読者対話型連載「あなたにとってウェルビーイングとは何か」 第4章:歓迎の意を込めて編(第4節)
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読者対話型連載「あなたにとってウェルビーイングとは何か」 第4章:歓迎の意を込めて編(第4節)

新企画「あなたにとってウェルビーイングとは何か」を担当します永島郁哉と申します。早稲田大学で社会学を学びながら、休日には古着屋に行ったり小説を書いたりします。

この連載は、ストレス社会に生きる私たちが、ふと立ち止まって「豊かさ」について考えるきっかけとなる、ささいな休憩所のようなものです。皆さんと一緒に、当たり前だと思っていた価値観を一つ一つほどいていく作業が出来たらと思います。

第4章は「歓迎の意を込めて」と題して、全5節にわたりお送りします。東南アジア各国で受けた歓迎の形を例に、皆さんと共にウェルビーイングについて考えていけたらと思います。

第4章 歓迎の意を込めて

第4節 ベトナム流ウェルカムセレモニー

大きな式典で、自分(たち)のために盛大なセレモニーが開催されるなんて経験はそうそうあるものではありません。「特別講師」だとか「スペシャルゲスト」だとか「代表使節」だとか、そういった大きな肩書があって初めて行われるものでしょう。

幸い私には「代表使節」のような形で、何度かベトナムを訪れたことがあり、その際には大きなホールで歓迎セレモニーを行っていただきました。今回はその時の様子から、訪れる側と迎える側の関係性について少し考えたいと思います。

ビンフック省の豊かな自然

私が使節のような形で足を踏み入れたのは、ベトナムのビンフック省です。ホーチミン市から車で5~6時間の場所にあり、カンボジアと国境を接しています。訪問は省政府が認可した公式のプログラムの一環なので、会場も行政の所有する市民ホールのような場所でした。もちろん出席者の中には政府の要人もいて、会場全体がかなり厳かな雰囲気に包まれていたことを覚えています。全体の収容人数はざっと200人程度。

われわれは会場の前方で緊張した空気に肌をつつかれながらも、これからステージで行われるであろうことをあれやこれやと予想していました。そして、開会。まずは省政府から歓迎の言葉が続き、われわれからも代表者がそれに対して謝辞を述べました。ギフトの贈呈やちょっとした日本文化紹介などもし、式全体は礼儀に則った形で進行しました。しかしこれで閉会かと思いきや、ステージの上には若い人達が集まってきました。ほどなくして、耳を裂くほど大きな音楽がかかり、ひらひらと踊り始めたのです。前に座る政府要人の方々は心配げに、しかし誇らしげな目でそれを見守っているようです。

踊りの披露

この日のために練習してきたのであろう若い人たち(見た目からして中学生か高校生)が、懸命に踊る様を見て、心の底で何かがじわじわと暖まる感触がしたことを覚えています。彼らの表情には緊張の跡が残ったままでしたが、何かを魅せようという意識は確実にそこにあるようでした。

それは必ずしも「日本の使節団を歓迎しよう」という大きな物語ではなかったような気がします。もっとミクロで感情的な灯火がこちらに伝わってくるような感覚です。言うなれば、着飾った燭台のある大広間に案内されるというより、ろうそくの火が並ぶ食卓に招かれているイメージです。

会場を後にする最後の瞬間まで手を振り続けてくれた

極めて形式的で、ある種権威的な場所において、そのような情緒的な踊りが見られたことに私は未だに驚いています。そしてそれこそが、訪れる側と迎える側の良好な関係の一形態ではないかと思うのです。訪問や歓迎というのは往々にして形式主義的なものに陥りがちです。もちろんそれを否定する意図はありませんが、そこに歓迎している/されているという感情の振動が伴わないならば、いつまでたっても仮面を着けたまま舞踏会に参加しているようなものです。お互いに顔が見えないというのは都合の良い時もあれば悪い時もあります。

彼らが舞うその瞬間に存在していた「何か」は少なくとも形式的なものでは決していなかったし、仰々しい仮面もしていなかったはずです。そこには、その個人から出る感情のいくつかの雫が混じっていたし、私はそれに反応することが出来た。そのような歓迎の形が私は好きだし、それがより近い距離で他者を眼差すことを可能にするのではないかと思います。

ただ、「これだけ感情を込めたのだから歓迎の意をくみ取ってくれるはず」だとか、あるいは「受け入れる人たちは感情の込めたパフォーマンスを披露しなければならない」だとか、そういった「こうあるべき論」にはしたくないなとも思っています。歓迎というのはもっと偶発的な現象だし、感情に決まった枠組みを用意するというのもおかしな話ですからね。私は、そのような形の歓迎が存在していること自体に自然な好意を抱いている、ということを皆さんと共有し、皆さんにも自分なりに「歓迎」という相互作用について考えて欲しいと思っています。

ベトナムの国旗

今回の連載は如何でしたでしょうか。バックナンバーはこちらからご覧頂けます。

[読者対話型連載]あなたにとってウェルビーイングとは何か

永島郁哉

1998年生まれ。早稲田大学で社会学を学ぶ傍ら、国際学生交流活動に携わる。2019年に公益財団法人イオン環境財団主催「アジア学生交流環境フォーラム ASEP2019」に参加し、アジア10カ国の学生と環境問題に取り組んだ他、一般社団法人アジア教育交流研究機構(AAEE)では学生スーパーバイザーを務め、ベトナムやネパールでの国際交流プログラム企画・運営を行っている。2019年9月より6か月間ドイツ・ベルリン大学に留学。

——Backstage from “ethica”——

今回の連載は、読者対話型の連載企画となります。

連載の読者と、執筆者の永島さんがオンラインオフ会(ZOOM)で対話をし、次の連載の話題や企画につなげ、さらにその連載を読んだ方が、オンラインオフ会に参加する。

という形で、読者との交流の場に育てていければと思います。

ご興味のある方は、ethica編集部の公式Facebookのメッセージから、ご応募ください。

https://www.facebook.com/ethica.jp

抽選の上、次回のオンラインオフ会への参加案内を致します。

私によくて、世界にイイ。~ ethica(エシカ)~
http://www.ethica.jp

ethica編集部

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