読者対話型連載「あなたにとってウェルビーイングとは何か」 第4章:歓迎の意を込めて編(第5節)
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読者対話型連載「あなたにとってウェルビーイングとは何か」 第4章:歓迎の意を込めて編(第5節)

村から望むヒマラヤ

新企画「あなたにとってウェルビーイングとは何か」を担当します永島郁哉と申します。早稲田大学で社会学を学びながら、休日には古着屋に行ったり小説を書いたりします。 

この連載は、ストレス社会に生きる私たちが、ふと立ち止まって「豊かさ」について考えるきっかけとなる、ささいな休憩所のようなものです。皆さんと一緒に、当たり前だと思っていた価値観を一つ一つほどいていく作業が出来たらと思います。 

第4章は「歓迎の意を込めて」と題して、全5節にわたりお送りします。東南アジア各国で受けた歓迎の形を例に、皆さんと共にウェルビーイングについて考えていけたらと思います。

第4章 歓迎の意を込めて

第5節 ネパール村での踊り披露

歓迎の印として踊りを披露することは万国共通です。私自身も、日本で留学生歓迎会を開いた時、慣れない盆踊りを彼らに向けて披露したことがあります。ちなみに盆踊りを良いところは、その場で観客を輪に入れて、一緒に踊ることができる点です。その時も、前の方にいた人たちを引っ張ってきて無理矢理輪に加え、見よう見まねで踊ってもらいましたが、案の定大盛り上がり。気づけば、どんどん参加者が増えていって、最終的にはステージに乗りきらないまでになりました。

実はネパールでもこれとほとんど同じことを、観客、つまり歓迎される側として体験しています。ただ、ネパールのそれは私にとって異質な体験で、今も完全には理解しきれない部分が多くあるのです。今回はその一部をここで共有したいと思います。

滞在した部屋

これまで何度か、ネパールの山間の村にホームステイした話をしていますが、実はその村に到着初日、大規模な歓迎会がありました。大規模と言っても、人口は100人にも満たない小さな村ですから、集会所は学校の教室程度の大きさしかありません。そこで、村長を始め、村の住人から小さな、しかし厚い歓迎を受けたのです。

ちなみに、村には電気が十分に届いておらず、頻繁に停電があります。歓迎会の日も停電が起きていて、ほとんど真っ暗闇の中、ろうそくの火のみで会が進行していきました。暗がりに長いこといれば目も慣れてくるもので、次第にその場にどんな人がいるのかが見えてきます。そこで私がまず気づいたのは、女性たちの衣装です。ほとんど光のない闇の中では目を凝らさないとよく見えないのですが、それは赤や緑を基調とした大きなポンチョのようなもので、どうやら生地を贅沢に使用して編まれているようでした。

「暗闇でも映えるにという、ある種の民族的知恵なのだろうか」と思慮を巡らしているうちに、今度はそれよりも質素な出で立ちの男性たちがぞろぞろとステージに上がっていきます。彼らは何やら大きなものを抱えていて、ステージの奥に整列したかと思うとドカッと床に座ってしまいました。一体何が始まるんだとソワソワする暇もなく、その内の誰かが筒のような物体を勢いよく叩き、あたりに耳抜けの良い太鼓の音が響きます。それに続けとばかりに今度はそれよりも重量のある音が横隔膜を震わせ、軽快なリズムが刻まれていきました。

次には、例の鮮やかな衣装をまとった女性たちがステージに上がり、手を広げ閉じ、腰に手をまわしてくるっと一周し、足元で前後左右にステップを踏み始めます。踊り自体は盆踊り同様に一定の動きを繰り返すもので、そこまで派手な動きもありません。演奏も打楽器だけですから、普通に考えれば、そのステージには極めてモノクロームな空間が形成されていたはずですが、実際には真逆でした。私はなぜかその時、そこに180色の色鉛筆を思い浮かべたし、あるいは他の人は家電量販店の8Kテレビを見たかもしれません。それほど、その空間は鮮やかな彩りを保持していて、その歓迎は実に不思議なものだったのです。

その後私もステージに呼ばれ、見よう見まねで15分ほど踊り続けました。終わった頃には言葉の通じない村人となぜか肩を組んで笑い合っていて、私は知らぬ間に村の一部に迎え入れられたのでした。

村中にある飾り

改めて考えても、あの歓迎の舞は一体何だったのか、わかりません。どうしてあれほど単調なリズムと動作が鮮やかな空間を作れたのか。それに集会所は真っ暗です。衣装が鮮やかだったとは言え、それは目を凝らしてやっとわかるレベル。実際に私が目にしていたのは、人影が手を伸ばしたり縮めたりクルクルと回っている様子だけで、そこには聴覚的にも凪のように平坦なリズムが付随していただけです。それなのになぜあれほどに多様な色が現れるのか。

滞在中には雪も

もしかしたらそれが歓迎の効果なのかもしれません。歓迎会という空間で、歓迎する/されるの社会関係が成立したときに現れたのが、その色だったということです。もっと嚙み砕いて言えば、歓迎している/されているという意識が、私の目に色を見させたのかもしれません。

思えば、そういう経験は誰にでもあるでしょう。どんなにつまらない映画を観ても、それが恋人と一緒であれば楽しい思い出になります。どんなに現実に単調な景色が広がっていても、そこにある意識が風景に色付けを行うのです。

そう考えると、歓迎の意識は、これまでよりも大きな意味を含んだものになります。相手を迎え入れるという意識と、その社会・集団に関わりたいという意識は、単にそれぞれの心の内に留まるのではなく、現実世界の認識に影響を与えるというわけです。そうであれば、私はできるかぎりその意識を強く持っておきたいし、世界をもっと鮮やかに見てみたい。人生の彩度は歓迎の意識によって増すかもしれません。

絶景ヒマラヤ

今回の連載は如何でしたでしょうか。バックナンバーはこちらからご覧頂けます。

[読者対話型連載]あなたにとってウェルビーイングとは何か

永島郁哉

1998年生まれ。早稲田大学で社会学を学ぶ傍ら、国際学生交流活動に携わる。2019年に公益財団法人イオン環境財団主催「アジア学生交流環境フォーラム ASEP2019」に参加し、アジア10カ国の学生と環境問題に取り組んだ他、一般社団法人アジア教育交流研究機構(AAEE)では学生スーパーバイザーを務め、ベトナムやネパールでの国際交流プログラム企画・運営を行っている。2019年9月より6か月間ドイツ・ベルリン大学に留学。

——Backstage from “ethica”——

今回の連載は、読者対話型の連載企画となります。

連載の読者と、執筆者の永島さんがオンラインオフ会(ZOOM)で対話をし、次の連載の話題や企画につなげ、さらにその連載を読んだ方が、オンラインオフ会に参加する。

という形で、読者との交流の場に育てていければと思います。

ご興味のある方は、ethica編集部の公式Facebookのメッセージから、ご応募ください。

https://www.facebook.com/ethica.jp

抽選の上、次回のオンラインオフ会への参加案内を致します。

私によくて、世界にイイ。~ ethica(エシカ)~
http://www.ethica.jp

ethica編集部

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