サーキュラー・エコノミーの実現
――メルカリさんがお考えになっているサステナブル・ビジネスとはどういうものでしょうか?
私は現在、メルカリでブランディングとESGに関わるプロジェクトリーダーを務めております。メルカリに入る前はアクセンチュアやATカーニーのコンサルタントとして活動していました。前職での業務経験を通じて獲得した、経営側から見たサステナビリティやESGについて考えることのできる点が私の強みだと認識しています。
もう1つの強みがブランディング視点です。以前、インターブランドジャパンという会社で企業向けにブランド戦略コンサルティングを手掛けていました。ブランド価値を社会にどう打ち出して、消費者の共感を誘うかが中長期の企業成長においてとても大事なことだと思っております。経営視点とブランディング視点を合わせ持つことで、ESG領域をリードしていく考えです。
ここで、メルカリについて簡単にご説明します。当社は皆様もご存じの通り、フリマアプリ「メルカリ」を企画・開発・運用しております。2013年設立でベンチャー企業のイメージが強いかと思いますが、現時点での従業員数は日米合わせて約1800名に達しており、順調に業容を拡大しています。
当社グループにはメルカリに加えて、スマホ決済サービスを提供しているメルペイや暗号資産やブロックチェーンに関するサービスを手掛けるメルコイン、アメリカで事業を展開しているMercari, Inc、そして、2019年に取得したサッカーJ1チームの鹿島アントラーズを擁しています。
さらに、ESGのテーマと直結する部分が多いため、要らなくなったモノを売って誰かのモノを買えるメルカリのサービスがどのように世の中に生まれたのかをご紹介します。
当社は、代表取締役CEOの山田進太郎が設立しました 。彼がバックパックで新興国 を旅していた時に、路上で物乞いをしている子どもたちを目の当たりにしたことがあります。教育を受けたいと思っても受けられない、モノが食べたいといっても食べられない、欲しいモノがあっても買えない子どもがいる一方で、日本をはじめとした先進国ではモノが大量に作られ、そして大量に捨てられています。こういったことに疑問を感じながら帰国したわけです。
そんな中、山田は猛烈なスピードで普及していくスマートフォンを見て、スマホを使ってもっと滑らかにモノを循環させることができれば、豊かになりたくてもなれない子どもたちのところに使わなくなったモノが行き渡るのではないかと思い、会社を立ち上げました。
昨今、パーパス(存在意義)経営の重要性が叫ばれていますが、当社のサービスはパーパスにそのまま通じています。私たちが最終的に目指しているのはサーキュラー・エコノミーの実現で、使い捨て社会から循環型社会への転換を促します。
循環型社会が到来すれば、自然に分解されやすい素材や飽きが来ないようなデザインを用いるといった、モノづくりやプロモーションの在り方そのものが大きく変わっていくのではないかと思っています。
瞬間最大風速的な経済価値から中長期な経済価値を生み出すモノづくりへのシフトにメルカリが貢献できないかと考えています。リユースが当たり前になり、消費者が最初から長持ちするモノを買おうとするようなカルチャーの変化を起こしていきたいと願っています。
現在、日本全国の住宅 に眠っている不用品の推定価値は、約7.6兆円と試算されています。これをビジネスオポチュニティとしてとらえると、無限のポテンシャルを秘めています。
これらのポテンシャルを活かすために、ビジネスの深耕やマーケットとのコミュニケーション、パーパス経営の推進を目的とした社員へのメッセージ発信に取り組んでいます。私たちのミッションである「新たな価値を見出す 世界的なマーケットプレイスを創る」を実現したいですね。
ある人にとって要らなくなったモノでも他の誰かが「新しい価値」を見出すことは多々あります。こういったことが世界中で起こるようなマーケットプレイスを作るのがメルカリのミッションです。
私たちのマテリアリティ(重要課題)は、いろいろなステークホルダーの方に話を聞いて定めました。中でも最も重要なのはやはり循環型社会の実現です。
マテリアリティを解決するためには2つのリスク対策が欠かせません。1つはマーケットプレイスを安心・安全・公正に整備すること、もう1つは社内のコンプライアンスとリスクマネジメントの強化です。いくらマーケットプレイス創りに取り組んでも、 これらの対策がおろそかになるとサービスの運営に支障をきたすからです。
私たちは、人的資本をはじめとするリソースを使って、社会的価値や経済的価値の最大化を図っています。「メルカリ」を利用するお客様が増えれば増えるほど、循環型社会がより実現されるわけです。アウトプットとアウトカム(成果)が直結しているというところはメルカリの1つの特徴だと考えています。