ethicaがメディアパートナーとして参加した「サスティナブル・ブランド国際会議2021横浜」(SB 2021 YOKOHAMA)では多くのセミナー、ディスカッション、ワークショップが繰り広げられ、さまざまな貴重な提言や発表が紹介されました。その中で「電通と博報堂からの共同提言 〜サステナブルブランドであるために、コミュニケーションにできることは〜」と題されたパネルディスカッションでは、サステナブル・ブランド国際会議 アカデミックプロデューサー 青木 茂樹さんをファシリテーターとして、株式会社電通から竹嶋 理恵さん(PRソリューション局 コミュニケーションディレクター / 電通Team SDGs プロジェクトリーダー)と大屋 洋子さん(PRソリューション局 コミュニケーションディレクター/電通 Team SDGs コンサルタント)、株式会社博報堂から佐藤 友亮さん(第五ビジネスデザイン局 部長MDコンサルティング局 マーケットデザインコンサルタント)と吉田 啓一さん(MDコンサルティング局 マーケットデザインコンサルタント)が登壇。今回はその内容をご紹介します。(記者:エシカちゃん)
広告会社が考える、サステナブルブランドをつくるポイント
青木: セミナーの主旨であるサステナビリティについて考えた時、1つの会社や個人では乗り超えられないものがあります。社会にウェーブを作っていく、追い風を起こしていくことが大事だと思っています。
ただ、昨日、私がジャパン・サスティナブルブランド・インデックス(Japan Sustainable Brands Index:JSBI)を提言した時に思ったことは、企業さんがやっていると思ったことと消費者のイメージ、認知にズレが結構あります。企業によってやっている内容は知られているけれど、評判があまり作られていないとか、イメージはあるけれども、現実は知られていないとか、まだまだコミュニケーション課題があるのではないかと思っています。
そこで、まさにその支援をされている電通さん、博報堂さんという日本を代表する広告代理店の皆さんが、今どんなことに取り組んでいるのかというのを聞きたいというのが私の思いです。まずは自己紹介からやっていただきたいと思います。よろしくお願いします。
竹嶋: 私は電通の中に電通Team SDGsというプロジェクトチームがあって、そちらのプロジェクトリーダーをやっております。電通Team SDGsというのは、電通社内の部署だけではなく電通のグループ会社を横断した組織で、クライアント、あるいはメディアの皆様のSDGsに関する取り組みに対して、戦略や立案はもちろん、コミュニケーションや新たな商品・サービスの開発、ビジネスモデルの構築といったことをサポートしている組織になります。
いつもは競合として隣りにいらっしゃる博報堂さんとバチバチやらせていただいていますが、今回はSDGs、あるいはサステナビリティという大きな課題です。ですから、情報を共有しながら一緒に取り組めることがあるのではないかなと思っておりますので、今日のディスカッションをすごく楽しみにしております。お聞きいただく皆様にも、サステナブルブランドを作るために何らかのヒントをご提供できればと思っております。どうぞよろしくお願いいたします。
大屋: 私も、今竹嶋がお話ししました電通Team SDGsのメンバーとして活動しております。また加えて、同じく組織横断のプロジェクトである電通「食生活ラボ」も主宰しているため、私は比較的「食」まわりの社会課題に対応させていただくことが多いのが特徴かなと思います。2016年から2年間、農林水産省に企画官として出向し、途上国、新興国の栄養改善事業の推進のお手伝いをさせていただいた経験なども生かしながら、今はいろいろな企業の皆さまとご一緒にSDGsの取り組みサポートをさせていただいています。
今日は博報堂さんと一緒に登壇できるということで、私も楽しみにして参りました。どうぞよろしくお願いいたします。
佐藤: 僕はクライアントさんと向き合う営業職をメインとしています。マーケットデザインコンサルティング局は今年度新設された新しいセクションで、クライアントの皆さんをコンサルティングサービスでお助けするという形になっています。
いろいろなクライアントさんと向き合わせていただいている中で、今回のようなサステナビリティだったり、SDGsのようなテーマがどんどん事業に近づいてきているなという実感を持っていまして、通常、僕らはブランド業務を中心にやっていますが、ブランドという視点からサステナビリティをどう融合させるかといったことを中心に研究させていただいて、実際SDGsのプロかといわれると、僕は胸を張ってそうではないといえます。ただ、どうやるとそこが融合していくのかということに関するトライに対しては、皆様のお力になれるかなと思っています。
今日は、まさか電博揃い踏みでこういうところに立つことになるとは思ってもいませんでしたが、いろいろなご縁があってご一緒できるので、血の雨が降らないようにして(笑)議論を進められたらと思っています。
吉田: 今、佐藤の話にもあったように、MDコンサルティング局という、博報堂でマーケットデザインと呼んでいる領域でのコンサルタントをやらせていただいています。
こちらは、まさにクライアントさんと一緒になって生活者が喜ぶような市場を一緒に作っていくということをミッションとしていまして、広告会社というのは、どうしてもCMとかグラフィックとかいう話になりがちですが、今は僕らも領域を広げていまして、一緒に事業やサービスを作らせていただいたり、その事業やサービスに生活者がどうしたら集まってくるか、喜んでくれるか、みたいなことを考える役職になっています。
今回は電通さんとのセッションの機会をいただきまして、皆さんも見ていただいたらわかる通り、どう見ても電通さんのほうがパワーが強いですけど、博報堂としても負けないようにというか、今日は戦いではないので、一緒になってSDGsを考えていくということで共に手を取り足を取ってやっていきたいなと思っていますので、よろしくお願いします。
青木: 広告のプロとして企業の活動を支援していらっしゃる皆さん方が、サステナブルブランドというのをどのように考え、どのように取り組んでいらっしゃるのか、まずはその辺りからお伺いしたいと思います。
[ポイント1] 社会問題を解決する強いブランドパーパスがある
大屋: 今回、電通、博報堂が仲良く手を取り合って(笑)いくつかポイントを考えてまいりました。まず1番目のポイントは「社会課題を解決する強いブランドパーパスがある」ということです。
今日の他のセッションでも、富士通のCMOの方から社長がパーパスドリブンで経営をされているというお話がありました。まさにそれが根幹にあるのとないのとでは大きな違いがあると、私たちも考えています。私たち2社で話し合ったなかでも、これは確実に必要だよねということでポイントの1番目に挙げさせていただきました。
青木: 2番目はどうでしょうか?
[ポイント2] 宣言しているだけではなくアクションまで行っている
竹嶋: 2つ目のポイントは「宣言しているだけではなくアクションまで行っている」ということですね。後でも出てくるのですが、実は宣言をするということは、とても大事だと思っています。
ですが、宣言しているだけではなく、アクションまで行っているということが大事だということをお伝えしたいと思います。そこに対してこうなりたいとか、ここを目指すということをきちんと言葉に出して発信していくことは、非常に重要だと思っています。ただ口先とか掛け声だけではなくて、きちんとファクトやアクションが伴っているかということが求められています。
ここのところの動きを見ていても、消費者、あるいは社会は、企業がそこまできちんとやっているかなという点に注目していますし、かなり厳しく見られているなあという気がします。決して今全てができていなかったとしても、ここから取り組みを始めるよとか、今後はこんなことに取り組んでいくよといったことも含めて、アクションまで行っていくということが重要だと思っています。
[ポイント3] そのアクションは一過性ではなく持続性がある
佐藤: これは僕らが普段いろいろな業務と向き合っている中で自戒の念を込めてということにもなりますが、どうしても成果が出ない、目立った結果が見えてこないとなってくると、その次の瞬間、ある意味PDCAという言葉を上手く使って止めてしまう可能性があります。
冒頭にパーパスのお話をしましたが、パーパスは北極星ともいわれていて、そこがあると本来、一過性で終わるわけもなく、ある程度はまさに持続的にアクションを起こし続けられるはずなんですね。なので、そのパーパスを据えたという前提でいくと、そのアクションというのは一過性ではなく、あくまでやり続ける必要があるというふうに思って、このポイントを挙げさせていただきました。
[ポイント4] そして生活者からの共感をしっかり得ている
吉田: やっぱり僕らの仕事もそうですし、皆さんのビジネスもそうですが、消費者、生活者からいかに支持をしてもらえるかということがビジネススケールにつながってくる部分があるので、いかに共感を得られているかということはすごく大事なポイントだと思っています。
これからのトークセッションの中で、どうやれば共感を得やすいのか、みたいなこともお話していければなと思っています。
日頃クライアントと接していて見えてきたサステナブルブランドの現状や課題
青木: 先ほど違うセッションをやっていましたら、SDGsって話を聞いていてもワクワクしないんだけどという声がありました。
SDGsは未来を作るものですから、本来は共感、共鳴があるもので、今日、会場には高校生がたくさん来ていますが、共感や共鳴で動いている高校生がいっぱいいます。
しかし、少しばかり大人の事情があって、やっているけど何となくルールがあって、何となくやらされている感があって抜け出せない人もいないでもないという気がします。
皆さんはいつもクライアントさんを回っていて、クライアントさんが抱えている課題、お悩みをどういうふうに認識しているのかをお話ください。
[お悩み1] サステナブル活動の発信って、どうしてよいかわからない
吉田: クライアントさんからいわれる課題やお悩みとして一番多いのは「サステナブル活動の発信って、どうしていいかわからない」ということを結構いわれますね。
サステナブルというのが大きくSDGsの話も含めて1つのブームになっているのかなと思いますが、そのブームに乗っからなくちゃいけないし、乗っかる時にさまざまな協賛や寄付の話が転がっています。どうしたら良い感じで発信できるのか、活動できるのか、みたいなことを、お悩みとして挙げられるクライアントさんが多いかなと思います。
大屋: そうですね、企業さんからは発信の仕方についてのお悩みを寄せられることは多いですね。昨日の午後のセッションでは、高校生の方から「SDGsはどういうふうに発信したらいいんですか」という質問が出ていましたが、今は学生さんもそういった課題を抱えているんだなと思いました。
吉田: さっきもうちのブースに学生さんに来ていただきましたが、僕らが思い描いている学生さんとは全く違っていました。SDGsということに関してものすごく意識が高くて本当にビックリさせていただきましたが、まさにそういう世代が、これからの日本の未来を担っていく時に、企業側はどんなことを発信し、彼らに共感をしてもらうのか、それはすごく大事なテーマかなと思っています。
[お悩み2] そもそもサステナブル活動って大々的にコミュニケーションして良いものなのか?
佐藤: 今の話ともつながりますが、サステナブルの活動って何なのよ、大々的にそれをコミュニケーションしてもいいのって話なんですが、SDGsっていうテーマは絶対善なんですよね。誰も否定できないんですけど、誰も否定できないがゆえにちょっとワクワクしなかったりしますし、特に僕みたいな純日本人、皆さんもそうかもしれませんが、すごく正しいことって胸を張っていいづらいと敬遠されがちなんですね。
議論の中でもすごくいいことをやっていらっしゃるのに、それをあまりいいたがらないクライアントさんが多いかなと思います。
その部分に関しては、本来的にはこういうと大げさかもしれませんが、もう少し地球規模で発信してもいいのではないでしょうか。むしろ、いうことをいうというのは、虚勢を張るということではなく、いった自分たちに責任が生じるということになりますので、有言不実行ではいけませんが、有言するということに意味があります。そこに責任が生まれるということでいうと、コミュニケーションは積極的にするべきではないかと思っています。
[お悩み3] 今までやっていたCSR活動の延長でいいのか
竹嶋: SDGsもそうですし、サステナビリティもそうですけど、やっていることをきちんと伝えていかないと、やっていないと見なされてしまうところがあって、すごく怖いなと思っています。
昨今、それこそアメリカで起きたブラックライブスマターの話もありましたが、これから先は日本の企業も含めて、ああいうことが起きた時にそのテーマに対して自社としてどういうスタンスをとるのか、どんなことに取り組むのかということがもっともっと求められていくのではないかなと思っています。社会課題やテーマに対する企業の姿勢をきちんと伝えることで、企業への理解や共感が得られるのだと思います。
大屋: 日本は奥ゆかしい企業が多いと思うので、どうしても言わぬが花みたいな…隠匿は美徳みたいなところがありますからね。
佐藤: SDGs、サステナビリティって、実際に事業をやっている従業員の皆さんが動くということを考えると、コミュニケーションというのは一般の生活者の方に向けて発信するものと思いがちですが、むしろ従業員の方がそれを見て、またモチベートされるという循環が生まれると思うので、その意味でいうと、発信するということにすごく意味がある気がします。
吉田: 今の話にもつながりますが、今までやっていたCSR活動の延長でいいのかという話も結構出るなあと感じています。CSRはかなり前からある言葉で、企業さんもそれぞれCSRをやっていこう、そのためのホームページを作っていこうみたいなことでやられていますけど、それを延長してやり続けていけばいいのかという話もしばしば出たりします。
僕らからすると、サステナブルブランドになっていくためには、今までの粛々としたCSRの活動だけだと発信力がちょっと弱かったり、どうしてもホームページの奥の奥にあって誰も知らないということになりがちだなというところが課題感としてはあるかなと思います。
青木: サステナブルブランドをやりたいと思った時、問い合わせ窓口が広報なのか、マーケの事業部なのか、そこで全然違う。その辺のジレンマを、たぶんここにいらっしゃる皆さんも感じていらっしゃるのではないかと思うのですが。
佐藤: CSRというのが、今までって皆さんも感じていらっしゃるかもしれませんが、中央にある本業とは違う横のものみたいに見えていた可能性があります。
本質的には最近の企業さんの決算を見てみても、事業の話とESG、サステナビリティが完全な二刀流になっていて、むしろそれを融合するという観点でいきますと、僕はCSRという言葉自体にいろいろなバイアスがかかって、皆さん、それで見ておられるんじゃないかという気がするので、既存の意味合いでいいますと、少し端のものと思われがちですが、やっていることは非常に正しいので、事業の真ん中に寄せていくことでCSRの延長であってもいいんじゃないかなと思っています。
竹嶋: 先ほど部署の話があったかと思いますが、私たちのところにもたくさんのメディアやクライアントの皆様からのご相談があります。ご相談を寄せていただく部署が、昔はCSRの部署の方が多かったように思いますが、最近では例えばESGとかサステナビリティ推進室とか、そういう専門の部署が立ち上がっていて、たいていの場合、経営トップや経営企画みたいなところに直轄している組織が多くなっていると思います。
そうなることによってコーポレートも含めて、会社全体を目配せするような位置に、今、サステナビリティをやっていく部署がどんどん来ていると思います。そういう意味でいうと、会社としての向き合いが、ずいぶん大きく変わっているんじゃないかなという実感がありますね。
青木: 組織構造が変わってきていますよね。トップマネジメントがパーパスを発信していって、そこでうまく直結する形で組織全体をシフトさせていくということなんでしょうか。
佐藤: クライアントさんを見ていると、事業をやられていたり、コミュニケーションをやられていた方が、サステナビリティのセクションに行くという、人の動きが出始めているなと思います。人だったり組織だったりが循環することによって、融合していくのではないでしょうか。
大屋: SDGs先進企業といわれるような企業では、事業部のブランド単位でSDGsを考えているようなところもありますね。経営企画やESGに関わる部署はもちろんのこと、事業部からのご相談もあります。この1年くらいで、お問い合わせの幅がぐっと広がっているような気がしています。
[お悩み4] 日本の生活者はどこまでサステナブルを求めている?
竹嶋: 実はこれ、クライアント様によく聞かれる話で、本当にSDGsとかサステナブルって日本の生活者は、ちゃんと続けていきますかねとか、どこまで行くんですかね、ブームで終わっちゃうんじゃないですかねといったみたいなことは、よく質問されます。
私たち電通は、毎年「SDGsに関する生活者調査」をやっていまして、SDGsの認知率を見ていますが、昨年は29%、今年に関しては結果が上がってきていて、まだ発表はできないんですけど、今年はさらに大きく伸びています。ここ1、2年で一気に来たなという感じがしています。
それと、昨年の調査の中でSDGsの認知だけではなく、例えば脱プラとかサーキュラーエコノミーとかエシカル消費とか、ともすると専門家の人たちが専門的に使うような用語についても消費者の方に聞いてみましたが、認知とか、そういう考え方に対する共感、今後、自分の生活に取り入れたいという人たちが、SDGsの認知率よりも高く出ている項目もありました。という点からも、確実に波は来ていますし、企業の皆様が選べる選択肢として、商品や、サービスをすごくたくさん今、世に出してくださっているので、そういうこともあって、もはや波は来ているといいますか、ここからさらに動いていくという感じが実感としてあります。
若い人たちは本当に当たり前のように学校で学んでいますし、生活の中で当たり前に取り組んでデフォルトとして染みついているものなので、その人たちが、これから消費の真ん中に来るということを考えると、これは確実に大きな流れとして動いていくかなということを実感しています。
[お悩み5] サステナブル活動はバリューチェーンというと、どこが対象なのか?
大屋: サステナブル活動はバリューチェーンでいうとどこが対象なんですか?というお問い合わせをいただくこともありますが、これについては、“バリューチェーン全て”がお答えなんじゃないかと思っています。
博報堂の佐藤さんもおっしゃっていましたが、SDGsって事業活動の基本OSみたいな状態になってきていると思うんですね。そう考えると、必然的にあらゆるバリューチェーンに関わってくると思います。またそういう意味でいうと、アウターはもちろんですが、インナーも対象になりますよね。会社のSDGsへの取り組みや姿勢は、この会社に勤めていてよかった、いい会社に勤めていると誇りに思える、といった社員のアイデンティティやモチベーションにもつながると思います。
青木: では、サステナブルブランドに必要なコミュニケーションとはどんなことでしょうか? いくつかポイントを挙げていただけたらと思います。
[ポイント] サステナブル戦略や志をわかりやすく魅力的なストーリーで伝える
大屋: 先ほど、「SDGsの発信ってどうしたらいいんですか」というお問い合わせが多いというお話をしました。
実際に、日本でもすでに多くの企業さんがいろいろなところに寄付をされたり、環境に良い商品を出していらっしゃるなど、多くの取り組みを始められています。
ただ一方で、なぜそこに寄付をしているのか?なぜその商品を出しているのか?という、「WHY」「なぜ」の部分が抜けている企業さんが多いことも同時に感じています。ただいいことをしたいから寄付をしているのではなく、こういう世の中にしたいから、こういう社会課題を解決したいからここに寄付をしているのだ、といった「なぜ」の部分も伝わると、ぐんとその企業の意思や思い、目指す方向がアクションとともに見えてくるのではないかと思います。
そして、その「なぜ」は、企業の「志」でもあり「SDGs取り組みの軸」につながるところなんですよね。それをわかりやすく魅力的な「SDGsストーリー™」にして伝えるということが重要だと、私たちは考えています。
もし、“うちはSDGsにも取り組んでいるし、ちゃんとCSRレポートやホームページにも記載しているのに、どうも外部からはそう思われていないようだ”と感じている企業さんがいらっしゃるとしたら、それはおそらく「SDGsストーリー™」がない、もしくは伝わっていないということなのではないかと思います。
ちなみに伝えていくときのポイントとして、さっき共感というお話もあったように、ああなるほど!という腹落ち感は重要です。
ここで各社が、サステナブルブランドとしての取り組みを魅力的に社内外に発信している広告コミュニケーションの好事例を紹介。
電通は、さまざまなステークホルダーにわかりやすく共感を生むストーリー性の高い事例として、KDDIの”私たちの「つなぐチカラ」は、未来のためにある。”とする「KDDI Sustainable Action」や、ユニ・チャームの2030年に向けたビジョン「Kyo-sei Life Vision 2030」を挙げた。
一方の博報堂は、CO2排出量削減やプラスチック対策など4つのテーマで2050年までに目指す目標を宣言した、セブン&アイホールディングスの環境宣言「GREEN CHALLENGE 2050」新聞広告を挙げ、具体的なテーマにおいて数字を挙げて宣言することが素晴らしい、と評価。
両者ともに深く共感した例として挙がったのは、CMとネットを融合させたオウンドメディア「トヨタイムズ」を展開するトヨタ自動車だ。企業のトップ自らが力強くメッセージを発信し社内外にビジョンを示すことで企業の本気度が伝わるとした。
青木: 今、いろいろな事例をご紹介いただきましたが、では、皆さんはこれからどういう取り組みをなすべきだとお考えなのでしょうか? 今回、電通、博報堂共同でこれからのサステナブルブランド活動をやっていく上での7つの提言を考えていただきましたので、それを発表していただきたいと思います。
電通と博報堂の共同提言
第1条 独自視点のある社会課題(ファクト)を捉える
竹嶋: 7つのことを今日、私たち4人から皆様への提言という形でまとめさせていただきます。
ただ、最初にお話しておきますが、これが完成形とは思っていなくて、今日、私たちはこう思うということを皆様にぶつけさせていただいて、この先、変えていくことや一緒に作っていくところもあると思いますが、皆様が取り組まれる際の何かのヒントになれば幸いです。
第1条は「独自視点のある社会課題(ファクト)を捉える」ということです。今日の資生堂さんのセッションでも、資生堂さんならではとか、日本ならではという言葉が出てきていました。SDGsをやろうというのは変な話です。どの社会課題に注目して企業としてどこに立ち位置を作るのか、そこが大事だと思うので、まずはこの「独自視点のある社会課題(ファクト)を捉える」というのを第1条でご提言します。
第2条 企業やブランドの理念と結合し戦略をストーリー化
竹嶋: 今回、ストーリーという言葉がよく出てきました。皆さん、戦略はきちんと立てられていると思いますが、こういった企業やブランドの理念、あるいは志といったものときちんと結合して戦略をストーリー化して、きちんと伝えていくことが理解や共感を得るためには重要ということを2つ目としてご提言させていただきたいと思います。
第3条 目標や活動を定量的/具体的に示し旗を立てる
大屋: これは先ほど事例として佐藤さんがお話しされたセブン&アイホールディングスさんの広告が分かりやすかったと思います。具体的な数字を示しながら明確な目標を掲げ、宣言をすること、つまり、旗を立てることによって、いろいろな人を巻き込んでいくことにもつながっていくと思います。あ、それだったら私たちもやりたい!とか。そういった共感する人や企業にヒットしていくなどいろいろな効果があると思います。
またこういう具体的な目標を掲げることは、外部だけでなくインナーに対してもいい影響があると思います。自分の会社が目指す方向がわかることでモチベーションにつながるかもしれませんし、具体的なアクションにつながっていくかもしれません。
ということで、これを第3条として提言させていただきたいと思います。
第4条 サステナブルブランドとしての顔をつくり、本気感を伝える
大屋: これは、まさにトヨタイムズが象徴的かなと思います。社長ご本人がご自分の言葉で語ることで本気度が伝わる、ということは先ほどお話したとおりですが、それによってリアリティが感じられることも強いと思うんですね。
その企業・ブランドのパーソナリティ、キャラクターが見えてくると、親しみや共感につながると思うのですが、その企業の顔となる代表格が社長なのだと思います。
サステナブルブランドになるためにはこれも大事なポイントだと思いますので、第4条としてこの「サステナブルブランドとしての顔をつくり、本気感を伝える」を挙げさせていただきます。
第5条 ステークホルダーと共創関係になるモチベーション設計
吉田: 先ほどもお話しさせていただいたように、インナーを巻き込んでいくことももちろんですが、生活者を含めたステークホルダー全体と共創関係になっていくということがすごく大事かなあと思います。
SDGsやサステナブルというのは未来に向けての目標ですから、その目標を1人で達成するということではなくて、仲間と一緒に達成することが大事で、そのために必要であればモチベーション設計のためにポイントみたいなものを作りながら、生活者を巻き込んでいく、ということを第5条として定義させていただきました。
第6条 未来を見据えるために若い世代を巻き込む
吉田: ここはすごく大事なテーマだなというふうに思います。僕らが何のためにSDGsをやっているのか、サステナブルブランドになるのかということを考えますと、未来のためだなあと思います。
未来で活躍しているのは僕らではなくて、僕らの子どもの世代だったり、もっと下の世代だったりすると思います。なので、その人たちから共感を得たり、その人たちを一緒に巻き込んでいくということが何よりも大事かなと思っていて、今何をやるかというよりも、未来のために今何ができるかを考えていく。そのために若い世代を巻き込んでいくというところを第6条で挙げさせていただきました。
第7条 アクションをベースに、プロセスも含めて継続的に発信
佐藤: ここまでも散々お話をさせていただいているので、すごく共感していただいていると思います。やった結果、打った1回の打ち手だけではなくて、そこに行くにあたっての苦労や経過、場合によってはゴールに到達しないかもしれないけれど、そこまでの道筋のようなものが全て見えること、これを透明性という言葉で置き換えていいのかどうかはわかりませんが、そういったところまで見えるということが人格としてのブランド、必ずしも人間って完璧じゃなかったりするので、何かに向かって突き進むプロセスってすごく重要で、共感ということを考えると、むしろ、そこが見えてくることの方が重要だと思います。
ですから、できたこととか、作られた打ち手ではなくて、そこに向かう道筋みたいなものも、どうか恐れずにといったらおこがましいかもしれませんが、むしろ発信していいのではないかと思います。
これからの取り組みについて
青木: ご自身たちは、これからどういう取り組みで、この巻き込みを示していこうとお考えなのか、そういうストラテジーがあるのならぜひ教えていただきたい。
佐藤: 僕たちはコミュニケーションを司っている会社という自負がありますので、どうしたら僕らのような代理業が、皆さんのお力になれるのかという観点で4人でずっと議論をしてきました。
普段は競合コンペで戦ってはいますが、その中で博報堂はどういうことでお手伝いできるかというと「ミーニングフル・ブランド・ループ」というプランニングモデルを作っていまして、そのご紹介を簡単にさせていただきたいと思います。
基本的には、社会課題の解決と事業の成長の交点をレバレッジさせることで持続的な成長を支えるためのモデルを考えています。社会課題の解決というのは、先ほどのCSR議論にもありましたが、ややもするとソーシャルグッドなだけというふうになってしまっていて、一方で事業としての成長は別のところで起きています。
この2つの円というのが時としてつながっていない、別のものとして存在することがあると、僕らは危惧しています。当然ここというのが合致して、この2つの円が完全に1つの円になるというのが究極的なゴールですので、もし来年お会いすることがあったら、この円が少し近づいている可能性はありますが、とにかくこの2つの交点というのをちゃんと作ってあげて、かつサステナブルということもありますので、事業成長によって生まれたキャッシュフローを活用することで事業力を上げながら、次の大きな課題を解決していくループを作っていけないかということで考えています。
竹嶋: 冒頭に電通Team SDGsについてお話をさせていただきましたが、グループ会社も含めて、それぞれ強みを持ったメンバーが集まって、SDGsでよくいわれているアライアンスとか共創みたいなことを社内でも実践しているなということを感じながら取り組んでいます。
皆様にご提供できるものとしては、4月末にまたSDGs生活者情報調査の結果が出てきますので、このリリースを出します。
そして、皆さんがコミュニケーションされる時にロゴの使い方とか、SDGsウォッシュにならないようにということで、コミュニケーションガイドというものを作っています。
一番右はSDGs視点のパッケージデザインガイドで、昨年11月にリリースしております。皆様がものづくりをする際にサステナブルな素材などを含めて考える時のヒントになればということで、作っています。これらは、電通のホームページからどなたにも見ていただいて、ダウンロードができるようになっておりますので、ご興味のある方はぜひ見ていただいて活用していただければと思います。
そしてもう1つ、昨年11月にSDGsビジネスソリューションということで、電通グループ7社合同でリリースを出させていただきました。一言でいうとバリューチェーン全体を対象にして、企業のサーキュラーエコノミーの構築を支援していくというものです。戦略はもちろんですが、企画やサステナブルな素材の選択、もしくは製造、それから商品を売るにあたっても商品の提供の仕方や店舗の在り方、それを回していくデジタルトランスフォーメーション、そして、商品を売った後の回収やリサイクル、こういったところまでワンストップでサポートしたいと考えています。
このような形で私たちはリリースを出して旗を立てました。そうしたところ、素材メーカーさんやリサイクルの会社さんなど仲間がどんどん増えてきて、一緒にやりましょうと声をかけていただいています。ですので、まさに皆さんに本日コミュニケーションのポイントとしてお伝えしたことを私たちも実感しながら取り組んでいます。
この先、広告会社がどうやって貢献していくかということでいいますと、今日、お話がありましたけど、やはりコミュニケーションということももちろんですけど、きちんとファクトを作るとか、アクションに結び付けていく、継続的に動かし続けるといったところにぜひぜひトライしていきたいと思います。ともすると、私たち広告会社は、広告にしてもイベントにしても完全なもの、完パケのものを納品して終わりというのが今までだったかもしれませんが、私たちが提供するソリューションも持続可能でなければならないと思っておりますので、社会情勢や社会のいろいろな動きに合わせて、皆様と一緒にご相談しながら時には施策や方針を変えたりしつつ、息の長いソリューションを提供していきたいなと思っております。本日は積極的にコミュニケーションしていきましょうというお話をしましたけど、皆さんが情報を発信して、仲間を作っていくお手伝いをぜひさせていただければと思っています。
今回の「サステナブル・ブランド 国際会議2021横浜(SB 2021 YOKOHAMA)」レポート記事は如何でしたでしょうか。
注目すべきセミナー、ディスカッション、ワークショップの様子を引き続きethicaで連載していきますので、お楽しみに!
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記者:エシカちゃん
白金出身、青山勤務2年目のZ世代です。流行に敏感で、おいしいものに目がなく、フットワークの軽い今ドキの24歳。そんな彼女の視点から、今一度、さまざまな社会課題に目を向け、その解決に向けた取り組みを理解し、誰もが共感しやすい言葉で、個人と世界のサステナビリティーを提案していこうと思います。
私によくて、世界にイイ。~ ethica(エシカ)~
http://www.ethica.jp