ethicaがメディアパートナーとして参加した「サステナブル・ブランド国際会議2021横浜(SB 2021YOKOHAMA)」では多くのセミナー、ディスカッション、ワークショップが繰り広げられ、さまざまな貴重な提言や発表が紹介されました。今回は、エーザイ、りそなアセットマネジメント、メルカリの各社が参加した「サステナビリティ経営とプレ財務情報の可視化」と題されたセッションから、ファシリテーターを勤めた山﨑英幸氏(PwCあらた監査法人/PwCサステナビリティ サステナビリティ・センター・オブ・エクセレンス)とメルカリの田原純香氏のディスカッションをレポートします。(記者:エシカちゃん)
サーキュラー・エコノミーの実現
――メルカリさんがお考えになっているサステナブル・ビジネスとはどういうものでしょうか?
私は現在、メルカリでブランディングとESGに関わるプロジェクトリーダーを務めております。メルカリに入る前はアクセンチュアやATカーニーのコンサルタントとして活動していました。前職での業務経験を通じて獲得した、経営側から見たサステナビリティやESGについて考えることのできる点が私の強みだと認識しています。
もう1つの強みがブランディング視点です。以前、インターブランドジャパンという会社で企業向けにブランド戦略コンサルティングを手掛けていました。ブランド価値を社会にどう打ち出して、消費者の共感を誘うかが中長期の企業成長においてとても大事なことだと思っております。経営視点とブランディング視点を合わせ持つことで、ESG領域をリードしていく考えです。
ここで、メルカリについて簡単にご説明します。当社は皆様もご存じの通り、フリマアプリ「メルカリ」を企画・開発・運用しております。2013年設立でベンチャー企業のイメージが強いかと思いますが、現時点での従業員数は日米合わせて約1800名に達しており、順調に業容を拡大しています。
当社グループにはメルカリに加えて、スマホ決済サービスを提供しているメルペイや暗号資産やブロックチェーンに関するサービスを手掛けるメルコイン、アメリカで事業を展開しているMercari, Inc、そして、2019年に取得したサッカーJ1チームの鹿島アントラーズを擁しています。
さらに、ESGのテーマと直結する部分が多いため、要らなくなったモノを売って誰かのモノを買えるメルカリのサービスがどのように世の中に生まれたのかをご紹介します。
当社は、代表取締役CEOの山田進太郎が設立しました 。彼がバックパックで新興国 を旅していた時に、路上で物乞いをしている子どもたちを目の当たりにしたことがあります。教育を受けたいと思っても受けられない、モノが食べたいといっても食べられない、欲しいモノがあっても買えない子どもがいる一方で、日本をはじめとした先進国ではモノが大量に作られ、そして大量に捨てられています。こういったことに疑問を感じながら帰国したわけです。
そんな中、山田は猛烈なスピードで普及していくスマートフォンを見て、スマホを使ってもっと滑らかにモノを循環させることができれば、豊かになりたくてもなれない子どもたちのところに使わなくなったモノが行き渡るのではないかと思い、会社を立ち上げました。
昨今、パーパス(存在意義)経営の重要性が叫ばれていますが、当社のサービスはパーパスにそのまま通じています。私たちが最終的に目指しているのはサーキュラー・エコノミーの実現で、使い捨て社会から循環型社会への転換を促します。
循環型社会が到来すれば、自然に分解されやすい素材や飽きが来ないようなデザインを用いるといった、モノづくりやプロモーションの在り方そのものが大きく変わっていくのではないかと思っています。
瞬間最大風速的な経済価値から中長期な経済価値を生み出すモノづくりへのシフトにメルカリが貢献できないかと考えています。リユースが当たり前になり、消費者が最初から長持ちするモノを買おうとするようなカルチャーの変化を起こしていきたいと願っています。
現在、日本全国の住宅 に眠っている不用品の推定価値は、約7.6兆円と試算されています。これをビジネスオポチュニティとしてとらえると、無限のポテンシャルを秘めています。
これらのポテンシャルを活かすために、ビジネスの深耕やマーケットとのコミュニケーション、パーパス経営の推進を目的とした社員へのメッセージ発信に取り組んでいます。私たちのミッションである「新たな価値を見出す 世界的なマーケットプレイスを創る」を実現したいですね。
ある人にとって要らなくなったモノでも他の誰かが「新しい価値」を見出すことは多々あります。こういったことが世界中で起こるようなマーケットプレイスを作るのがメルカリのミッションです。
私たちのマテリアリティ(重要課題)は、いろいろなステークホルダーの方に話を聞いて定めました。中でも最も重要なのはやはり循環型社会の実現です。
マテリアリティを解決するためには2つのリスク対策が欠かせません。1つはマーケットプレイスを安心・安全・公正に整備すること、もう1つは社内のコンプライアンスとリスクマネジメントの強化です。いくらマーケットプレイス創りに取り組んでも、 これらの対策がおろそかになるとサービスの運営に支障をきたすからです。
私たちは、人的資本をはじめとするリソースを使って、社会的価値や経済的価値の最大化を図っています。「メルカリ」を利用するお客様が増えれば増えるほど、循環型社会がより実現されるわけです。アウトプットとアウトカム(成果)が直結しているというところはメルカリの1つの特徴だと考えています。
パーパスに沿って正しいことをすれば、収益が上がるという発想
――メルカリの株価について質問します。御社のPBR(株価純資産倍率)には、サステナビリティ経営の推進を含む非財務情報がどの程度反映されていると考えますか?
一般的には事業活動あってのCSRとみなされることが多いですが、私たちはまず循環型社会の実現を追求し、その結果として財務指標が上昇するものと考えております。パーパスに沿って正しいことをすれば、収益が上がるという発想です。理想としている世界をつくるためにビジネスをアクセラレイト(加速)させていきます。私たちはパーパスを掲げてきた会社ではありますが、創業当初はこれらを全面に出さずに、まずは「メルカリ」を多くのお客様に利用していただくことに専念しました。マーケティングに積極的な投資を行い、インパクトのあるCMづくりに取り組んでいます。現在はお客様が約1800万人まで増えてサービスの認知度が一定以上高まったこともあり、今後は当社のパーパスへの周知を図りながら、マーケットからの評価を高めていきます。
――顧客の購買行動が環境負荷の低減にどれだけ寄与するかを可視化する御社の取り組みについてお聞かせ下さい。
私たちが取り組んでいるのは、アウトカムの可視化です。、フリマアプリサービスというプロダクトを作り出す過程で、業績の見える化を進めています。 残念ながら、オフィスやデータセンターにおける活動や配送時におけるCO2排出量の可視化についてはまだ進んでいない状況です。今後は、事業活動で生じるポジティブとネガティブ双方のインパクトを測定できるような施策を計画しています。
投資家への情報発信にあたって、環境負荷の可視化は必要不可欠です。企業価値評価を行うコンサルタントからは当社の株価ボラティリティをある程度抑えるために、安定的かつスピーディーに社会課題を解決していく姿勢が必要だと指摘を受けています。
IR活動はもちろん、お客様にも環境への取り組みを可視化して発信する必要があると実感しております。「メルカリ」によってお客様の意識やライフスタイルを変え、社会課題を解決していく。そのためにも数値やデータを示して、消費者の共感を獲得したいと思っております。
お客様のライフスタイルを変化させるためのメルカリ流のアプローチを2つお話します。1つが「新しい購買要因を創る」ことで、エコなものを進んで購入する動きを広げていきます。
誰もが環境に良いものを購入する動きは十分浸透していませんが、メルカリを利用するということは、環境問題の解決にすでに貢献しているということです。ですので、その貢献を定量的に可視化できれば、潜在化していた貢献への欲求を引き出し、誰かからの強制ではなく、自発的に環境に配慮した商品やサービスを購入する世の中になるのではないかと思います。結果として、環境への貢献が加速され、さらにはメルカリの経済的価値である利用者や利用頻度の増加につながると思っています。まさに事業の成長と環境問題の解決を両立できるのではないでしょうか。
もう1つは「自分ごと化/Education化する」です。例えば配送で生じるCO2の排出量を可視化していくと、1つの取引で大きなマイナスインパクトが発生しているということに気づいてもらえるわけです。そうやって1つ1つ、眠っている課題を自分ごと化していくということが、消費者の貢献感をより大きくすることができるのではないかと考えています。
日常生活の何気ない行動で環境へのマイナスインパクトが発生するものの、2つのアプローチを用いながら「メルカリ」を利用することでお客様自身がどれだけ環境に貢献しているかを把握するお手伝いをします。やがて同じフリマアプリサービスならメルカリを使おうと考える方が増え、新しい購買要因や新しいカルチャーを作っていけるのではないでしょうか。その結果、環境型社会はもっと加速するでしょう。そのためにも、お客様とのコミュニケーションに注力し、ひいてはマーケットとの対話ももっとクリアになっていくのではないかと考えています。
――(会場からの質問)環境への影響を可視化するにあたって具体的な情報開示策について教えてください。
サステナビリティレポートのような形で、環境に及ぼすプラスとマイナス双方の影響を投資家に開示するのも一案です。メルカリによる取引で生じたインパクトを可視化することで、ユニークなプロダクトを生み出せる好循環が期待できるため、検討して参ります。
株式会社メルカリ 田原純香
大学卒業後、Accenture、A.T. kerneyにて経営戦略コンサルタントとして勤めたのち、Interbrandにてブランド戦略コンサルタントとして従事。2018年10月にメルカリに入社。社長室にてリスク管理プロジェクトやESG立ち上げプロジェクトなどに従事した後、Brand management teamを立ち上げマネージャーを務める(現、JP/Branding team)。その後、Sustainability teamを立ち上げ、現在同チームのマネージャーを担当。
記者:エシカちゃん
白金出身、青山勤務2年目のZ世代です。流行に敏感で、おいしいものに目がなく、フットワークの軽い今ドキの24歳。そんな彼女の視点から、今一度、さまざまな社会課題に目を向け、その解決に向けた取り組みを理解し、誰もが共感しやすい言葉で、個人と世界のサステナビリティーを提案していこうと思います。
今回の「サステナブル・ブランド 国際会議2021横浜(SB 2021 YOKOHAMA)」レポート記事は如何でしたでしょうか。
注目すべきセミナー、ディスカッション、ワークショップの様子を引き続きethicaで連載していきますので、お楽しみに!
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