第1回目の記事で、日本の多くの企業やブランドが持続可能性を示すために使用しているビジュアルが、私たち消費者の行動喚起に大きな影響を与えるものとは限らない、というお話をしました。今回は、我々の行動喚起や意識改革につながるビジュアルに関して考えていきたいと思います。
COP26 (国連気候変動枠組条約第26回締約国会議)開幕
10月末から11月中旬にかけて、英・グラスゴーでCOP26 (国連気候変動枠組条約第26回締約国会議)が開幕されます。今回の大きな目的は、CO2排出量を削減すること。各国の首脳や政策立案者、気候科学者などの代表者が集まり、大気中の温室効果ガスを一定に保ち、平均気温が危険なレベルまで上昇するのを防ぐための戦略を協定します。
今年8月に公表された「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」の報告書で、温暖化の主な原因は人間活動であることが明らかにされ、さらに地球温暖化研究に対する功労が認められ、プリンストン大学上級研究員の真鍋淑郎博士がノーベル物理学賞を受賞しました。地球温暖化を取り巻く状況は厳しく、これまで以上に迅速で明確な対策が必要とされる中、前回のCOP25で「温暖化対策に消極的な国」というイメージを世界に拡散してしまった日本。本会議で、CO2の最大の排出源である石炭火力発電を全廃し、クリーンなエネルギーへの移行を促進する具体案が出せるかに注目が集まります。
では過去1年間、Getty Imagesのサイト上で日本の企業によってどのようなキーワードが検索されてきたのか。「SDGs」という言葉自体の検索も増加していますが、その他に検索数が上がっているキーワードが、「カーボンニュートラル」、「ゴミ捨て」、「脱炭素」、「再生可能エネルギー」、「EV」、「家庭菜園」などです。この1年ほどでより具体的で身近なものになっており、日本の企業からも、サステナブルな社会や脱炭素を示すビジュアルが求められていることがわかります。ただし、過去10年間のトップセラーの推移を見てみると、実際に日本の企業からダウンロードされ、人気があったビジュアルは、「持続可能な投資」「持続可能性とデジタル化」を示すCGIやイラストレーション作品が大半でした。全体的に抽象的な表現を用いているため、人間とのつながりは薄く、何年経ってもビジュアルの「お決まり感」は否めません。 しかし、その根底にあるメッセージは、持続可能な経済、選択肢、コミュニティを示す、スマートシティ、地産地消、代替輸送などの具体例を紹介することへと進化しています。しかしながら、以前にも指摘した通り、このようなビジュアルを見ると、私たちは環境問題を連想はしますが、これらは人間と関係のない、抽象的なものと映し出され、行動喚起にはつながらないと言えます。
持続可能な日常生活
Getty Imagesで行った調査によると、日本の消費者の大多数が、リサイクル、再利用可能なカップやバッグの使用、中古品の購入など、日常生活で持続可能な行動をとっていることがわかりました。また、環境に配慮した努力をしているブランドの製品しか買わないとの回答も多くありました。反対にリサイクルされたはずのものが、結局は廃棄されているのではないか、CO2排出量を減らすために何ができるかわからない、といった回答も多くありました。自分のCO2排出量を気にすることは、今や日本の消費者の日常生活の一部となっており、どうやったら減らせるかを明確に示すビジュアルは行動喚起や意識改革に繋がり、環境負荷を減らしていくことを可能にすると考えます。今こそ、我々消費者は、サステナブルな選択が日常にどのように溶け込んでいるか、ビジュアルを通して理解する必要があるわけです。
では、私たちはどのようにしてビジュアルを見る力を鍛え、環境や社会に配慮した一人ひとりの行動につなげることができるのでしょうか。Getty Images において、自然環境の維持やそれに配慮した行動に関するビジュアルを制作する側、そして利用する側、双方の為に作ったチェックポイントをご紹介します。
新しい持続可能な選択肢がビジュアル化されているでしょうか?
日常生活の中で実現できる持続可能なビジュアルを見ることで、意識改革に繋がり、環境負荷を減らす生活が可能になると言えます。
身近なストーリーがビジュアル化されているでしょうか?
信憑性そして、そこに映る身近な人の行動は常に消費者の心に響くと言えます。嘘のないポジティブな持続可能な努力が描写されているでしょうか?例えば、家庭菜園や、家のベランダでコンポストを行ったり、古着屋さんで買い物をしたりなど、身近な行動があげられると思います。
インクルーシブなストーリーがビジュアル化されているでしょうか?
様々な人種、年齢、体型、セクシュアリティ、ジェンダーアイデンティティ、宗教、能力、社会経済的グループの人々の生活が反映されているでしょうか?
国や企業だけでなく、我々消費者がどのような行動をとっていくか、今後の10年間は、未来の地球に直結するターニングポイントだとされています。一人ひとりの行動が環境に与える影響を理解して、ライフスタイル全体の持続可能性についての意識改革や、新しい選択肢をビジュアルを通して伝えていきたいと考えます。
寄稿連載「ビジュアルコミュニケーションから学ぶ」全6回にわたってお届けしてまいります。
遠藤由理
ゲッティイメージズジャパン株式会社 クリエイティブインサイト マネージャー
10代後半からアメリカ、スペイン、チェコ、韓国で過ごす。映画制作とデジタルメディアデザインに重点を置いたビジュアルメディアの学歴を持ち、国際映画や日本映画のプロモーション、セールス、買収、配給などの仕事に従事。 2016年からはゲッティイメージズ、ならびに、iStockのクリエイティブチームのメンバーとして、世界中のクリエイティブプロフェッショナルによる利用データ分析と外部データや事例を調査し、来るニーズの見識を基にCreative Insights(広告ビジュアルにおける動向調査レポート)を発信。意欲的な写真家、ビデオグラファー、イラストレーターをサポートし、インスピレーションに満ちたイメージ作りを目指している。
私によくて、世界にイイ。~ ethica(エシカ)~
http://www.ethica.jp