っており、自分はどこに寄付をしたいのか丸を付けて当社に送り返していただきますと、その丸の付いた孤児院や施設に寄付金を提供するというような、当時としては斬新な企画をやっておりました。

また、従業員のための夜学を開いたり、日本の子どもから虫歯をなくしたいという思いから、小学生に歯磨きの仕方を啓発するというようなことを進めてきました。

また、環境についても洗剤が及ぼす河川の汚染など、大変問題になっていましたので、生分解性のある洗剤を世界で初めて開発したり、CO2が排出されないような食物原料を使ったりというようなことを進めてまいりました。

ここに記載した「わが社は『愛の精神の実践』を経営の基本とし、人々の幸福と生活の向上に寄与する」というのが社是になっています。もともと創業者は、熱心なキリスト教の信者でありましたので、愛という言葉を社是に組み込んで事業を展開してきたということでございます。

より良い習慣づくりで、人々の毎日に貢献する(ReDesign)

そうした中で当社は2018年、中期3ケ年計画を立てる際に初めてパーパスという概念を導入しました。今までこうした社是に基づいて事業を拡大してきたわけですが、当社は、どういう存在意義でこの世の中にあるのだろうかと考えた時に、日用品を提供しながらも皆さんを健康に導きたい、健康な生活、毎日の生活を健やかに過ごしていただきたい、そういう思いを込めて事業をやっているんじゃないか、そのためには、いわゆる習慣、よい習慣といいますけれども、この習慣をもっと楽しく、もっと自然にできるようにしていくというのが、我々の役割なのではないかということで、習慣をリ・デザインするということをパーパスとして挙げました。

だいたい、「家に帰ったら手を洗いなさい」とか、「寝る前に歯磨きしなさい」とか、お父さんお母さんに怒られたり、先生から指導されたりと、何となく「習慣」と聞くと嫌な思い出しかないという方もいるのではないかと思いますが、自分から進んで、何気なく気がついたらやっていたみたいにすることはできないかという、そんな思いが込められています。

この考え方につきましては、2月12日に当社の決算発表をした際「ビジョン2030」という新たな中長期経営戦略フレームを公表いたしました。その中でもこのパーパス、リ・デザインにつきましては継続してやっていこうということで、より良い習慣づくりで人々の毎日に貢献するということを改めて表明させていただいております。

私は去年この部に来るまでは、商品開発もしくは宣伝、コミュニケーションというマーケティングの部門におりました。その際社会貢献は、余裕があればやればいいのではないかとか、サステナビリティに取組んでもブランドの売り上げは上がらない、といったようにトレードオフのように思っていたところが正直ありました。しかし、サステナビリティの課題というものは決して社会貢献ではなく、事業の発展と両輪で回していくべきものだということに、行きつきました。ビジョンを達成するためには、この両輪を回していかなければならないという考えです。

その中で、当社のサステナビリティ最重要課題は、環境はもちろん外せない最重要課題ですが、当社らしく健康な生活習慣づくりというものをもう一つの最重要課題に挙げました。社会課題の解決と事業の拡大を両輪で回すことで、さらなる事業の拡大、社会的価値の創出、ひいてはSDGsの課題解決につなげていこうというのが新しい「ビジョン2030」の骨子となっております。

では、健康な生活習慣づくりとは何か、というところをご紹介したいと思います。

1つには、より良い習慣づくり、習慣をリ・デザインするという発想から健康を見える化しようということです。たった5分で自分の口腔内の状態が分かる唾液検査システムや、自分の口臭を見える化することで、オーラルケアの意識を変えてもらおうと、こういったテクノロジーの活用なども始めております。

さらには、お子さんをお持ちの方はかなり強く共感していただける部分ではないかと思うのですが、お子さんというのは歯磨きを本当に嫌がってやってくれません。楽しんで歯みがきするために、長年かけてプログラムを開発しました。「はみがきのおけいこ」というアプリと連動した歯ブラシで磨くことによって、ここにいる犬のキャラクターがお子さんに話しかけてくれたり、一緒に成長したりというようなものです。小さい頃からの歯磨きが楽しい体験により、よい習慣化につながるよう、商品だけでなく、こうしたプログラムも開発しております。

そして、さらにこれは商品的には前のものになるのですが、お子さんが歯ブラシをくわえたまま転んでケガをするという事故が、実は毎年起こっております。これを何とか軽減できないかということで、曲がって折れない安全ハンドルの歯ブラシを開発しました。こちらはユニークな商品で、柄が左右には柔らかく曲がるのですが、前後には曲がらず、きっちり歯磨きができるというものです。通常であればこの商品特徴を最大限に押し出したコミュニケーションをやっていこうというのがブランドマネージャーの意向だったのですが、我々は当時、ちょうど先ほど申し上げた2018年くらいから各ブランドでもパーパスという発想を持ち出しておりまして、この商品で本当に解決したいことは何なのか、パーパスに基づくコミュニケーションを考えようということから、調査を実施いたしました。

すると、先ほどのアプリもそうなのですが、歯磨きというのは嫌がる子どもとの戦いで、特に仕上げ磨きの際にはお子さんが泣き叫ぶ。お母さん、お父さんも本当に辛い。子どもも歯磨きが嫌いになってしまう。これを何とか解決できないかという視点での、コミュニケーションが生まれました。「HA!HA!HA!パーク」というサイトにまだ動画がありますので、ぜひ見ていただきたいです。これはTVCMというよりも動画だけで流したのですが、とても反響が大きくて、ママからパパから、また、専門の歯医者さんからもとても高い評価を得たコミュニケーションになりました。

このように、ブランドについてもパーパスが策定されたことによって、コミュニケーションが変わってきたという事例になっております。

さらには、新しい仕組みとして「インクルーシブ・オーラルケア」というものを今年からスタートいたします。これは生活環境や身体的、経済的、もしくは教育や情報といった中に格差が生じており、これによってオーラルケアを十分にできない人がいます。こうしたオーラルケアの機会をみな平等に与えることによりまして、オーラルケアからきちんと健康につなげていこうという活動になっております。仮に身体的に障がいがあっても、誰もがオーラルケアをできるように、そして、誰かにやれといわれてやるのではなく、自分から進んで自立してできるように、また、1人でやるのではなくて仕組みでできるように、そんな思いを持った活動になっております。

1つの事例をご紹介いたしますと、子どもたちの自立支援というものがございます。経済的に困窮した家庭で育ったお子さんというのは、そうじゃないお子さんに比べると圧倒的に体験が少なく、また、ほめられるという経験も少ないので、自己肯定感が低いといわれています。こういった子どもたちに正しいオーラルケア、そして、楽しい経験を提供することによって、自立を進めていこうというプログラムでございます。

以上のように、サステナビリティ課題を推進するにあたっては、事業の拡大と両輪で考えていかないとサステナブルに続けていくことはできないと実感しています。環境における資源循環にしましても、コストの部分を度外視して続けていくことはできないため、それによってどんな経済活動につながるのかという事までを常に意識するようにしています。

また、社内の意識を上げるということも重要だと思っています。私もマーケティングからサステナビリティ推進部に来た時、具体的にどんなことをやっている部なのかよく分かっていなかったという状況でした。本当に多岐にわたる内容を推進しているのですがそれが社内に伝わっていなかったんですね。

また、情報の発信ということでは、社内だけではなく社外にも当社がやっていることをきちんと伝えないと、わかってもらう事はできないということを強く感じました。

先ほどパーパスといいましたが、パーパスがあることで、やることとやらないことが明確になったというのがポイントです。ともすると、「お客様のため」という名のもとに過剰な開発をやりがちなのですが、それが本当にお客様が必要としているものなのかというところをパーパスに立ち返って考えることができるようになったのではないかと思っています。また、事業の拡大との連携を意識することで、サステナブルな活動になりました。

それから、サステナビリティを一部の部所だけの活動にしないためにも、経営者の意識をどれだけ上げるかという事が、大事なポイントかとも思っています。

そして活動内容については、きちんと社内に伝えるということで社内の意識が変わってきているという手ごたえを感じています。この1年間、自分たちの活動は社内、社外の両方にきちんと発信していくということが非常に大事だと、痛感しています。

そして、先ほど(日揮ホールディングスの)秋鹿さんがおっしゃっていましたが、自分のところだけでやれることは限られているということで、当社も昨年、花王さんとの協業を発表させていただきました。これは何かというと、洗剤やシャンプーなど皆さんは詰め替えを使っていると思いますが、これのパウチを共同でリサイクルしようという実験のスタートです。資源循環には回収のコストとリサイクルのコストがとてもかかります。しかし、お客さんにとっては、どのパウチ、どこのメーカーのパウチかということは、あまり関係がないですよね。ということであれば、これは協働してやろうということでスタートしております。

こんなふうに、社会課題の解決というのは競合と戦うのではなく、先ほど秋鹿さんが共創とおっしゃった通り、いろいろなところと組んでやることが解決の早道かなと感じております。

 

ライオン株式会社の小和田みどり氏のプレセンテーションに続き、ここからは、セッションで行われたディスカッションを紹介していきます。

 

(左から)ファシリテーター:関東学院大学 経営学部 学部長・教授(当時・現同大学学長) 小山 嚴也氏、パネリスト:日揮ホールディングス サステナビリティ協創部 常務執行役員 / サステナビリティ協創部長 秋鹿 正敬氏 、ライオン サステナビリティ推進部 部長 小和田 みどり氏、EY Japan 気候変動・サステナビリティサービス パートナー 牛島 慶一氏

――ライオンさんは、サステナビリティがそんなに簡単に進んでいかなかったような気がしますが、どんな感じで進んでいったんでしょうか?

私が異動して一番驚いたのは、こんなに色々やっていたんだ、という事でした。ものすごく多岐に渡った業務があり、ダイバーシティ、人権、サプライチェーンについて課題をあげて推進している。国内だけでなく海外も管理しているという状況ですが、同じ会社でも知られていない、といった意味ですごく閉じているなというのを感じました。

 

――その辺を小和田さんが移られて、まずは社内で共有していこうよという、そういうプロセスにある感じですか?

そうですね。まずはやはり経営陣にも、もっと関与してもらいたいということで、社外の実務者の方を招いて経営層の勉強会をしました。その結果そこからすごい勢いで、中期経営計画の中核にサステナビリティがおかれたり、経営層がもっと関与する仕組みができたり、当部の部所名まで変わりました。トップダウンのスピードの速さを実感しました。次に中期経営計画の中核に置かれたこともあり、サステナビリティについて当社がやっている活動を社内にもっと知らしめようということで、各部所の部会での説明会をやっています。今まで無関心だった営業現場でも、取引先である販売店さんの中にはサステナビリティが進んでいる企業が出始めており、「ライオンのサステナビリティの取組はどうなのか」と聞かれて困った、といった声も聞こえてきておりました。社会全体の状況や当社の取組を知ることで、新しい商談のチャンスともなりえますので、全部所に社内啓発を進めています。

 

――ブランドパーパスはどんな経緯でできて、今どんな感じで使われているのですか?

経緯は、当社のような日用品のブランド価値を考えた時、商品競争では限界があるというところに行きつきました。先ほどまさしく(ファシリテーターの)小山先生がおっしゃった通り、性能がある基準までくれば洗剤なんてどれも一緒じゃないか、どれを使ったってそんなに違わない、という状況に行き当たります。そうなった時に、はたして性能とかスペックだけをコミュニケーションしていても限界があり、ブランドの存在意義まできちんと伝えてストーリー化していかなければ、ブランドが生き残れないだろうという判断に立ちました。ちょうど2017年頃からマーケティング部門が総力をあげて、ブランドのコミュニケーション、ブランドの開発をパーパス寄りに振っていきました。

 

――それはリ・デザインでしたっけ?

同時期に会社のパーパスも立案することとなり、習慣をやらなくちゃ、から、いつの間にか楽しくやるものに変えていこうという「リ・デザイン」を掲げました。

 

――難しくなかったですか? 日本の企業って社是、社訓、いろいろとあるじゃないですか。そこへいきなりパーパスなんて持ってこられてもって、社員の方からそういう声は挙がりませんでしたか?

はい、おっしゃる通りです。「パーパスって何?ビジョンはあるし、パーパスもあるし、よく分からない」という声が多かったです。実際、社内調査の中でも理解し自分のものにする、といういわゆる「ハラオチする」という点が本当に厳しかったです。そうした点から社長自らが従業員全員と直接話すという機会を設け、各部門ごとに疑問をなくし理解を深めることをスタートしました。

 

――コロナ禍でパーパスが急速にハラオチし始めたとお聞きしましたが、そういう感じなのですか?

そうですね。コロナになって世の中が大変な時に、当社は手洗いの商品を出している事から、うちの会社はみんなのためになることをやっていたんだと、改めて誇りに感じた社員が多くいました。本当はずっと前から手洗いの習慣化の活動はやっていたのですが、一人一人がリアルに実感できたことによって、そういうことかとハラオチできたのではないかと思っています。

 

――日本企業にありがちなパターンだと思うのですが、業界横並びで、横でやっているからとやっていくとダメになることがあります。ライオンさんのところはユニリーバもPGも花王さんもみんなやっていますから業界的に当たり前というのもあるでしょうが、とはいえ、というのもやっぱりあります。業界のプレッシャーもあるでしょうし、自らやらないといけないという感じもあって、その辺はいかがですか?

業界のプレッシャーというのはありませんが、一番難しいなと思ったのは、先程も申し上げましたように、ブランドマネージャーは、どうしても商品やアイテムのよさを最大限に伝えたいと思っています。それを、パーパス、ストーリーだといわれた時の不安感は相当あったと思います。

先ほどちょっとご紹介した幼児用の「曲がるハブラシ」。これも本来なら子供のハブラシによる事故をなくすため衝撃を受けた時に曲がるように設計したハブラシの柄という技術を前面に伝えたい、となるところです。それをこの商品が解決することは、「親子で歯みがきをいい時間にしよう」というコミュニケーションを打ち出しました。歯ブラシでいい時間を作ろうといったのが、実は最初の動画になっていまして、あれがうまくいきましたので、逆にみんな、もしかしたらこれでいけるかもしれないと、ちょっと自信が出て、そこからいけたというところはあります。

今回の「サステナブル・ブランド 国際会議2021横浜(SB 2021 YOKOHAMA)」レポート記事は如何でしたでしょうか。

注目すべきセミナー、ディスカッション、ワークショップの様子を引き続きethicaで連載していきますので、お楽しみに!

バックナンバーはこちらからご覧頂けます。

[連載企画]サステナブル・ブランド国際会議2021横浜

記者:エシカちゃん

白金出身、青山勤務2年目のZ世代です。流行に敏感で、おいしいものに目がなく、フットワークの軽い今ドキの24歳。そんな彼女の視点から、今一度、さまざまな社会課題に目を向け、その解決に向けた取り組みを理解し、誰もが共感しやすい言葉で、個人と世界のサステナビリティーを提案していこうと思います。

私によくて、世界にイイ。~ ethica(エシカ)~
http://www.ethica.jp

エシカちゃん

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