読者対話型連載「あなたにとってウェルビーイングとは何か」 第4章:歓迎の意を込めて編(第3節)
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読者対話型連載「あなたにとってウェルビーイングとは何か」 第4章:歓迎の意を込めて編(第3節)

新企画「あなたにとってウェルビーイングとは何か」を担当します永島郁哉と申します。早稲田大学で社会学を学びながら、休日には古着屋に行ったり小説を書いたりします。

 この連載は、ストレス社会に生きる私たちが、ふと立ち止まって「豊かさ」について考えるきっかけとなる、ささいな休憩所のようなものです。皆さんと一緒に、当たり前だと思っていた価値観を一つ一つほどいていく作業が出来たらと思います。

第4章は「歓迎の意を込めて」と題して、全5節にわたりお送りします。東南アジア各国で受けた歓迎の形を例に、皆さんと共にウェルビーイングについて考えていけたらと思います。

第4章 歓迎の意を込めて

第3節 カンボジアの打楽器

カンボジアと言えば、アンコールワット。クメール建築の傑作です。多くの写真はその全体像を写したものですが、彫刻もまた素晴らしいものがあります。

今回はそのカンボジアで遭遇した素敵な打楽器の演奏を。

アンコールワットの彫刻に刻まれたブッダ

アンコールワットが位置するのは、首都プノンペンから車で5時間ほど、飛行機では1時間未満のところにあるシェムリアップという街です。シェムリアップはアンコールワットを擁するアンコール遺跡のおかげで観光業が盛んで、市街地には多くのホテルや飲食店、土産物屋が並びます。

私はシェムリアップでもひときわ大きな噴水のあるホテルに泊まったのですが、多くの外国人観光客を受け入れているだけあって、隅々まで行き届いたサービスでした。部屋のシーツに皺ひとつもないことはもちろんのこと、すれ違う従業員は揃って笑顔で会釈をしてくれます。ビュッフェスタイルの食事は、カンボジアの伝統料理をモダンにアレンジしたものが出るなど、日本で言うなら高級料亭です。

部屋からの景色 隣にも高級ホテル

私のカンボジア滞在は、国際プログラムの一環であったので、毎朝決められた時間にロビーに集合してアンコール遺跡をはじめとした各地を訪れます。プログラムはアジア圏の大規模な学生交流プログラムだったので、参加者は引率者含め200人ほど。それでもその人数がゆうに入って、尚且つ静寂さを維持できるほど、ロビーは広く天井が高い場所でした。

そんな広大な場所で毎朝私は、一人の女性がひっそりと打楽器を演奏しているのを聴いていました。その女性は、伝統衣装に身を包み、木琴のような楽器を鳴らしています。その音色はコンコンと言うには柔らかすぎだし、ポンポンと言うには軽すぎる印象で、‶ホロンホロン″というのが適切なような気がします。重みのある音がこぼれ落ちていく感覚。バチが木を叩いた途端にその一部がポコッと外れて音になり、地表に落ちる前に空気と混ざり合っていくようなイメージです。

ただの木琴の音にしてはやけに広がりがあって、雑音がありません。ロビーが広すぎるが故に特有のリバーブ(反響)が生じていたのかもしれません。それにしても私にとって、その音はどうにも忘れがたいもので、200人の一部として動いていた私をそこから引き離して一人ぼっちにしてしまうような体験でした。事実、みなの集まる場所にいながら私の心はいつもそこに無く、ホロンと落ちていった音の先を追うように耳をすましていました。

ロビー脇にある池

今、そんな話をしても、参加者の誰もそれを覚えていないでしょう。演奏者がいたこと自体知らないかもしれません。それでもあの音は未だに、私とカンボジアを繋ぐおぼろげな橋のようなものになっていて、忘れることができないものなのです。

ロビーで新しい客を出迎え、あるいは送り出していく演奏。「カンボジアを楽しんで」と言わんばかりの、薫り高さを含んだ広がりのある音の前で、私は文字通り音に抱かれてカンボジアを身体的に感じていました。

そうした音響体験をすることはあまりありません。私はあの時、空気に混ざる豊かな気配を感じることが出来てとても満足しています。料理を振舞われたり、挨拶をされることだけが「歓迎」ではありません。雰囲気に交じったほのかな感覚からでもその国のおもてなしを感じることが出来ると、私は思います。

中庭にあるプール

今回の連載は如何でしたでしょうか。バックナンバーはこちらからご覧頂けます。

[読者対話型連載]あなたにとってウェルビーイングとは何か

永島郁哉

1998年生まれ。早稲田大学で社会学を学ぶ傍ら、国際学生交流活動に携わる。2019年に公益財団法人イオン環境財団主催「アジア学生交流環境フォーラム ASEP2019」に参加し、アジア10カ国の学生と環境問題に取り組んだ他、一般社団法人アジア教育交流研究機構(AAEE)では学生スーパーバイザーを務め、ベトナムやネパールでの国際交流プログラム企画・運営を行っている。2019年9月より6か月間ドイツ・ベルリン大学に留学。

——Backstage from “ethica”——

今回の連載は、読者対話型の連載企画となります。

連載の読者と、執筆者の永島さんがオンラインオフ会(ZOOM)で対話をし、次の連載の話題や企画につなげ、さらにその連載を読んだ方が、オンラインオフ会に参加する。

という形で、読者との交流の場に育てていければと思います。

ご興味のある方は、ethica編集部の公式Facebookのメッセージから、ご応募ください。

https://www.facebook.com/ethica.jp

抽選の上、次回のオンラインオフ会への参加案内を致します。

私によくて、世界にイイ。~ ethica(エシカ)~
http://www.ethica.jp

ethica編集部

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