前回の記事では、自然環境の維持や社会に配慮したビジュアルに関してお話をしました。今回は、持続可能な社会の実現に結びつく世代別のビジュアルに関して考えていきたいと思います。
世代間の価値観の違い
少し前では考えられなかった規模の猛暑、水害、火事などの気候変動の影響を、身をもって感じる今、世代間にはある意味対立する感情が生まれてきているように感じられます。例えば、若者世代は、「シニア世代の失敗のツケを払わされている」、反対にシニア世代は、若者に対して「デモなんかしていないで学校に行きなさい」というように。未来の世界を守るために私たち一人ひとりの迅速な行動が必要とされている中、環境対策は日本では難しい、というような考えはもうすでに遅く、各世代の価値観を反映する対策が必要と言えます。
Getty Imagesでコロナ後に行った調査によると、日本の消費者の大多数が、自分の行動が環境に悪影響を及ぼさないことが重要である。そして、製品やサービスが環境に直接関係していない場合でも、企業はすべての広告やコミュニケーションにおいて環境に配慮すべきだと回答しています。しかしながら、持続可能なライフスタイルは、誰にとっても同じように見えるとは限りません。人々はさまざまな要因に基づく選択を日々の生活に取り入れており、今回の調査では、世代間の価値観の違いもビジュアルを通して浮き彫りになりました。
例えば、今や環境活動のアイコン的存在である、グレタ・トゥーンベリさんのような若い世代が熱心に活動していると思われがちですが、今回の調査によると、サステナビリティは世代を超えて重要視されており、意外にもシニア世代は若者世代よりも持続可能なライフスタイルへの転換に熱心である事が判明しました。この結果を受けて、世代別に響くビジュアル、また世代共通に響くビジュアルを、下記のようなグローバルな視点での世代に分けてご紹介したいと思います。
・ベビーブーム世代(1945~64年生まれを含む)
・X世代 (1965~80年生まれを含む)
・ミレニアル世代(1980~95年生まれを含む)
・Z世代(1995年生まれを含む)
ベビーブーム世代は環境への影響や個人の行動を示すビジュアルに反応
ベビーブーム世代は環境問題が人間や動物、自然に与える直接的な影響を表すビジュアルを好む傾向にあり、さらに地域やコミュニティでのリサイクル活動や、使い捨て製品を使わないなどの、個人の行動に信頼を寄せる傾向にあります。リサイクルマークは特にこの世代に受け入れられた反面、若い世代には響かないこともわかりました。そのため、この世代に最も響きやすいのは、リサイクルやボランティア活動、再利用可能な製品の使用など、持続可能性に向けて行動するシニア世代の一人一人の努力を示すビジュアルであると言えます。
X世代は未来の為に今を生きる、持続可能な投資を示すビジュアルに反応
X世代は、産業が環境に良い影響を与えることに最も懐疑的ですが、持続可能な投資に最も熱心な世代でもあります。この世代は現在、子育て中や、職場でリーダーシップを発揮するようなポジションのライフステージにいて、金銭的にもサステイナビリティの将来に影響を与える立場にあります。したがって、サステナブルビジネスに関わる人々が働く姿、新しい技術の活用、自宅のエコ化などを示す、ライフスタイルとビジネスの両方のビジュアルに反応すると言えます。
ミレニアル世代は、生産から購買までの持続可能な消費を示すビジュアルに反応
この世代はシニア世代に比べて、持続可能な慣行を採用している企業や生産者から購入する可能性が高く、持続可能な消費の主な原動力となっています。リサイクルをするといった個人的な行動よりも、サステナブルなビジネスに共感し、自分と同世代の人が持続可能な地域密着系のビジネスを営む、またはその顧客であることを示すビジュアルが、彼らを惹きつけると言えます。
Z世代は集団的責任を喚起するビジュアルに反応
この世代はソーシャルメディアを含めた様々なメディアを通して、自分の価値観などをシェアし、テクノロジーが持続可能な活動を促進する可能性を重視します。他の世代ほどの消費力はないものの、一人ひとりが行動すれば変化をもたらすことができると考えており、環境問題に関連した人間のリアルな感情を捉えたビジュアルを好みます。このような成長層には、環境のためにみんなでできること、友達、家族、コミュニティと一緒に行動を起こすことで得られる精神的な満足感を示すビジュアルが効果的と言えます。
全世代共通でソリューションが実生活に溶け込んでいるビジュアルに反応
再生可能エネルギー、森林再生、などの大規模な解決策が実生活に溶け込んでいる様子、環境に変化をもたらす方法やメリットが簡単に想像できるようなビジュアルに、全世代が大きく反応しました。特にソーラーパネルはすべての世代に受け入れられており、特に再生可能エネルギーなどを実際に使用しているビジュアルが世代を超えて響きやすいと言えます。
一人ひとりの行動が環境に与える影響を理解して、ライフスタイル全体の持続可能性について消費を見直そうという動きが出ている中、消費者は、生活の中で少しでも使い捨て製品を排除したり、植物ベースの食生活に切り替るなどといった努力をしています。ただし、パリ協定で定めた『世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より低く保ち、1.5℃に抑える』という目標を達成するためには、ちょっとやそっとの個人の努力では足りず、企業も政府も、未来の生活を守るために対策を進める必要があります。
Getty Imagesでは、年代によって、持続可能な社会の実現に対する価値観が異なることを念頭に置きながら、消費者と企業が相互に働きかける好循環を形成するような、豊かな暮らしをビジュアルを通して伝えていきたいと考えます。
寄稿連載「ビジュアルコミュニケーションから学ぶ」全6回にわたってお届けしてまいります。
遠藤由理
ゲッティイメージズジャパン株式会社 クリエイティブインサイト マネージャー
10代後半からアメリカ、スペイン、チェコ、韓国で過ごす。映画制作とデジタルメディアデザインに重点を置いたビジュアルメディアの学歴を持ち、国際映画や日本映画のプロモーション、セールス、買収、配給などの仕事に従事。 2016年からはゲッティイメージズ、ならびに、iStockのクリエイティブチームのメンバーとして、世界中のクリエイティブプロフェッショナルによる利用データ分析と外部データや事例を調査し、来るニーズの見識を基にCreative Insights(広告ビジュアルにおける動向調査レポート)を発信。意欲的な写真家、ビデオグラファー、イラストレーターをサポートし、インスピレーションに満ちたイメージ作りを目指している。
私によくて、世界にイイ。~ ethica(エシカ)~
http://www.ethica.jp