ナイキは企業としてのパーパス(存在目的)の中心にサステナビリティへの配慮を据えています。具体的な活動として、2025年までに自社の施設において二酸化炭素(CO2)の排出を65%削減し、事業活動で生じた廃棄物の10倍相当量をリサイクルか寄付し、環境に配慮した素材を主要製品に占める材料全体の50%にまで引き上げることを約束しました。パートナー企業と協力しながら、地球を守ることに真剣に取り組むナイキの取り組みに要注目です。(記者:エシカちゃん)
事業活動とサステナビリティ活動を一体運営する
「ナイキでは、アスリートの役に立つため、地球を守ることに関しても真剣に取り組まなくてはいけないと考えています」。これは同社でチーフ・サステナビリティ・オフィサーを務めるノエル・キンダー氏の言葉です。
キンダー氏は「私たちの行動全ての中心にサステナビリティへの配慮があるべきで、これは会社のパーパス(存在目的)の基本になっています。行動や信念というより、私たちの人格そのものの位置付けです」 ともコメント。サステナビリティ活動は既にビジネスのかたわらで行うものではなく、あらゆる事業活動と一体になって展開するものなのですね。
キンダー氏は「ビジネスの全てにサステナビリティへの配慮を取り入れ、会社として責任を持ちながら全ての従業員が関与することで問題を打開し、ナイキとして目標達成を目指します。本当の勝利は、私たちのプレイグラウンドを守ることです」とも話しています。SDGsは企業にとって決して「他人事」ではありません。彼らは具体的にどのような活動を行っているのでしょうか。
ナイキは持続可能な社会の実現に向けたコミットメントとして、2025年までに自社の施設において二酸化炭素(CO2)の排出を65%削減し、事業活動で生じた廃棄物の10倍相当量をリサイクルか寄付し、環境に配慮した素材を主要製品に占める材料全体の50%にまで引き上げると発表。
コミットメントの達成を通じて、50万トンもの温室効果ガスの削減を見込んでいます。
これらの約束を実現するため、キンダー氏は「従業員一人一人が具体的で目に見える、測定可能なゴールを目指すことが必要です。サステナビリティにおいてもコストや品質と同じように業務面で評価できる指標を作成すべきです」と説明しています。トップによるマネジメントに加えて、従業員の行動がカギになります。
「コンシューマー・クリエイション担当プレジデントのマイケル・スピレーンが私に『ノエル、私たちは全社をあげてサステナビリティに取り組んでいるね』と話しました。実際にその通りで、私たちは従業員一人一人に賢い変化をもたらし、アスリートと地球のために積極的にイノベーションを進めるためのチームを作っています」
ナイキは「サステナブル・イノベーション・チーム」を通じて、ビジネス全体にサステナビリティを浸透させるためのアクションを始めました。チームのスローガンを「アスリートをよりよくする」から「アスリートをよりよくし、アスリートのために世界をよりよくする」に改め、持続可能な社会へのコミットを高らかに宣言しています。
「素材革新」でCO2排出やエネルギー使用を抑える
チーフ・デザイン・オフィサーであるジョン・ホーク氏が「製品にサステナブルな機能を持たせることをルールにしよう」と発言するなど、地球を守るためのミッションを事業に落とし込む動きが社内で着々と芽生えています。ここでナイキのコミットメントの一つでもある「素材革新」にフォーカスしてみましょう。
ナイキはサステナブル素材として、従来のフットウェアーアッパー(靴の上部)に比べて廃棄物を平均60%も削減できるように設計した「Nike Flyknit」を開発。アッパーにはボトル6、7本分のプラスチックが配合することで、プラゴミの削減を目指しています。
そのほか、再生レザー繊維を50%以上使用しながら天然革の質感を実現した「Flyleather」やリサイクル素材を50%以上使った「Nike Airソール」、プラスチックボトルを再利用した「リサイクルポリエステル」、オーガニック認証を受けた地球環境に優しいコットン素材、カーペットや使用済みの漁網を原料にしたリサイクルナイロンなど、製品の隅々にリサイクル素材を活用しています。二酸化炭素排出ゼロと廃棄物ゼロへの着実なステップを踏みつつありますね。
「これは一朝一夕にできたことではありません。現在、私たちは業界で最も大量の再生ポリエステルを使用しており、年間およそ10億本のプラスチックボトルを再生しています。ナイキは再生ポリエステルのガーメント(衣服)を通常の製品と同等の見た目、感触、機能に仕上げています。さらに、フットウェアやアパレル製品を回収し、リサイクルすることで“責任のある循環”を目指しています」(キンダー氏)
ナイキは自社だけの活動に留まらず、パートナーと協力しながら二酸化炭素の排出やエネルギー使用を抑えた生産方法を追求しています。宇宙ゴミで作った「スペース ヒッピー」に象徴される地球に優しい素材へのこだわりと、ユニリーバやスターバックス、マイクロソフトなどパートナーとのコラボという2つのポイントを重視しながら、自ら考動し、サプライヤーにも変化を促しています。
現在、自動車をはじめとしたさまざまな製造業界でサプライチェーン全体におけるサステナビリティ活動がマストになりつつあります。各種メーカーの中でも気候変動対策の先駆者ともいえるナイキの活動をひも解いていきましょう。
サプライチェーン全体で気候変動問題と戦う
「環境に配慮しながらビジネスを成長させる方法を見つけることは、全ての企業にとって大きな目標の一つです。目標を達成するために『このプロセスは人間や地球にとって良いことなのか?』という大きな問題を考えなくてはいけません」ナイキで「責任ある調達と生産」に関わる業務を担当しているバイスプレジデント(VP)のマリン・グラハム氏はこう語っています。
地球環境にとってより良い生産活動を行うために、ナイキは大手サプライヤー10社と、「ナイキ サプライヤー気候アクションプログラム(SCAP)」を推進しています。パートナーと協力することで、サプライチェーン全体での脱炭素化に向けた長期計画を策定し、成長とサステナビリティの両立をゴールにしたビジネス改革を進めているのです。
ナイキではサプライチェーン全体を通じた社会変革を一層推し進めるために、「持続的な生産と調達(sustainable manufacturing and sourcing)」と名付けていた業務を「責任ある調達(responsible sourcing)」に変更しました。サプライチェーン全体で社会課題の解決に取り組む姿勢を明確にしたものです。
「私たちは洪水や干ばつ、電力不足、停電などの問題を踏まえて、サプライヤーと協力しながらビジネスを持続させる方法を考えています。私たちは気候変動への影響を理解するために、企業全体での排出指標や温暖化ガス削減目標の設定についてパートナーたちと話し合っています。生産方法からエネルギー調達まで、話し合いの場を設けているのです」(グラハム氏)
強力なサプライチェーンが課題解決のカギに
環境や社会に関わる課題は困難を極めていますが、ナイキは圧倒的な事業規模とネットワークを生かし、気候変動問題への解決に尽力しています。グラハム氏は「ナイキの製品を作ってくれるのは、数十カ国、100万人を超える労働者や広範なサプライチェーンです。二酸化炭素の排出を抑えるため、大胆な未来の実現に向けてサプライヤーに力を借りたいと望んでいます」とコメントしています。
カーボンニュートラルと資源循環の実現をパーパスに掲げているナイキ。「パートナーと一緒に野心的な計画を実行することで、サステナビリティに関するゴールを達成し、業界トップに立つことができると信じています」(グラハム氏)。企業がパーパスを策定・運用することは地球環境への貢献はもちろん、ブランディング強化を通じた強固な経営体質づくりにもつながるのですね。パーパス経営を志向する全ての企業にとって、ナイキの活動が一つの指針になりそうです。
記者:エシカちゃん
白金出身、青山勤務2年目のZ世代です。流行に敏感で、おいしいものに目がなく、フットワークの軽い今ドキの24歳。そんな彼女の視点から、今一度、さまざまな社会課題に目を向け、その解決に向けた取り組みを理解し、誰もが共感しやすい言葉で、個人と世界のサステナビリティーを提案していこうと思います。
私によくて、世界にイイ。~ ethica(エシカ)~
http://www.ethica.jp