ethicaがメディアパートナーとして参加した「サステナブル・ブランド 国際会議2021横浜(SB 2021 YOKOHAMA)」では多くのセミナー、ディスカッション、ワークショップが繰り広げられ、さまざまな貴重な提言や発表が紹介されました。今回は、SDGsを推進しモビリティーカンパニーへの変革を目指す、トヨタ自動車のDeputy Chief Sustainability Officer(現 Chief Sustainability Officer) 大塚友美氏のプレゼンテーションをレポートします。(記者:エシカちゃん)
幸せの量産
社長の豊田が自工会会長として年頭に出したメッセージのなかで、SDGsの取り組みを加速させる年という言葉がありましたが、トヨタは2020年の5月、決算発表に際して社長がSDGsに本気で取り組むといって以来、これまで以上に様々な取り組みを加速しています。そのコアになっているのが、本日のタイトルである「幸せの量産」です。
自動車業界は100年に一度の大変革期にあり、トヨタ自身は自動車会社からモビリティーカンパニーへとフルモデルチェンジを図っています。その中で、創業の精神である「豊田綱領」をベースに、トヨタとしてブレない軸を明文化し、未来への羅針盤としたのが「トヨタフィロソフィー」です。
豊田綱領から受け継がれる自分以外の誰かのためにという思い、豊田社長流にいえば、“I”ではなく“YOU”の視点を持つことはSDGsの精神そのものです。
トヨタフィロソフィーではミッションを「幸せを量産する」、ビジョンを「可動性を社会の可能性に変える」と定義しました。そもそも幸せという言葉と量産という言葉は、組み合わせとしてはあまり聞かれたことがないと思いますし、トヨタ自動車が幸せを量産するというと、画一的な幸せが工場からベルトコンベアに乗ってガシャンガシャンと出てくることをイメージされてしまうかもしれませんが、決してそういうことではございません。ルーツはトヨタの創業者、豊田喜一郎が夢に見て、そして実現させた国産大衆車の製造というミッションにあります。
先ほどご紹介しました豊田綱領は、トヨタグループの創始者、豊田佐吉の考えをまとめたものですが、豊田佐吉は夜遅くまで働く母親の仕事を楽にしてあげたいという気持ちから、片手で操作できるように織機を改良しました。その豊田佐吉が志した、誰かの仕事を楽にするという原点を忘れることなく受け継いでいき、そして、喜一郎らが作り出した自動車を作る会社からモビリティーカンパニーへとフルモデルチェンジしようとしていく中、これからは楽にするだけではなく、トヨタの仕事で誰かを楽しくしたい、可動性を可能性に変えて未来の選択肢を広げたい。コロナ禍の今は少し難しくなってしまっていますが、動くことの楽しさ、清々しさ、ワクワクを1人でも多くの人たちに届けたい。そんな思い込めた言葉が「幸せの量産」です。
トヨタフィロソフィーとSDGsの理念が共通だと感じていただけましたでしょうか。
トヨタイムズマガジン
それでは、トヨタは、このようにフルモデルチェンジをしていくのですが、いったい何が中で起こっているのかをお話できればと思います。
いきなり宣伝で恐縮ですが、明日「トヨタイムズマガジン」という雑誌を発売します。
(2021年2月公演時点。2月25日発売済み)トヨタの本当の姿を知っていただきたいという気持ちで、「トヨタイムズ」というオウンドメディアをwebやテレビコマーシャルで展開しております。香川編集長でおなじみの方もいらっしゃると思いますが、それをベースに、この中で世の中が大きく変わった2020年を振り返る内容の1冊です。今までも経営者の評伝や自叙伝、もしくは実在の企業をモデルにしたビジネス小説はあったかと思いますが、このようなスタイルのものはなかったのではないかと思っています。楽しく読んでいただけると思うので、ぜひ書店でお買い求めいただければと思っています。「トヨタイムズ」がベースでありながら、中身は再編集されていますし、香川編集長やレーシングドライバーの小林可夢偉さん、脇阪寿一さんのインタビューなどwebにはない新しいコンテンツもたくさん入っています。
では、改めて、この中に書いてある内容を一部ご紹介しながら、トヨタはどのようにフルモデルチェンジをしていくのかをお話させていただきたいと思います。
「ウーブンシティ(Woven City)」プロジェクト
トヨタが2020年の初めに発表させていただいたのが「ウーブンシティ(Woven City)」プロジェクトです。ちょうど昨日、着工式を行いました。モノとサービスが情報でつながる町ウーブンシティは人中心、実証実験、未完成という3つのコンセプトで、SDGsにあるような多くの社会課題解決に資する技術やアイデアを開発、リアルな町で実証を行っていこうというものです。
また、変化の時代に迅速に対応するべく機動的、継続的に役員体制、組織の改正を豊田社長が就任して以来、ほぼ毎年のように進めてきました。とうとう昨年2020年には肩書きではなく役割で仕事をしようとトヨタ始まって以来初めて、副社長という肩書きも廃止しました。
また、労使間の交渉、いわゆる春闘ですけど、それも対立して争うのではなく、共通の基盤に立って1人1人の能力を最大限に生かし、競争力を向上するための本音の話し合いをしようというやり方に変え、「トヨタイムズ」でオープンにすることで、外の方にも見ていただけるようにしてきました。
世界大会という、以前は日本に世界中から1000人の人に集まってもらって今後のビジョンを伝えてきたイベントがあるのですが、コロナ禍でリアルなイベントができない中、オンラインに切り替え、社長が今後のビジョンを95分にわたって語るビデオを作成して、グローバルの5万人の仲間に思いを直接伝えることもしました。ウーブンシティ、人事制度、労使の話し合い、そして、社長のコミュニケーションとトップダウンの変革が次々と展開されています。
ちなみに、トヨタでいうトップダウンというのはトップが現場に下りてきて、自分でやって見せることだと言っております。私自身、今のアサイメントに就く前はGAZOO Racing Companyというスポーツカーとモータースポーツを担当する社内カンパニーにいたのですが、社長として、そして、レーシングドライバーモリゾウとして現場でやって見せる姿を間近で見てきました。
でも、トヨタはトップダウンだけでもありません。トップとボトムがお互いに歩み寄って補完し合う関係が必要なのだと考えています。それでは、ボトムアップとは何か。ボトムアップとはトップの考えに迫り、自ら自分の仕事のやり方を変えていくことです。
具体的に2020年12月に発売したばかりのMIRAIの開発エピソードからご紹介したいと思います。
新しいMIRAI
皆さん、新しいMIRAIをご覧になっていただけたでしょうか。ご存じの方も多いと思いますが、MIRAIは水素を燃料とするFCEV、燃料電池車です。水素から発電することで、走行時のCO2はゼロです。今話題のカーボンニュートラルを実現していくためにも水素は大切な柱です。
初代のMIRAI投入は2014年でした。まだパリ協定よりも前ですね。究極のエネルギーといわれる水素のクルマでしたが、水素の価格、充填するステーションというインフラ、そして、水素は危険じゃないかといわれる社会的受容性の問題もある中、市販化、普及化に取り組んでいくのは本当に大変なことでした。
苦労したMIRAIをフルモデルチェンジするにあたって、開発陣は開発の視点を進化させ、また新しいチャレンジをしました。チーフエンジニアの田中は、新型はエコカーだから、水素のクルマだから選んでいただくのではなく、乗ってみたいクルマ、欲しいクルマになることを目指しました。乗りたいクルマを選んだらFCEVだったというのが理想だといっています。走れば走るほど、空気をきれいにする機能も搭載しています。
また、トヨタはエコカーを普及させなければ、環境に寄与できないといってきていますが、新型MIRAIは小型・大型のトラック、電車、船、そして月面車までさまざまなモビリティへの転用を想定して作られていて、発展性を持つとともにコストを下げることにも寄与しています。特に商用車を増やすことは、水素の消費を増やして水素ステーションの稼働率を上げ、結果的にインフラを拡充させていくことにもつながります。初代の開発・販売を通じて学んできたこと、時代も進んだことから視点が燃料電池車を作るということから、より水素社会全体を構想していくように進化したのだと思います。仕事のやり方が変わったのです。
私が究極のエピソードだなと思ったのは、田中チーフエンジニアは、社長が社員に1人1人の立場で世の中をよくするため、皆様を笑顔にするためには何ができるかを考えてほしいといったことを受けて、自分にできることは何だろうと考えて思いついたのが外部給電、FCで作った電気を、皆さんに供給することだったということです。
自分以外の誰かのために、“YOU”の視点でこのクルマが社会でより役立つために、社会の公器として給電機能を持たせる決断をしました。給電機能があれば、災害の時に乗っていって、困っている皆さんに電気を供給させていただくことができます。まさにトップの考えに迫り、自ら仕事のやり方を変え、スペックまで変えたというエピソードです。
トヨタは、これからも1人1人が“YOU”の視点、SDGsの視点で仕事の目標や進め方を見直し、ステークホルダーの皆様と連携してカーボンニュートラルというチャレンジングな目標に向け、全力で取り組んでいきます。
トヨタはグローバルに、さまざまな地域でビジネスをさせていただいています。日本のように再生エネルギーの導入がまだ進んでいない国など、エネルギー事情は国によって違っています。また、モビリティの使い方も違います。それぞれの方が、それぞれの地域で環境にとってベストなソリューションを少し先ではなく、今から選んでいただけるように全方位の電動化戦略をとっています。
また、50年というゴールに向かう過程では、多くの課題が想定されます。ステークホルダーの皆様とともに、1つ1つ解決していけるように長年環境に取り組んできたトヨタだからこその力を発揮し、リアルに動いていきたいと考えています。
さて、再び「私たちは動く」です。元旦から放送開始となったテレビコマーシャルでも使われておりますが、実は自動車業界以外の方からも「元気が出た」「自分も頑張ろうと思った」といった、ありがたい反響をいただいています。
トヨタフィロソフィーのビジョンは「可動性を可能性に変える」ということだとご紹介しましたが、この可動性には1人1人が行動を起こすという意味も込められています。自動車業界の550万人だけではなく、皆様と一緒に連携して動き出せば、風が生まれ、景色が変わり、明日に近づくと信じています。ぜひ今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます。本日はありがとうございました。
今回の「サステナブル・ブランド 国際会議2021横浜(SB 2021 YOKOHAMA)」レポート記事は如何でしたでしょうか。
注目すべきセミナー、ディスカッション、ワークショップの様子を引き続きethicaで連載していきますので、お楽しみに!
バックナンバーはこちらからご覧頂けます。
記者:エシカちゃん
白金出身、青山勤務2年目のZ世代です。流行に敏感で、おいしいものに目がなく、フットワークの軽い今ドキの24歳。そんな彼女の視点から、今一度、さまざまな社会課題に目を向け、その解決に向けた取り組みを理解し、誰もが共感しやすい言葉で、個人と世界のサステナビリティーを提案していこうと思います。
私によくて、世界にイイ。~ ethica(エシカ)~
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