読者対話型連載「あなたにとってウェルビーイングとは何か」 第3章:食から考える豊かさ編(第1節)
独自記事
このエントリーをはてなブックマークに追加
Instagram
読者対話型連載「あなたにとってウェルビーイングとは何か」 第3章:食から考える豊かさ編(第1節)

新企画「あなたにとってウェルビーイングとは何か」を担当します永島郁哉と申します。早稲田大学で社会学を学びながら、休日には古着屋に行ったり小説を書いたりします。

この連載は、ストレス社会に生きる私たちが、ふと立ち止まって「豊かさ」について考えるきっかけとなる、ささいな休憩所のようなものです。皆さんと一緒に、当たり前だと思っていた価値観を一つ一つほどいていく作業が出来たらと思います。

第3章は「食から考える豊かさ」と題して、全四節にわたりお送りします。食とのつながりをヒントに、皆さんと共にウェルビーイングについて考えていけたらと思います。

第3章 食から考える豊かさ

第1節 竹の意外な使い方

旅の一番の目的はご当地飯、という方も多いのではないでしょうか。かく言う私も、いわゆるエスニック料理が大好きで、東南アジアを旅していた頃は、ナンプラーやパクチーの独特な香りにつられて色んなお店に行きました。

ご当地飯の魅力を語れと言われれば何時間でも話すことが出来ますが、強いて言うなら「いつも予想を超えてくる」ことでしょうか。というのも、普段私たちが食べるものというのは、その食材から調味料、料理方法、調理器具まで見慣れたものによって出来ています。ところが一歩自文化を出てみると、全く見たことがない、予想のつかないようなものに出会うことがあります。

今回は「竹」を例に、その異文化体験を紹介したいと思います。

竹を使った料理を披露してくれた現地の青年

アジアのいくつかの国ではバナナの皮をお皿の代わりにするというところがありますが、私がベトナムの国境近くの村で見たのはもっと「予想を超えた」ものでした。

ホーチミン市から車で5~6時間のところにビンフックという省があります。この地域はカンボジアと国境を接しており、国境近くは深い森に覆われています。そんなわけで、自然資源が豊富にある土地ですが、面白いのは成長の早い「竹」を土着めしの調理器具として使うところです。

日本でも近年はキャンプ飯のひとつとして、竹を調理器具として使うことがあるようですが、ベトナムのそれはもっと複雑です。

私が見たものは鶏肉のスープでした。現地の人たちは、火が通るのに時間のかかる食材とそうでない食材を上手く見分けながら、竹の細い長い構造を活かして、食材を順番に入れていきます。また葉物を最後に詰めることで中の食材を蒸し、旨味を閉じ込めるのだそう。

さらに面白いのは、竹に上手く食材を収めるために用いられるナイフがあることです。そのナイフは手の形に切り出されており、たとえ固い食材でも手の上だけで切ることができます。森の奥にある貴重な木で作られているとのことで、いかに彼らにとって重要なツールであるかがわかります。

特製のナイフ

こうして作られるスープには水は一切使われておらず、食材の水分だけで美味しい出汁が出ています。水分を蒸発させることなく、全ての食材に火が行きわたるようにするこの調理方法はまさに先人の知恵です。味は言うまでもなく絶品。唯一の欠点は一度にあまり多く作れないことですが、むしろそれ故に、味わって食べることが出来たのは良かったのかもしれません。

固い食材も難なく切れる

こうして見てみると、もはや「竹」は単なる調理器具というより、文化的アイデンティティの一部なのではと思ってしまいます。竹を用いることはその場所での暮らしや、周りの環境、その土地の歴史を生み出していくことそのものなのでしょう。

私は、便利なフライパンやハイテクマシーンとの対比として、こうした調理方法を紹介したわけではありません。「竹」を用いることがその土地のその料理にとって最適であって、そのような調理方法で出来た料理も、高級レストランで出てくる料理と同様に評価されるべきだと言うことです。

何かとの比較——それは往々にして自文化との比較ですが——を通してではなく、自分にとって新しい、異なる文化をそのまま受け入れられるような態度があれば、物事はもっと鮮やかに見えてくるかもしれません。

少なくとも、あの「竹スープ」は私の目にはローテクノロジーとしてではなく、ニューテクノロジーとして写っています。そうすることで私はその料理に染み込んだ「異文化の出汁」を味わうことが出来たのだと思っています。予想を超えていくこと、つまりは文化の枠組みを広げていくことが、21世紀を上手く生きるコツなのかもしれません。

竹を火に入れる様子

今回の連載は如何でしたでしょうか。バックナンバーはこちらからご覧頂けます。

[読者対話型連載]あなたにとってウェルビーイングとは何か

永島郁哉

1998年生まれ。早稲田大学で社会学を学ぶ傍ら、国際学生交流活動に携わる。2019年に公益財団法人イオン環境財団主催「アジア学生交流環境フォーラム ASEP2019」に参加し、アジア10カ国の学生と環境問題に取り組んだ他、一般社団法人アジア教育交流研究機構(AAEE)では学生スーパーバイザーを務め、ベトナムやネパールでの国際交流プログラム企画・運営を行っている。2019年9月より6か月間ドイツ・ベルリン大学に留学。

——Backstage from “ethica”——

今回の連載は、読者対話型の連載企画となります。

連載の読者と、執筆者の永島さんがオンラインオフ会(ZOOM)で対話をし、次の連載の話題や企画につなげ、さらにその連載を読んだ方が、オンラインオフ会に参加する。

という形で、読者との交流の場に育てていければと思います。

ご興味のある方は、ethica編集部の公式Facebookのメッセージから、ご応募ください。

https://www.facebook.com/ethica.jp

抽選の上、次回のオンラインオフ会への参加案内を致します。

私によくて、世界にイイ。~ ethica(エシカ)~
http://www.ethica.jp

ethica編集部

このエントリーをはてなブックマークに追加
Instagram
冨永愛 ジョイセフと歩むアフリカ支援 〜ethica Woman Project〜
独自記事 【 2024/6/12 】 Love&Human
ethicaでは女性のエンパワーメントを目的とした「ethica Woman Project」を発足。 いまや「ラストフロンティア」と呼ばれ、世界中から熱い眼差しが向けられると共に経済成長を続けている「アフリカ」を第1期のテーマにおき、読者にアフリカの理解を深めると同時に、力強く生きるアフリカの女性から気づきや力を得る...
【ethica Traveler】 連載企画Vol.5 宇賀なつみ (第4章)サンフランシスコ近代美術館
独自記事 【 2024/3/20 】 Work & Study
「私によくて、世界にイイ。」をコンセプトに2013年に創刊した『ethica(エシカ)』では、10周年を迎える節目にあたり、エシカルでサステナブルな世界観、ライフスタイルをリアルに『感動体験』する場を特集しています。 本特集では、カリフォルニア州サンフランシスコ市のエシカルな取り組みを取材!エシカ編集部と共にサステナブ...
持続可能なチョコレートの実現を支える「メイジ・カカオ・サポート」の歴史
sponsored 【 2025/3/19 】 Food
私たちの生活にも身近で愛好家もたくさんいる甘くて美味しいチョコレート。バレンタインシーズンには何万円も注ぎ込んで自分のためのご褒美チョコを大人買いする、なんてこともここ数年では珍しくない話です。しかし、私たちが日々享受しているそんな甘いチョコレートの裏では、その原材料となるカカオの生産地で今なお、貧困、児童労働、森林伐...
【ethica Traveler】  静岡県 袋井市の旅 おいしいもの発見!
独自記事 【 2025/3/20 】 Work & Study
日本列島のほぼ真ん中で、駿河湾を囲むように位置する静岡県。その中でも、太平洋に面する西の沿岸部に近いところに袋井(ふくろい)市があります。東西の交流地点として、古くから人や物や情報の往来を支えてきた袋井市は、高級メロンやリゾート、由緒正しき寺院など、未知の魅力がたくさんあるユニークな場所です。今回は、そんな袋井市の中で...

次の記事

(第2話)コンプレックスが「最大の武器」 [連載企画]植物調合士・オーガニックビューティセラピスト 坂田まことさん
(第20話)「物と向き合うこと」【連載】かぞくの栞(しおり) 暮らしのなかで大切にしたい家族とwell-being

前の記事

スマホのホーム画面に追加すれば
いつでもethicaに簡単アクセスできます