知ってもらえなければ何もなかったことと同じ
萱島: 坂田さんはオーガニックブログを10年以上書き続けていらっしゃいます。現在も頻繁に更新されていて、夢や信念を語る言葉に力があるなあ、むちゃくちゃ求心力があるなあといつも感心して拝見しているんですけど、発信することは、坂田さんにとってどんな意味をもちますか?
坂田: 18歳から28歳までは家庭にいる時間が長かったので、結局自分がどんなに強い思いを持っていても、どんなに苦労を乗り越えていても、どれだけ素晴らしいものに出会ってどんなにいいことをしていても、それを外に伝えないと誰も知ってくれないということを痛感しました。
「私はこういう人間です、こんな思いを持っているんです、こういう仕事がしているんですよ」というようなことを私が自分で伝えなかったら、自分のことを誰も評価してくれません。特にオーガニック・エシカルな仕事はまだマイノリティ(少数派)なのでその魅力すらお客さんには届いていません。「知ってもらえる」だけで最初は良かったわけです。
私の言葉の中には、他から学んだ影響力のある格言みたいなものが多くあります。
その中の一つとの出会いとしては、娘がジブリが好きで宮崎駿さんの展示会に行った時のことです。「知ってもらえなければ何もなかったことと同じ」という宮崎さんの言葉がポスターに書いてありました。
「作品よりもポスターに時間をかける」とも書いてあって、その理由は「知ってもらわなければ、観客は誰もここに来ない。ということは、どんなに映像が素晴らしくても、まずはここに来てもらうきっかけを僕たちが作らなければ、僕たちは何もなかったことになる」というメッセージがあって、子どもをだっこしながら、そういうことかとすごく感動したことを今でもよく覚えています。
萱島: おっしゃる通りですね。とても説得力があります。
坂田: 伝えることって何かを生み出すことよりも重要なんですよ。
私たちって結局、何かをやる時って出来上がったものに自信を持ってから伝えることが多いじゃないですか。例えば製品もそうですけど「コスメが完成しました。PRしましょう。」でも、それじゃ遅いわけです。作った過程(プロセス)が素晴らしいのに、そのことを伝えられていない。作っている段階でお客さんの意見を採り入れて、デザインやテクスチャーが変えられた方が絶対にいいのに、何も伝えないということは長い期間頑張った努力はお客さんに伝わっていないわけですよね。
お客さんの多くは「モノ」や「コト」という外的な魅力だけでなく、例えば裏路地の古い小料理屋でもお客さんに愛されているお店ってありますよね。それは見た目や料理の美しさ以上に、そこで働く店主の「物語」や「個性」に魅力があるからです。私はそういう人柄の良さや原料の物語などを製品やサービスに反映させたいとずっと思っていたわけです。