(第18話)「わざわざ行きたい!」美味しい感動を届けるスーパーマーケット 【連載】八ヶ岳の「幸せ自然暮らし」 山々に囲まれたのどかな八ヶ岳を巡りながら「私によくて、世界にイイ。」ライフスタイルのヒントを再発見
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(第18話)「わざわざ行きたい!」美味しい感動を届けるスーパーマーケット 【連載】八ヶ岳の「幸せ自然暮らし」

山々に囲まれたのどかな八ヶ岳を巡りながら「私によくて、世界にイイ。」ライフスタイルのヒントを再発見していく連載企画 八ヶ岳の「幸せ自然暮らし」

今回のストーリーの舞台となるは、山梨県八ヶ岳南麓に佇む「ひまわり市場」。テレビや雑誌などのメディアにも数多く取り上げられている話題のスーパーマーケットだ。

もともと赤字続きで倒産寸前だったところを、那波秀和社長のユニークな運営手法と品揃えにより3年ほどで売り上げ倍増。年商9億円超えを達成するまでに急成長した。

2006年に現在の場所にリニューアルして以来、地元の人のみならず、県外からもたくさんの人たちが詰めかける。その秘訣とは?

八ヶ岳から美味しい感動を全国に届けるひまわり市場の那波秀和社長にうかがった。

「“ひまわり”があるから八ヶ岳に移住を決めた」。そんな人が市場に集まる

山々に囲まれたのどかな八ヶ岳南麓にポツンと佇む「ひまわり市場」。東京をはじめ、神奈川、大阪、愛知など他都県からわざわざ“ひまわり”目当てにお買いものに来るお客さんも少なくない。中には、同店の名物社長さんに一目会いたいと、遠方から訪ねてくる人もいる。スーパーの駐車場に県外ナンバーの車が目立つのは、ここが別荘地だからという理由だけではないようだ。

マイクを片手に作り手や商品の魅力をアピールする那波さんのトークは、来店の楽しみの一つ

那波秀和さん。もともと神奈川出身で、大学卒業後に大手スーパーに就職した後、縁あって甲府の魚市場に務め、鮮魚の卸先のひとつだったひまわり市場に転職をしたことが人生の転機になった。

「最初にこの店に立った時は本当に驚きました。扱う商品の鮮度は最悪で、店のスタッフたちからは良いものを売ろうとか、売り上げを上げようといった気持ちが微塵も感じられませんでした」

前職の経営者から誘われて店長になった20年前。「何でこれで店が成り立っているんだ?」と疑問だらけの中、2009年には社長に就任。当時会社は借金に追われ、倒産寸前だったと言う。

何とかして店を再建しなくては、という使命感のもと、

「まずは良い商品を扱うという商売の原点に立ち返りました。安売りをしたり、目先の売り上げだけを重視したりするやり方を変え、少しでも良いものを仕入れ、少しでも良い状態で販売し、その魅力を一所懸命伝えよう。そして何より、買っていただいたお客さんに笑顔になってもらいたい…。この信念を徹底して貫きました」

とことん良い品物を適正な価格で売る。価格競争になるからチラシは打たない。スタッフには商品を知り尽くした食のプロをスカウトした。那波さん独自の運営方針によって店の売り上げが徐々に黒字化し、気がつくと年商9億超えを達成。単独の小規模スーパーにとって年商1億円という数字は成功の証と言われる中、わずか3年でひまわり市場はその9倍もの売り上げを叩き出す人気店へと成長した。

「“ひまわり”があるから八ヶ岳に移住を決めた」。そんな人が多く訪れるようになった。

 

無農薬、オーガニックetc.作り手の個性が光る旬の野菜に誘われて

店内に入ると、まず入り口には地元で採れた旬の味覚が所狭しと並んでいる。

都会ではあまり目にすることのない大きな原木椎茸、ジューシーで甘味たっぷり、赤やオレンジ色のカラフルなにんじん、地元の農家の方が手作りした漬物や乾燥ハーブなどが生産者の名前入りで販売されている。

「今日はどんなものがあるかな?店を訪ねる楽しみの一つ」とお客さんが語る。

店の入り口には、旬を迎えた地元野菜の数々が並ぶ。化学肥料や農薬を使わずに育てた農作物が手に入る

無農薬、オーガニック栽培の季節野菜は決して安くはないけれど、買い手が『適正価格』と思える誠実なプライス設定だ。

「店に並ぶ野菜は市場を通さず生産者から直接仕入れています。仕入れ値がいくらだから、という単純計算で売値が決まるわけではありません。この商品をいくらで販売したらみんなに喜んでもらえるか。いくらなら納得して購入してもらえるか。それを基準に価格を決めています」

ひまわり市場の価格設定は、手間暇かけて農作物を育てる作り手のコストをしっかり守ることが前提。これまでも、地道に良いものを作り続ける小規模農家たちともに成長してきた歴史がある。野菜や果物だけでなく、酪農家、養鶏場、地元のワイナリーたちとの付き合いも長い。

「生産者の生活が成り立たなければスーパーは成り立たない」。那波さんの経営哲学だ。

生産者の人となりを知ってもらいたいという那波さんの思いがこもったPOP

作り手の「思い」を一人でも多くのお客さんに知ってもらおうと、商品のポップを書くのも那波さんの仕事。

“北杜市で無農薬栽培の父とも呼ばれる畑山貴宏さん、今メキメキと成長中の凄腕農家たちは彼から教えてもらったと口を揃えて言う”、“日照時間日本一。明野の大地の香りも一緒に感じて下さい”など、週刊誌の見出しのようなコピーに目が止まる。

発売以来、爆発的にヒットした人気商品のポテチ。那波さんオリジナルのキャッチコピーに目が止まる

人・技術・売る情熱の3拍子揃っているのがひまわり市場の最大の強み

店内を歩けば “クセの強い社長のお気に入り。クセの強いポテチ”など、読めばつい手が伸びる名キャッチの数々と遭遇。

那波さんのマイクパフォーマンスがさらに追い討ちをかける。

「美味しい鰻でお客様を笑顔にしたい、幸せを届けたい」「日曜日には届かないはずの『豆の花』さんのお豆腐が今日、特別に届きました」」、「日を間違えて来ちゃいました。今日ここにいるお客さん限定です」と続く。

クスッと笑ってしまう軽妙なトークに那波さんの情熱が滲む。

「作り手が報われ、お客さんが食べて笑顔になれてこそ、我々の仕事も成り立つんです」。そのために、「生産者の人となりもわかってもらいたい」、と那波さんは語る。

 

海無し県「山梨」で新鮮な魚や旨い握りが買える

魚屋出身の那波さんの人脈で仕入れるひまわり市場の魚と寿司が素晴らしいのは言うまでもない。とびきり新鮮な旬の魚を豊洲・甲府経由、一部は熊本の漁師より直接入手。希少な高級魚や一流の江戸前職人が握る寿司がスーパーで買えるのだ。

海のない山梨県でも美味しい魚が食べられる!毎週土曜日には全国の鮮魚がひまわり市場に大集合

「全ての商売の原点は“魚屋”にあると私は思っています。プロの目利きがいいものを選んで仕入れ、いい状態のうちにさばき、タイミングを見計らって刺身にしたり天ぷらや煮付けにしたり。そこに1分1秒の猶予もありません。自信を持って仕入れたものを責任を持って売り切る。魚屋っていうのは基本的にそれを365日繰り返すことで成り立っているんですよ」

うまい寿司なら「ひまわり」。地元のグルメたちの間でも評判の寿司は、ベテラン職人が握る

「中に巻いてあるのはとびっきりの中トロだけじゃないんだよ。そう、心も一緒に巻くんだよ」

渾身のマイクパフォーマンスが今日も店内に響き渡る。

ワインの種類も実に豊富。その日の気分や食事にぴったりの1本を専門家がセレクトしてくれる。ぜひ相談してみて

他の店には真似のできない技術・人脈・売る情熱の3拍子が揃っているのが、ひまわり市場の最大の強み。売り場のスタッフには、野菜ソムリエ、中華料理店の元シェフ、地元ワイナリーに長年勤務したワインのエキスパートも常駐だ。山梨はノーベル賞学者として知られる大村智博士の地元でもあり、博士のワインセレクトも任せられているのだとか。

 

500人が押し寄せた!週末限定50枚『歴史的メンチカツ』

店の人気商品の代表格にメンチカツがある。「どうせ作るならコスト度外視で、食べた人が度肝を抜くような美味しいメンチカツを作りたい」、という思いから開発した『歴史的メンチカツ』。ここまでヒットするとは思わなかったと那波さんは振り返る。

一度は食べたい「歴史的メンチカツ」。外はサクサク、中はジューシー。冷めても美味しい大ヒット商品

毎週土・日の正午と午後4時、それぞれ限定50枚。料理長こだわりの歴史的メンチカツは、最高級の松阪牛と鹿児島県産黒豚100%を使用した、無添加・安心安全商品。ソースなしでOKの濃厚な味わいが特徴だ。

「一口かじれば、中から肉汁がジュワ~ッとあふれ出す。オイシイ、ヤサシイ、ヘルシイ。手作りの特製メンチをどうぞ!」

淀みなく10分間、商品の魅力を語り続けた発売当初。結果、1枚500円近い高級メンチカツはわずか3分で売り切れた。以来クチコミで人気が広がり、多い時で500人、50枚のメンチを求めて何キロも先まで“メンチカツ渋滞”ができたこともある。それでも数を増やさないのが那波さんの信条。最高のメンチカツに仕上げるために無理は禁モツなのだとか。

“めちゃくちゃジューシー”、“ほっこり美味しい”、“期待以上のうまさ”。メンチカツを頬張るお客さんの顔がほころぶ。

「みんなを笑顔にする美味しさを守り続けたい」と語る。

 

「私によくて、世界にイイ。」ライフスタイルのヒント

最後に、持続可能な社会のためにひまわり市場ができることを那波さんにうかがった。

「何よりも大切なものは『人』。そこに情熱があれば、もの・お金が自然と循環する」。みんなを笑顔にする経営の仕組みがそこにあると語ってくれた。

「人・もの・お金を大切にすること。そうすればロスが減る、仕事の効率が上がる、いろんな広がりが生まれます。我々が先頭を切ってそれを実行していくことで、地域社会に貢献したい」

「やっぱり人」という那波さん。スタッフも生産者も、お客さんも対等に美味しいものの話ができる店。それが「ひまわり市場」だ

数年前、ひまわり市場のユニークなPOPがSNSでバズったことをきっかけにテレビの取材が殺到。全国放送の某番組が企画する『ご当地スーパーマーケット頂上決定戦』で優勝を果たしたこともある。日本中から店を訪れるお客さん、那波社長に一目会いたいと来店する人がどんなに増えても、ひまわり人気は「一過性のブーム」では終わらない。商品が魅力的であり、その品質に売り場が絶対の自信を持っているのだから。

ここは、作る人も売る人も、買う人もみんなが対等に「食」を通じて交流する場。たくさんの「熱い想い」がぎゅっと凝縮されたローカル市場が、八ヶ岳の暮らしを何倍も楽しくする。

今回の八ヶ岳の「幸せ自然暮らし」いかがでしたでしょうか。

『人』を大切にし、そこに情熱と創意工夫があれば、『もの』や『お金』も自然と循環する。

山々に囲まれたのどかな八ヶ岳で、「私によくて、世界にイイ。」ライフスタイルのヒントとに触れることができました。

さて次回は、八ヶ岳のファーマーズシーンに新しい風を送り込む期待の有機農家『Farm in Hands』の取り組みをご紹介します。農薬・化学肥料を使わない彩り豊かな野菜たちがいま、都会のマルシェで大人気!その理由に迫ります。お楽しみに!

 

バックナンバーはこちらからご覧頂けます。

【連載】八ヶ岳の「幸せ自然暮らし」を読む>>>

ひまわり市場

住所:山梨県北杜市大泉町谷戸2008

電話:0551-38-4744

営業時間:9:30〜19:30

http://himawari-ichiba.com

記者:山田ふみ

多摩美術大学デザイン科卒。ファッションメーカーBIGIグループのプレス、マガジンハウスanan編集部記者を経て独立。ELLE JAPON、マダムフィガロの創刊に携わり、リクルート通販事業部にて新創刊女性誌の副編集長を務める。美容、インテリア、食を中心に女性のライフスタイルの動向を雑誌・新聞、WEBなどで発信。2012年より7年間タイ、シンガポールにて現地情報誌の編集に関わる。2019年帰国後、東京・八ヶ岳を拠点に執筆活動を行う。アート、教育、美容、食と農に関心を持ち、ethica(エシカ)編集部に参加「私によくて、世界にイイ。」情報の編集及びライティングを担当。著書に「ワサナのタイ料理」(文化出版局・共著)あり。趣味は世界のファーマーズマーケットめぐり。

私によくて、世界にイイ。~ ethica(エシカ)~
http://www.ethica.jp

山田ふみ

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