読者対話型連載「あなたにとってウェルビーイングとは何か」 第7章:旧正月とベトナム編(第5節)
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読者対話型連載「あなたにとってウェルビーイングとは何か」 第7章:旧正月とベトナム編(第5節)

新企画「あなたにとってウェルビーイングとは何か」を担当します永島郁哉と申します。早稲田大学で社会学を学びながら、休日には古着屋に行ったり小説を書いたりします。

この連載は、ストレス社会に生きる私たちが、ふと立ち止まって「豊かさ」について考えるきっかけとなる、ささいな休憩所のようなものです。皆さんと一緒に、当たり前だと思っていた価値観を一つ一つほどいていく作業が出来たらと思います。

第7章は「旧正月とベトナム」と題して、お送りします。旧正月をお祝いするベトナムには、ウェルビーイングのヒントとなる出来事が溢れています。

第7章 旧正月とベトナム

第5節 掃き掃除とウェルビーイング

人は生きているだけで、部屋を散らかします。どんなに元あった場所に物を戻していても、「掃除」からは逃れられないのが、人間の運命なのでしょう。これは、(私のような)掃除の苦手な人にとってはなかなか手ごわい問題で、いかに掃除を先延ばしにするかということばかり考えて、ゴミを綺麗に畳んだり積み上げたりしてまるで部屋のオブジェのように見せたり、換気をやたら繰り返して埃が自然と部屋から出ていってくれることを願ったりします。

それでも一年に一度、重い腰を上げる機会となるのが、年末の大掃除。久しぶりに掃除機を握るとなぜかやる気が出てきて、普段目にも止めないような棚の奥まで入念に吸い取ったり、わざわざ重い机を持ち上げて、足に溜まった埃を取ったり。信じられないほど大きな埃の塊を見つけたときになぜか写真を撮ってしまうのは恐らく私だけでしょうが、年末というのは新年に向けて部屋を一新する良い機会です。

もちろんこれは旧正月でも同じです。テトと呼ばれる年末年始のお祭り期間には、人々は新年に向けて大掃除をします。私が滞在していた友人宅でも、年末には家族総出で大掃除をしました。

 

ベトナムの家は、玄関があって廊下の奥にリビングがあるというような造りではありません。リビングは家の正面、門の側に面していて、外に開かれています。つまり、家の正面からはリビングが丸見えというわけです。もちろん扉を閉めることもありますが、基本的にはずっと開け放たれていて、家の中を風が通るようにしてあります。南国ならではの光景ですね。

そんなわけで、風が吹けばゴミも入ってきます。家の床はどこもタイルなので、大体は箒で外にゴミを掃き出します。ベトナムの家には掃除機はほとんどなく、大小さまざまな箒で埃をはらうイメージです。個人的には掃除機がとても苦手(重い、取り回しがしづらい、うるさい)なので、掃き掃除メインのベトナムの家は私に合っているかもしれません。虫なんかも舞い込んできやすいのは少々やっかいですが(一度、巨大なトカゲが侵入してきたことがあり、大騒ぎになりました)。

トカゲ退治で大騒ぎ

年末には、家族全員が箒を片手に家中を掃いて回ります。その瞬間は誰もが平等。権威主義的・家父長主義的な雰囲気の色濃いベトナムですが、掃き掃除をする瞬間だけは上下の感覚がなくなるのかもしれません。そうして皆で掃除をしていると、なんだか本当に悪運が身の回りからなくなっていく感覚がしてきます。今年の悪い運は全て掃き出して、来年の良い運を溜めるための場所を確保する。

ふと顔を上げると、友人も、その妹も、お父さんも、お母さんも、誰もが来年が良い年になることを願って掃除をしている光景が目に入ります。そして私自身もその一部であることを認識する。とても満たされた気持ちで箒を握り直したことを、今でもしっかりと思い出せます。

掃除後には玄関前にお供え物を

実際これは気のせいではなかったりします。というのも、掃除は身の回りの環境を自分がコントロールしているという感覚を芽生えさせ、さらに「掃く」という繰り返しの運動にはリラックス効果があるとされるからです。あるいは、単純に身の回りが片付いていく様を体験することは、ストレス値を下げるとも言われています。つまり、潜在的には掃除はとてもウェルビーイング的な活動なのです。

そう考えると、年末にだけ掃除を一生懸命行うのはもったいない気がしてきませんか。箒を手に取って、ちょっと身の回りを掃除してみると、今日は昨日よりちょっと幸せになるかもしれません。誰かと一緒に掃除をするというのも良いものです。今週末は、家族と暮らしている人は家族と、そうでない人はゴミ拾いのボランティアに参加して、誰かと一緒に身の回りを綺麗にしてみるのはいかがでしょうか。以上、机の上に空の紙パックジュースを積んでいる私からの提案でした。

お家も心もスッキリで新年を迎える

今回の連載は如何でしたでしょうか。バックナンバーはこちらからご覧頂けます。

[読者対話型連載]あなたにとってウェルビーイングとは何か

永島郁哉

1998年生まれ。早稲田大学で社会学を学ぶ傍ら、国際学生交流活動に携わる。2019年に公益財団法人イオン環境財団主催「アジア学生交流環境フォーラム ASEP2019」に参加し、アジア10カ国の学生と環境問題に取り組んだ他、一般社団法人アジア教育交流研究機構(AAEE)では学生スーパーバイザーを務め、ベトナムやネパールでの国際交流プログラム企画・運営を行っている。2019年9月より6か月間ドイツ・ベルリン大学に留学。

——Backstage from “ethica”——

今回の連載は、読者対話型の連載企画となります。

連載の読者と、執筆者の永島さんがオンラインオフ会(ZOOM)で対話をし、次の連載の話題や企画につなげ、さらにその連載を読んだ方が、オンラインオフ会に参加する。

という形で、読者との交流の場に育てていければと思います。

ご興味のある方は、ethica編集部の公式Facebookのメッセージから、ご応募ください。

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抽選の上、次回のオンラインオフ会への参加案内を致します。

私によくて、世界にイイ。~ ethica(エシカ)~
http://www.ethica.jp

ethica編集部

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